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 第五話 ほのか激昂

「書けたわ」
満が便箋を薫に渡すと、先に書けていた薫は自分の便箋と満の便箋を一緒にして
封筒の中に収める。丁寧に糊付けして封をし掌の上に載せてみると、
封筒のずっしりとした厚みを感じることができた。「〆」と書いた薫のボールペンの
字の上から満がシールも貼って、これで完成。
「あとは、これをシロップに渡せばいいのよね」
「ええ。咲たちに知らせないと」

二人は咲と舞が待つPANPAKAパンに出かけた。
咲と舞には、「手紙を書いてみる」ことを話してある。
書きあがったら四人でナッツハウスに行ってみる約束になっていた。
咲と舞からもシロップに頼むつもりなのだろう。以前ナッツハウスに行った時は
店が閉まっていたこともあり、その意味でも四人でナッツハウスにいけるのを
咲たちは楽しみにしているらしかった。

二人が今朝のうちに書きあがれば今日行こう、という話になっていたので満と薫としては
頑張って書き上げたつもりだ。
もちろん、咲と舞はまた後日になっても大丈夫だよ、と言ってくれているのだけれど。
咲たちと一緒にPANPAKAパンを出たのはそれから約一時間後。
ナッツハウスには電車で更に一時間くらいだ。

池――湖といってもいいかもしれない――のほとりに建つナッツハウスには
お客さんらしい人影は見えなかったが、店は開いているようだ。
「こんにちはー!」
真っ先に駆け込んで行ったのは咲。舞、満、薫の順番でそれに続く。
「あ……君たち」
人間の姿をしたナッツが咲たちの顔を見て驚いたような表情を浮かべた。
「こんにちは、お久しぶりです! あの、シロップは?」
「シロップなら出かけてるわよ。仕事で」
咲たちの声に気づいたらしいくるみを先頭にのぞみたち六人が降りてくる。
「あ……そうなんだ」
「そんなに難しい仕事じゃないからすぐ戻ってくるって言ってましたよ」
最後尾からうららがぴょこんと顔を出した。
「じゃあ、少し待ってる?」
咲が言い、舞と満、薫もうんと頷く。
「じゃあちょうどいいから山がいいか海がいいか決めてくれる?」
のぞみは飛び跳ねるようにしている。ほらほらこっち来て、と咲たちを部屋に呼ぶと
椅子に座らせた。くるみはお茶の支度をしているようだ。
「? どういうこと?」

話が見えないので咲が尋ねると、
「かれんさんの別荘でプリキュアみんなが集まって合宿できたらいいねって話になってて。今度の夏休み」
と、りんが説明する。降ってわいた豪華な話に咲と舞は目を丸くした。
「それで、かれんのお家の別荘がいくつかあるからまずそれを決めないといけないの。
 私たちで大雑把に二つに絞り込んだんだけど、ちょうど咲さんたちが来てくれたから
 最後は咲さんたちの意見も聞きたくて」
「候補はこことここよ」
かれんが咲たちの前に「水無月家第五号別荘」「第十二号別荘」と書かれた資料を差し出した。
「ご、五号!? 十二号!?」
咲は目をぱちくりさせる。舞も口を開けたまま固まってしまった。
満と薫は咲と舞が何に驚いているのか良く分からないでいた。
「かれんさん家、すごいでしょ?」
のぞみが、自分のことでもないのに少し自慢げだ。
「うんうん!」

くるみが氷を入れたアイスティーを持ってきてみんなの前に並べる。咲は資料を開き、
舞と満、薫にも見せる。別荘というもの自体にあまり縁がないのでどういう基準で
選んでいいのか良く分からない――と、咲の目が五号別荘の資料のある文字の上で
止まった。
「バンジージャンプ?」
「ああ、その別荘にはバンジージャンプの設備があるのよ。誰も挑戦していな」
「これ、やってみたい!」
かれんの言葉を遮るようにして咲が立ち上がる。
「さ、咲?」
舞の表情はこわばっている。満と薫はそんな二人の表情を代わる代わる見比べていた。
「あら、咲さんもそう思うのね」
こまちが妙に嬉しそうだ。「あの〜こまちさん?」とりんは不安そうな表情を
浮かべている。咲はまたどさっと座った。
「咲、バンジージャンプなんて……怖くない?」
おずおずと舞が尋ねると、
「う〜ん、ちょっと怖いけど……でも一回やってみたくて。
 ほら舞、『運命はGood Luck! 万事ジャンプする〜』って、カラオケ大会で歌ったじゃない!」
「あ、あれは歌の歌詞だから」
「ね、舞」
咲は舞を説得にかかる。
「舞が嫌だったらいいんだけど……でもバンジージャンプって空を飛べるみたいな
 感じだって聞いたことあるんだ」
「空を?」
「プリキュアの時に空飛んだことはあるけど、普段はないし。
 舞と一緒に空飛んでみたいなーって思うんだよね」
「咲……」
舞は少し考え込んだが、
「……もしどうしても怖くなったら止めるけど……」
と答える。
「うん、もちろんだよ」
そんな咲と舞の会話を聞きながらうららはのぞみに話を向けた。
「じゃあ、私たちもバンジージャンプやってみませんか?」
「そうだね、りんちゃんも!」
くるっとのぞみがりんの方に顔を向けるがりんの表情は引きつっていた。
「え……本当にやるの?」
「やってみようよー!」
「あ……はははは」

りんが乾いた笑い声を上げる。その横では、かれんがきょとんとしている満と薫に
バンジージャンプの説明をしていた。
「バンジージャンプって言うのはね、命綱をつけて高いところから飛び降りる遊び……スポーツと言ったほうがいいかしら? そうやってスリルを楽しむものよ」
「へえ……」
「満と薫もやってみようよ、ねっ?」
咲がぎゅっと満の首に腕を回した。
「ええ、やってみるわ」
満が素直に答えるので咲は満面の笑みを浮かべる。
その様子を見てかれんがすっと立ち上がった。
「こちらを第一希望にしたほうがいいみたいね。今年の夏は空けておくように伝えておくわ」
「お願いしまーす」
のぞみたちが――咲たちも一緒に――電話をかけにいくかれんに一斉に言い、
さらに日程調整の話になる。とはいっても、今ここにはいないプリキュアたちの予定も
聞かなければならないので決められるわけではないが、
確実に駄目と分かっている日にちをこまちがメモに残していく。

「八月初めくらいが丁度いい感じでしょうか」
メモを見ながらうららが呟いた。内心では、その辺には仕事を入れないように鷲尾さんに
頼もうと考え始めている。
「それかお盆の後、八月の終わりって感じだね。よし、後は他のみんなにも聞かないとね!」
のぞみはもう「けって〜い!」と言ってしまいそうな勢いだ。
その時、ナッツハウスにシロップが戻ってきた。

「あれ? なんか珍しい客が来てるな」
シロップ――人間の姿で入ってきたのでシローと呼んだ方がいいかもしれない――は
咲たち四人を見て不思議そうな顔をする。
「シロップお帰り〜。咲ちゃんたち、シロップに用事があって来たんだって」
のぞみの言葉にシロップは更に首を捻った。
「俺に?」
「うん、シロップ。今日はお願いがあって来たんだけど」
咲たち四人が立ち上がってシロップを取り囲むように近づく。
「お願い?」
なんだか厄介なことになりそうだとシロップは思った。
「ええ。満さんと薫さんが書いた手紙を届けてほしいの」
「手紙?」
しょうがないな、とシロップは呟いて手を出す。
「どの手紙なんだ?」
満は鞄の奥から薫と一緒に書いた手紙を取り出すと、「ありがとう」とシロップの
手の上にそれを乗せる。だがシロップは手紙を受け取った途端にぎょっとした表情を浮かべる。
「おい、これ誰宛てだよ」
「アクダイカーン様」
ほとんど表情を変えずに薫が答えると、
「アクダイカーン!?」
シロップは驚いて二、三歩下がったが、咲はそんなシロップに更に近づく。
「お願いシロップ、難しいとは思うけどなんとか、満と薫の気持ちを届けてあげて!」
「い、いやでもアクダイカーンって」
シロップは明らかに気が進まない様子だ。それを見て取った満は咲の脇を
すり抜けるようにして彼に近づくと
「ごめんなさい、いいわ。やっぱり」
と彼の手から手紙を取り返した。
「え、満……」
咲が満を振り返る。シロップはシロップでばつの悪そうな表情を浮かべていた。
「満さん、薫さんも、折角書いたのに……」
「やっぱり無理なのよ。今更アクダイカーン様に気持ちを伝えるなんて。
 シロップにも迷惑だわ」
満はそう答えると手紙を鞄にしまおうとする。薫は満を止めようかと思った。だが、
――確かに満の言う通りかもしれない……
そんな思いが先に立ち動けなかった。しかし、
「待てよ」
とシロップが満に声をかける。
「何?」
「俺は運び屋だ。思いの篭った手紙なら相手に届けるだけの努力は尽くす」
「え、でも……」
「任せろよ。ただし、確約はできないしいつになるかも分からないけどな」
念を押してからシロップはもう一度満から手紙を受け取った。

「……ありがとう」
「ありがとう、シロップ」
満と薫が口々に言う中、シロップは鳥の姿に戻って「いいロプ」と答えると――
ナッツハウスの外に出て大きく羽ばたいていった。

「シロップなら、きっと届けてくれますよ」
状況が分からないながらも、満と薫が手紙を託すところを見ていたうららが咲たちに
向ってにっこりと笑いかける。
「そうだね、きっと」
と咲はシロップの飛んでいった空を眺めた。用事は済んだので、後で合宿の詳細を
連絡してもらうことにして夕凪町に戻ることにする。
咲たちを見送ったあと、ふとのぞみは首を捻り、
「ところでアクダイカーン様って誰だっけ?」
と誰にともなく尋ねた。どこかで聞いた名前ではあるがよく覚えていない。

「えーっと、確か咲ちゃんたちが倒した敵の名前じゃなかったっけ? アクダイカーンって」
りんがうろ覚えながら答えるとのぞみはますます不思議そうな顔をする。
「え? なんで敵に手紙を?」
「確か……」
こまちが自分のメモ帳を引っ張り出してきた。この中には色々なプリキュアたちが聞いた
話をまとめてある。小説を書く時に参考にするためだ。
ちなみに現在はなぎさとほのかから聞いた話を元に「雪空のともだち(仮題)」を
執筆中である。こまちは咲たちから聞いた話を纏めてあるページを開いた。

「アクダイカーンというのは咲さんたちが倒した『ダークフォール』という滅びの
 世界の主ね。本当の主はゴーヤーンだったそうだけど……満さんと薫さんにとっては
 創造主らしいわね」
「そうぞう……?」
「満さんと薫さんはそのアクダイカーンという人に作られたということよ」
分かってなさそうなのぞみにこまちが説明する。
「分かりやすく言えば、ダークドリームにおけるシャドウってところね」
かれんが更に噛み砕いた……今度は分かり易すぎた。のぞみが突然大声を出す。
「ええっ!? 満ちゃんと薫ちゃん、何であんな人に手紙出すの!?」
「いや、私に聞かれても」
隣にいたりんは困惑気味だ。

「創造主ということはつまり産みの親みたいなものだし……、
 どうしても断ち切れない思いはあるんじゃないのかしら」
取り成すようにかれんが答える。だがのぞみはその説明では全然納得できないようで、
「あんな人に手紙出すことなんかないのに……あんな人のどこがいいの!?」
と、どこか不満そうだ。
「のぞみ」
いつの間にかココがすぐ近くでのぞみたちの話を聞いていた。
ぽん、とのぞみの頭を軽く叩くと、「それは違うんじゃないかな」と諭す。
「そうかなあ……」

「満と薫は、この世界を守ってくれたんだ。
 それはきっと、二人が悩んで悩んで出した結論なんだよ」
「?」
のぞみは顔に疑問符を浮かべたままだ。
「でも二人は自分たちの結論を、産みの親にきちんと伝え切れていないと
 思っているんじゃないかな」
「そんな、あんな人が産みの親なんて……」
のぞみの表情はまだ割り切れていない。シャドウのイメージで考え、
ダークドリームにしたことを思うとどうしても許せないと思ってしまう。
ココはまたぽんぽんとのぞみの頭を叩いた。
「きっと二人にとっては大事な過程なんだよ。きちんと決着をつけることが」
「決着?」
やっと顔を上げて自分と目を合わせたのぞみにココはうん、と頷いた。

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