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「どうしたんだろう、満……?」
夕凪町から若葉台までは電車で一時間ほど。咲と舞は隣同士に座って答えのでない
会話を続けていた。
「満さんのことだから、理由があると思うんだけど……」
「せつなってあの時の子だよねえ。何か、満、会いに行ってはいたらしいんだけど……」
咲がラブから聞いたことを話すと、
「じゃあその時に何かあったのかしら」
と舞は考え込む。
「でも、その時はラブたちとも一緒に会ってるんだよ」
電車が少し大きな駅に停まった。乗り換え客のために二、三分停車するとアナウンスが
入る。
早く発車して欲しいなと咲と舞は焦るが、止むを得ない。
どやどやと乗客が乗り込んできた。
「あっ!」
舞がその中に見知った顔を見つける。咲も気づき、二人はすぐに立ち上がると
彼女たちの方へ歩み寄った。
「ラブさん、美希さん、祈里さん!」
「あっ、咲! 舞!」
声をかけるとラブたちもすぐに気づく。
「あなた達も若葉台へ?」
という美希の言葉に咲と舞は大きく頷く。
「あのさ。満たちに何があったか分かる?」

咲が尋ねるが、三人はそろって首を振った。ラブは困惑の色を浮かべながら、
「私たちも分からないんだけど……ただ、せつな、満と薫のことを聞いて
 突然出かけたのは確かなんだけど」
「満と薫のこと? 何で二人の話になったの?」
「シロップさんがシフォンを連れてきてくれたんだけど、その時満さんたちの手紙を
 運んでるって言ってたの」
「ああ」
祈里の話を聞きながら、アクダイカーンに二人が出した手紙のことだろうと咲は思った。発車のベルが鳴り終わり、電車が動き始める。
「せつな、あの時妙にシロップに食い下がって色々聞いてたのは確かなのよね」
「じゃあせつなさんはそのことを満さんと話しに?」
舞が美希を見上げる。
「多分ね……でも、何を話しにいったかまでは分からないけど」
美希は考え込むように視線を下げてから再び咲たちを見た。
「ねえ、咲、舞。私前から不思議に思ってたんだけど、満はせつながイースだった
 ってこと、どうして知ってたの?」
「あ……」
咲は少し気まずそうだ。
「ごめん、実は私たちもそのこと知ってたんだ……結構前から」
「ええっ!?」「そうだったの!?」「なんで!?」
三人が口々に驚きの声を上げる。
「満たちがせつなさんと会ってたのは知ってるでしょ? ドーナツ買いに行ったときに」
「うん」
「その後、今度はイースが夕凪町に来たんだ……たぶん、満を倒しに来たんだと思う。
 満はせつなさんがイースに変身したところを見たって」
「えええっ!?」
三人は完全に目を点にしていた。
「あ、あの子夕凪町まで出張してたの……」
「満さん大丈夫だったの!?」
美希が呆れたように呟き祈里は満のことを心配している。

「うん、満は大丈夫だったんだけど。その時私たちもせつなさんがイースだってことを
 知ったんだ。ラブたちに話そうと思ったんだけど、薫に止められて」
「薫は、どうして止めたの?」
ラブは不思議そうな顔だ。「それは、」と今度は舞が説明を始めた。
「薫さんは、その時からせつなさんがラブさんたちの本当の友達になるかもしれないって
 思ってたみたいなの。そのためにはラブさんたちがせつなさんのことを
 信じきらないと駄目だから、って」
「だから、ごめん! 私たちもずっと黙ってて!」
ぱんと咲が手を合わせた。「いいよいいよ」とラブたちは慌てる。
「薫の言ったとおり、せつなと本当の友達になれたんだもん」
「でも、そしたら……」
美希は窓の外の流れて行く光景に目をやった。
「満とせつなが喧嘩したっていうの、その時に戦ったことが尾を引いているのかしら」
「うーん」
と咲は難しい顔をする。
「満、今はそのことほとんど気にしてないと思うんだけどな」
「せつなだって今更、ねえ……」
ラブも美希のその意見には今一つ納得できないようだ。
「二人とも怪我してないといいんだけど……」
祈里の呟きに舞もええと頷いた。

    * *

「私は……その……」
ほのかが何度目かに「どうしてこんなことになったの」と尋ねると満がやっと
ごにょごにょと話し始めた。小さな声でとても聞き取りにくい。
「なんだか苛々しているみたいだったから、」
ちらりと満はせつなに視線を向ける。
「少し発散させてやろうと思って……」
「そう、じゃあせつなさんはどうして苛々していたの」
「そ、それは……元々、変な事を言い出すから」
「変なこと? 私変なことなんて言ってないわよ」
満はかちんときたかのように言い返す。
「言ったじゃない」
「何のことよ」
「手紙を出したって話よ!」
「だからそれがどうしたっていうの!?」
だんだん言葉のきつくなる二人の会話はほのかがばしりと畳を叩く音で阻まれる。
心配になって部屋の外から中の様子を窺っていたなぎさはその音に思わずびくりとした。
「ただいま〜忠太郎散歩終りましたー」
「ただいま!」
この場に似つかわしくない亮太とひかるの声がする。もう、となぎさは玄関に向った。二人の大きな声はこの雰囲気にあまりにも合わない。
「亮太、静かにしなさい!」
小声で叱りながら近づくと亮太は、
「あれ、ほのかさんは?」
と不思議そうな顔をする。
「ほのかは今大事なお話の途中なの。だから、あんたもう家に帰ってなさい」
なあんだ、と亮太はあからさまにがっかりしたような表情だ。
「ねえお姉ちゃんは?」
とひかるがなぎさを見上げる。
「ああ、ひかりならあっちの部屋」
なぎさはひかりが薫と一緒にいる部屋を指差した。
「お姉ちゃーん」
ひかるがととと、と駆けて行く。

「満さん、最近何か悩みはあったんですか?」
「悩み……ねえ……」
ひかりと薫は満についての話を続けていた。
――あるにはあるけれど……
それはあの手紙のことだ。しかしあの件がせつなとの喧嘩に結びついているとは
考えにくい……
「お姉ちゃーん」

襖を開けてひかるが入ってきた。薫に気づいて「こんにちは」とぺこりと頭を下げる。
薫もこの男の子が只者ではないことにはすぐ気づいたが、優しく目を細めると
「こんにちは」と返事を返した。薫が子ども好きであることにすぐ感づいたらしい
ひかるはとてとてと部屋の中に入ってくると、正座している薫の膝の上にちょこんと座る。

あ、とひかりは止めようとしたが「いいのよ」と薫に言われて「すみません」と答えた。
ひかるは薫の顔をふっと見上げるとその胸に軽く手を伸ばす。
「ひかる!」 
とさすがにひかりが止めようとしたがひかるは真面目な顔で、
「アクダイカーンって人に会いたいの?」
と薫に尋ねた。
「え? ええ……」
やはりこの子は只者ではない。薫は内心身震いした。
自分の心の内がすべて見透かされてしまいそうだ。
「すごく、会いたいの?」
だがこの子の瞳はあくまで純真なものだ。まるでみのりのような。
だから、薫も素直に答えていた。
「そうね……会いたいわ、とても」


「あなた達、どうしてそういう風に、ちゃんと話し合わなかったの。どうして、変身して戦ったりなんかしたの!?」
ほのかの剣幕に満とせつなはしばらく何も答えられないでいた。ほのかは話を続ける。
「喧嘩をするなとは言わないわ。どうしても意見の合わない時はあると思うの。
 でも、その時にどうして変身したりするの。どうして、プリキュアの力や滅びの力を
 そんなことに使うの。万が一のことがあったらどうするつもり!?」
亮太を帰したなぎさはまたほのか達がいる部屋の襖の前に立ち、
じっとほのかの言葉を聞いていた。
「それは……、でも……」
大丈夫です、と言いかけた満をほのかはきっと見据える。
「怪我一つしないと言えるの」
満は黙り込んだ。そこまでは言えない。

「満さん、せつなさん。あなた達に何かあったら、咲さんやラブさんがどんな風に
 思うと思ってるの? あなた達は二人とも、咲さん達やラブさん達の思いに答えて、
 この世界を滅ぼすとか、支配するとか、そういった事をやめたんでしょう?
 あなた達にもし何かあったら、咲さん達やラブさん達が悲しむことは分かっているでしょう!」
ほのかの目じりからぽろぽろと涙が零れ落ちた。
満もせつなもさすがにばつの悪そうな表情を浮かべる。

「あの……すみません」
「謝るのは私にじゃないわ、咲さん達とラブさん達よ」
がらりと襖を開けてなぎさが入ってきた。ほのかの隣に正座すると涙をそっと手で拭う。
「二人とも、分かった?」
確認するように満とせつなに尋ねると二人はこくんと頷いた。
なぎさの持っている明るい雰囲気が今の二人にはありがたい。
「もうすぐ咲やラブも来ると思うから、ちゃんと謝ってね」
呼び鈴が鳴った。あ、と呟くとなぎさは来客を迎えに出る。

予想通り咲と舞、ラブと美希、祈里が立っていた。咲とラブがほぼ同時に
「うちの満がすみません!」
「うちのせつながすみません!」
と言ったのを聞いてなぎさは思わず苦笑する。
「いいよ、そんな。二人とも反省してるみたいだし……」
なぎさはここで声を潜めると、
「ぶっちゃけ、ほのかに結構絞られたみたいだからあんまり怒らないであげてね」
と注意する。
「あの、結局二人が喧嘩した原因って何なんですか?」
美希が尋ねるとなぎさは「それはほのかに聞かないと……」と家の奥を見る。
ほのかが目を少し赤くして出てきた。
「ほのかさん、ご迷惑かけてすみません」
咲とラブが謝ると「いえ……」とほのかは答える。
「あのそれで、二人が喧嘩した原因って?」
とラブが聞くとほのかは「それは結局良く分からないわ」と肩を落とした。
「せつなさんが満さんに何か苛々していて、満さんはその苛立ちを少し発散させようと
 思って変身したらしいけど。せつなさんが何に苛々していたかは良く分からなくて……」
「そうですか……」
ラブは顔を曇らせた。せつなに原因がありそうな雰囲気だ。
満とせつなはなぎさ達の前で咲とラブ達に謝り、咲たちは薫も加えてそれぞれの町へと
別れて行った。

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