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「……それで、シャイニールミナスのことはどうするミル?」
ミルクが改めて問いかけます。なぎさに、というよりも皆にミルクは聞いていました。
「ひかりが郷屋さんのところにいるとしたら……、」
初めてほのかが口を開きました。ほのかの顔色は普段よりも白く、青白いとさえ
思えるほどでしたが声は怖いくらいに落ち着いていました。
「若葉台にある郷屋さんの家にいるかもしれないわ。もちろん、私たちが郷屋さんの
 家を知っていることを郷屋さんは知っているわけだから別の場所にいるのかも
 しれないけれど……」
ほのかのややこしい言い回しに若干の混乱を覚えながらもミルクは、
「じゃあその家に行ってみたらいいミル」
と答えます。
「あの、でも、正面から乗り込んでいっても駄目なんじゃないでしょうか……?」
うららが控えめに口を挟みました。

「そうね……せめてひかりさんがあの家のどこにいるか位は予め調べておくべきね」
「調べておくって、ほのかどうするの? 忍び込むの?」
なぎさが隣にいるほのかの顔を見ます。「……それしかないわね」とほのかは答えました。
「夜、暗くなったら……確か郷屋さんの家は正面に門が一つあるきりだから……
 塀を乗り越えていけば……」
ほのかの声はあくまでも冷静でしたが、言っていることは普段のほのかからは
想像もつかないほど物騒なことでした。
「ほのか?」
ほのかの表情は恐ろしいほど真剣でした。

「あなた達が行くつもりなの?」
かれんの声にほのかはふっと顔を上げます。
「そうね。私たちはひかりさんの保護者だから……」
「……誰かの家に忍び込んだり、そういうことをしたことはあるの?」
「ないわ」
ほのかは当然のようにそう答えました。なぎさも首を振ります。
「だったら、失敗する可能性のほうが高いわね。正面から乗り込んでいくのと
 大して変わらないわ」
かれんが淡々と指摘します。「そうね……でも」とほのかは答えました。
「そもそもそんな経験のある人なんていないんじゃないかしら……?」
「……私なら、まだましかもしれないわ」
かれんがそう言ったので、なぎさとほのかはえっと驚きました。いい所のお嬢様に見える
この人にそんな経験があるとは、人は見た目によらないもの――と二人が思っていると、
「ああ、コウモリさんならそういうの得意そうですよねー」
とのぞみの能天気な声が部屋に響きました。
「へっ!?」
と二人はかれんに目をやります。さすがに物の怪の森ねとかれんは思いました。
のぞみも、咲も、舞も、うららも、美希も、祈里も、物の怪であることにかれんは
気がついていました。何の物の怪であるかまでは分かりませんでしたが。
逆にのぞみ達もかれんが物の怪であることを感じ取り、しかもコウモリであることに気が
ついていたのでしょう。
「え……あなたも、物の怪、なの?」
ほのかが半信半疑といった様子で尋ねると、かれんは小さく頷きます。

「人の家に忍び込んだ経験はないけど……コウモリの姿になればそういう活動は
 しやすいと思うわ」
「じゃあ、私たちが郷屋さんの家まで案内するわ」
ほのかはそう言いましたが、「ちょっと待って」とこまちに遮られます。
「今までの話だと、なぎささんとほのかさんは目立つ行動を起こさない方が
 いいんじゃないかしら。その人に動きを気づかれると対策を練られてしまうかもしれないわ」
「でも、郷屋さんの家の場所を伝えないと……」
あ、と舞が声を上げました。みんなが見ている中でのぞみとうららの食事が乗っている
机につつと近づくと、ぽんとアカネから貰った地図をその上に置きました。
いつかかれん達にも見せた地図です。

「これ、アカネさんからお借りした地図なんですけど、この中にその郷屋さんの家、
 ありませんか?」
「あ、えーと……」
なぎさとほのかは目を凝らして地図を良く見ます。若葉台と書いてある地域のある場所を
なぎさは指差しました。
「ここ、地図上では空き地ってことになってるけどここが郷屋の家だよ」
「じゃあここにある家に行けばいいのね」
とかれんが答えます。
「うん、でも一人で行くって言うのは……」
なぎさが言うと、「私も行くわ」とこまちが言いました。
「わ、私も行きますっ!」
と咲が手を挙げます。
「咲?」
「何か、じっとしているのが嫌で……何かしたいんです」
と咲はなぎさに答えました。満と薫のことで何もできない分、今ここで何かしようと
しているようにも見えました。
「……だったら、みんなのこと若葉台の近くまで乗せて行くわ。すぐに着くわよ」
美希が立ち上がります。ああそうか、とかれんは思いました。そういえば美希は空を
飛ぶ馬でした。
「お願いして……いいのかな?」
なぎさがちらりとほのかに目をやりました。こまちが「なぎさとほのかは今は
動かない方がいい」というのは確かにその通りでしたが、歯がゆい気持ちもありました。
「ええ。……やれるだけはやってみるわ」
かれんがそう答え、「私も調べられそうなことは調べてきますっ!」と咲が叫びました。
咲は早く何か行動を起こしたくてうずうずしているようでした。

こまちとかれん、美希と咲が出発したのはそれから少ししてのことです。
残ったなぎさは、改めてミルクとラブを見ました。
「……何ミル?」
「ミルクの話はさっき聞いたけどさ、ラブとかさっきの……かれんとかこまちとか、
 せつなとかはどういう関係なの?」
「シャイニールミナスを探すのを手伝ってくれてるミル」
「んー、それは分かるけど。なんで手伝おうと思ったの?」
とラブに目を向けると、
「何でってこともないんですけど、せつなが手伝おうって言ったので……かれんさんと
 こまちさんには、シャイニールミナスを探してる途中でご迷惑かけたんですけど、
 事情を話したら手伝ってくれることになって」
「ふうん……」
となぎさはどこか納得していないようでした。
「でも、いきなり『シャイニールミナス』って言われて信じられるもの?」
「……ミルクが動いている時点で、それもありかなって気がしました」
ラブは苦笑してミルクを抱きかかえます。
「ミル……ミルクは別に変な存在じゃないミル!」
ミルクはラブの言葉が不満だったようで腕の中でぷんぷん怒っています。
「まあそっか……、せつな達とは前から仲良かったの?」
「せつなとは一緒に住んでるんですけど、かれんさんこまちさんとはそれほど仲が
 良かったわけじゃないです」
「へえ。そういうのも何か不思議な感じ」
「なぎさ、私たちも似たようなものじゃない?」
ほのかがなぎさの背中をつつきました。
「え? そう?」
「だって、少し前までは全然知らなかった物の怪さんたちにこんなに助けてもらってる
 んだし、そもそも私たちだってひかりさんがいなかったら」
「あ……そっか……」
そう言われて、なぎさは考え込みました。つい数日前までのぞみや咲たちのことを全く
知らなかったと思うとなんだか不思議な気がしました。

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