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第二話 裏・プリキュアオールスターズ

『もはや満と薫など、我にはどうでも良い……!』
息が詰まる。誰からも見捨てられたかのような絶望が満を打ちのめした。
助けを求めるかのように腕を伸ばす。もがいた指先が何か柔らかいものに触れた。
「満」
「薫……」
指先を薫の掌に包まれた状態で満は目を覚ました。
ベッドの傍らに薫が満を見下ろすようにして立っている。
「どうしたの。随分うなされていたようだけど」
「何でもないわ。ちょっと夢見が悪かっただけよ……」
薫の背後でムープとフープが心配そうに大きな目でこちらを見ているのに気づいて
満は柔らかく笑って見せた。
「ほら、ムープもフープもそんな顔しないで」
「大丈夫ムプ?」「怖い夢見たププ?」
「本当に大丈夫よ」
そばに飛んできたムープを満は両手で支えてから部屋の時計に目をやった。
「ムープ、フープ、今日は大事なお友だちと会うんでしょ。
 早く朝ごはん食べないと間に合わないわよ」
「ムプ〜」
まだ少し心配そうにしているムープを抱えたままで満は薫と一緒に
ダイニングルームへと向った。

泉の郷に帰るムープとフープを見送ってから、満と薫も外出の支度を始める。
今日はまず咲たちと会ってそれから別の用事がある。咲たちと少し揉めそうだという
予想がついていた――ので、少しだけ気を引き締める。
薫はいつもの通りに髪を簡単にとかすとオールバックにしてバレッタで纏める。
一方の満はというと、短い髪を丁寧に梳かしてわずかに残る寝癖をなだめ、
いつも通りの髪型にしていた。それだけの髪で良くそんなに時間がかけられるものだと
薫が妙な感心をしていると、ブラシをおいた満が振り返る。
「準備できたわ。いきましょ」

咲、舞とはPANPAKAパンの前で待ち合わせということになっていた。
満と薫が近づいていくと、二人はもう出かける支度をすっかり整えて待っている。
笑顔で手を振ってくる二人を見て満と薫は申し訳ない気持ちになり、
小走りになって駆け寄った。
「おはよう、満、薫!」
「早速行きましょ、ナッツハウス!」
咲と舞はすっかり満と薫と一緒にナッツハウスに行くつもりではしゃいでいる。
ナッツハウス――仁美がこの前学校で見せてくれたアクセサリーのお店である。
可愛いマスコットが見られるかもしれないというのと新作のブレスレットが出るらしいと
いう話だったので、今日四人で行く約束をしていた。
「ごめんなさい、咲、舞」
薫の言葉に咲と舞はえっ? と不思議そうな表情を浮かべた。

「私たち、ちょっと行けなくなったの。二人で行ってきてもらえないかしら?」
満が補足すると、咲と舞は「ええっ? なんでなんで?」と口々に尋ねる。
それは責めているのではなく純粋に残念だという思いからだった。
「昨日ムープとフープがうちに来たんだけど、フィーリア王女が今日、
 泉の郷に来るように言っているらしいの。私たちに」
だから行けないわ。そう告げる満に咲たちはううんと唸る。

「本当〜に行かないの?」
「フィーリア王女が私達に話があるってことだもの」
「すっぽかすわけにはいかないわ」
満と薫は咲を諭す。舞は舞で、別のことを気にしていた。
「私たちは行かなくてもいいのかしら。ナッツハウスに行くのは来週でも……」
その言葉に咲は傍らの舞を振り返る。
「うん、そうだよね……」
「フィーリア王女に何か考えがあるのかもしれないわ。それに舞。
 来週の日曜にはお家の用事があるかもしれないんでしょ?」
薫は二人に取り合わない。咲と舞はまだ納得していないような様子だったが、
「……だったら咲、舞。今日いって、私たちに似合いそうなのがあるかどうか探してくれる? 今度行った時に見たいから」
満の言葉を聞き咲は腕組みをしたがやがてうんと頷く。

「じゃあ、絶対二人に似合うの探してくるから」
「ええ、お願いね」
咲と舞は立ち去りがたくしていたが、満に
「ほら、結構遠いんだから。早く行かないと新作アクセサリーが
 なくなっちゃうかもしれないわよ」
と促されてようやく立ち去る。

咲と舞の背中が見えなくなってから満と薫はくるりと身体の向きを変え、
こちらはトネリコの森の大空の樹を目指した。ムープとフープからは、
大空の樹の前に満と薫が立てば自然と泉の郷に招かれるはずだと説明されている。
「薫。今日は何の用事だと思う?」
「さあ……」
トネリコの森は涼しい風を二人に送っている。満の問いに薫も首をかしげた。
「ムープたちはあまり深刻そうな様子もなかったけど」
「今日は友達に会いに行くって言ってたわね。何か、色々なところから来るとか……」
自分たちが何故今日呼ばれたのかはいまいち判然としない。
結論の出ないまま二人は大空の樹の前に着いた。
「さて……」
ムープたちに言われたとおり、樹の前に近づく。
――ペッタンコするくらいまで行かないと駄目かしら……
満がそう思い始めた直後、大空の樹が温かく光り始めた。一瞬の後にはもう泉の郷である。
普段行く空の泉ではなく、世界樹の前だったが。
『満、薫。良く来てくれましたね』
フィーリア王女の声がする。世界樹の中からだ。
「フィーリア王女」
二人は世界中に向けて軽くお辞儀をする。
「今日はどのようなことでしょうか」
薫の問いに対する答えはしばらくして返ってきた。
『泉の郷を守ってほしいのです』
また何か危険なことが起きそうなのかと二人の身体に緊張が走る。
『フラッピたちは会議に出かけています』
会議? と二人は思ったが王女の話は続く。

『たいへん危険な気配がこの世界に近づきつつあるので、その対策のためです。
 ……そして今、フラッピたちがいないために泉の郷には大変力の弱い精霊達しか
 残っていないのです。彼らに身を守ることはできません。……ですから、満、薫。
 フラッピたちが会議から戻ってくるまでの間、ここにいて欲しいのです』
「分かりました」
「お任せ下さい」
口々に答えると、『ありがとうございます』というフィーリア王女の声がした。
『……それと、薫』
「はい」
突然自分の名だけが呼ばれたので薫は内心驚きつつも次の言葉を待つ。
『満のこと、よろしく頼みますよ』
「は……はい」
戸惑いながらも薫が答えるとフィーリア王女の言葉はそのまま聞こえなくなった。
満は少し不満そうに薫を見やる。
「なんで私のことを薫に頼むの?」
「さあ? 私には王女のお考えまでは分からないもの」

薫は軽く受け流すと世界樹を背にしてその場に座る。
満もその横にちょこんと体育すわりをした。無言のままで二人は泉の郷を見渡す。
危ない気配が近づいてきているとはいっても今は穏やかなものだ。
世界樹の下にいると、まるですべての生き物の息吹が感じられるような気がする。

――平和ね……
そんな感想を抱きながら、満は今朝の夢のことを思い出した。
アクダイカーンの夢を見るのはこれが初めてではない。しかし最近は良く見る。
特に四つ葉町であの女の子に会ってからは。
『今までお勤めご苦労さまでした、アクダイカーン様。さようなら』

ゴーヤーンの嘲笑が聞こえてくるような気がして満は目を閉じた。
アクダイカーンの最期は忘れようとしても忘れられない……いや、産み出された時に
初めて目にしたアクダイカーンの姿も、咲と舞を倒せなかった自分たちに対する怒りに
燃えていたアクダイカーンの姿も、「満と薫など我にはどうでもよい」と言った
アクダイカーンの姿も、その全てが忘れられない。

――アクダイカーン様……
物思いに耽っている満の様子を薫が横目でちらちらと窺っている。
と、そこに空の泉の精霊が一体、近づいてきた。薫が掌を差し出すとその上に
ちょこんと止まる。左手の指で軽く頭を撫でると、嬉しそうな声を上げて答えた。

「薫」
私にも、というように満が自分の手を薫の掌に近づける。
空の泉の精霊は満の手には乗らずに頭の上にちょこんと乗り、しばらく赤い髪の毛を
いじって遊んでいたがやがて飛んでいってしまった。
また寝癖が目立つようになった髪を満が片手で軽く撫で付けている。
そんな姿を見て薫は苦笑した。
「……ねえ、満?」
「なに?」
「最近何か悩んでいるみたいに見えるけど」
薫の問いはいつだってストレートだ。満はすぐには答えずに薫の次の言葉を待った。

「夜はうなされていることが多いし……何かあったの?」
「何もないわ」
ただの偶然よ。うなされているのなんて。そう答えようとした満だったが、
薫の青い目に内心を見透かされているような気がして口を噤む。
「一体、何があったの」
「何もないわ。それは本当よ。ただ……」
「ただ……?」
薫は満の言葉を繰り返す。
「ただ、昔のことを考えることが多くなっただけ。四つ葉町であの子に会ったからかしら」
「昔のこと?」
「ええ、そう。私たちがダークフォールに居た頃の……」
『満、薫っ!』
フィーリア王女の声で薫の言葉は破られた。二人は反射的に立ち上がる。
『現れました、パルミエ王国です! すぐに精霊達を助けに行ってください!』
「はい!」
と同時に答えると、
『今、送ります!』
王女の声は妙に遠くから聞こえた。二人の身体が浮き上がったかと思うとどこかへと
向って猛スピードで運ばれていく。最後には投げ出される形で二人の身体は止まった。
出てきたのはパルミエ王国会議場前だったが二人にはどこにいるのか分からない。
「ここ、どこ?」
「分からないわ、でもあの建物から変な気配がする。とにかく、いくわよ、満!」
二人は瞬時に灰色の戦闘服へと変身すると会議場に駆け込んだ。
通路でピンク色の小さな生き物とすれ違う。

――ここは、何!? 泉の郷でも緑の郷でもない別の世界!?
阿鼻叫喚の会議室にその勢いのままに飛び込む。
「……!」
触手に捉えられそうになっていた茶色いリスのような生き物を満が抱えて横飛びに飛んだ。
灰色の奇妙な存在――これが妖しげな気配の正体だ――と、小さな生き物達が
あちらこちらに見える。ムープとフープ、フラッピとチョッピの姿もそこにあった。

「ムプーッ!?」
ムープに迫る触手を薫が蹴り飛ばす。「満!」
満と薫は近づくとそれぞれの片手でバリヤーを張った。
小動物たちと謎の存在がバリヤーによって遮られる。満は茶色いリスを床の上に降ろした。
両腕できちんと張らないとバリヤーが持ちそうにない。
「き、君達、誰ナツ?」
「いいから早く逃げなさい! フラッピとチョッピは咲たちのところに行きなさい!」
小動物たちは満と薫の存在に戸惑っていたが、
「みんな、いくラピ! 満、薫、後は頼むラピ!」
というフラッピの声で一斉に出口に向って駆け出す。

「薫。少し時間稼いだら、いくわよ」
「ええ、分かってるわ」
小動物たちが出口の向こうに消えるのを待ってから――、
「はああ……」
と二人は気合を込めた。赤い光球が二人の間に出現する。
バリヤーを解除した二人の上から襲いかかろうとしていた怪物に直撃する攻撃。
どんな存在とて、この光球を受ければ相応のダメージは受ける。ましてこの至近距離では……。
「……ッ!?」
だが目の前の怪物は球を受け止めるとそのまま飲み込むように身体に包み込んだ。
「いい力だ」
その声が地を振るわせる。怪物の身体がゆっくりと盛り上がった。
はじけるように三体に分裂したそれは満と薫の脇をすり抜け精霊たちの後を追う。
「しまった!」
後を追おうとした満と薫の前に更に分裂した怪物の一部が立ち塞がる。
形勢逆転。先ほどまで怪物の足止めをしていた満と薫が今度は足止めを食わされている。

だが二人はご丁寧にこんなものに付き合っている気はなかった。
一瞬顔を見合わせた後、二人揃って駆け出す。勢いに任せて繰り出した拳は怪物の身体を
えぐる。穴は開かない。
跳ね返された二人の前で怪物の身体は溶けた粘土のように形を変え、
ゆっくりと元に戻っていった。
――だったら……
床を蹴り跳び上がると、二人の足が同時に怪物の中央へと叩き込まれる。
刃のように飛び込んだ二人の脚が怪物の身体に開けた穴はそのまま通路となるはずだ。
だが、恐ろしいほど手ごたえはなかった。逆に怪物に飲み込まれそうになった二人は勢いを
つけて後ろに跳んだ。
「どうする、薫?」
「……」
止むを得ない。薫は覚悟を決めた。とにかくこの建物から外に出られなければ精霊達を
追いかけることもできない。
「こっち!」
二人はくるりと後ろを向くと会議場に向って走りだし、
「はあっ!」
蹴りを一発、壁に穴を開けるとそのまま穴の中を駆け抜け、
「どこに行くの!?」
「分からないけど、精霊達のところへ!」
会議場から走り出ると、二人はまた身体が浮き上がるような感覚を覚えた。
目を閉じてなるがままに任せる。時間が少し経過する。気がつけば大空の樹の前である。
先ほどまでこの場所では怪物とキュアブラック、キュアホワイト、シャイニールミナスに
よる激闘が行われていたが二人はそこまでは気づかなかった。
「……どういう仕組み?」
「さあ?」
満と薫は立ち上がり目を疑う。

海の向こう――横浜という大きな港がある方向――の空が暗く染まっている。
会議場で感じた妖しげな気配が今は巨大なものとなり、満と薫の肌を細かく震わせている。
とてつもなく嫌な気配だ。何かがあの場所に存在している。

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