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「メメ、メーメー!」
「ロプー!」
空高く飛んでいたシロップの背に乗ったメルポが叫ぶ。シロップも甲高い鳴き声を
上げていた。
――分かったロプー!
シロップとメルポの頭にどういうわけか唐突に方角が浮かんだ。
満と薫の手紙を届けるべき場所に繋がる空の道が二人には見える。
見えてしまえば、あとは悩むことは何一つない。ひたすらにその道を進むだけである。
シロップが急降下すると、海岸が見える。
その上に点々とどこかで見たプリキュアたちの姿があった。挨拶代わりに
「ロプー!」
と一声鳴くとプリキュアたちがそれに気づく。

「シロップ! どこいくの!?」
羽の音にかき消されないように咲が叫ぶとシロップは
「満と薫の手紙を届けるロプ! 今ならきっとダークフォールにいけるロプ!」
と答える。薫の動きは早かった。
「シロップ、私も! 連れて行って!」
砂浜を蹴って大きく飛び上がるとその背に飛び乗る。
「私たちも! お願い!」
咲は片手で舞の手を掴むとジャンプしてもう片方の手でシロップの足をつかんだ。
「ロプーッ!? 足引っ張るなロプーッ!」
「ごめんシロップ! お願い!」
咲たちの重みでシロップはずるずると高度を下げながらも持ち直し、ちょうど満のいた
辺りに差し掛かった……と、シロップも薫、咲、舞ごと姿を消した。
「えっ!? みんな!?」
「みんな……いなくなっちゃった……」
美希と祈里が呆然として辺りを見回す。波の音は何事もなかったかのように
静かに響いていた。
「少し、待ってみよう。咲たちも満のところに行ったんなら、みんな大丈夫だよ」
ラブがわざと明るい声を出した。

「……? ここは……?」
満は辺りを見回した。自分はいつの間にか闇の世界にいる。
どこもかしこも、見慣れた風景である。シフォンがふわふわと浮いている以外は。
――ダークフォール……? まさか……
胸に吸い込まれる空気は冷たい。灰色に沈んだ岩肌も風の音一つしない静寂も、
満に感知できるすべての要素はここがダークフォールであることを指し示していた。
――あの時壊れたはずなのに……
ダークフォールもまた、滅びの力の真の主――ゴーヤーンにとっては
仮初めの住居に過ぎない。仮初めの主、アクダイカーンとともに滅びたはずなのに。

満の手が近くの岩にそっと触れた。感触はちゃんとある。幻を見ているのではない。
「……」
ダークフォールを知り尽くした満である。
あたりの様子を一瞥すれば、自分が今ダークフォールのどの場所にいるのかはすぐに把握できる。
――と、いうことは……
少し歩けば自分たちが長い間眠っていた湖があり、そこには桟橋がかかっていて
アクダイカーンと話せるようになっているはずである。
「ロプー!」
ダークフォールにそぐわない大きな音が満の思考を妨げた。
シロップがダークフォールの壁に突き刺さるような勢いで突進したかと思うと停まり、
その背から薫が、その足から咲と舞が降りてくる。
メーメーという声が聞こえるのは、メルポだろう。
「満っ!」
薫が満の姿を認めるとすぐに駆けつけた。
――おい、やばくないかここ……?

シロップは人間の姿になり辺りの様子を窺っている。
この世界は危険だと彼の本能が告げていた。咲と舞も、どこか不安げな表情だ。
「薫……」
満は薫の姿を見ると、
「あっち」
と湖のある方向を指した。
「あっちに、行きましょう」
満が指しているのはアクダイカーンの玉座である。薫はそれと悟って無言で頷いた。
咲と舞もそれに続く――シロップはあまり奥には進みたくなさそうだったが、
メルポと一緒にシフォンを捕まえると一同の後に続いた。

    * *

「お姉ちゃん」
マヨネーズが切れ、買いに走るひかりを弟の声が追いかける。
「どうしたの?」
立ち止まらずにひかりは答えた。弟も懸命に駆けてくる。
「あのお姉ちゃん、喜んで、くれるかなあ?」
「どういう、こと?」
赤信号でストップする。二人とも少し息を切らせていた。
「昨日の青い髪のお姉ちゃん、会いたがってた人がいたでしょ?」
「え? ええ……」
信号が青に変わった。ひかりはひかると手を繋ぐと、少し早足で歩き始めた。
ひかるは楽しそうに話し続ける。
「僕ね、作ってみたんだ。あのお姉ちゃんが、行きたい場所」
「どういうこと?」
ひかりはぎゅっとひかるの手を握った。この弟にはとてつもない力が隠されているのだ。
本人は全く意識していないようだが。彼が、無自覚のうちにでも何かとんでもないことを
してしまったらひかりはそれを全力で止めなければならない。
それが姉としての――ただ一人の姉としての、ひかりの勤めである。

「あのね、あのお姉ちゃんが行きたい場所、僕の力で作れそうだったんだよ。
 だから作ってみたんだ。あのお姉ちゃんの、思い出を元にして。でも……」
「でも……?」
不安そうにひかりは尋ねる。店まであとわずかだが、ひかりはこのまま店に行って
いいものかどうか内心躊躇していた。
「でも、あのお姉ちゃんが会いたがってた人は駄目だったんだよ」
「会いたがっていた人……」
ひかりは記憶を辿る。薫が会いたがっていたのは、アクダイカーン。
滅びの国のかつての主と聞いているが……、

「駄目だったってどういうこと?」
「うーん」
ひかるは首を捻る。
「良く分かんないけど、出せなかったよ。出そうとしても空っぽになっちゃうみたいで」
「……、ひかる」
ひかりはしゃがみ込んで弟と視線の高さを合わせた。
いつもの姉とは違う声音にひかるは少し緊張した表情を見せる。
「ダークフォールを作ってどうするの?」
「ダーク……?」
やはりひかるは何も分かっていない。彼は本当に薫を喜ばせようとしていただけだ。
その無邪気さが恐ろしい。

「薫さんが行きたがっていたのはダークフォール、滅びの国よ。そこは咲さんや舞さん、
 満さんや薫さんがこの世界を守るために必死で戦った場所なの。
 そこをもう一度作ったりしたら、またこの世界が危険なことになりかねないの」
真剣な表情で話す姉に「でも……」とひかりはぼそぼそと答えた。
「あのお姉ちゃん、行きたがってたよ。どうして?」
「それは……、よく分からないわ。でも、その場所を作ってはいけないの。
 すぐに消しなさい」
珍しく命令口調になったひかりの言葉にひかるはびくっと身を震わせた。
ひかりの口調はあくまでも静かなものだがいつもよりもずっしりと威厳がある。
「う、うん。分かった」
おずおずとひかるは答えると目を閉じて自分の作ったダークフォール自体を
消してしまおうとした――だが、
「あれ?」 
と首を捻って目を開ける。
「どうしたの……?」
「あのお姉ちゃんたち、もう来てるみたい。僕まだ教えてなかったのに。
 お姉ちゃんたちが中にいるから、今すぐは消せないや」
――薫さんがダークフォールに……
とひかりは思った。今、どういう状態なのだろう。

「他には誰がいるの?」
「んーとね、この前青い髪のお姉ちゃんと一緒に帰っていったお姉ちゃんたちがいるよ。 茶色い髪のお姉ちゃんと、紫の髪のお姉ちゃんと、赤い髪のお姉ちゃん。
 あと、良く知らないお兄ちゃんも」
「そう……」
咲や舞が一緒にいるなら、おそらくは大丈夫だろう。ひかりはそう判断した。
「そのお姉ちゃんたちが帰ったら、すぐに消すのよ。いい?」
「うん」
こくんとひかるは頷く。ひかりは弟の手を取ると店へと向った。

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