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「で、さ」
咲の部屋に四人が集まる。テーブルの上にはお菓子とジュースを注いだコップ、
それにメロンパンがたくさん。咲たち四人はいつものように咲とみのりのベッドの間に集まる。
「さっきの子は何なの?」
「あの子は……」
満はもこもことメロンパンを食べながら答える。
「ラビリンス総統、メビウス様がしもべのイースだそうよ。本人が言ってたわ」
「それで、そのイースさんと満さんがどうして戦っていたの?」
舞の質問に満はばつの悪そうな顔をした。
「あの子とは以前に会ってるの。四つ葉町にドーナツを買いに行ったときに」
「え? え?」
咲は「ちょっと待って」というように手を上げて満の話を止めると、
「四つ葉町ってえーっと、ラブたちがいるんじゃなかった?」
ええ、と満は頷く。
「ラビリンスって言うのはラブ――キュアピーチたちが戦っている相手でしょうね」
「じゃあ、つまりあの子がラブたちの敵っていうこと!?」
「そういうことになるわね。でも、それだけじゃないわ」
満は表情を曇らせた。咲と舞の表情に疑問符が浮かぶが満の言葉を待つ。
「みなとみらいに行った日にラブが話してくれたこと、覚えてる?
 四つ葉町に占いの館があって良く当たるっていう話」
「えーっと」
咲は思い出そうとするように額に手を当てた。舞はすぐに思い出したらしく、
「確かラブさんの友達が占いをしているんじゃなかったかしら?
 ――ああ、そういえば満さんたちも四つ葉町に行った時その子を見てるっていう
 話だったような」
「そう、その話よ」
薫は黙って満の話を聞いている。咲が身を乗り出した。
「それで? その話と今の話がどうつながるの?」

「さっきのイースっていう子……。ラブが友達の占い師って言ってた、
 せつなっていう子と同一人物よ。私の目の前で変身したもの」
「えーっ!?」
咲と舞が同時に大声を上げた。咲はテーブルを倒さんばかりの勢いで立ち上がる。
「じゃ、じゃあラブはあの子を友達だと思ってるってこと!?」
「そうなるわね」
どこかで聞いたような話でしょう? と満は続けたかったが咲が慌てふためいているのでそれは言わなかった。
「ラ、ラブに知らせなきゃ……」
「何て言うの?」
「え、えーっと、わかんないけど、でも、とにかく早く!」
「待って」
ずっと黙っていた薫が口を開く。咲を落ち着かせるためか、ゆっくりとした口調だ。
「ラブ達には言わないで」
「何で!? 早く教えないと!」
咲の顔は興奮のためか真っ赤になっている。
「言わないで。お願い」
「だ、だって友達に『私たちはあなた達の敵』って言われるのってすごくショックなんだよ!」
「……ごめんなさい。あの時は……」
「そんなこと言ってるんじゃなーい!」
咲は薫に向って思わず大声を上げていた。
「そうじゃなくて、ラブたちのことだよ!
 な、何とかしてラブたちがショックを受けないように……」
「咲」
薫はぐっと声のトーンを落とす。
「言わないで」
三度、同じ言葉を繰り返す。咲がまた言い返しそうになったが舞が間に入る。
「薫さんは、どうしてそう思うの?」
薫は咲の目を見ながら舞に答えた。
「昔、私たちの心が揺れたのは、咲と舞が私たちのことを友達と思ってくれていたのが
 分かったからよ……私たちがウザイナーを出してあなた達を攻撃しているのに、
 それとは気づかないで私たちのことを守ろうとしてくれたりとか、
 大空の樹に誘ってくれたりとか。
 だから、ラブたちにもあの子のことを友達と思っていてほしいの。
 何かが変わるかもしれないし」
「ねえ、薫?」
満が薫に眼を向けた。口元にはやや皮肉めいた笑みを浮かべている。

「どうしてそんなにあの子に優しいのかしら?」
「あの子の雰囲気が昔の満に似ているからよ」
あっさりと薫は答える。満は「私あんなに性格悪くないわよ」とどこか不満そうだ。
「薫さんは、イースさんが満さんや薫さんみたいに、
 ラブさんの本当の友達になれると思っているの?」
こくりと薫は頷いた。
「実際にどうなるかは分からないけれど。でも、ラブならあの子を変えられるかも
 しれないとは思うわ。咲に似てお人よしみたいだもの。だから……」
「でも……」
咲はまだ納得しきれていないようだ。
「咲、」
薫は身体ごと咲に向き直った。

「私たちがこのお店でお手伝いをしたりみのりちゃんと遊んだりしていた頃、
 他の人から私たちのことを『ダークフォールの刺客だ』って聞いてたら信じた?」
「それは……」
咲は少し考えると、ううん、と首を横に振った。
「信じられないよ、そんなこと。だって満と薫は友達だもん」
「でも、気にはなったでしょう?」
「それはそうだけど……」
「ラブさんもきっと信じないだろうってこと?」
舞に眼を向けて薫は頷く。

「でも、心のどこかに疑念は残るでしょうね……そうなると今度は
 イースって子の方がそのことに気づくかもしれないわ」
そうなってしまえば「本当の」友達になるのは難しい。薫はそう続けた。
「そんな風に気を遣ったって、あの子はそのまま変わらないかもしれないけど?」
満は若干乱暴な口調だ。
「あの子のことを『プリキュア』に任せるって言ったのは、そもそも満じゃない」
「この町にまで来るようなら任せてる場合じゃないわ」
「倒すべきだって言いたいの?」
「……」
満は押し黙った。今日、イースにされたことは腹立たしい。今思い出しても腹が立つ。
だが彼女を消滅させるべきかと問われると……。

満と薫は産まれながらの戦士である。敵――現在は、緑の郷を滅ぼそうとする敵――を
倒すことに躊躇はない。だが、満の目にも確かに彼女は「緑の郷に生き得る存在」として
映っていた。
ラブ達との関係によって彼女もかつての満、薫と同じように変われるような気はする。
薫ほど、強く主張する気にはなれないけれど。

はーっ、と咲が長いため息をつく。
「ラブ……大丈夫かなあ……」
満も薫も舞も、何も答えられない。
「でも、あの子がラブたちの本当の友達になれるんなら……」
戦って滅ぼしあうよりはそちらの方がいいに決まっている。
オレンジジュースを一口飲んで、
「じゃあラブたちには何も言わないでおこう」
と咲は結論を出した。ええ、と舞と薫が頷く。満は頷きこそしなかったが
――まあ、そんなところでしょうね……
と思って二つ目のメロンパンに手を出した。

「ところでさ、満」
思い出したように咲はクッキーを頬ばると満に顔を向ける。
「満が最近悩んでたのって、あの子とラブたちのことだったの?」
「……それも気にはなっていたけど」
「他のことは?」
じっと咲が満を見つめる。満はテーブルの上のメロンパンに目を落とした。
「ね、満。私、満のことすごく心配なんだ。満――薫もだけど、時々、すごく無茶しようとすることがあるんだもん」
ぷっと満は吹き出した。
「満?」
「咲と舞には言われたくないわね。無茶ばっかりするんだから。見てられないわ」
「と、とにかくさ!」
満に混ぜ返されそうになったので咲は慌てて話を元に戻す。
「満、最近何か悩んでたでしょ!? 何を考えてたの?」
「……」
満はメロンパンを更に一口齧った。

    * *

その頃、イースは本拠地である四つ葉町の洋館にたどり着いていた。
「お帰り」
誰にも会いたくないときに限ってサウラーがにやにやと笑ってイースを待ち構えている。
「誰と戦ったかしらないが、随分面白い格好になったねえ」
「……」
何も答えずに大股に自分の部屋に戻るとイースは服を脱ぎ捨てた。
左右非対称になったコートはどう見ても不恰好だ。これはもう捨ててしまおうと
イースは思った。確か本国から夏服が来ていた。デザインは変わらないが素材を軽くして
涼しさをアップしたとかそんな説明がついていたような気がする。
少し早いが夏服にしてしまおうとイースは決める。

手近にある椅子を蹴り飛ばし、煮えくり返るような怒りを少しだけ鎮めるとイースは
思考を廻らし始めた。
――プリキュアに見られたということは……
ラブたちにも今日の話が伝わる可能性は高い。イースがせつなであることも
明かされてしまうかもしれない。そうなればこれまで準備してきた計画が台無しだ。
――早く動いた方がいいな。

せつなの姿に変身すると、いつも持ち歩いている緑色のクローバーを取り出し首にかけた。
そのまま町に出てラブの姿を探す。
公園にもいない。家の近くにもいない。学校にもいってみたがラブはいなかった。
――なぜ居ない。来なくていいときはすぐに来るくせに!
イースの中に焦燥が生れる。こうしている時にもあのプリキュアたちからラブに連絡が
行っているのではないかと思うと気が気ではなくなってくる。
いっそナケワメーケを出せばキュアピーチが現れるからその後をつければ、
なんて物騒な考えさえ浮かんでくる。

「あれ、せつな?」
後ろから声をかけられてせつなはすぐに振り返った。買い物籠を持ったラブが笑っている。
「ラブ! こんな所にいたの」
「え? ひょっとして私のこと探してた?」
「そういう訳じゃないけど」
「ごめんごめん、お母さんに頼まれてちょっと買い物があって。
 それで、何か用事だったの?」
「え……ええと」
せつなはしまったと思った。急いで出てきたので今日は何も考えていない。
リンクルンを奪えるような口実を何とかして捻りださなければ。

「?」
ラブはせつなの言葉を待っている。
「そ、その……だから…う、占いの結果が出たの」
「占い?」
「ええ、そう」
そ知らぬ顔をしながらせつなの頭は焼ききれそうな勢いで回っていた。
「なんて!? なんて!?」
ラブはわくわくしながらせつなの言葉を待っている。
「ええと、その……これからしばらく、あなたには幸運が続くと出たわ」
口からでまかせもいいところだが、ラブは素直にそれを信じた。
「本当!? ありがとう、せつな!」
「ど……どういたしまして」
ここからどうやってリンクルン奪取につなげればいいか……
考えているせつなをよそにラブは、
「ねえねえせつな、今度一日時間取れない?」
と尋ねる。
「え? ええ……」
「やったー! じゃあ今度、デートしよっ!」
「デート?」
「うん、デート! せつなにこの町のこと、もっと沢山知ってもらいたいから!」
せつなは飛び切りの笑顔を作ってみせた。
「ありがとう、ラブ」
「ううん、私がこんなに幸せなのせつなのおかげだもん、じゃあ今度ね!」
「そうね」
飛び跳ねるように去っていくラブを見送りながらせつなは内心ほくそ笑む。
――単純なものね……。
機会はできた。「デート」とやらで一日一緒に居るなら、
リンクルンを奪うことも容易だ。せつなは満足して帰路についた。

    * *

「……どうにもならないことなのよ」
咲に見つめられながらひたすらメロンパンを食べていた満がようやく言葉を出した。
「そんなこと、ないよきっと……どんなことなの?」
満が悩んでいることなら、私が何とかするよ。そう言った咲に満は
「無理よ」
と簡単に答える。
「そんなの、やってみないと分からないじゃない」
「……本当にそう思う?」
うん、と咲は力強く頷く。
「満がそんなに悩んでいるんだから難しいことなのかもしれないけど、でも何とかしてみようよ」
満は薫に目を向けた。薫は柔らかい笑みを浮かべる。満はそれを見てやっと心を決めた。
「アクダイカーン様のことなの」
「え……?」
アクダイカーンがまた満と薫に何かをしたのか。
咲の思考はついついそういう風に働いてしまう。だが満の言葉は咲の予想を超えていた。

「私たち――私も薫も、心残りがあって。アクダイカーン様にちゃんと伝えられなかったから……」
「え? ちゃんとって、何を?」
「私たちの気持ちよ。緑の郷を守りたいっていう気持ち」
「満さんと薫さん、ちゃんと話してたじゃない……あの時、ダークフォールで」
舞が意外そうな顔をしている。確かに満と薫は最後に訪れたダークフォールで
アクダイカーンに対して懸命に説明していた。少なくとも咲と舞には、
満と薫は十分な努力をしたように見えていた。

「確かに話したわ。でも、分かって貰えなかったから……もっとちゃんと説明すれば
 分かってもらえたんじゃないかと考えてしまうの」
「それは……でも、何て言ったとしても……」
「ねえ、咲」
満はテーブルの上のメロンパンを手に取った。あんなにあったメロンパンが今は
満のお腹に入り、残るはあと一つだけだ。
「咲のお母さんは咲がソフトボール頑張ってること応援してくれるわよね。
 舞のお母さんも、舞が絵を描いてたりすると」
咲と舞は無言で頷く。

「私もそんな風にアクダイカーン様に分かってもらいたかった……けど」
やっぱり無理ね。そう言って少し寂しそうに笑う満を見ると咲は無性に悲しくなる。
「む、無理じゃないよ!」
先ほどとは真反対の事を言ってしまう。満はそれを聞いてまた笑った。
「ありがと、咲。舞も。聞いてもらっただけで気持ちが楽になったわ」
今日はメロンパンもたくさん食べられたし、と満は続ける。
「今の話、気にしなくていいわよ」
「そんな……」
舞が悲しそうに呟くが薫も「そうね、気にしなくていいわ」と満に同調する。
薫は満が今の気持ちを吐き出しただけでとりあえず安心していた。
抱え込みすぎて動けなくなるような事態だけは避けられたとみていいだろう。

――本当は「忘れて」って言いたいくらいだけど……
満はそう思ったが口には出さなかった。そんなことを言えばこの二人は却って
むきになるに決まっている。
「咲、舞。心配してくれてありがとう。……二人に聞いてもらえてなんだか安心したわ」
満は同じ事を繰り返した。
「そう? だったら、いいんだけど……」
咲はどこか歯切れが悪い。



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