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 第六話 滅びの国ダークフォール

「で、せつな」
若葉台から帰ってきた日の夜、ラブはせつなと二人きりでじっくりと話すことにした。
どうもせつなの方から喧嘩を売ってしまったようだし、そうであれば原因をきちんと
聞いておかなくてはいけない。
二人とも入浴を終えてパジャマ姿で、あとは寝るばかりだ。ラブはベッドにちょこんと
座ったせつなの前に立つと、「逃がさないんだからね」とでも言いそうな雰囲気で話を
始めた。

「何? ラブ……」
せつなも、あまり楽しくない話が始まりそうな予感は抱いていた。といっても、
ここで逃げ出すわけにもいかない。
「何で、そんなに満に苛々してたの?」
「……」
せつなはラブから目をそらして俯いた。ラブはぐっとせつなの肩に手をかける。
「何があったの? シロップから満たちの話聞いてからせつな突然出かけたよね。
 あの後、すぐ満のところに行ったんでしょ?」
「……」
せつなは何も答えない。ラブは両手をせつなの顎に添えると自分の方を向かせる。
「せつな、黙ってても駄目だよ。ちゃんと言わないと。せつなの気持ち、
 このままじゃ誰にも伝わらないよ。満のどこに、そんなに苛々したの?」
「……変な事を言うから……」
ぼそっとせつなが呟く。「変なこと?」とラブは聞き返した。
「手紙を出すだなんて。アクダイカーンに」
「アクダイカーンって……ええと……」
誰だっけ、とラブが思っているとそれにせつなが気づく。せつなはラブから少し離れると、
「アクダイカーンというのは滅びの国ダークフォールの主とされていた人よ。
 満と薫を生み出した存在でもあるわ」
と言いながらラブから目をそらし、続けた。
「私、昔……ラビリンスにいた頃に調べたことがあるの。満と薫のこと。
 二人がこれまでどんな道を辿ってきたか」
ラブは無言で頷いて続きを促す。せつなの目に一瞬辛そうな色が浮かんだがすぐに消えた。

「あの二人は、一度はアクダイカーンに忠誠を誓った身。
 ただプリキュアと出会って色々あって、結局は裏切ったのね」
「うん……」
「二人はアクダイカーンを何度か説得して止めようとしたらしいわ。
 うまくいかなかったけど」
「うん」
ラブは頷く。咲や満たちから聞いたわけではないが、何となくそんなところだろうと
想像はつく。
「説得しようとした時、二人はアクダイカーンにこんなことを言われたそうよ。
 『自分の意のままに動かない満と薫など、もはやどうでもいい』ってね」
「うん……」
それで? と話の続きを聞こうとするラブにせつなはわざと乱暴な口調になった。
「だから、変なことだって言ってるのよ。二人はとっくにアクダイカーンに
 見捨てられてたんじゃない。今更気持ちを伝えたいなんて言って何になるのよ。ばかばかしい」
「うーん、そうかな?」
ラブは首を捻る。どうもこの件に関してせつなの考え方は極端な気がする。

「今の話だと、アクダイカーンって人は満と薫にとっては産みの親みたいな
 ものなんでしょ? 気になるのは分かる気がするけど」
ふんとせつなが息を吐いた。
「分からないわよ、そんな惨めなの」
「みじめ? ……なんで? なんでそんなこと言うの?」
ラブの抱いた違和感がどんどん大きくなっていく。ことこの件に関してせつなは奇妙な
までに頑なだ。ラビリンスにいた頃のせつなならともかく、
最近のせつなでこんなことは珍しい……、

「惨めに決まってるじゃない! いい、ラブ? 二人はとっくに見捨てられていたのよ。
 それなのに『アクダイカーン様が気持ちを分かってくれたら幸せ』なんて言って、
 いつまで自分たちを捨てた人に縋るつもりなのよ。これが惨めじゃなくて、」
せつなの脳裏に最後のナキサケーベのカードを使った時の記憶が甦る。
今思えば、あの時すでにメビウスは自分に対する評価を下していたのだ。

「せつなっ!」
タックルするようにラブの身体がのしかかってきた。せつなの言葉は予想外のことに
打ち切られその身体はどさりとベッドの上に仰向けになる。
「せつなは惨めなんかじゃないよ……」
ラブはせつなの身体を押さえ込んだまま悲しそうな瞳でせつなのことを見下ろしている。
「何を言ってるのよ、ラブ。私は今自分のことなんか」
せつなの言葉にラブはううんと首を振った。

「せつな……せつなは満じゃないし、満はせつなじゃないよ。せつなが今惨めだって
 思ってるのは、きっとせつな自身のことだよ」
「違う! そんなことない!」
せつなは必死に首を振って否定しようとした。違う、違う。絶対に違う。
自分は惨めなんかじゃない。
『メビウス様、私を見て!』
突然自身の声がせつなの中に甦る。ぼろっと大粒の涙がせつなの目から零れ落ちた。
ラブの身体が倒れこんできてきゅっとせつなの身体を抱きしめる。
「せつな……せつなは惨めなんかじゃないよ……私がずっと、せつなの傍にいるから……」
「ラ、ラブ……」
しばらく部屋の中にはせつなのすすり泣く声だけが響いていた。やがてせつなの様子が
少し落ち着くと、ラブがベッドから身を起こす。せつなもゆっくりとベッドの上に
座り直した。
「ね、せつな。明日満に謝りに行こう」
「……」
せつなは黙っている。明らかに気の進まない表情だ。
「私も一緒に行くから! ちゃんと謝らないとだめだよ」
こくんと頷いたせつなを見てラブはにっこり笑うと「いい子いい子」とばかりに
その頭を撫でた。

翌日、美希と祈里も合わせて四人で夕凪町に向う。咲に事前に連絡しておいたので
満もすんなり捕まった。満とせつなは以前戦った海岸で再び向き合う。
今度は二人きりではなく、近くの岩陰から咲と舞と薫、ラブと美希と祈里、
要するに全員が二人のことを覗いていた。
「大丈夫かな、満」
咲は心配で仕方ないらしくそわそわしている。
「大丈夫よ。もしまた喧嘩になったら私が止めるわ」
薫がきっぱりと言い放つが、「それ『大丈夫』じゃないから」と美希が突っ込む。
「せつなならちゃんと言えるはず……」
とラブも心配顔ながらもシフォンをぎゅっと抱いて、出て行きそうになるのを堪えている。

主役の二人はそんなギャラリーの存在に気づいていたが一々文句を言うのも面倒なので
放っておいていた。せつなはぎゅっと手を握ると意を決したように、
「昨日は、ごめんなさい」
と頭を下げる。満は「いいわ、もう」と答えて視線をせつなから海に逸らした。
「でも、どうしてあんなに苛々していたのかしら?」
相変わらず視線は海に向けたまま満が尋ねると、
「……八つ当たりよ」
とばつの悪そうな表情でせつなは答える。
「ふうん」
満はあまり興味がなさそうだ。
「……ねえ」
せつなの声に「ん?」と満は改めてせつなに視線を向けた。
「アクダイカーンにそんなに気持ちを伝えたいの?」
「そうね……」
満は足元の石を拾うと海に向って軽く放り投げる。せつなはその石の進路を見やった。
「アクダイカーン様は私たちダークフォールの住人にとってはお父さんみたいな
 ものだったから」
ぽちゃんと石が海に落ちしぶきを上げる。
「私たちだって咲や舞みたいに、お父さんお母さんと分かり合いたかったわ」
「……そう」
せつなも足元の石を拾って海に投げた。でも、多分無理ね。と満は呟いた。
「どうして?」
「手紙は出したけど……、アクダイカーン様はもういない筈だから」
――全力を尽くす、とは言ってくれていたけれど……
満はシロップを思う。どこかで「もういい」と言わないと彼には悪いかもしれない。いや、
彼はどこまでも意地を通すだろうか。


「……なんか、穏やかに話が進んでいそうね」
岩陰の裏の祈里たちは一安心して会話を再開していた。
「そうね。満さん、優しいから……」
「あ〜よかった」
ラブが大げさに安心してみせる。
「これでプリキュア合宿でも安心だよ〜」
「そうだよね、合宿で二人が喧嘩してたら嫌だもんね」
咲とラブは顔を見合わせて笑いあう。と、ラブが「あ、シフォン!?」とシフォンの
消えているのに気づいた。
「ラブ、シフォンちゃんあそこ!」
祈里が岩の向こうを指す。せつなのそばにシフォンが浮いて「プリプ〜!」と楽しそうだ。
そばにはアカルンも浮いている。
「もう、二人が折角話し合ってるのに……」
ラブが出て行こうとするとシフォンが一際大きく「プリー!」と叫んだ。
同時に額のマークが明るく輝く。シフォンの光がアカルンに反応し、
せつなの目の前で満とシフォンの姿は音もなく消えた。
「み、満!?」
思わず辺りを探すがその姿はどこにも見えない。
――ど、どうしよう……
慌てるせつなに負けず劣らず、岩陰の六人も慌てていた。

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