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「イース、サウラー、本国から指示が来たぞ」
同時刻、四つ葉町の占い館では本を読んでいるサウラーとイースにウエスターが話しかけていた。
「そう」「何だって?」
二人とも本から視線を上げることなく答える。ウエスターは手にしたメモをそのまま読み上げた。
「待機せよ、だそうだ。プリキュアにしろ今回のフュージョンって怪物にしろ、
 勝った方を我々が最終的に支配すればそれでよい。
 プリキュアと怪物が共倒れすればそれが最上だからな」
「ふ〜ん」
イースはつまらなそうに読み終えた本を閉じて脇に置いた。
「高みの見物をしてろってことね」
「じゃあ、僕は少し様子を見てくるとしようかな。いつものプリキュアだけじゃない、他のプリキュアも見れるようだからね」
サウラーが部屋を出て行く。
――俺はドーナツでも買い占めてくるか……。どさくさ紛れで安くなってるかもしれんし。
ウエスターもそのまま部屋を出て行った。

一人残されたイースは自分の部屋へと引き上げるとそこに置いてある水晶玉を見つめる。
手をかざすと、普段彼女が対応に苦労しているプリキュアたちがフュージョンと
戦っている姿が映る。
――じっくり見させてもらうぞ、プリキュア……
彼女は腰を据えてピーチの戦いぶりを観戦することにした。

    * *

「行かなきゃ!」「ええ」
背後にぐちゃりと嫌な音がした。
目だけでそちらに振り返ると、予想通り、会議場であった怪物が後を追って来ていた。
「こっちを片付けるのが先みたいね、薫」
「……そうね」
薫は内心、厄介な敵だと思っていた。殴っても蹴ってもあまり手ごたえがない。
最初の攻撃が吸収されたように見えたのも気にかかる。怪物は二人の前でゆらゆらと
液状に動いたかと思うと、その姿を意外な物へと変化させた。
「ウザイナー!?」
しかも見覚えがある。満が一度だけ出したことがあるウザイナー、隕石のウザイナーだ。
ウザイナーは右腕を大きく振りあげ、振り下ろした。はっと二人が上を見ると
昼間だというのに流れ星が軌跡を描いて降り注ぎ、
「満、何とかしなさい!」
薫は叫びながら流れ星の爆撃を避け走り回る。
「何とかって!」
満も逃げ、二人はウザイナーの視線を避け木の影に隠れた。

「タチ悪いわね、あのウザイナー」
吐き出すように満が言うと、
「満が出したウザイナーだもの」
「どういう意味よ!?」
「敵に回したくないってこと。……弱点、ないの?」
「……あるわ。一応」
満の説明を聞いた薫はぱっと木陰から飛び出した。隕石ウザイナーが薫の動きに気づき
腕を振る。
薫の走る軌道に沿って流れ星が次々に落ちてくる。右に左に、薫は逃げながらたまに
光弾を放つ。だがウザイナーの外殻を壊すには至らない。
――薫、派手にやってるわね。
光弾が着弾する度にウザイナーの身体から煙が上がるのを見ながら満は隕石ウザイナーの
背後の上空にそっと飛び上がる。
このウザイナーの弱点は死角が広いことだ。ほぼ平面の身体の片側にだけ目がついている
という構造上、背後の敵の存在はほとんど感知することができない。

昔は満と薫が隕石ウザイナーの背後にいることでその弱点を防いでいたとも言えるのだが、
今はそうではない。薫の動きに気を取られているウザイナーの背中は隙だらけだ。
――他愛のないものね……。
満の両掌に滅びの力が宿る。一撃でとどめだ。……そう思ったとき、満の心の中で何かが
びくりと動いた。

隕石が樹を倒す音で満ははっと我に帰る。
「ええいっ!」
叫び声とともに、一閃、満の放つ滅びの力が二枚の刃となってウザイナーを切り裂く。
三つに引き裂かれたウザイナーは情けない声をあげてそのまま消えていった。
「成功ね、満」
囮役を引き受けていた薫が地上に降りた満に近づいてくる。
「満……?」
満は黙ったままでじっと自分の手を見ていた。
「どうしたの?」
「薫……私……」
思い出したくもないことを思い出してしまった。隕石ウザイナーの後ろから
「とどめだ」と言った時のことを。キュアブルームとキュアイーグレットに
とどめを刺そうとした時のことだ。

――あの時、咲たちが何も言わなかったら。私はあのままとどめを刺していた……。
あの時は本当にそれでいいと思っていた。アクダイカーン様の喜びが自分の喜びだと
信じていたから。
「満?」
薫がもう一度尋ねた。だが満は、黙っていた。嫌な気配がする。近づいてくる。
薫は横目でそちらを見る。金属様の光沢を持つ怪物が流れるようにして二人のもとへ近づいてくる。
「よこせ……お前たちの力をよこせ……」
声は前よりも強かった。薫は満を自分の後ろに押しやるようにして怪物と対峙する。
「お前たちの力……プリキュアより使いやすい……効率よく我が力へと変換できる……
 お前たちは我が力の源となるべき存在……我と一つになるがいい……!」
――どういうこと……?
最初の攻撃が吸収されたように見えたことを思い出し、満ははっと気がつく。

――私たちの力が滅びの力だから……? だから、こいつの力になってしまう……?
滅びの力だから、効率よくこの怪物のエネルギーになってしまうのだとすれば……、
――うかつな攻撃はできないわね。
薫は冷静に状況を把握しようとしていた。攻撃が相手の力になってしまうのであれば、
対策を考えなくてはならない。とりあえずは逃げるか。しかしそれでは問題の解決にはならない。
「お前たちには……この存在がいいか……!」
二人の見る前で怪物は姿を変化させる。満と薫ははっと息を飲んだ。
黒い巨体が炎のように赤い眼を輝かせる。
「アクダイカーン様!?」
「さあ、我と一つになるがいい!」
アクダイカーンの姿になった怪物がその手を大きく開く。薫はバリヤーを張ろうとした。
だがすぐ隣に来るはずの満はそれに間に合わなかった。しまったと薫は思った。
満の身体を引っつかんででも逃げるべきだった。判断ミスだ。
二人の力で張るはずのバリヤーは成功せず、アクダイカーンの姿をした怪物の身体は
大きく膨れ上がり、気がづくと満と薫は暗闇の中にいた。

「満……」
ちゃぷんと水のような音と共に薫の声がした。
いつの間にか二人の立っている場所は液体で満たされていて腰辺りまでそれに浸かっている。
「どうしたの、満。しっかりして」
薫の腕が満の腕を取り、自分の肩へと満を寄りかからせる。
「薫……私たち……」
何かを言いかけた満が前を見てあっと息を飲んだ。薫が満の視線を追いかけると、
暗闇の更に奥に紫色の炎が浮かんでいる。
「アクダイカーン様……」
満の言葉に薫は首を振る。
「満、あれはアクダイカーン様ではないわ」
「……分かってるわそんなこと。アクダイカーン様はゴーヤーンが消滅させたんだもの」
満の口調は妙に挑発的だった。薫は一瞬眉を顰めたが、
「それなら、どうして?」
と尋ねる。
「何でもないわ、ちょっと集中力が落ちてただけよ」
満は薫から眼をそらした。
「とにかく、早くここを出ないと……」
薫の肩から自分の腕を離そうとしたが、薫は「逃がさない」というかのようにその腕を
逆に掴んだ。
「何してるの、薫。離して」
薫は無言で首を振る。
「薫。私は、緑の郷を守りたいの。そのためには、早くこいつ倒さなくちゃ」
「私だって同じ気持ちよ」
「だったら」
「でも、今の満の手は離せない」
「……」
「教えて、満。何を考えているの?」
昔なら満の考えていることは薫にもすぐに伝わっていたはずだ。二人は似たような事を
思い、似たようなことを考えていた。しかし現在では二人の思考にはいくらかの隔たりが
ある。今の薫は、満の考えていることが常に分かるわけではない。

「……」
満は無言のまま下を向いた。薫はじっと満の答えを待っている。やがて満がぽつりと
呟いた。
「……ウザイナー」
「え?」
「あのウザイナー、出したのは私よ」
「それは昔のことじゃない」
何を言い始めるのかと薫は思った。
「ええ、そう。でも、出したのは私。咲や舞のこと、倒そうと思ってた」
「そうね……」
薫は眉を顰める。楽しい思い出ではない。
「あいつ、言ってた。私たちの力、使いやすいって。やっぱり、滅びの力だから? 
 アクダイカーン様が緑の郷を滅ぼすために私たちに与えた力だから?」
「満……」
薫は悲しそうな目で満を見た。
「そうね。私たちはダークフォールで産み出された存在よ。使うのは滅びの力。
 この緑の郷を滅ぼすための力。……でも、今の私たちは緑の郷を守りたいと思っているわ」
「そうね……」
薫は言葉を選びながらゆっくりと満に語りかける。
「確かに私たちの力は緑の郷を滅ぼすはずの力よ。
 でも、今の私たちはそれを望んでいないわ。私たちは今、自分の大切なものを
 守るために力を尽くしたいと考えている。たとえそれが、滅びの力でも」
「……それは、そうよ。でも……」
「でも……?」
「緑の郷を守りたいの。ゴーヤーンを倒せて本当に良かったと思ってるわ。
 でも、……一つだけ、心残りがあるの」
満はこれ以上言うかどうか躊躇った。
だが、薫が真剣に聞いているのでそのまま続けることにする。
「分かってもらいたかったの、アクダイカーン様に。私の気持ちを……」
正直に言ってしまうと少しだけ楽になる。薫が満の腕を自分の身体から離す。
一瞬満はぎくりとしたが、そのまま薫に抱きしめられた。
「薫!?」
「……私も同じ気持ちよ、満。アクダイカーン様には……私たちを産み出してくれた
 アクダイカーン様にだけは、分かって欲しかったわ」
「ええ……」
久しぶりに薫と気持ちが完全に一致したような気がする。満は目を閉じてしばらく
薫の腕に身を預けていたが、やがて薫がそっと腕を離す。二人はきっと闇の中を見回した。
「いくわよ、満。アクダイカーン様から授かった滅びの力……この力で緑の郷を守ってみせないと」
「ええ、薫。こういう時はいつものアレね」
「……二人だけでアレをやるの?」
少し恥かしそうな薫に満は「やらないと」と押す。しぶしぶ薫も頷いた。
二人はすうっと息を吸い込む。
「私たちは、絶対、諦めない!」

二人の声がユニゾンした。二人のいる闇の中に光が生れる。闇のドームを破り二人は再び外に出た。

「お前たち……!?」
「行くわよ、薫!」
満はもう怪物の声を相手にしていなかった。
「ええ、満!」
どんな攻撃であれ怪物に吸収されてしまうのであれば使えない。
だが満と薫には一つだけ奥の手があった。咲も舞も、この技のことは知らない。
――アクダイカーン様から与えられた滅びの力で! 
満は思った。
――私たちの大切なものを守ってみせる!
満の右腕、薫の左腕に暗黒の力が宿る。二人が一度も使ったことのない滅びの力――
泉の郷を滅ぼすためにダークフォールの住人が使っていたあの力だ。
突き出した二人の腕から放たれた暗黒の力は左右から怪物に向う。
「ぐわあああッ!?」
吸収しきれず、逆に吸い込まれて行く怪物の断末魔の悲鳴に緑の郷の木々や草までもが
恐れたように息を潜める。

    * *

「……ッ!?」
占いの館で水晶玉を見つめていたイースは突然画像が乱れたのに驚いた。
ばんばんと二、三回叩くと画像が元に戻る。だが出てきた映像はピーチのものではなく
満と薫のものだった。
――こいつら、この間の……!?
赤い短髪と青い長髪。戦闘服もこの前見たものと同じだ。間違いない。
ただの人間ではないと思っていたが、プリキュアとも少し違うようなので放置していたのだが……。
――調べておいた方がいいか。いや、その前にピーチか……
イースは改めて水晶玉に手をかざしピーチを映すと、忘れないように
「謎の二人組について本国に資料を依頼すること」というメモを書き
再び水晶玉に見入った。

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