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――この頃、泣き声が聞こえない……。
しばらくした頃、満は今度はそのことが気にかかり始めていた。少し前まであんなに
大きくはっきりと聞こえていた泣き声が、ここ数日はちっとも聞こえてこない。
決着はついたのだろう。何らかの形で。

あれ以降、薫ともこの話はしていない。当然、薫もこの変化に気がついている筈だ。
しかし……、決着がどのような形でついたのかは薫にも分かっていないだろう。
「みのりー、天気予報やってない? テレビつけてー」
日向家に咲の声が響く。「はーい」と答えながらみのりがリモコンを探し、
すぐ手元にあった薫がそれをみのりに手渡した。

今日は舞、満、薫の三人とも夕食をご馳走になることになっていたので、
外は暗くなっていたが皆まだ日向家にいた。みのりがリモコンのスイッチを押すと
居間の中にテレビの音がなだれ込んでくる。
「……一刻も早い原因の解明が望まれます」
何かの事故についてのニュースだったらしく女性アナウンサーが深刻な面持ちで纏めた後、
ぱっと表情を変える。

「それでは今週の、『それゆけ! ローカルヒロイン』です」
薫は食卓に人数分の――今日は七人だ――お浸しの器を並べながら聞くともなしに
アナウンサーの声を聞く。
「今週はA県四つ葉町から、『プリキュア』の皆さんの活躍です」
――え!?
薫は思わず器を取り落としかけた。落とさないように慌てて持ち直し所定の位置に置く。

テレビを見ると、みのりがぼんやりと画面を見つめていた。
画面に映っているのは四つ葉町のキュアピーチたちの姿。
咲、舞、満もテレビの声が気になったらしく集まってくる。
「プリキュアは、四つ葉町で起る謎の現象を解決するヒロインとして三人で
 活躍していましたが、」
ナレーションに合わせて妙な髪形をした町の人々が映る。確かに謎の現象だ。何がしたいのかさっぱりである。

「最近になって何と新しい四人目のプリキュアが登場。町の人たちの声をお聞き下さい」
画面がインタビュー映像に切り替わる。
「いや〜びっくりしたね。四人目のプリキュアが出るなんて。長生きはするもんだねえ」
「あたしもあんな風に髪長くした〜い」
「俺もそのうちプリキュアになってやるぜ!」
映像がスタジオの女性アナウンサーに戻った。
「最近四つ葉町の話題を独占している四人目のプリキュアを視聴者の方が撮影した
 画像がこちらです」
咲たちは固唾を飲んで画面を見つめる。みのりは不思議そうな顔でそんな咲たちを見ていた。
「真っ赤なハートは幸せの印!」
決め台詞どおりに真っ赤なコスチュームに身を包むプリキュアが画面に現れる。
ピンクの長い髪が印象的だ。
――あれ、この子……?
満は彼女のことを知っているような気がした。全身を包む気配でどことなく、だ。
わずかに目を動かし薫の様子を窺うと薫もちらりと満の目を見返した。
四人目のプリキュアが現れたこと、最近泣き声が聞こえないこと、
四人目のプリキュアの気配。すべての辻褄を合わせるには一つしかない。
――良かった……
満はほっと安心した。同時に、安心した自分を少し不思議に思った。
あの子のことなどどうでも良かったはずなのに。

「これからの活躍が楽しみですね。来週のこのコーナーではB県から、
 『自動車税納め隊』の活躍をお送りします。それでは山田さんの天気予報です」

ぱららっぱぱー、と気の抜けるような効果音と共に画面が天気予報に切り替わる。
はあ、と息を吐き出すようにして咲たちがテレビの前から動き出したのを見て
みのりは一層不思議そうな表情を浮かべると、
「お姉ちゃんたち、この『プリキュア』って知ってるの?」
と尋ねる。
「えええそんなことないよ、みのり。どうして!?」
咲が慌ててごまかす。
「だってみんなすごく一生懸命観てたから」
「ちょっと気になっただけよ。ローカルヒロインなんて、珍しいじゃない?」
満も軽く答えるが、「ふうん?」とみのりはまだ怪訝そうな顔だ。
「みんなー、ハンバーグできたわよ。配ってもらえる?」
台所からお母さんの声がして、「ほら、みのりお手伝いしないと!」と咲は強引にみのり
を急きたてた。

    * *

翌日は日曜日。
「じゃあさ、今日はせつなにこの町案内するね!」
ラブと美希と祈里、それにせつなを加えた四人は四つ葉町の中心付近に集まっていた。
「い、いいわよ……、前にも色々案内してもらったし」
せつなが遠慮するが、美希は「だ〜め」とせつなの目の前で人差し指を軽く振った。
「あんなんじゃまだ全然案内しきれてないもの。それにせつな、前のときとは違う目で
 町を見れるんじゃない?」
「違う目?」
「うん!」
祈里が大きく頷いた。
「今日は、これからこの町に住むんだって気持ちで見るから前の時とは全然違う物が
 見えるかもしれないと思うの」
「そうそう、そういうことで」
ラブがせつなの後ろに回りこんでぐっと両手で背中を押した。
「しゅっぱーつ!」
四人が歩き始める。ここは個人病院。ちょっとしたことだったらここに来ればいいかも。
ここはおいしいケーキ屋さん。水曜日は安売りだからおトク。といったことをせつなに
教えながら歩いていく。人の少ない道に来た。――と、四人の前に空から突然満が
降りてきた。わ、と思わず声をあげて四人は立ち止まる。

「久しぶりね」
乱れた髪を手で軽く直しながら満は四人の前に立つ。ダークフォールの灰色の戦闘服を
着た姿で微笑む満の目は、せつなや美希には笑っているようには見えなかった。
ラブはそうした違和感を覚えず、「久しぶり、満! 今日は薫は一緒じゃないの?」と尋ねる。
「ええ、ちょっと」
「あ、そうだ! 紹介するね」
ラブはせつなの腕に自分の腕を絡ませてせつなの真横に立つ。
「満も会ったことあると思うけど、この子せつなっていって今度プリキュアになって
 くれたの! せつな、この人は霧生満さんっていって、プリキュアと――
 私たちじゃない、別のプリキュアと一緒に戦ってくれた人なの。
 今度、他のプリキュアみんなにもせつなのこと紹介するね」
せつなは満を見て微妙な表情を浮かべている。

「へえ、四人目のプリキュアが現れたってテレビで言っていたけど、あなただったのね」
にっこりと満は作り笑いを浮かべる。
「ええ、まあ」
釣られるようにせつなも作り笑いを浮かべた。
「満、今日はどうして四つ葉町に? ドーナツ?」
ラブの問いに満は、
「四人目のプリキュアが現れたって聞いたから、ちょっとその人と話したいことがあって」
と答えてせつなに目を向ける。
「二人だけで話したいことがあるから、来てくれないかしら?」

せつなは戸惑った。満が何を考えてこんなことを言っているのかが読めない――
これまでの経緯からして自分に好意を抱いているとは考えにくい。
だが、満との間にあったこれまでのことをラブたちの前で話すのも躊躇われる。
「来てくれない?」
満が再度押した。相変わらず目は笑っていない。

「え、ええ……」
せつなが頷くと、「ありがとう。じゃあちょっとこっちへ」と満はせつなの腕を取り
ラブから引き離した。
「行きましょう。……イース」
そう言ってラブたちに背を向けせつなを連れて歩き始める。

道を曲がって満たちの姿が見えなくなると、
「二人だけの話って何だろ?」
とラブは首を捻った。
「さあ……?」
祈里も心当たりがないらしく不思議そうな顔をしている。美希は顎に手を当てて考えていたが、
「……ラブ、ブッキー、今の話何か変」
と顔を上げる。
「え?」
きょとんとした視線を二人は美希に投げかける。
「満がせつなに二人だけで話さないといけないことって何?」
「さあ?」
「分からないけど……」
口々に答えるラブと祈里に、美希は更に続ける。
「どうして満、せつなのことイースって呼んだの?」
「え、えーとそれは……せつながイースだって知ってたから?」
いつの間に知ったんだろう。答えながらラブの頭に当然の疑問が浮かぶ。
「もしかして美希ちゃん……満さんまさか、せつながまだイースとしても活動する
 つもりだとでも疑ってるんじゃ……?」
祈里の声は震えている。美希は厳しい表情のまま、
「もしかするとそうかも」
と答える。
「ええ!? せつながそんなことするはずないよ!」
「でも満はそう思ってるのかもしれないわ」
「じゃあ私たちから離れたのって、まさか!?」
――せつなを倒しちゃうつもり!?
言葉には出さないものの三人の頭に同時に同じ考えが浮かぶ。
「満ー! だめー!!」
ラブを先頭に三人は走り始めた。

満とせつなは意外とすぐ近くにいた。道を曲がってすぐのところだ。
二人の姿を見つけるとラブたちはすぐに駆け寄り二人の間に割って入った。
「満! せつなは本当にプリキュアに、私たちの仲間になってくれたの!
 もうせつなはイースじゃないの! 私たちの友達!」
せつなを背後に庇いつつラブが真剣な表情で訴えると、満はやっと心の底からの笑顔を
見せた。
「それが聞けて良かったわ」
「え?」
ラブは満の言葉にきょとんとした表情を浮かべる。

「……何かの組織を裏切った者は、プリキュアよりもつけ狙われることがあるものよ。
 ラブ、あなた達にとって彼女が本当の友達なら……」
全力で守ってあげて。満はそう続けた。
「咲と舞が、私や薫のことを守ってくれたみたいに」
ラブはほっと気の抜けた表情を浮かべる。
「う、うん。大丈夫。せつなのこと、絶対守ってみせるから」
「安心したわ」
満はそう答えると、用件は済んだとばかりに「じゃ、また」と言い残して空に
飛び上がっていった。
緊張感が解けたラブたちはふう、と息をつく。
「せつな、満さんと何の話をしてたの?」
祈里が聞くとせつなは
「何も。ただ、ラブたちのことを待ってじりじりしていたみたいだったけど……」
と答える。
「私たちに注意しに来てくれたのね……」
美希は呟き、「でも、もうちょっと穏やかなやり方でもいいのに。本当に焦ったわ」とぼやく。
ラブは明るく笑って、
「きっとあれが満のやり方なんじゃない?」
と言いながらせつなの目をまじまじと見た。
「な、何?」
「これまで気がつかなかったけど、せつなと満ってちょっと雰囲気似てるよね」
「やめてよ。あんなに性格悪くないわ」
せつなの答えにラブは苦笑すると、
「じゃあ、今度は商店街に行こうよ!」
と町の案内を再開した。



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