前へ 次へ

「そういえば来る途中、滝みたいなところも落ちたよ」
滝? と咲が聞き返しました。
「うん、滝! すごい勢いで身体が落ちたから!」
「のぞみさん、怪我は?」
舞が不安そうな表情で聞くと、大丈夫だよ! とのぞみは胸を張ります。
「水の中にいるときはあんまり怪我しないみたい」
「河童ってすごいんだねー!」
咲が素直に感心すると、えっへんとのぞみは満足気でした。満と薫はどうして
それで泳げないのかと疑問が止まりませんでした。
「でもそうなると、川を上るのはますます無理ね」
気を取り直して薫が結論付けます。
「じゃあ、川に沿って岸を歩いていくしかないよね」
咲がそういうと、そっか、とのぞみは頷きました。
「そうやって帰るようにするね。助けてくれてありがとう!」
そう言って、そのまま川沿いに歩いていこうとします。待って待って、と咲たちは
引き留めました。
「送ってくよ」
「え、でも悪いし」
「だって一人で帰すのは……」
ねえ、と咲は舞と満、薫の顔を見ます。うん、と三人は同時に頷きました。
のぞみを一人でこれから――どれだけの距離があるのかも分からない道のりを――
帰すのは、とても不安でした。

「やっぱり、送っていくよ。ほら道を歩くとなると人間に見つかる可能性も高いし、
 みんなが居たほうが安心だよ」
「……ありがとう!」
のぞみは満面の笑みを浮かべました。そう言われたのが嬉しくてたまらない様子でした。
「だったら、あたし達の森に着いたらとっときのご馳走するね」
りんちゃんに作ってもらうんだけど、とのぞみは少し恥ずかしそうでした。
のぞみのおなかがぐうとなります。そういえば丸一日何も食べていないんだっけ、
とのぞみは思い出したように言いました。舞がくすりと笑います。

「私の料理でよかったらご馳走するわ、のぞみさん。咲、ここの魚はつかっていいのよね?」
「うん、もちろん! 舞の料理、すっごくおいしいんだよ、のぞみ!」
咲はのぞみの肩を掴んでくるっと舞の家のほうに向きを変えさせるとそのまま背中を
押していきます。五人はそのまま舞の家に入りました。

物の怪は食料をほとんど必要としません。嗜好品としての意味合いが強く、一ヶ月程度は
何も食べなくても体調に支障をきたすことはありません。しかし、のぞみはまるで
何ヶ月も何も口にしていなかったかのように舞の料理を貪りました。

「舞ちゃん、これすっごくおいしいよ! りんちゃんのとは違った感じで!」
おいしいおいいしいと食べるのぞみを見て舞は楽しそうに微笑みます。食べている間に
日が暮れてきたので、結局のぞみはここに一泊していくことにしました。

「あ、お月様」
縁側で外を眺めていたのぞみが空を見上げて指差します。
「そういえばもうすぐ、満月祭っていうのがあるんだよ」
隣に座っている咲がのぞみに教えます。咲と満、薫も舞の家に泊まっていました。
三人が舞の家に泊まるのは珍しくありませんでした。
「満月祭? 何、それ?」
「毎年一回、満月の日を選んでやるお祭りなんだ。森の狸が総出で踊るの」
「へえ、楽しそう」
「今年はそれだけじゃないんだよ」
思わせぶりな咲の言葉にのぞみは「それだけじゃないって?」とわくわくしながら尋ねます。
「村の長老さまが教えてくれたんだけどね、今年は何百年かに一回の特別なお祭り
 なんだって。何でも、すごく綺麗なものが見れて、願い事が何でも一つかなうらしいよ!」
「えー! すごいすごい!」
のぞみは手をたたかんばかりに喜びました。
「その願い事、咲ちゃんはもう決めたの?」
「うん、もう決めたよ」
「満ちゃんと薫ちゃんは?」
のぞみは満と薫へと目を向けました。満と薫はそれぞれ猫の姿と犬の姿に戻って薫は
縁側に腹ばいになり満は薫の上で寝転んでいました。
「そうね、もう決めたわ」
猫のままで満が答えます。
「どんなお願いにするの?」
のぞみは、冷静沈着に見える二人がどんな願い事をするのか興味がありました。
「それは……」
満は顔を赤くして――猫のままでしたので傍目にはそうとは分かりませんでしたが――
言葉を濁しました。
「ここにずっといられるように……でしょ?」
満の下から薫が答えます。
「ちょっと薫!?」
隠していたかったのに、と言わんばかりに満が薫の頭の上を踏みつけますが薫は身体を
起こして満を振り落とすと座りなおしました。
「薫ちゃんは?」
「私も同じよ。この森にずっといられるように」
「そういえば、犬や猫が狸と一緒にいるって珍しい……よね?」
どうして? と聞くのぞみに薫は、
「私と満は、昔は別の山にいたのよ」
と説明します。
「そこが火事になったので逃げ出して……この森にたどりついたの」
「ああ……そうなんだ。舞ちゃんもそうなの?」
「舞はまたちょっと別なんだ」
今度は咲が答えます。
「舞の家族は、みんなあちこち飛び回って暮らしているような感じで、
 舞がまだ小さかった頃良くこの森に舞を残して行ってたんだよ。
 それで舞はここに定住するような形になって」
「そうなの」
家の仕事を終えた舞が奥から縁側に出てきました。
「じゃあ舞ちゃんの願い事は?」
のぞみが目をきらきらさせながら尋ねます。舞ははにかみながら、
「咲やみんなとずっと一緒にいられますようにって……」
と答えました。
「みんな同じなんだね」
のぞみは何だか嬉しそうでした。
「ねえねえ、そのお祭りって私みたいによその森からでも参加できるの?」
「別に問題ないと思うわ。私たちだってよそ者みたいなものだし」
咲が答えるより早く薫が答えると、えっと咲は驚いたように声を上げました。

「満と薫はもうこの森に住んでるじゃない。よそ者じゃないよ」
「……まあ、この森で小さな頃から育ってるわけじゃないって意味よね、薫」
薫の後ろでふてくされているような顔をして座っていた猫の姿の満が軽く
とりなすように言います。薫はこくんとその言葉に頷きました。
咲はまだ納得していないような表情でしたが、
「えーと、のぞみさんが来ても大丈夫よ。毎年大抵他の森の物の怪が参加してるもの」
「じゃありんちゃんやうららも連れて来て大丈夫かなあ?」
という舞とのぞみの会話を聞いて、
「大丈夫だよ、連れておいでよ」
とのぞみに答えます。

「えーとじゃあ、一回森に戻ってみんなにご馳走して……そしたら道も分かるし、
 りんちゃんとうららを連れて来ればいいんだね。よーし、けってーい!」
のぞみがびしっと人差し指を突き出しました。


前へ 次へ
コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る