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「お母さん、豆大福知らない?」
ラブは慌てて部屋を飛び出しました。
「さっき食べたばかりじゃない」
少し呆れたようにお母さんは答えます。そっちじゃなくて、とラブは言いました。
「あたしの部屋に二つ取って置いたんだけど」
「さあ……知らないわ」
お母さんは首を傾げました。
「何か勘違いして別の場所においているんじゃないの? よく探しなさい」
ラブはまた部屋に戻ります。せつなも部屋の中をあちこち見て回っていたようでしたが、
見つけられないでいたようでした。
「勘違い……かなあ……どこ行っちゃったんだろう……」
豆大福が入っていたはずの風呂敷を取り上げてその下を見てみますが、
そこに残っているはずもありませんでした。しかし、他の場所に置いた記憶は
どう考えてもありません。

「ウサピョン、何か見てない?」
ラブは兎の人形を抱きかかえました。もちろん人形は何も答えません。
ウサピョンは見ていたはずなのですが。せつなが「ラブ!」と声をかけました。
「どうかした、せつな?」
「その人形、どうしたの?」
せつなはラブが先ほど拾ってきた人形の方を指差しています。
「あ、これさっき道に落ちてたから拾ってきたんだ。誰かの落し物だと思うんだけど、
 可愛いよね」
「……ねえ、その人形の口の隅に何かついているみたいだけど」
「え?」
ラブはウサピョンを置くともう一つの人形の方を抱きかかえてその顔をじっと見ました。
口の右端にもちもちとした欠片がついています。人差し指で拭い取ってみると、
それは確かに大福のようなものでした。
「え? どういうこと? この人形が?」
まさかね、ラブはそう思いながら人形をためつすがめつ眺めます。
せつなもすすっとラブの傍に寄ってきました。
「ちょっと貸して」
ラブから人形を受け取ると、せつなはそれを揺らしたり逆さまにしたりしながら
じっくりと調べました。長く垂れ下がった耳を上げて耳の穴のようになって
へこんだ所を触ってみると、とうとう我慢しきれなくなったように人形がぶっと息を吹き出しました。
「にに、人形が動いた!?」
目を丸くしているラブとは対照的にせつなは落ち着いたもので、
「やっぱり! あなた、物の怪か何かね!」
と決め付けます。
「もも、物の怪!?」
落ち着いているせつなにラブは更に驚きます。四つ葉町の近くの森には河童やら
塗り壁やらといった者たちが住んでいると聞いたことはありましたが、ラブ自身は
そういった怪異の者たちを見たことはありませんでした。
「違うミル、物の怪なんかじゃないミル!」
「喋った!?」
今度はラブとせつなが同時に驚きました。人形はせつなの手から逃れようと
じたばたと短い手足を動かし、うまくせつなの隙を突いてとんと畳の上に降ります。
「物の怪じゃなかったら何よ?」
「ミルクは光の園のお使いでこっちの世界に来ただけミル! 物の怪なんかじゃないミル!」
ミルクと名乗った人形は随分気の強い性格らしく、きっとせつなを見上げて睨みつけます。
「それより、私とせつなの豆大福〜」
ラブの情けない声が二人の会話に割って入りました。せつながはっとそのことを思い出します。
「そうよ、私とラブの豆大福! ここに置いてあったのどうしたの!?」
途端にミルクの表情が崩れました。それまでの強気な表情が一転、哀しみに満ちたものになります。
耳もだらんと垂れました。
「おなかがすいて我慢できなかったミル……」
こんな風に言われてしまうと、ラブとせつなとしてもそれ以上責めることはできませんでした。
「ラブ、今度また買ってきましょ」
「そうだね、せつな」
ラブとせつなのそんな会話を聞きながらミルクは内心「ちょろいもんミル」と思っていました。
もちろん、ラブたちはそんなことには気づいていませんでしたが。

「それで、」
せつなが人形を床に降ろし、ラブとせつなは二人してぺたんと座り込むとミルクをじっと
見つめます。
「な、何ミル?」
「光の国から来たんだっけ? どうしてあんなにお腹すかせて倒れてたの?」
「光の国じゃなくて光の園ミル」
「あ、そうそう光の園。それで、どうして?」
ラブが改めて尋ねます。ミルクは何事かを考えるような表情を浮かべましたが、ミル、と
呟き何を話すか決めたようでした。
「ミルクは光の園から、シャイニールミナスを探し出すように言われて来たミル」
「しゃいにー……?」
「シャイニールミナスミル。光の園の女王様の子どもみたいな分身みたいなお方ミル」
「え? え? 何それ?」
ラブは頭を抱えました。ミルクが何を言っているのかさっぱり分かりません。
それはせつなも同じことで、ぽかんとした表情を浮かべていました。
ミルクは物分りの悪い二人に苛立った様子で
「最初から説明するミル!」
と床の上に座りなおします。ラブとせつなは思わず真剣にミルクの言葉に耳を傾けていました。

「光の園は、この世界のすべてのものを生み出す力を持っているところミル。
 光の園がなくなったらこの世界も滅びるようなところミル。それでこの前、
 その女王様の子どもみたいなシャイニールミナスが、雲の隙間からこっちに落ちたミル!」
「ええっ!? それって大丈夫なの!?」
ラブが大声を上げます。
「大丈夫なはずミル。シャイニールミナスは、この世界の大地が優しく受け止めたはずミル」
「ふうん、そうなの……」
「でも、もしシャイニールミナスの力が悪い人に使われたら世界が危機に晒されるミル!」
「ははあ……」
ラブの相槌からだんだん力が抜けて来ました。ミルクの言っていることが抽象的過ぎて
何だか信じにくかったのでした。
「だから、早くシャイニールミナスを見つけて光の園に連れて帰らないといけないミル!
 手伝って欲しいミル!」
「えっ、私が!?」
「そうミル。二人にミル。他にいないミル」
「いやその、いきなりそんなこと言われても……」
ラブはちらっとせつなに目をやりますが、せつなは真剣な目をしてじっとミルクの話を
聞いています。
「……私はやるわ」
「えっ、せつな!?」
「やってくれるミル!?」
ラブはぎょっとせつなを見ますが、せつなの決意は固いようでした。
「誰か助けを必要としている人がいるなら、助けたいの。……人じゃないけど」
「ありがとうミル〜」
ミルクは早速とばかりにせつなに飛びつきます。
「……じゃあ、あたしも手伝うよ」
ラブもそう言いました。せつなが手伝うというなら、ラブに手伝わない理由はありませんでした。
「でも探すって言っても、何か手がかりはあるの?」
腕の中に入ってきたミルクにせつなが尋ねるとミルクは自信たっぷりに「もちろんミル」
と答えます。
「どんな手がかり?」
「仲のいい女の子の二人組みミル! 仲がよくなくても、これから仲良くなる二人組みミル!」
「……?」
せつなとラブは同時に顔に疑問符を浮かべました。
「シャイニールミナスはたぶん、もう大地から信頼できそうな人の手に渡ってるはずミル。
 信頼できそうな人として、仲のいい女の子たちかこれから仲良くなる女の子たちか
 どっちかが選ばれているはずミル」
「……なんで女の子なの?」
「悪い虫がついたら困るからミル」
当然、というようにミルクは答えます。
「そ、そうなんだ……」
「だから仲の良い女の子か最近仲良くなった女の子達を捜して、
 赤ちゃんを拾わなかったか聞いてみればいいミル」
「シャイニールミナスって、赤ちゃんなの?」
「そうミル。光り輝く赤ちゃんミル」
「光り輝く……?」
せつながミルクの言葉を反芻します。
「そんな赤ちゃんを見つけた人がこの町にいたら、とっくに噂になっていても良さそうだけど……」
「この町とは限らないミル。もっと、別の町にいるかも知れないミル」
「別の町かあ」
ラブはううんと唸ります。
「そこまでいくと、かなり大変な話になるけど……」
そう言ってせつなを見ると、せつなはええと頷いてそれでも、と答えました。
「私、精一杯頑張りたいわ」
「そっか」
「だったら早速探しにいくミル!」
せつなの腕の中から頭の上にぴょんと跳び乗ると、ミルクはびしっと外を指差しました。


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