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地下通路に入った途端、ひかりの泣き声が郷屋の耳に聞こえました。にやりと笑うと、
大股に小部屋へと向います。そこには郷屋の思い描いて居たとおりの光景が広がって
いました。なぎさとほのかは地に倒れ、舞やこまちやラブは二人を介抱しようと
していますが特に何ができるわけでもなく、ひかりは部屋の中からなぎさとほのかの
ところに歩みでようとしては稲妻によって歩みを止められていました。

「ようこそいらっしゃいました」
変化した郷屋の姿に、こまちとラブと舞はなぎさとほのかを庇うようにして郷屋の前に
立ち塞がります。
「おやおや、あなた方に一体何ができるというのです?」
郷屋はそう言って笑みを浮かべます。彼は勝利を確信していました。だから、

「物の怪の森の主として力を蓄えつつあったアクダイカーンは早々に滅ぼしました。
 それ以外にも、私の邪魔をし得るような力の持ち主は皆滅ぼしてきました。
 だからもう邪魔者は誰もいないと思っていましたが――、今ここで
 シャイニールミナスの力を手に入れることができれば私は莫大な力を得られるのですよ。
 あなた方、ことになぎさ殿とほのか殿には私の希望をさんざん邪魔してくださったお礼に、
 ここで消えていただきますよ」

そんな説明をしながら、余裕綽々といった表情で郷屋は右手を振り上げました。
その手に黒い光が宿ります。こまちとラブ、舞はそれを見て恐怖を覚えました。
この世の物とは思えないような闇でした。

『待って!』
聞き慣れない誰かの声がその場にいた全員に聞こえました。
突然ひかりの身体が光り輝いたかと思うと、その姿が成長していきます。

「何……!?」
郷屋は思わず声を上げました。みるみるうちに舞たちと同じくらいの年恰好に
成長したひかりは、
「手を出さないでください」
と郷屋に告げます。
「おやおや、シャイニールミナス。しかしこの方たちは私があなたの力を手に入れるのを
 納得してくれなさそうですのでねえ……、後腐れのないようにするためにはやはり……、」
郷屋の手の中の黒い光が再び大きくなります。それに対抗するように、ひかりが金色に輝きました。
郷屋の手の中の闇が、ひかりに押されるようにして消えていきます。ふっと郷屋は笑いました。
「なるほど、やはりあなたの力は我が手中に収めなければならないようです」
郷屋はなぎさ達よりも先にひかりを自分の力とすることを選んだようで、一歩また一歩と
ひかりに近づきました。
「ひ、ひか……」
なぎさが身体を動かしました。「なぎささん!?」とラブが止めようとしましたが、
なぎさはラブの手を振り払うようにしてよろよろとほのかの手を引いて立ち上がりました。
「おやあ?」
郷屋が目をなぎさとほのかに向けます。
「ひかりは……私とほのかが絶対に守る。そう決めたんだから……」
なぎさとほのかの身体は傷だらけでしたが、それでもぐっと拳を握ると、郷屋に向き合います。

* * *

「りんちゃん、あれなんだろう?」
のぞみが海の向こうを指差しました。りんは心配そうに地下道の方を見ていましたが、
のぞみに言われて「ん?」と海を見て「うわ!」と尻餅をつきました。
水平面が明るく輝くほど沢山の炎が集まってきていました。

* * *

「ならばやはりあなた達からです! この力を使わずともあなた達を消すくらい訳はない!」
一声叫ぶと、郷屋はなぎさとほのかの握った拳を掴んで二人の腕をねじり上げました。
「なぎささん、ほのかさん!」
そこに居たみんなの悲鳴が響きます。
「良く見ておきなさい、人のことを邪魔するとどうなるか!
 この二人には何度も大人しくシャイニールミナスを渡すよう忠告していたというのに!」
ねじ切らんばかりにねじり上げた腕を掴み上げるとなぎさとほのかが呻き声を上げました。

* * *

「……ッ!?」
茶を飲んでいた満と薫は驚きのあまりに茶碗を取り落としました。胸にかけた宝石が
輝いています。まるでいつかのように――しかしその光はいつかの物とは違いどこか
柔らかいものでした。
「何――!?」
光は一際強く輝き、二人の宝石から飛び出した星の欠片のようなものが光跡を残して
窓の外へと飛んで行きます。
満も薫も祈里もかれんも、身を乗り出すようにして光の行方を追いました。
光はすぐに見えなくなってしまいましたが、確かに若葉台の方へ飛び去っていきました。

* * *

「な……なぎささん、ほのかさん……」
郷屋邸一階で、咲は何とか起き上がろうとしていましたが身体に力が入りませんでした。
それはせつなや美希、ミルクもうららも同じでした。
「行かな……きゃ。私たちが……止めなきゃ」
うららもそう口に出しましたが、身体は動きませんでした。そのとき、突然部屋全体が
赤い光に包まれました。郷屋の攻撃かと全員が一瞬身をすくめます。しかしそれは
満の胸から飛び出した赤い光の欠片でした。
「へっ!?」
赤い光は咲の胸に直撃するように飛び込みました。咲の身体が真っ赤な光に包まれます。
「咲……さん!?」
うららが呆然と咲を見ました。咲の身体は人間の姿になり、柔らかい黄色の衣装と
赤い光に包まれていました。
「あれ?」
きょとんとした表情で咲は立ちあがります。まるで一瞬にして傷が治ってしまったかのように、
身体は回復していました。
「良く分かんないけど、行って来る!」
そういって、咲は郷屋が開けた地下通路への道を下りました。

* * *

「どういうことです?」
郷屋の声には苛立ちがにじみ出ていました。なぎさとほのかと郷屋の間には今、
舞が立ちはだかっています。先ほどまでの銀ぎつねの姿ではなく、
人の姿になっていました。咲の服と色違いのようにも見える薄い水色の衣装を纏い、
青い光を帯びた姿で両手を郷屋に向けて伸ばしています。その腕が張る光の防壁は
郷屋が突き破ろうとしても破ることはできませんでした。
「何者です!? あなたは!? どうしてそんなことが!?」
「そんなこと私にだって分からないけどっ!」

郷屋の力は舞の防壁でも守るのがやっとでした。それを察した郷屋は腕に力を籠め、
防壁もろとも舞を押し潰そうとします。
「舞っ!」
駆けつけた咲は全ての状況を見て取りました。
「舞ーっ!」
走るように空を滑ると郷屋を後ろからけり上げます。郷屋は一瞬体勢を崩しましたが、
「一体なんなのです!」
と怒鳴ったかと思うと跳び上がり、凄まじい速さで空を駆け一路海のほうを目指します。
咲も舞もその後を追いました。

「うわっ!」
地下通路の出口に待機していたりんとのぞみは郷屋が物凄い勢いで出てきたので驚いて避けます。
郷屋はりん達のことは見ていませんでした。
「はああっ!」
咲と舞が光を身にまとって郷屋に突進して行きます。郷屋はそれを待ち構えていたかの
ように二人のことを蹴り上げ空中に高く放り上げました。
「咲!」
「舞ちゃん!」
りんとのぞみが同時に叫びます。しかし咲と舞は問う空でくるくると回転したかと思うと、
そのまま郷屋目掛けてまっしぐらに降りてきました。
「はあっ!」
咲と舞は同時に郷屋の足を掴むと、海に向って郷屋を放り投げます。
郷屋はそのまま海に落ちました。 

――たかがこれしきのことで、私をどうにかできるとでも?
海に落ちたものの、郷屋はこれといった傷は受けていませんでした。
あの狐と狸は防御には長けていても攻撃能力はほとんどない、
攻撃を続けていればやがて持ちこたえられなくなると郷屋は読んでいました。
――上がったら叩き落して……
そう考えながら郷屋は水を掻き上を目指しました。自分の周りに異変が起こりつつ
あることには気がつきませんでした。

咲と舞ははあはあと荒い息をつきながら、上空でじっと海の様子を見ていました。
勢いでここまではしたものの、二人はやはり疲れてもいました。
しかし郷屋があんなもので咲たちへの攻撃を止めるとは思えません。
二人はじっと構え、郷屋が出てくるのを待ちます。海が怪しく波立ちはじめました。


「う……うわっ!?」
海岸から様子を見守っていたりんは突然頭を抱えて後ろを向いてしゃがみ込みました。
「りんちゃん、どうしたの!?」
のぞみが慌てて駆け寄ります。
「のぞみ、あんた見えてないの!?」
「何が!? 何が見えるの!?」
のぞみは辺りを見回しました。海には不規則な白波があちこちに立っています。
一瞬、海中で大暴れしているような郷屋の腕がざばりと海面に上がりましたが
それもすぐに消えました。
「み、見えないなら見えない方がいいよ! あんなの見るもんじゃない!」
「ねえ、だからりんちゃん何が見えてるの!?」

咲と舞も上空で不思議に思っていました。海は波打ち、海中で郷屋が暴れている
様子なのに出てくる様子がありません。

りんはちらりと後ろを見ました。海の様子は相変わらずでした。海面に現れた無数の
白い手が、海上に浮かび上がろうとする郷屋を引き、押し、沈めています。
アクダイカーンの森の眷属を含む、これまで郷屋に殺された者たちの霊であるように
感じられました。

ひときわ大きな手がざばりと現れたかと思うと、郷屋を海中深くへと沈めました。
やがて海に立った波も納まります。水平線に現れていた炎も消え、海は最初から何事も
なかったかのように静まり返りました。傾いていた空の月も西へと沈んでいきます。
そして郷屋は海の中に沈んだまま、二度と姿を現すことはありませんでした。

「ルミナス・シャイニングストリーム!!」
ひかりが立ち上がって叫びました。郷屋が張っていた罠は消え、
ひかりは閉じ込められていた小部屋から自由に出ることができました。
ひかりの叫びに合わせるように光の粒が郷屋の家に、地下道にと降り注ぎます。
「……?」
煌く光を見詰めているうちに、みんなの身体は少しずつ癒されて行きました。
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