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「それで、かれんさんの別荘に誘ってくれるみたいだよ! プリキュア合宿っていうことで!」
数日後の四つ葉町。ラブと祈里は美希の家に集まっていた。せつなはいない。
最近では四人が揃っていないのは珍しい。部屋の隅でシフォンがサボテンに触って
遊んでいる。
「え、凄いすごい!」
「さすがかれんさんね〜」
美希は感心し、「ところでラブ」と部屋の中を見回した。
「ん?」
「せつなにもそれ伝えなくていいの? 今日せつなは?」
ラブはえへへ、と笑い声を上げた。
「あのさ、美希たんブッキーちょっとちょっと」
手招きすると二人が顔を寄せてくる。ラブは声を潜めて、
「その合宿でさ、せつなの歓迎会みたいなのやろうよ」
「歓迎会?」
「そうそう、プリキュアにようこそ! みたいな感じで」
「へえ、いいアイディアじゃない」
「でしょでしょ〜!」
美希と祈里は姿勢を直して座りなおした。
「それで、ラブちゃんはどんなこと考えてるの?」
「サプライズパーティーみたいにできないかなあって思ってるんだ。
 こう、お誕生日会みたいな感じで」
「ケーキ内緒で持ち込んでわーっと、とか?」
うんうんとラブは美希に頷く。
「のぞみ達にも相談して、内緒にしてやらせてもらおうよ」
「賛成! きっと喜んでくれるって私、信じてる!」
「……シフォンは!?」
美希が気づいた。いつの間にかシフォンの姿が消えている。
「ええっ!?」
とラブも祈里も慌てて部屋の中を見回すが、シフォンはどこにもいない。
「さ、探さなくちゃ!」
「ラブちゃん、せつなちゃんも呼んで四人で手分けして探しましょう!」
ラブたち三人は美希の家を飛び出した。

    * *

「メ〜メ〜!」
シロップの背中の上のメルポが声を出す。
飛びながらシロップは「分かってるロプ」と呟いた。
――その手紙に思いが詰まってることは分かってるロプ……
運び屋として長年の経験があるシロップである。満と薫の手紙に強い思いが
籠められていることは良く分かる。しかしこの手紙の届け先は一向に分からないままだ。
だからシロップは困っていた。

――誰かに聞いてみるロプ……?
声に出さないまま考える。誰に聞けば分かるだろう。
「この空の下にいるよ」
という言葉をシロップは思い出していた。いつだったかのぞみが言っていた言葉だ。
同じ空の下にいる人なら見失っても絶対見つかると。
だが、アクダイカーンの場合はどうだろうか。――

    * *

シロップが飛んでいる空から少し離れた空を満は漂っていた。積極的に飛ぶのではなく
落ちないようにしているだけで、風に身を任せて夕凪町から流れ流れていた。
――空がきれい……
仰向けに浮かんで寝転がるようにして漂いながら満は薄青の空に手を伸ばす。
はるか遠くにある雲にもう少しで手が届きそうだ。もちろん、満の手は雲をつかむことは
なく空を切っただけだったのだけれど。

烏が満を見て驚いたようにかあかあと鳴いて去って行った。
――このまま……
このまま、どこまででもいけそうな気がする。夕凪町へも、空の泉へも。
ただ一か所――ダークフォールにだけは、たぶん行けない。シロップが手紙を届けられる
ものかどうかといえば、おそらく難しいだろう。自分の思いを手紙という形にしただけでも
だいぶ落ち着きはしたのだけれど。

いつの間にかずいぶん高度が落ちていた。立て直そうと満はぐっと身体に力を込める。
「ひかるー! 忠太郎との散歩行くぞー!」
地上から元気な男の子の声が聞こえてきた。何一つ悩みのなさそうなその声に満は
微笑を洩らすと雀を驚かしながら上空へと昇っていった。

    * *

「メー! メメーッ!」
「ロプッ!?」
メルポの声で考え事をしていたシロップははっと我に返った。
「キュア〜ッ!?」
進行方向すぐ目の前にシフォンがふわふわと浮いている。
「ロプッ!? ロプーッ!?」
シフォンに突っ込まないように何とか避けると、シロップはさっとシフォンを背中に乗せる。
「まったくもう、タルトたちは何やってるロプ!?」
腹立ち紛れにさっと進路を変えるとシロップは大きく羽ばたいて四つ葉町に向った。

    * *

「居た?」
はあはあと息を切らしてラブたち四人が公園に集まる。四人で手分けしてシフォンの
行きそうな場所を探してみたもののシフォンはどこにもいない。互いに首を振るのを
見て四人ははあ、と同時にため息をついた。
「とにかくもう一度探してみなくちゃ」

「そうやな、だったら場所は交換や。さっきとは違う場所探した方が多分見つかるんやで」
タルトの言葉に従い、ラブとせつな、美希と祈里がそれぞれ持ち場を交換して
探すことにしてまた散っていこうとする。
「ロプーッ!!」
そこに巨大な鳥形態のシロップが突っ込んできた。
「また随分でかい鳥だねえ」とカオルちゃんは感心していたが、
見ていたのが彼だけで幸いだった。
「キュア〜」
「シフォン!」
シロップの後ろから聞こえてきたシフォンの声に四人が思わず反応する。
「ったくよ……」
人間の姿になったシロップは小脇に抱えたシフォンをラブに突き出した。
「大事なら手を離すなよ」
「ごめん、シロップ! ありがとう!」
シロップからラブに手渡されたシフォンは「キュアキュア〜」と相変わらずご機嫌だ。
「おおきにな〜シロップ」
涙を流さんばかりにして手を合わせているタルトを見て一つため息をつくと、
シロップはそうだとばかりに話を変えた。小さな鳥の形態になる。
「タルト、一つ聞きたいことがあるロプ」
「うん、何やシロップ?」
「アクダイカーンに手紙を届けたいロプ」
「あああ、アクダイカーン!?」
「そうロプ。アクダイカーンロプ」
「あ、アクダイカーンなんてそんなやばいとこになんで行くんや!?
 そもそもブルームはんたちが倒したやろ!?」
尻尾を振って慌てているタルトを見て「やっぱりそうロプ?」とタルトは呟いた。
ラブたちは話が良く分からないのできょとんとした表情を浮かべている。
せつなだけが、アクダイカーンという名に聞き覚えがあった。
「ねえ」
ロプ? とシロップがせつなを見て不思議そうな顔をする。
「ああそうや、シロップ、こちらはパッションはんいうて四人目のプリキュアや。
 今後も何か頼むかもしれんけどよろしゅうな」
「あ、ああ……よろしくロプ」
シロップがぎごちなく挨拶するとせつなも「ええ、よろしく」と答える。
「今アクダイカーンに届けるものがあるって言った?」
「そうロプ」
「誰がそんなのを頼んだの?」
「満と薫に頼まれたロプ。すごく思いの詰まった手紙ロプ」
「……へえ、そう」
せつなはわずかに眉を顰めた。シロップはそれには気がつかず、
「どこに行けばいいか心当たりあるロプ?」
と話を続ける。
「いいえ、分からないわ」
「そうロプ……」
シロップはがっかりした表情を見せた。
「まあ、あれやシロップ。泉の郷の精霊たちに聞けばわかるかもしれへんで」
タルトが慰めるように言うと、シロップは
「分かったロプ。別の手紙もあるし、もう少し探してみてわからなかったら
 泉の郷に行ってみるロプ」
と答え再び巨大な鳥形態に戻るとばさばさと飛び去る。
「あー、シロップ! シフォンのことありがとう!」
ラブたちが手を振り、カオルちゃんはドーナツの穴からシロップの飛び去る様子を
眺めていた。

「私、ちょっと行く場所があるから……」
せつなは小さな声で呟き、ラブが「え、そうなの?」と聞くのに何も答えず
そそくさと公園を出る。
「せつな、行く場所って何かしら?」
美希が尋ねるがカオルは「さあ?」と首を傾げるだけだった。
「あ、じゃあ今のうちに大体の計画立てておこうよ。せつなどんなことしたら喜ぶかなあ」
ラブを中心に三人は公園にあるテーブルを囲んで座る。カオルちゃんはすぐに
ドーナツを用意し始めた。

「……」
公園を出たせつなは無言のまま街を早足であるいていた。普段よりも大股になった
せつなの歩みは速い。シロップの話を聞いてからというもの、かっと沸き立ちそうな
感情がせつなの中に蠢いていた。狭い路地にするりと入り込み人目から逃れる。
「アカルン」
自分の相棒を呼ぶ。その力を使えば色々な場所にいくことができる。
「……ミチルのところに連れて行って」
願いはすぐに実現した。一瞬の後には、せつなは宙に仰向けになった満のちょうど
お腹の上に座っていた。
「へ!? えええ!?」
いきなりずっしりと腹の上にせつなの体重が乗ってきた満はさすがに驚く。
「ちょ、ちょっと、何で突然!?」
バランスを崩した満の身体が空の上から転落する。もつれ合うようにして二人は
若葉台の公園の茂みの中に落ちた。バキバキと木の枝が折れる。
「痛っ……」
下になった満の方が痛みは大きい。辺りに散乱した木の枝を「あ〜あ」と眺めながら
満はまだ自分の身体の上にいるせつなに、

「何の用かしらないけど、早くどいてくれないかしら?」
と声をかける。
「言われなくても……」
そうするわ、と答えせつなは身を起こすと茂みから出た。満がやれやれといった表情で
身体を起こしその後に続く。茂みに落ちただけあって擦り傷だらけだ。
お腹もずきずきと痛い。
「それで? 今日は何の用?」
空から落ちて、擦り傷を沢山つけて見つめあう少女達。
客観的に見ればひどく滑稽な光景だ。笑いあっても良かったはずだった。
だが満は――彼女に笑いかける気にはなれなかった。彼女の持つ緊張感が満の心に映り、
満をも緊張させる。その緊張感は満の警戒心を強く引き起こした。

「聞きたいことがあるわ」
「何かしら」
「アクダイカーンに手紙を出したというのは、本当?」
「……本当よ」
何故彼女がそんなことをしっているのか訝しく思いながらも満は答える。
せつなは表情を険しくした。
「何を書いたのかしら。もう、いない人なのに」
「そのくらいのことは分かってるわ」
せつなの言葉には若干の苛立ちがある。満にはそこまでは分かったがその原因までは
分からないままだ。
「だったら、何を? 今度はこの世界を裏切ろうとしているのかしら?」
「……まさか。私はただ……」
「ただ……?」
「分かって頂きたいだけよ。アクダイカーン様に。私の気持ちを」
「それがあなたの幸せだとでも言うの?」
「幸せ?」
あまりそういう考え方はしなかったので満は少し考えた後、
「そうね……アクダイカーン様に分かっていただけたら、幸せでしょうね」
と答える。同時にせつなの苛立ちが頂点に達した。
「あるわけないでしょ。そんな惨めな幸せ」
「……」
無言のまま満はせつなをにらみ返す。その目はせつなの感情を更に昂ぶらせた。
ひどく苛々する。満が「滅びの世界の主に自分の気持ちを分かってもらいたい」などと
訳の分からないことを言うからだとせつなは思っていた。
「チェーンジ、プリキュア! ビートアップ!」
キュアパッションへとせつなの身体が変貌する。満はその姿に眩しそうに目を細めた。
「真っ赤なハートは幸せのしるし! うれたてフレッシュ、キュアパッション!」
「へえ? 幸せのプリキュアに変身して何をする気?」

「あなたのそんな幸せは認めないわ」
「だから?」
その言葉と共に満も変身した。パッションはぐっと満を睨みつける。
握った手はぶるぶると震えていた。拳を振り上げたはいいものの、
降ろしどころに悩んでいる。満にはそんな風に見えた。
パッションを包む空気はぴんと張り詰めている。何かが少しでも動けば彼女は躊躇なく
攻撃に出るだろう。
――いっそ苛立ちを発散させるのも手かしら……

満はそんな風に考えた。適当にあしらってやって苛々を解消すれば多少まともに
話せるかもしれない。満はわざと口元を歪めて余裕のある振りをした。
「私を消してみる? あなたにそれができるなら」
パッションはその挑発に乗った。

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