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エピローグ 満月祭を目指せ

ひかりを無事にとり返した一同は、美希の背中に乗ってのぞみ達の森まで帰還しました。
出迎えた祈里たちは皆が無事に帰ってきたことをまず喜び、成長したひかりの姿に
驚きました。とにかく、というわけでみんなは大きな部屋に集まります。
満も薫も、そこに居ました。りんが大慌てで全員分のお茶を入れます。
数がたくさん必要なので大変でした。

「ミル……ところでミル」
お茶を飲んでいたミルクが一息ついてぽんと机の上に乗るとひかりを見ます。
「光の園にはいつ帰るミル?」
「ええと――」
ひかりは考えるそぶりをしました。向こうでほのかと一緒に壁にもたれかかって
座っていたなぎさが、がばりと身を起こします。
「えっと、その、あの郷屋はいなくなったんじゃないの?」
慌ててそう言ってお茶を配っているりんに目を向けました。
「多分――いなくなったとは思いますけど。あんなにたくさんの霊に襲われて
 無事でいられる人なんて」
りんは慎重に、そう答えます。
「だったらさ、ひかりそんなに急いで帰らなくてもいいじゃない!」
「でもミルクの仕事はシャイニールミナスを光の園に連れて帰ることミルッ!」
考えてみれば、なぎさ達とミルクは郷屋からひかりを取り返す――とこの一点で合意に
達していたのですから郷屋がいなくなった今、なるべくひかりと一緒に居たいなぎさと、
光の園にひかりを連れて帰る使命を持つミルクとは平行線でした。

「ほらミルク、そんなに暴れると……」
「ミルッ!?」
ミルクの側に置いてあったかれんの湯飲みがミルクの足にぶつかりました。
お茶が軽くはねてミルクの足に当たります。「熱いミルッ!」とミルクは思わず飛び上がりました。
「だから言ったのに……」
じたばたしているミルクの足をかれんが布巾で拭きます。しばらくするとミルクは
やっと落ち着きました。
「あの……」
ひかりがおどおどとした様子で口を開きます。ひかりはなぎさ、ほのかの隣に
座っていました。
「ミル?」
「あの、私もう少しこっちにいたらいけませんか?」
「ミル……いけないってことはないミル、でもどうしてミル?」
「ほらほら、ひかりだってこっちに居たいって」
なぎさが勝ち誇ったかのようにそういうと、
「ミルクはシャイニールミナスの話を聞いているミル!」
とミルクは苛立ったように怒鳴ります。

「私のせいで、皆さんにこんなにご迷惑をおかけしましたし……せめてもう少しいて、
 皆さんのお手伝いができたらって思うんです」
「んー、そんなに気にしなくていいんだよ? みんな色々、自分の事情があって
 やったんだし」
のぞみが長閑な声でそう言うと、「それでも」とひかりは答えました。
「それでも、私も何かしたいんです。せめて、満月祭の日まで――」
「満月祭?」
咲がきょとんとした表情を浮かべます。
「それってうちの森のお祭りのこと?」
「え、満月祭って咲さんの森のお祭りだったの?」
こまちの声が割り込んできました。思えば、満月祭について調べたことでこまち達は
若葉台への手がかりを掴んだのでした。こくんと咲は頷きます。
「うちの森のお祭りで――今年は特に大きなお祭りだって大人たちが言ってました」
「そうですね、満月祭は狸の皆さんが主催してくれているって聞いています」
咲の言葉を聞いてひかりはにっこりと笑いました。
「今年は光の園の女王が満月祭に合わせて地上に降りる年なので、
 それで大きなお祭りになるんだと思います」
「あーっ、そうだよ!」
のぞみが突然大声を出したので、隣でお茶のおかわりを飲み始めていたうららは
ひっくり返りそうになりました。
「確か、何でも願い事がかなうんだよね!? で、私たちも参加できるって――」
「うん、だからみんなで行こうよ!」
咲はみんなを見回します。
「満月祭には誰でも参加できるから、みんなで行こう!
 で、お願いかなえてもらおうよ!」
「じゃあ満月祭にはみんなで行くことにけってーい!」
のぞみがそう決めました。

* * *

一休みしてから、せつなはのぞみの家を出て森の中を軽く散策していました。
満月祭まで、ラブとせつな、かれんとこまちは一旦四つ葉町に帰ることにしていました。
さすがに家の人も心配しているでしょう。もっともこの森と四つ葉町の距離は近いですし、
かれんとこまちはこれからもこちらにちょくちょく来るつもりのようでした。

「……あ」
せつなが足を止めました。薫が木の下で風を感じながら休んでいます。
ふと見上げれば枝の上には満もいました。二人は回復したとはいえまだ
怪我が治りきっていないので、身体のあちこちには包帯が巻いてありました。

「……大丈夫なの? こんな所にいて。中で休んでいた方がいいんじゃない?」
「たまには外の風も浴びないと身体が鈍るわ」
薫はそう答えます。満は黙ってせつなと薫の会話を聞いているようでした。
「そういえば……、まだ言ってなかったわね。ありがとう、黄泉の国に行ってくれて」
「お互い様よ」
せつなはそう答えました。

「せーつーな!」
せつなのことを探していたラブが駆け寄ってきます。
「そういえば、満と薫はこれから狸の森に戻るの?」
「いえ、私たちは満月祭までここに残るわ。そのほうがいいって、咲と舞が」
咲と舞は、二人がもう少し治るまであまり長い距離を移動させたくないと思って
いたのでした。移動は美希に頼み込むとしても。
「そうなんだ、じゃあ満月祭の時は一緒に行こうよ。私たちも四つ葉町からこの森に来るから」
「ええ……、そうね」
「じゃあせつな、そろそろ帰ろ。お母さんたち心配しちゃってるかも」
「ええ」
腰を屈めて薫と話していたせつなは「また」と手を振りました。薫と満も軽くそれに
答えます。ラブとせつなは、そのまま若葉台に向っていきました。

「ねえ、そういえばさあ……、」
思い切ってラブはせつなに聞いてみました。
「薫とせつなって、昔何かあったの?」
「まだ話してなかったかしら」
うん、とラブは頷きます。
「私がラブと会う少し前のことなんだけどね、」
せつなはそう話し始めました。……ラブは静かにその話を聞いていました。
「……へえ、そんなことが……」
「ええ、それもあって黄泉の国にも行ったんだけど……」
それ『も』あって。せつなが黄泉の国に行ったのは、きっと過去に出会った人たちの
消息を求めてという面も会ったのだろうとラブは気がついていました。
「でもせつな、満と薫あんなに元気になって良かったよね。せつなが黄泉の国に行ったから……」
「私はついていっただけよ。二人が治るようにあの宝石を貰ってきたのはりんだもの」
「でも、せつなだって行ってきたんだし」
ラブはどうしてもそう言いたかったのでした。せつなが過去にした「ひどいこと」を
償うための人助けはこれからもずっと続きます。せつながしたことが、きっとみんなの為に
なっているとラブは伝えたかったのでした。

* * *

「ミルクはこっちに残るの?」
せつなを連れてきたラブはかれん、こまちと合流しました。ミルクはかれんの腕の中に
納まっています。
「こっちにっていうかシャイニールミナスと一緒にいるミル。お世話役の努めミル」
「そっかあ」
ミルクはぽんとかれんの腕から飛び出しました。
「なぎささん達も若葉台に戻るんでしょ?」
「そう言ってたミル。だからミルクも一緒について行くミル」
「じゃあ、満月祭のときかしらね。また会えるのは」
こまちに向ってミルクは「そうミル」と頷いて見せました。
「こまち、さっき言われていたものはちゃんと書き付けたミル?」
「大丈夫よ」
こまちは懐から小さな紙を出すとミルクに振って見せました。
「こまちさん、なんですかそれ?」
「のぞみさんとうららさんに頼まれたの。甘いお菓子を持ってきてくださいって」
紙に書いてあるのはすべて、こまちの店で売っているお菓子のようでした。
もちろんこまちは羊羹も一杯持って来るつもりでしたが、
それにはまだ誰も気がついていませんでした。
「じゃあ戻りましょうか」
「そうね」
こまちの言葉にかれんが同意します。
かれんとこまちは、近々頼まれたお菓子を持ってまたこの森に戻ってくるつもりでした。
「じゃあミルク。ありがとう」
かれんは優しくミルクを撫でました。「ミル?」とミルクがかれんを見上げます。
「ミルクと一緒にシャイニールミナスを探して良かったわ」
かれんは、少し気が楽になったような気持ちでいました。自分と家族以外には
知らなかった物の怪たちがこんな風に生きているのだと知って、以前と比べて肩の荷が
下りたような気がしていました。

* * *

「じゃあ美希、また頼んじゃってもいい?」
「ええ、もちろん」
なぎさとほのか、ひかりは美希に乗せてもらって若葉台に帰るつもりでした。
ひかりは少し緊張していました。ほのかの祖母やアカネさんには何度も会っているのですが、
今のひかりを見てもあの赤ちゃんのひかりと同一人物だとは思われないでしょう。
それでも、ひかりは是非若葉台のみんなに会ってお礼が言いたいと思っていました。

森の入り口近くで美希は馬の姿になりました。なぎさがその上に乗り、ひかりが真ん中、
ほのかが一番後ろに座ります。

「待つミルー!! ミルクも行くミル!」
かれん達と別れたミルクがぱたぱたと走ってきてぴょんぴょんぴょんと跳ぶとなぎさの
頭の上にずしんと着地しました。
「ええ!? ちょっとミルクも行くの!?」
「当たり前ミル! それがお世話役の努めミル!」
「ていうか、頭に乗らなくてもいいでしょ!?」
「うるさいミル! ここが一番安全ミル!」
「あ〜……行きますよ」
美希が呆れたように言って、地を駆け始めました。

* * *

「クイーン」
光の園の女王の前にパルミエの王子二人が跪きました。
「虹の園に派遣したお世話役ミルクからの報告書です」
そう言って分厚い手紙を差し出します。ミルクが事の経過と顛末を記した報告書でした。
女王は一通りそれに目を通すと、
「そうですか、ルミナスは虹の園に」
と呟きました。
「使命を全うできず、申し訳ありません」
王子二人が頭を下げると、
「いえ、ルミナスの意思です。私が虹の園に行ったときに確認します」
とクイーンは答えます。
「ミルクはよくやってくれました。シャイニールミナスが虹の園に落ちたのは
 事故でしたが、不幸中の幸いでした」
今回は本当にありがとうございました――とクイーンはお礼を言いました。

* * *

若葉台へ、四つ葉町へ、とみんなが帰っていった後、のぞみとりん、うららと咲たち四人、
それに祈里が残りました。
満と薫は先ほどの樹のそばで、風の匂いからみんなが帰っていく様子を感じ取っていました。
「結局同じね」
木の上で満がぼそりと呟きます。
「何が」
「私たちアクダイカーン様の姿を見てから、どの森に住みたいのかとか色々考えてきたけど――、
 結局、ずっと狸の森にいることになりそうね」
「そうね……満月祭ではちゃんとお願いしておかないと」
「ねえ、薫?」
「何?」
薫が木の上の満を見上げました。満は猫の姿になって枝の上に身体を伸ばしていました。
「満月祭って、みんな何をお願いするのかしら」
「さあ……、大好きな人と一緒にいられるように、とかそんなところじゃないかしら」
「私もそんな気がするのよね――あの子、ひかりさんも『なぎささんやほのかさんと
 ずっと一緒にいれらるように』なんてお願いをしそうだし」
「可能かどうかは分からないけど、本人がそれを望んでいるんならいいんじゃない?」
「まあ、ね」
そのときはミルクもここに残ることになるのだろうか――と満は思いました。

「満ー、薫ー、おやつ食べよー!」
咲と舞が家のほうから手を振って満と薫を呼んでいました。


-完-

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