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第十二話 満月祭を探せ

のぞみ達は森の中で宴会をしながら祈里たちが到着するのを待っていました。
りんの料理は贅沢というのではないのですが工夫の凝らしたおいしいもので、
みんなはついつい食べ過ぎて居ました。
「うう〜ん」
何食目かを食べて美希はお腹をぽんぽんとたたきました。体型には人一倍気を
遣っているのですけれども、何となくぽっこりとしてきたような気がしました。
――これはまずいわね……

おいしさに負けてついつい食べ過ぎた、と美希は反省しました。そういえばいつもは
草原に住んでいましたから、食後は必ず長い距離を走ったりもしていたものですが、
この森に来てからというものそうした運動をしていません。

「ねえ、のぞみ」
食べ過ぎて動けないみたいで横になっているのぞみの傍に美希はつかつかと近寄ります。
「んー?」
のぞみは顔を上げるのさえ億劫だと言う様子でした。

「私、ちょっと下に戻ろうと思うんだけど」
「へっ!? 戻るって!?」
のぞみはその言葉を聞いて驚いて起き上がりました。
「ほら私、馬だから……定期的に走った方がいいから」
「あーそっか、この森だとあんまり走る場所ないもんね」
のぞみがうんうんと頷きます。
「ついでにブッキーたちが戻ってないかどうかも見てくるつもり。多分大丈夫だと思うけど……」
「今どの辺かなあ」
のぞみは宙に目を泳がせました。のぞみとしては、早くみんなにお礼をしたい気持ちで
いっぱいでした。
「まあ、すぐ来るでしょ。そんなに距離があるとも思えないし」
美希はそう答えてとんと外に飛び降ります。気になるお腹を両腕で隠して、
美希は森の外に向いました。今日もいい天気でした。

 * * *

「おはようございまーす」
のぞみたちのいる森から少し離れた四つ葉町では、今日もラブとほのかがかれんの家を
訪ねていました。

ミルクが「満月祭」という言葉を思い出してからと言うもの、かれんにこまち、
ラブとせつな、それにミルクの五人はずっとかれんの家に篭って本を調べていました。
かれんとは別の意味で色々なことを良く知っているこまちも満月祭のことは知らなかったのですが、
「それならかれんの家の本棚を調べてみるべきだと思うわ」
というのがこまちの案でした。

「あれだけ本があるんだもの、手がかりが必ずあるはずよ。私がこれまで読んだ本には
 なかったから、残りの本ね」
ということで、五人は手分けしてかれんの家の本棚の本を読んでいたのでした。
前日までに読んだ場所には薄い色のついた布が挟み込んであります。これが目印で、
その隣の本から順番に読んでいけばいいのでした。

「読む」といっても、普段本を読むときのようにじっくりと読むということはありません。「満月祭」という言葉がどこかに載っていないかとひたすら頁をめくるような読み方でした。
それでもそれなりの時間はかかりました。内容はほとんど頭には残りませんが。
せつなは自分の分担する棚の前に立つと、昨日読み終えた本の隣の本を手に取って
ぱらぱらとめくりはじめます。何頁かめくったところでせつなはぴたりと手の動きを止めました。
――各地に現れる盗賊について……?
せつなは思わず本を裏返し表紙に書いてある題名を確認しました。
旅をする時の危険性について説いた本のようでした。数頁にわたってせつなは舐めるように
じっくりとこの本を読みました。この本自体が旅の心構えを一般的に説いたもので、
特にこの地域が危険といった具体的な危険性を書いたものではないようだということを読み取ると、
せつなはふうと息をついて前と同じようにぱらぱらと本の斜め読みを始めました。

「あーっ!」
ラブの声が書庫に響き渡ります。
「ラブ!?」「ラブさん!?」
とせつな、かれんにこまち、それにミルクが声を聞いて駆けつけました。
「どうしたミル!?」
「これ! 見てみて、満月祭って書いてある!」
ラブが持っていた本は柳田国吉という人が書いた、各地の祭りの様子をあつめたらしい
本でした。満月祭については「その他の祭り」という項目に「なお、若葉台近くの
狸の森では狸たちが『満月祭』という名の祭りを行うとされているが確かなことは
分からず、伝説の類と思われる」と書いてあるだけでした。
「他にはないミル?」とそのほかの記述を探して見ますが、それ以上のことは書いてありません。

「これ、本当の話なのかなあ」
ラブが首を傾げます。
「満月祭って狸のお祭りなの?」
ラブがミルクを見ました。「ミル……」とミルクは考えます。
「狸かどうか、良く知らないミル。人間とも聞いていないけど、狸とも聞いていないミル」
「じゃああり得るってことかあ」
ラブが呟きました。ミルクも「まず行って見るのがいいミル」と主張します。
「若葉台ってそれほど遠い場所ではないようね」
かれんが別の本を見ながらミルクに答えます。その本には簡単な地図も載っているのでした。
「道さえ分かれば、簡単に行けるところかしら」
道さえ分かれば。それが最重要でした。
「その本には載っていないの?」
こまちがかれんの持っている本を覗き込みます。ぱらぱらと数頁をめくって見ますが、
道のない簡単な地図のほかには何も書いてありませんでした。
「ないわね」
「でしょう? でも、満月祭を探すのに比べたら簡単だわ。知っている人もきっといるでしょうし……」
「あ、だったらこまちさんのお店の前にいればいいんじゃないですか?」
名案! といわんばかりにラブが提案しました。
「私の家の?」
「だってこまちさんのお家って結構遠い町からも買いに来るお客さんいますよね」
「ああ……」
確かにそうね。かれんはそう言って頷きました。
「じゃあ、こまちさんちで遠くから来たお客さん待って聞いてみましょうよ!」
ラブは本を早速棚に戻すと、すぐにも駆け出していきそうでした。他の四人も慌てて
読んでいた本を片付けます。
ラブはここ数日本ばかり読んでいたので外のお日様が待ち遠しくてならなかったのでした。

 * * *

「……あ、これ。四つ葉町って書いてあるんじゃない?」
なぎさたちと別れて細い道を辿ってきた祈里たち三人は道端に立っている小さな石碑の
前で立ち止まりました。石碑には文字が彫られていて、雨風に曝されて大分薄くなって
いましたがそれでも目を凝らすと「四つ葉町」と書いてあるように読める――気がしました。

「そうね。ここまでは一本道だったし……」
薫が今まで歩いてきた後ろを振り返ります。道は基本的に上り坂で、振り返ると
ほんのちょっとしか歩いていないようにも思えます。三人はここに来るまでに大勢の人と
すれ違いましたし、同じくらいたくさんの人に抜かれたり抜いたりしました。
これだけ多くの人が使う道だというのに、この道は頼りなく細く、
時には二人が並んですれ違うのもやっとという狭さでした。道の両側には木々が迫っています。
欝蒼とした森の中を通りぬけてくる道でした。――薫や舞には、正直心地よかったのですけれど。

「きっとこれは道標ね。もうすぐだってことだと思うの」
舞の言葉に祈里はぐっと右手を握り締めます。薫がその動作に気がつきました。
「あなたはもう結構疲れてるんじゃないの?」
「え?」
「うん……ちょっと前から少しずつ祈里さん、足取りが重くなっているような気がするんだけど」
舞も薫と同意見でした。
「そんなことないよ、大丈夫大丈夫」
「……無理しないで、元の姿に戻ったら? そうしたら私の肩か手に乗っていけるから」
薫は真面目な表情を崩しませんでした。
「でもあとちょっとだし……」
「足に豆でも作ると後々が面倒よ。私や舞は長い距離歩くのに比較的慣れているけど、
 あなたはそうでもないんでしょう?」
どういうわけか、そうしないと薫は納得してくれないように祈里には思えました。
きょろきょろと前後左右を見渡して人がいないことを確認すると、祈里はぽんと
フェレットの姿になります。薫は祈里を抱えあげると左肩に乗せました。

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