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「薫お姉さん、どうしたの?」
みのりとキャッチボールをして遊んでいた薫が突然あらぬ方に目を向ける。
受け取るはずだったボールは薫の足元で一つ二つバウンドして転がった。
「ごめんなさい、みのりちゃん……ちょっと急用ができたわ」
薫は足元のボールを掴むとグローブを外し、二つを揃えてみのりに手渡した。
「急用?」
「ええ、満がちょっと……」
「満お姉さん?」
「ええ。満のところにすぐ行かないと……ごめんなさい、本当に。またいつでもやるわ、
 キャッチボール」
みのりはがっかりした顔をしていたが、最後の言葉を聞いてすぐ気を取り直した。
「本当? 明日でもいい?」
「ええ、もちろんよ」
また明日ね――そう言って薫は駆け出した。みのりの目の届かない場所に来ると直ちに
空へと駆け上る。
――満っ……!
満がまた戦っている気配がする。

    * *

「プリキュア合宿、大丈夫だって?」
なぎさとほのかは川沿いをゆっくりと散歩しながら話し合っていた。
「ええ。おばあちゃまから行っていいって言ってもらえたわ。
 くれぐれもなぎさや皆さんに御迷惑のないようにって」
「ほのかならどう考えても大丈夫だと思うけどな〜」
なぎさの言葉にほのかはふふっと笑みを漏らす。そして思い出したように、
「なぎさ、今度ひかりさんの水着を一緒に買いに行かない?」
「あ、うん……そうだね」
水着の話になるとなぎさの目が泳ぐ。
「海に近い別荘なんでしょ? 水着、持って行かないとね」
「あ……はははは」
運動神経抜群ななぎさだが、水泳だけは駄目である。合宿の話の中でそのことだけは少し
心配だった。
「泳がなくてもいいんじゃない? 砂浜で日光浴でも」
「……ほのかも一緒にしてくれる?」
「ええ、もちろんよ」
「でも咲とかりんとか泳ぎ上手そうだよね〜ちょっと……」
「恥ずかしい?」
顔を赤くしてなぎさは頷く。
「だったら、プールで特訓してから行く?」
「……いえ、いいです」
「ほのか、大変ミポ!」
ほのかの微笑みはミップルの声で打ち切られた。「ええ!?」となぎさとほのかが腰の
コミューンに手をやる。
「すごく大変なことが起きてるメポ! どうしたらいいか良く分からないメポ!」
「ええええ!? と、とにかく、その場所へ!」
なぎさとほのかは走り出した。

「プリキュアパンチ!」
パッションの拳と満の拳が重い音を立ててぶつかり合う。互いに押し合うがその力は
ほぼ互角。満はわずかな隙を捉えて飛び退くと後方に下がった。赤くなった拳を
ぺろりと舐める。パッションは構えの姿勢を崩さないまま満の隙を窺っている。

内心満は舌打ちした。軽くあしらってやるだけのつもりが思わぬ苦戦を強いられている。そっと左手で腹を押さえる。結果的に第一撃となったあれは、意外と効いていた。
だが、逃げるのは満の性に合わない。
「どうしたの? かかってきなさいよ」
手をひらひらと振って満はついつい挑発してしまう。パッションはその言葉どおりに
向ってきた。

「あ、あり得ない……」
駆けつけたなぎさはその光景を見て二の句が継げなかった。満と、もう一人見慣れない
プリキュアが互いに憎みあっているかのように戦っている。ほのかから聞いた
キュアパッションだと見て取れた。
「とにかく、ほのか! 止めるよ!」
変身しようと差し出したなぎさの手を、しかしほのかは握らなかった。
彼女は変身せずにそのまま二人の戦っている只中へと向かっていく。
「ほ、ほのか!? 何考えてんの!?」
満はパッションの胴をめがけて回し蹴りを放つがパッションはその脚を掴み逆に
満を投げ飛ばす。空中で体勢を立て直した満は土ぼこりをあげながらパッションから
少し離れた場所に着地した。ちょうど二人の中央にほのかが歩み出る。
「やめなさい、あなたたちっ!」

変身しないまま、ほのかは両者の間で腕を大きく横に広げる。無防備なその姿はそのまま
満とパッションの戦いに巻き込まれてもおかしくなかった。だが、二人は動きを止めた。
――ほ、ほのかさん……
まずいところを見られた。些かばつの悪い思いを抱えながら満は変身を解く。
それを見てパッションもせつなの姿に戻った。矛を収めた両者をほのかは厳しい目で
代わる代わる見つめる。
「あなたが、東せつなさん?」
最初に声をかけられたせつなは
「あ……はい」
とだけ小さく答える。
「どうしてこんなことになったの?」
ほのかは今度は満を見た。その隙にせつなはじりじりとこの場から逃れようと試みるが、
ほのかがそれに気づいてきっとせつなを見る。つかつかとほのかはせつなに歩み寄ると、
その腕をぐっと掴んだ。
「お話があります」
ほのかの声は反論を許さない雰囲気に満ちている。あちゃあ、と後ろで見ている
なぎさは思った。ほのかが最高に怒っている時の声だ。
「なぎさ。満さんと一緒に来て。二人に話があるから」
「あ……うん」
なぎさはやや不安そうな顔をしている満に近づくと、ぽんぽんと軽く背中を叩く。
ほのかに腕をとられているせつなも、怒られる前の子どもみたいに不安そうな表情だった。
――実際、これから怒られるんだろうけどさ……多分。
なぎさは内心、二人に少し同情していた。ほのかにお説教されるのは結構辛い。

「満っ!」
薫が到着したのは、四人が歩き始めた時だった。
「満……?」
薫にとっては顔見知り四人の重苦しい空気に訝しげに顔を曇らせる。
「薫さんも一緒に来てもらえるかしら?」
ほのかの声は堅い。
「え。ええ……」
何が起きたか分かっていない様子の薫になぎさは
「今はとにかくほのかの言う通りにして」と目で合図する。

今日はさなえは出かけており、忠太郎も亮太とひかるが散歩させているので
五人が着いたときには雪城家は無人だった。
ほのかは和室に満とせつなを正座させると自分も二人の正面に正座して座る。
その有無を言わせぬ雰囲気に部屋の外のなぎさと薫ははらはらとして見つめている。
満とせつなの方が却って開き直っているような様子だ。

「なぎさ。咲さんとラブさんに、ここに迎えに来てもらうように連絡して」
ええっと満とせつなが抗議めいた声を上げる。ほのかは「電話して」と再度なぎさに頼んだ。
「う……うん。分かった」
「ま、待って、咲はこのことには関係ない!」
「ラブだって関係ないわ。これは私が勝手にしたことで……」
二人はなぎさを止めようとしたがほのかは、
「いいえ。今日のあなた達をそのまま帰すわけにはいかないわ。迎えに来てもらいます。
 なぎさ、早くして」
と強行だ。なぎさが「うん」と答えて部屋から離れると、
二人がかすかにつくため息が聞こえてきた。薫もなぎさについてくる。
「あの……一体、何が?」
アドレス帳をめくるなぎさに薫が尋ねる。良くわかんないけど、となぎさは答えた。
「私たちが見つけた時には、満とせつなが戦っててさ……二人とも変身してて」
驚いている薫をよそになぎさはPANPAKAパンの番号をダイヤルする。
「もしもし、美墨なぎさと申しますが……あ、咲!?」
「あ〜なぎささんお久しぶりです。どうしたんですか?」
「咲、ぶっちゃけ大変。すぐ来て」
咲の声を聞いてなぎさは少しほっとした。
「どうしたんですか?」
「満がせつなって子と喧嘩しててさ、ほのかが止めたんだけどめちゃくちゃ怒ってるの! 咲、お願いだから早くほのかの家来て!」
「ええーっ!?」
電話の向こうの咲の声が薫にまで聞こえるくらい大きくなる。
「分かりました、すぐ行きますから!」
「うん、お願い〜」
続いてラブにも電話をかけ同じように頼む。更になぎさはアカネさんに電話し、
忙しくなかったらひかりをよこしてくれるように頼んだ。なるべく大人数でいたい。

    * *

一方、咲は大慌てで支度を終えると出かけようとして、テレビを見ていたみのりに気づく。
「みのり、薫どこ? 今日遊んでもらってたんじゃないの?」
「薫お姉さんねえ、急にご用事ができたんだって」
一昔前のドラマの再放送を見ていたみのりが振り返る。
「用事?」
「うん。満お姉さんのとこに行かないと行けないんだって」
明日また遊んでもらうの、というみのりの言葉を咲はほとんど聞いていなかった。
恐らく、薫は満の異変――それはせつなと喧嘩したことと関係あるだろう――を
感じ取っていたのだ。薫はたぶん満のそばにいる。
――じゃあ、舞を誘って……
「お姉ちゃんお出かけ?」
玄関で靴を履いている咲の背後からみのりが声をかける。
「うん。ほのかさん家に行くから、帰るのちょっと遅くなると思う。
 お母さんたちにもそう言っといて!」
言い残すと咲はそのまま家を飛び出した。

    * *

「どうしてあんなことしてたの」
ほのかは二人を見据えて尋ねる。
「満さんがこの世界を滅ぼそうとしているとでも思ったの?」
せつなはこの問いに「いえ、」と小さく首を振る。その視線は畳に落ちていた。
「満さんは? せつなさんがこの世界を支配しようとしているとでも思ったの?」
「いいえ」と満も答えた。
「だったら、どうして」
二人はまだ無言を守る。

「一体何があったんでしょう……」
なぎさは薫と、来てくれたひかりと一緒に別室で話していた。
「何か心当たりないの、薫?」
薫は腕組みをして考え込む。
「満とあの子とは、以前にも一度戦ったことはあるわ。
 でも、それは彼女がまだイースと名乗っていた時のことよ」
「あ……ほのかが言ってたけど、あの子も元々はラブたちの敵だったんだってね。
 満や薫みたいに」
ええ、と薫は頷く。
「満はまだ敵だった時の彼女とは戦ったけど、プリキュアになってからの
 彼女に特に敵意は抱いていなかったはずよ。ラブたちに注意しに行こうと言ったのも、満だもの」
「注意ってなんですか?」
ひかりが聞くと、薫はああと答える。
「私たちの場合はそうだったんだけど、一度何かの組織を裏切るとその後……
 元々『仲間』だった人たちから執拗に狙われることがあるのよ。
 だから注意するように言いに行ったの」
いいとこあるじゃん――それを聞いてなぎさはそう思ったが、しかし、
その満がせつなと喧嘩していたというのは解せない。
「それで何でああなっちゃうわけ?」
「さあ……?」
薫も途方にくれていた。

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