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――小さく、小さく、大きくし過ぎないように……
満と薫は呼吸を整えながら滅びの力を制御していた。この力がある程度以上まで
大きくなれば二人にも制御しきれなくなってしまう。そうなれば結局緑の郷を
滅ぼしてしまうだけだ。
滅びの力を操る腕に力が篭る。
「薫、今よ! 引いてっ!」
「ええ!」
滅びの力は一度放たれれば拡大し続ける性質を持っている。ある程度のところで成長を
止めさせるためにはどこかに押し込めなければならない。
滅びの力を収めておくための器が必要だ。
器として、満は自分の右腕を、薫は自分の左腕を差し出した。
滅びの力が怪物を吸い込んだ状態で逆流してくる。
「うあああああっ!」
思わず声が漏れる。腕が燃え上がりそうに熱い。満と薫は思わず互いの手を
強く握り締めた。


「 エクストリームルミナリオ!!」
「プリキュア・スパイラルスター・スプラッシュ!!」
「ミルキィローズ・メタルブリザード!!」
「プリキュア・レインボーローズ・エクスプロージョン!!」
「プリキュア・トリプルフレッシュ!! 」
その頃、横浜みなとみらい。プリキュアたちの必殺技が炸裂し、フュージョンは消滅した。

「やった……の?」
ブライトの声に、他のプリキュアたちもやや緊張をほぐす。
「そう……みたいです」
レモネードの言葉に一瞬みんな笑いかけたが、
「まだ終ってないムプー!」
ムープの声で再び緊張が走った。だがそれに続く言葉はプリキュアたちにとって
予想外なものだった。
「満と薫がどうなったか分からないムプ!」
「ええ!?」
みちる? かおる? と他のプリキュアたちが首を傾げている中、
ブライトとウィンディが驚いてムープに詰め寄った。
「分からないって、どういうことよ!?」
「満と薫は、フープたちみんなを助けに来てくれたププ、でもその後どうなったか
 分からないププ!」
「会議場に来てくれた二人組の戦士のことラピ」
フラッピがココやメップル、タルトたちに説明している。
「ええ!? 何で早く言わないのよ!?」
「言う暇なかったムプ……」

「その人たちもプリキュアなの?」
ブライトがムープに怒らんばかりの勢いで話している横でピーチはタルトに尋ねていた。
「うーん、なんか不思議な二人組やったな、
 プリキュアのようでプリキュアでないっちゅうか、そっち方面の」
「?」
却って分からなくなったとピーチは言いたそうだ。

「あなたたちはその二人のこと知ってるの?」
ホワイトの疑問にブライトは
「二人は私たちの……私と舞の、大事な友達です!」と答え、
「とにかく行こう、ウィンディ!」と促す。
「ええ、そうね!」と飛び立とうとした二人に、
「待って! 私たちも行く! 友達が困ってるんでしょ?」
とドリームが声をかけた。「みんな行くよね?」と仲間達を振り返ると
ルージュやローズたち五人が「Yes!」と返す。
「わ、私たちもいきまーす!」
ピーチも手を挙げ、ブラックとホワイト、ルミナスもブライトとウィンディに頷きかける。
「みんな、……ありがとう!」
ブライトがそう答えると、シロップが巨大化した。
「飛べない人は乗せてくロプ」
「よっし!」「シロップ、全速力よ!」
ブラックとローズが真っ先に飛び乗り、
「お邪魔します」と最後にルミナスが乗るまで一分もかからない。
「じゃあ、二人と最後に別れたところに案内して!」
ムープとフープが飛び立ち、シロップとブライト、ウィンディがその後を追う形で編隊は
出発した。


「う……」
怪物を飲み込み、満と薫はどさりと倒れた。腕が熱い。肩から棒がぶら下がっているかの
ように動かせない。
くちゃり、と嫌な音がして満ははっと目を向けた。わずかに残った怪物のかけらが
地面の上でのたくっている。
――あと少し……あれくらいなら、すぐ倒せるのに……
満も薫もそう思ったが、身体がいうことを聞かない。
――今、倒さないと、今のうちに……また何かの力を吸収したりしたら……
逃がすわけには行かない。ここで倒さなければ。絶対に。
――どうにかしないと……誰か……、

「満!」「薫さん!」
――咲、舞!?
満と薫が薄目を開いた。咲と舞がこちらに降りてくる。
――やっぱり来てくれた……。
ほっと安心して満は再び目を閉じる。咲たちが来たならもう大丈夫だ。
根拠もなくそう思えた。

「サファイアアロー!」
上から降ってきた声と共に、水の矢がわずかに残った怪物の体を貫く。
怪物はそのまま消滅していった。

「満、薫!」「大丈夫!?」
ブライトとウィンディが大空の樹の前に急降下し二人に駆け寄り手を取る。
「だ、大丈夫よ……手間取っちゃったけど」
満は何とか立ち上がろうとしたが、できなかった。
シロップが着陸する。見たことのないプリキュアたちを見ても満と薫には驚くゆとりがなかった。

「みんな、レインボーミラクルライトココ!」
精霊たちがミラクルライトをかざす。何をしているのかと満と薫は思ったが、
「うん……?」
身体が癒されていくのを感じた。動かなかった腕が意志を取り戻していく。
「満、薫、ありがとうムプ!」「ありがとうププ!」
立ち上がった二人の胸にムープとフープが飛び込んでいった。
「満と薫、だよね? メップルたち助けてくれてありがとう」
シロップからブラックが降りてくる。
「ココたちのことも、ありがとう!」「タルトのことも!」
ドリームとラブも降りてきた。
「え、えーと、あなたたちは?」
薫が戸惑う――と、ブライトが後ろから寄ってきて、
「みんなプリキュアなんだよ。満と薫のこと気にして、来てくれたんだ」と説明する。
「そうだったの……」「あ、ありがとう」
「お互い様よ」
と、ミントが笑う――「これで本当に、全部終りかしら?」
見上げた空には一点の曇りもない。終ったらしかった。

十六人のプリキュアたちの姿が、中学生の少女達のそれに戻っていく。
「あ、あの! 私たち、これからダンスコンテストに出るんです! よかったらみなさんも見ていってください!」
ラブの言葉に、みんながああそうかと思い出す。
「うんうん! それって、どこでやるの?」
のぞみがにこにこしながら尋ねた。
「みなとみらいです! え〜と、一時間半後から!」
「みなと……みらい?」
りんの表情が固まった。みなとみらいは海の向こう。プリキュアではない
少女達の場合行くのにかかる時間は……。
はあ、と美希がため息をついた。
「ラブ、もしかすると遅刻かも」
「えーっ!?」
「だ、大丈夫だよ、遅刻しても何とかなるって私、信じてる!」
「夕凪町からなら電車に乗っていけばなんとか時間までに着くはずよ」
てんやわんやになっている三人をほのかが落ち着かせると、
「あ、でも今の時間電車の本数少ないよ! とにかく早く駅に行かないと!」
咲が大慌てで叫ぶ。
「とにかく行こう!」
と咲が先頭に立って走り始める。咲は満の手を握っていた。舞は薫の。
そうして、十六人は一塊になって走っていた。駅に着き、
どうにか全員が同じ電車に乗ることができたのは奇跡だったかも知れない。

電車はちょうどすいている時間帯で、貸切みたいにその車両には他のお客さんが
いなかった。ほのかや舞、のぞみといった運動の苦手な少女達は席に座って
はあはあと肩で息をしている。

そんな中、なぎさが車両の中央に立ってパンパンと手を叩いた。
「はいは〜い、みんな! 終点までこれ乗ってくなら、着くまでの間みんな
 自己紹介しようよ! まずは私からね! 美墨なぎさ、ベローネ学院中等部の三年生で……」
電車の中はいつの間にか女子校の教室のようになっていた。
一人一人、自己紹介するたびにわっと歓声があがったり親しい友人からの突っ込みが
入ったりする。
座った席の順に自己紹介をしていたので、舞の後に薫の番が来た。
その隣に座っている満も一緒に立ち上がる。
「霧生満と霧生薫、です。咲、舞と同じ夕凪中学です」

好奇心まんまんといった少女達の視線に薫が少し戸惑い気味だったので、
満が代表して自己紹介をする。
「ねえねえ、二人はプリキュアなの?」
のぞみは興味津々といった様子だ。
「いえ、ちょっと違うわね」
満はわずかに苦笑を浮かべて答えた。
「じゃあ、元は光の女王だったとか?」
「どこかの世界のお世話役だとか?」
なぎさとこまちが口々に尋ねるのを、満は「違うわ」とかわす。
――本当のこと言っていいのかしら……。
笑顔で答えながら満は内心悩んでいた。ここにいる少女たちは皆プリキュアだ。
自分たちの産まれについて、普通の人よりは理解もされやすいだろうが
どんな反応が返って来るかは正直のところ分からない。

「えーっと、それじゃあ……」
のぞみが当てようとするのを薫の言葉が遮った。
「私たちは、元々ダークフォールで産まれたのよ」
――薫っ!?
満は思わず薫を振り返ったが薫の表情は淡々と、ごく当たり前のことを言っただけのように
見える。確かに当たり前のことではあるのだが。
「あんさんらやったんか〜」
ラブの膝に抱っこされていたタルトが尻尾を振りながら満と薫に近づいてきた。
「滅びの国ダークフォールの戦士の中に、この世界を守るようになってくれた二人がいる
 とは聞いてたんやけど」
「そうムプ!」「そうププ!」
ムープとフープが舞の膝の上から浮かび上がる。
「満と薫が、咲と舞と一緒に緑の郷と泉の郷をダークフォールから守ってくれたムプ!」
「それで今、二人は咲さんや舞さんの町で暮らしてるの?」
ほのかが尋ねた。ええ、と薫は頷く。
「精霊の力のおかげで、そうなることができて」
「そう……」
ほのかは穏やかな笑みを浮かべた。彼女が考えているのは、以前心を通わせた闇の戦士のこと。
入澤キリヤ――「生きて行く場所が見つかった」と言っていた彼とほのかは未だ
再会していない。この世界のどこかにきっと居るには違いないと思っているものの……、
満と薫の話はほのかを少し勇気付けた。

電車の中にはもう一人、かつては敵として戦った友人のことを思い出している少女がいた。
――ダークドリームも、もしかしたら満ちゃんや薫ちゃんみたいにできたのかも……
それは今考えてもどうしようもないことなのだけれど。
「ココ〜?」
のぞみの膝の上に抱かれていたココがそっとのぞみを見上げた。
「大丈夫だよ、ココ」
のぞみはココにだけ聞こえるように囁く。

――そんなこともあるもんなんだ……
ふうんとラブは思っていた。まだプリキュアとしての経験の浅い彼女には、
戦っている相手と友人になるということがありふれたことなのか珍しいことなのかも
良く分からない。しげしげと満と薫の顔を見て、彼女は突然「あーっ!」と叫んだ。
「どうしたの、ラブ?」
「思い出した! この前四つ葉町に来てたよね!」
美希の質問にも構わずラブは興奮気味だ。満はその勢いにちょっと驚いたがラブが
言葉を切ると「ええ、」と答える。
「あの日はドーナツを買いに行ったの」
「あ、満と薫がこの前買って来てくれたドーナツってラブたちの町のなんだ、へえ〜」
話が通じたというように咲がうんうんと頷いた。

「占い館も行ったの?」
ラブは相変わらず興奮気味だ。
「いいえ……?」
「ほら、二人と会った時にそばに大きな洋館があったでしょ?
 せつなっていう私の友達があそこで占いしてくれるの」
「友達?」
満にラブはぶんぶんと首を縦に振る。
「二人が覚えてるかどうか分からないけど、洋館の前に黒い髪の目が綺麗な女の子
 いたでしょ? あの子せつなっていって、私の友達なんだ。
 せつなの占い、すっごいんだよ! 私もせつなのおかげで幸せゲットできたんだもん、
 今度来たとき占い館にも行ってみたら?」
「え……ええ」
何と言ったものか戸惑いながら満は答える。美希は満の困惑を別の意味にとったようで、
「ほら、ラブ、興奮しすぎ。困らせちゃってるじゃない」
「え、あ、そう?」
祈里が苦笑した。
「満さん、薫さん、ごめんね。ラブってせつなさんのこと大好きだから……」
「だって新しくできた友達だもん」
ラブは満面の笑みを浮かべている。満がそっと薫の様子を伺うと、
薫は感心したようにラブの表情を見ていた。やがて電車は終点に着いた。

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