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「……ひかりは、」
なぎさは答えようとしましたが答えられませんでした。答えると泣いてしまいそうな
気がしました。
「どうなったミル!?」
「だから……、」
なぎさは言葉に詰まりました。連れて行かれたと言っても、攫われたと言っても、
自分もほのかも泣きそうだとなぎさは思いました。
「……あの……」
こまちが恐る恐る、と言った様子でミルクの後ろからミルクを抱きかかえると
「初めまして」
となぎさに挨拶しました。
「え? あ……うん、初めまして」
なぎさは一瞬きょとんとしましたが、言われたとおりの挨拶を返します。
こまちはなぎさの返事ににっこりと微笑むとそのままその場に正座しました。
釣られて、なぎさも座ります。美希を含め、その場にいた全員がとりあえず座りました。
「あの……、私が言うのも変だけど、お互い自己紹介したら?」

美希はなぎさとミルク、双方を見ながら言いました。何にせよ、良く話しあわなければ
何も始まりません。そう言われて
「はいはいはーい、のぞみですっ!」
と、今までご飯に夢中だったのぞみが突然声を上げました。なぎさとほのかで慣れたのか、
昨日の夜大変な物を見たからか、のぞみはこまちやラブ、せつなといった人間達のことを
あまり怖がっていませんでした。
かれんが物の怪であることには、言うまでもなく気がついていました。
「聞いてないミル!」
ミルクはのぞみの方を見ずにそう言い返しました。「まあまあ」とこまちが取り成します。
「ミルクさんも自己紹介したら?」
そういわれ、ミルクは自分が光の園から遣わされたお世話役であること、
シャイニールミナスを見つけて連れて帰るのが使命であることを説明しました。
最初はあまり興味なさそうに聞いていたなぎさとほのかでしたが、
話がシャイニールミナスに及ぶと俄然身を乗り出しました。

「……そういうわけで、ミルクはこの世界に落ちたシャイニールミナスを探しにきたミル。
 どこに行ったミル?」
「……今の話、本当なの?」
「何を疑っているミル! ミルクは嘘なんてついてないミル!」
ミルクはなぎさの言葉にぷんぷんと怒りました。
「……疑ってるわけじゃないんだけど。私は、美墨なぎさ。ほのかと一緒に、
 光っている赤ちゃんを見つけて……、」

「……美希に乗せてもらってここまで逃げてきたんだけど。ここにいた満と薫に、
 ひかりが『シャイニールミナス』かもしれないって教えられて……」
「それは誰ミル?」
「ここにいる物の怪だよ。山犬と山猫……だっけ」
確認するようになぎさはのぞみとうららに目をやりました。うんうんと二人は頷きます。
「二人はどうしてシャイニールミナスのこと知ってたミル?」
「えっと」
なぎさはほのかと顔を見合わせました。その辺りのことは複雑で良く分かっていませんでした。
「え〜と、その……」
「二人の森の主に聞いたって言ってました」
満と薫が寝ている部屋から咲が出てきていました。咲は午前中少し眠ったのですが、
今はまた起きて満と薫についていたのでした。
「森の主ミル?」
「うん――、でも、二人が生まれた森の主はもう黄泉の国にいるみたい。
 二人にシャイニールミナスについて教えたのは森の主の幻だって……」
ミルクは首を捻りました。状況が複雑で中々ついていけません。
「つまり、結局誰がシャイニールミナスのことを知ってたミル?」
「郷屋……って人じゃないかな……、」
答える咲の目に炎が燃え上がりました。目の下に隈を作っている咲はいかにも
疲れていそうでしたが、郷屋のことを考えると怒りが止まるものではありませんでした。
「郷屋……ミル?」
「その郷屋が、ひかりのことを……連れて行ったんだよ。満と薫まであんな目に遭わせて……」
「ミルッ!!」
ミルクは思わず叫びました。やっと、聞きたかった事が出てきました。ミルクにとっては、
誰がシャイニールミナスを連れて行ったのかというのが一番大事な問題でした。
「その郷屋って人はどこに行ったミル?」
なぎさとほのかは顔を見合わせました。
「多分、若葉台に……」
「あの町ミル!? だったらすぐに戻るミル!」
ミルクの最後の言葉はラブたちに向けたものでしたが、なぎさもほのかも、のぞみ達も
美希も咲も、顔を曇らせました。
「……危ないよ」
咲がぽつりと呟きます。
「危ないのは分かってるミル」
「そんな気軽に言える状況じゃないって」
なぎさには、ミルクが事態を軽く見すぎているように思えました。
「うるさいミル!」
ミルクはミルクで焦っていました。シャイニールミナスの姿はもう見えているのに
中々たどり着くことができません。ここで逃がすわけには行きませんでした。
「うるさいって、何よ!?」
「そもそもミルクたちと会ったときにシャイニールミナスを渡してくれれば
 そんなことにはならなかったミル!」
「仕方ないじゃない、あんな顔で追いかけられれば普通逃げるよ!」
「何を言ってるミル!?」
まあまあ、とこまちが間に入ろうとしましたがしかし、
「静かにしてっ!」
という甲高い声に遮られました。一同が声のした方を向くと、満と薫の寝ている部屋から
襖を開けて立っている舞が、怒鳴った後だからかぎゅっと目を閉じていました。

「……満さんと薫さんが寝てるんだから」
ゆっくりと舞が目を開けると、あ、とラブたちが声を上げました。
「あなたは……若葉台への行き方を教えてくれた……」
そう言われ、舞もラブやかれん、こまち達のことを思い出しました。若葉台から
四つ葉町に着いたときに、若葉台への行き方を聞いてきたのがラブたちでした。
「知り合いなの、舞?」
なぎさが尋ねると舞はこくりと頷きます。
「こちらに来る時に会ったんです」
「へえ――そうなんだ」
「……ねえ、あなたと一緒にいたもう一人の人は?」
せつなが舞に尋ねました。舞はそれを聞いて俯きました。
「まさか……」
せつなは嫌な予感に身を震わせます。
「薫さんならここに寝てるわ」
この部屋に、と舞は自分の後ろを見ました。やはりそうだったのか、とせつなは思いました。
あの山犬は「薫」という名前だったのかと。

「……その部屋に入ってもいい?」
「静かにしてね」
せつなは立ち上がると、そっと満と薫が寝ている部屋に入りました。
ラブとこまち、かれんも一瞬顔を見合わせるとせつなに続きます。こまちはミルクを抱いて行きました。
部屋の中では、満と薫が静かに眠っています。一瞬、それは平和な光景に見えました。
しかし布団から出ている薫の腕に巻きついた包帯の様子が、事態が深刻であることを物語っていました。
「……あ」
布団のそばで体育ずわりをして、膝に顔を押し付けていた祈里が顔を上げます。
祈里はせつなたちに見覚えがありました。祈里がフェレットの姿をしている時に
会ったので、せつな達の方は祈里には気づきませんでしたが。

せつなにラブ、かれんにこまち、それにミルクは静かに満と薫の顔に見入りました。
「……どう、なの? 容態は……」
かれんが祈里に尋ねると、祈里は「……分からないわ」とぽつりと答えました。
「分からないって」
かれんが聞き返すと、祈里は黙ったままでただ悲しそうな目をかれんに向けました。
「……そんな……」
その表情から状況を察した四人とミルクは悄然とした表情を浮かべました。
薫とはわずかに会ったことがあるだけの関係でしたが、それでも咲が言っていた
「危ないよ」という言葉の意味が急に身近なものとして感じられました。

「……どうしてあんなことに……、」
せつな達は満と薫が眠っている病室から出てくると、改めて咲となぎさに尋ねました。
今はもうミルクもすっかり刺がなくなっていました。
「満と薫は、元々……」
咲がゆっくりと事情を話し始めます。霧の中でかつて住んでいた森の主の姿を見たこと、
シャイニールミナスを手に入れるように言われたこと、ここでなぎさとほのか、
ひかりに出会い悩んでいたこと、話し合いの最中に突然郷屋が現れてアクダイカーンの
幻が云々と言っていたこと、二人の首に掛けていた宝石が郷屋の命令で突然爆発したこと、
郷屋がひかりを奪っていったこと。今回はみんな、黙って聞いていました。
咲が話し終えると、しばらく誰も口をききませんでした。
「それで、これからどうするミル?」
ミルクがなぎさに尋ねます。
「何とかして、ひかりを取り返さないと……でも」
なぎさは祈里に目を向けました。祈里は満と薫の部屋の襖を半開きにして
部屋の前に立っていました。

「満と薫は……?」
祈里は黙ったままです。この沈黙が何を意味しているのか、なぎさには良く分かっていました。
「ねえ、何か手はないの?」
せつなが祈里に言葉をかけました。せつなは薫に一度助けられたこともあって、
この状況を何とかしたいと思っていました。
「……あるといえばあるけど、でも……」
「えっ!? 何かあるの!?」
咲が腰を浮かしました。咲は、もうこれ以上の打つ手はないのだと思っていたのでした。
しかしまだ打つ手があるのならどんなことでもやるべきです。
「うん、でも……」
「ど、どういうやり方なの!? 私何でもするから、教えてっ!」
「……満さんと薫さんが産まれた森の主の力を借りればもしかしたら……でも……」
祈里はためらいがちに咲に答えました。祈里の言葉を聞いていた咲は、ひどく落胆した
表情を浮かべました。
「二人が生まれた森の主って、アクダイカーン……?」
「ええ……」
申し訳なさそうに祈里は答えます。「あ〜!」と咲は立ち上がって頭をかきむしりました。
「アクダイカーンって、多分今黄泉の国だよ! どうすればいいの!?」
「だからこの手は使えないと思うの……」
「でもっ、満と薫をこのままにしておくわけには」
「黄泉の国に行ったらいいんじゃないの?」
のぞみがきょとんとした表情で言葉を挟みました。へっ? という表情で咲がのぞみを見ます。
「黄泉の国に行って、そのアクダイカーンさんにお願いしてくればいいんじゃないかなあ」
「え、だって黄泉の国って……行ったら死んじゃうよ!」
「大丈夫! だってこっちにはりんちゃんがいるんだから!」
のぞみは隣に座っているりんの肩を掴みました。
「りんちゃんはお化けだから、黄泉の国にも行けるんだよ。ね、りんちゃん」
「……え? お化け!?」
黙って聞いていたなぎさの顔が真っ青になりました。後ろを向いて逃げ出そうとするのを
ほのかが捕まえます。
「あ〜、ちょっとなぎささん。お化けは怖くないですから。怖いのは幽霊の方です」
「……え、そういうもの?」
「お化けは物の怪みたいなものですよ。黄泉の国に行けたりはしますけど」
そう説明すると、なぎさは半信半疑ながらも逃げるのを止めました。
「ね、ねえ……本当に黄泉の国に行けるの? 行って、帰ってこれるの?」
咲がりんに尋ねます。「うん」とりんは頷きました。
本当のことを言えば、黄泉の国はあまり行きたい場所ではありません。
りんは何度か行こうとしてみたことはありましたが、その不気味な雰囲気はどうしても
好きにはなれませんでした。しかし今はそんなことを言っていられる状況ではありませんでした。
「じゃあ、私も一緒に連れて行ってくれる?」
咲がそう聞くと、りんは頭を振りました。
「一緒に行ったら帰って来れないよ」
「え」
「黄泉の国だもん。物の怪が行く場所と人間が行く場所は少し違うから、人間だったら
 一緒に行っても多分大丈夫だけどね。だから、こっちで待ってて」
「そうなんだ……」
咲はややがっかりしたようでした。満と薫のために自分でも何かしたいと思っていたの
ですが、こと今回の件に関して咲ができることはほとんどないようでした。
「だから、……一人で行ってくるよ。そのアクダイカーンって人に会って話してみれば
 いいんでしょ」
ちょっと怖いけど。とりんは言い添えました。咲が「ごめん」と謝ります。
「いいって。満と薫の為だし」
「待って。……私も連れて行って」
せつなが声を上げました。え? と咲とりん、それに他のみんながせつなに目を向けます。
「どうして?」
咲は不思議そうに尋ねました。舞や薫とは以前会っていたらしいとはいえ、
せつなが行きたがるのは疑問でした。
「……行きたいの。黄泉の国へ。私は物の怪じゃなくて人間だから、大丈夫なんでしょう?」
「うん、それは大丈夫だけど……」
りんはどこか不安そうな表情でした。黄泉の国に行きたがる女の子、というのも
珍しい存在です。
「楽しいところじゃないよ」
「……それでも……行きたいから」
せつなは思いつめているように見えました。りんは困った表情でせつなの隣にいるラブを
見ます。
「せつな、じゃあ私も一緒に行くよ」
ラブがそういいましたが、せつなは首を振りました。
「できれば、私一人で……私と、この、えーっと、」
「りんちゃんのこと?」
そう、とせつなは助け舟を出したのぞみに頷きます。
「りんさんと二人で行きたいわ」
「そりゃ、私だって誰かがついてきてくれたほうが助かるけど……」
りんはまだ困惑していました。せつなが行きたがるのは何か事情があるのでしょうが、
その事情が飲み込めないのでした。

「……ね、お願い」
りんに頼んだのはラブでした。せつなにとって、今黄泉の国に行くことは何か必要なこと
なのだろうとラブは考えていました。
「せつなのこと、一緒に連れて行ってあげてくれない? 迷惑でなければ……」
「……いいけど」
状況が良く分からないままにりんは頷きます。ありがとう、とせつなとラブが同時に
答えました。
「じゃあ、行こうか。えーっと、せつなさん」
りんが軽くせつなの手を取ります。あ、とみんなが思った瞬間にはりんとせつなの姿は
掻き消えていました。
「……え? もう、行ったの?」
咲が不思議そうに辺りを見回します。
「うん、りんちゃんどこからでもいつでも黄泉の国に行けるらしいよ」
とのぞみが答えます。とりあえず、満と薫に関して今できることはこれだけのようでした。
なぎさやうらら、ほのかはラブのことを不思議そうな顔で眺めていました。ただの人間の
ように思っていましたが、せつなの様子を見ると何か色々と事情はありそうでした。
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