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咲を除く、のぞみ達四人は祈里たちとは別の部屋に寝かせてもらっていました。
咲は怪我があるので寝返りや何かで他の人と足がぶつかるとまずい――というので
一人で眠っていました。他の四人は部屋に布団を敷き詰めて雑魚寝状態でしたが
その分温かく眠っていました。満も薫も、ぐっすりと寝込んでいました。

"目覚めよ"
「……?」
どこかからか声が聞こえたような気がして満は薄く目を開きました。自分の脚の上に
のぞみの足が乗っていたのでそっとそれをどかしてからぱっちりと目を開き部屋の様子を
見ます。部屋の中には特に変わったところはなく、特に誰も訪れた気配はありません。
夢かと思って満はまた目を閉じました。薫が同じことをしているのには気がつきませんでした。

"目覚めよ。……薫。……満"
「!?」
今度は満ははっきりと目を覚ましました。声がしたのは確かでした。満はこの声を聞いた
ことがありました。のぞみを起こさないように気をつけて上体を起こすと、
同じように身体を起こした薫と目が合います。
「薫、……聞こえた?」
のぞみと舞に聞こえないように声を潜めて囁くと、暗がりの向こうの薫が頷いたのが
見えました。満と薫は静かに立ち上がるとそっと部屋を抜け出しました。
「どこから聞こえてきたのかしら?」
部屋の外に出て満と薫は改めて顔を見合わせます。
「分からないわ、でも……」
薫は家の中を見回しました。ここはあの声の持ち主が来るには狭すぎます。
「外に、出てみましょう」
二人は家の外に出ました。

濃い霧が家の周りを取り囲んでいました。家から離れすぎると戻れなくなりそうな
気もしましたが、いざとなれば犬の姿になって自分たちの匂いをそのまま辿ればいいと
薫は考え、大股に歩き始めました。
「ちょ、ちょっと薫」
置いて行かれそうになった満が慌てて薫を追いかけます。二人は何かに
吸い寄せられるように歩いていきました。
霧の向こうに、真っ黒な闇が見えました。それはただの闇ではなく、
その上にかっと赤く光る目が満と薫を見据えていました。緊張で二人はぐっと息を飲み込み、
闇にはまだ遠い場所ではありましたがそのままひざまずきました。

"満、薫"
声は確かに頭上の闇から降りてきます。満と薫は「アクダイカーン様……!」と
同時に応えました。満と薫の目の前の闇は、かつて二人が住んでいた山で見た
アクダイカーンの姿そのものでした。
"お前たちに使命を与える"
アクダイカーンの言葉はかつてと同じように反論を認めない威厳に満ちています。
満と薫は頭を垂れたまま次の言葉を待ちました。

"シャイニールミナスを手中に収めよ"
聞いた事のない言葉に満と薫は顔を上げました。
"光り輝く、人間の姿をした子どもである。赤子やもしれぬ"
光り輝く子ども……と満が呟きます。
"その子どもの持つ力ならば我らが山を甦らせるのも容易いこと"
二人はその言葉に息を飲みました。それは考えもしていなかったことでした。
「アクダイカーン様」
再び頭を下げて満が言葉を紡ぎます。
"何だ、満"
「山にいた他の者たちは、今どうしているのでしょうか」
"我も含め、全て黄泉の国におる"
えっと二人は思わず声を上げてしまいました。
"それゆえ、お前たちにしかこの使命は果たせぬ。……お前たちにこれを授ける"
赤と青に輝く石が、それぞれ満と薫の胸に輝きました。巨大な闇そのものといった姿のアクダイカーンはそれと同時に姿を消し、霧もゆっくりと晴れていきました。

「満……」
ひざまずいていた薫が立ち上がります。胸に手を当てると、確かにアクダイカーンに
授けられた石が輝いていました。山の中でもアクダイカーンの傍近く仕える力の強い
物の怪たちは皆これに似た石を授けられていました。……今アクダイカーンの姿を
見たのは、夢ではありませんでした。満も身を起こしました。

「シャイニールミナス……どんな存在なのかしら」
「さあ……」
薫は困惑したように首を傾げます。
「アクダイカーン様のご命令だもの……探さないわけにはいかないわね」
満の言葉は躊躇している自分に言い聞かせているかのように響きました。
――もしもあの山が甦ったなら……、
言葉には出さずに満は考えていました。
――アクダイカーン様は私たちが狸の森に暮らしているのを絶対にお許しにはならないでしょうね……

そうなれば、狸の森を出て帰らなければいけません。満は果たして自分がそれを
望んでいるのかどうか良く分かりませんでした。

「とにかく、帰りましょう薫。冷え込んできたわ」
満は家に帰ろうとしましたが、「待って」と薫が引き留めました。
「どうしたの?」
振り返って尋ねると、薫は満からすっと目をそらして俯きました。
「……どうしたのよ」
再度尋ねてみると、薫はやっと目を上げました。
「……満は知ってるわよね。あの火事の日、私がしたこと」
「え?」
満は一瞬、薫が何を言っているのか良く分かりませんでした。
「……ひょっとして、あの女の子のこと?」
少し考えてから聞くと薫はこくんと頷きます。何故今そんなことを言い出すのかと
満は訝しく思いました。
「私はあの時……するべきことをしなかったわ。それと、火事が起きたこと……
 何か関係があるんじゃないかしら」
「え?」
満は薫の言葉を自分の頭の中で整理し直しました。
「それって……あの女の子があの後で火をつけたっていうこと?」
「直接そうしたかは分からないけれど、私がちゃんとしていたらあの火事は
 避けられたんじゃないかとも思うの」
満は薫の考えを肯定する根拠も否定する根拠も持ってはいませんでした。

「考えすぎよ、薫。のぞみの森について、また戻ってきたら……そうしたら、
 『シャイニールミナス』を探しましょう」
満は話を先送りにして薫の後ろに回ると、無理やり家のほうへと押していきました。
すぐ近くの木陰に郷屋が隠れてほくそ笑んでいたことには気がつきませんでした。

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