機は熟した。メビウスはそう判断した。
いまや不幸のゲージは上限値まで上がり、インフィニティの出現を待っている。
ここまでになったのは初期に投入していたウエスター、サウラーの功績だが、
予定していた期間と比較してかなりの時間を必要としたことは否めない。
インフィニティの奪取に関しては彼らだけでは心もとない。

やはり即戦力が必要だ。メビウスは投入する人材を選び出し呼び出した。

「ノーザ」
「はっ」
メビウスがノーザの前にひざまずく。彼女には内々に通知がなされていた。
だから、今ここでこのようにしてメビウスから直々に任務地の報せを受けるのは
一種の儀式である。

「ウエスター、サウラーと共にインフィニティ奪取の任務に当れ」
「かしこまりました」
「細かいことはクラインの指示を受けよ」
「はっ」
メビウスの元を引き下がるとノーザはその足でクラインの下に向った。
内々の通知があった時から、ノーザは今回の任務の特徴などについて研究し
作戦を練り、計画をクラインに渡してあった。こうした下準備は任務の遂行を容易にし、
作戦の成功に繋がるのだ。

クラインが何か調べものをしている部屋に入ると、ノーザは正式に辞令のあったことを告げた。
そして以前から話していた計画が実行可能かどうかを尋ねる。

「ソレワターセシステムの使用は許可がおりました。これまでに彼等が集めた不幸を
 利用することができるそうです」
「そう」
「しかし問題点が一つありまして」
問題点? とノーザは眉を吊り上げる。
「ソレワターセシステムは莫大な予算を食うのです」
だから他の出費を削る必要がある、とクラインはノーザに説明した。
「先行部隊のこれまでの出費にややおかしなところもありまして」
細かく数字の記された紙をクラインは示して見せる。
「潜入工作をするうえでは物資の現地調達も必要かと思いますが、
 あまりにも高額なものを買いすぎているのではないかと」
ノーザはクラインから受け取ったその紙を眺め、……その無駄遣いぶりに呆れた。
「是非こういった出費についても引き締めて頂きたいのですが」
当然だとノーザは思った。

* *

「それでウエスター君サウラー君」
着任早々、ノーザは占い館のソファに座りウエスターとサウラーを立たせたままで
自分の話を聞かせた。
「なんでしょうかノーザさん」
来てすぐにソレワターセの威力を見せ付けたからか、二人とも神妙な表情だ。
……少なくとも、表面上は。

「この館での出費について聞きたいんだけど」
「は……」
ウエスターが意外そうな顔をする。
「といわれましても、必要な物しか購入しておりませんが」
サウラーはじっとノーザの真意を窺っているような表情だ。
真意って言ってもこの場合は言葉どおりなのよサウラー君、とノーザは思った。

「それではこの」
とノーザはクラインに貰った紙をウエスターとサウラーに見せる。
「ドーナツセットというのは何かしら? これが必要なの?」
「それは……その!」
「ノーザさんは御存じないかもしれませんが、」
言葉に詰まったウエスターの代わりにサウラーが口を開いた。

「プリキュアはそのドーナツ店に集まることも多く、そこのドーナツ店店主からは
 プリキュアの今後の行動の予定が分かることがあるのです。そうした情報収集のためには
 日ごろからその商品を買っておくことが必要です」
「なるほど」
ノーザは一応納得したような顔で次の矢を繰り出した。
「砂糖の購入量も随分多いようだけど? 本国からの支給品では足りないというのかしら?」
「この世界の連中は」
再びサウラーが答える。
「甘いものを好みます。不幸を集めるにはこの世界の連中の嗜好を良く知ることが必要かと」
「なるほど」
もう一度ノーザは納得した顔をして、最後の矢を出した。
「それではこの、男性用下着一枚一万円というのは何なのかしら?」
「えっ」
知らない。そんなのは知らないぞ、という顔でサウラーはウエスターを見た。
「そ、それはですね、いわゆる勝負下着という奴で……!」
「いわゆるって言われてもそんな習慣は知らないわ」
「ええとですね、この世界の住人は大勝負の前には高い下着をつけて
 気合を入れる習慣があるんです。大事な試験だとか試合の前には」
「君どんな大勝負したんだい?」
「プリキュアとの戦いに決まっているだろう!」
サウラーの横槍にウエスターは怒鳴るように答える。
「その下着を着けてもプリキュアは排除できていない。
 つまり、費用対効果は恐ろしく悪いということね」
うぐっとウエスターが目を白黒させた。

「し、しかし……」
「その下着を着けていなかったらもっとひどい結果になっていたかもしれません」
気の毒に思ったのかサウラーが言葉を添える。
「ひどい結果を回避するためにこんなに出費が要るのかしら?」
「ノーザさん」
サウラーは思考を廻らせた。ここでノーザの好きにさせると後が色々と面倒なことに
なりそうだ。

「その勝負下着ですが、安く手に入れる手段もあります」
「えっ?」
ウエスターが目をぱちくりさせるがサウラーは無視して続ける。

「この世界にはバーゲンとかセールとかいったものがあります。
 100円の物が80円で買えて20円お得とか、そういったイベントです。
 その勝負下着ならば2000円お得ということになります」
「では、そのイベントで下着を手に入れなさい」
「しかし問題がありまして……」
サウラーは微かに笑みを作って見せた。
「その手のイベントには女性が参加する場合が多いのです。
 我々が行くとどうしても不自然になってしまうのですが、ノーザさんならば……」
「……そう。私が行けば不自然ではないと?」
「はい。ウエスターの成績がこれ以上ひどいものになっても困りますし、
 是非ノーザさんに……」
「ウエスター君」
「はっ!?」
びしっとウエスターは姿勢を正した。
「その『勝負下着』に当てはまるのはどういう下着なのかしら? ……」

* *

数日後、ノーザは北那由他の姿になってとあるデパートの前に立っていた。
このデパートがバーゲンを開催していることは調査済みだ。
「勝負下着」に当てはまる下着の条件も聞いてきたから適合するものがあれば
すぐにでも買える。

1階、女性物の靴売り場はバーゲン目当てで来た女性でごった返していたが、
那由他はそれには目も向けずに紳士服売り場へと向った。
この階は下と比べるとそれほど混んでいない。
ノーザはずかずかと階の中央を突っ切り、一際混んでいるスペースに目を向ける。
どうもそこはワゴンの上に商品が乗っていて、一律の値段であるらしい。
靴下、手袋などの小物のほかに下着もあるという表示があった。
――よし、まずはここね。
狙いを定めるとノーザはつかつかとワゴンに近寄り人ごみを掻き分け
手を伸ばす。
――厚くて丈夫で暖かい素材の物が勝負下着だと言っていたわね
それは単なるしっかりした下着ではないだろうかという気もしたが、手探りで
それらしいものを探して行く。

――ん、この手触りは……
靴下でも手袋でもなく、しっかりした下着のものに思える。えい、とノーザが引っ張ると
思いの他抵抗が強かった。
――埋まってでもいるのか?
更にぐいっと引っ張ると逆にぐいっと引っ張り返される。別の誰かが同じものを引っ張っているのか、
ここで負けてはいられないとノーザは更に力を込めて引っ張り、
「ええいっ!」
と叫んだもう一人の女と目があった。二人挟んだ先にいた女だが、間にいた人が
何かを察知したかのようにそそくさとレジの方に行ってしまったので
ノーザは彼女と下着を挟んでにらみ合った。
その女がかつてダークフォールで名を馳せたミズ・シタターレだとは知らないままに……。

「あなた」
シタターレは帽子をかぶったままノーザを見下ろす。
「これは私が先に見つけていたものよ。手を離してくださらないかしら?」
「あら、先に見つけたものだとどうしていえるのかしら?
 先に見つけたのならさっさと持っていっているはずではないの?」
「あらあら」
困ったものね、といいたげにシタターレは笑う。ノーザもそれを見て余裕の笑みを浮かべた。

「取ろうとしたらあなたが引っ張ったんじゃない。そうでなければ取っているわ」
「私も同じよ? 取ろうとしたらあなたが引っ張ったの。つまりあなたの
 言っていることは言いがかりね」
「何ですって」
ミズ・シタターレが眉を釣り上げる。
他のお客さんたちは次第次第にワゴンから離れ、そこには二人だけの空間が
生まれようとしていた。店員も事態に気づいたようだがまだ遠巻きに見守っている。
そして二人の間には真っ赤な男性用下着がぶら下がっている。

「そんなに言うならどちらが正しいか勝負して決めましょうか」
「いいわよ」
――たかがこの世界の人間が、このノーザに勝てるとでも?
ノーザは買ったも同然だと思った。この下着は私のものだ。

「どういった形で勝負すると?」
「芸よ!」
「……芸?」
「そうよ、より多くのお客さんを笑わせた方が勝ちっ!」
そういうとミズ・シタターレはどこかからか水芸の道具を取り出した。
「ちょ、ちょっと待って!」
「待たないわ、私から行くわよ!」
「おおおお客様、おやめ下さい!」
慌てふためいて店員が飛んできた。この階の責任者といった格好だ。

「商品が濡れてしまいますので、水のご使用はご遠慮下さい」
「できないわ、これは女の真剣勝負よ」
「だったら種目を変えましょう」
ちょうどいいとノーザは内心ほくそえんだ。
「ガーデニングならどう? どちらがより立派な植物を育てるか」
「結果が出るまでどれだけかかると思ってるのよ!?」
「ま、まあまあお客様……」
騒がれると迷惑だと思ったのか店員がまた割って入った。

「お客様、要するにこちらの商品のことが問題なのですね?」
「そうよ、どちらがこれを手に入れるか」
「少々お待ちくださいませ」
そういって店員は奥に下がる。ふん、とノーザとシタターレはそっぽを向き合った。

「……お待たせいたしました、お客様」
店員が慌てた様子で戻ってきた。

「そっくり同じなのはございませんが、良く似ている物がございました。
 これでいかがでしょう。価格はもちろん、こちらのものと同じ価格でご提供いたします」
ふん、と二人は店員の持ってきた商品を見る。確かに、良く似ている。
メーカーなどは違うようだが。……ノーザは自分たちが今まで握っていた商品が
随分伸びてよれよれになっていることに気づいた。
「じゃあ、私はこちらを頂くわ」
と店員の持っている商品の方に手を伸ばそうとすると、
「待ちなさいっ! 私がこちらよ!」
と同じことを考えたらしいシタターレが立ちはだかる。
「何ですって」
「あ、分かりましたお二人とも」
店員は僅かな間に何だかやつれたようにも見えた。
「こちらの商品を二つご用意しますからそれで……」
お引取り下さい。言外にそう言いたそうな店員の希望に沿って、二人は
新しい商品を手に入れると一つずつ持ってそのままデパートを出て、
別々の方向に別れた。

――この世界の人間、中々突拍子もないことを考えるものだな……
自室に戻りノーザは考える。芸での勝負などと言い出すとは。
これはプリキュアと戦うときにも常に二の手、三の手を用意しておかなければなるまい。……


「ノーザさんってこういうセンスなのかな」
買って来てもらった下着を見て西は思わずぼやいた。
下着が赤いのは何となく落ち着かないが、やむを得ない。

-完-

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