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第五話

「くっ……ここは……!?」
身動きの取れないままにダークドリームと満は自分たちがデザート王国からどこか
別の場所に連れ出されたのを感じた。
地面の上を這いながらなんとか拘束を解こうとするが中々解けない。
ダークアクアの姿をしたミズ・シタターレはそんな二人を見下してから
「さあて、ここだったらやっと私の力が出せるわね」
と芝居がかった言い方で言う。ウザイナーはいつの間にか姿を消していた。

満にはミズ・シタターレの言っている意味が理解できた。この場所には滅びの力が
強く充満している。薫と一緒に行ったダークフォールに良く似た場所よりもさらに強い。
――早く何とかしなくちゃ……!
満は自分の腕にはまった氷の拘束を解こうと全身に力を籠める。
ミズ・シタターレはそんな満の様子にはまだ気づいていないようで、自分の胸にある
ダークアクアのクリスタルをぽいと投げ捨てた。

「もうこれはいらないわ……!」
満足げなその叫びと共にダークアクアの姿が溶けていく。ダークドリームは
その姿を見てはっと身を起こし、地面にダークアクアのクリスタルが転がっているのを
目にした。
――ダークアクアのクリスタル……! 絶対に守らなきゃ!
一旦水になってばしゃんと地面を濡らしたミズ・シタターレが本来の姿を取ってゆっくりと
身を起こす。

「ええいっ!!」
二人が同時に拘束を外した。「何!?」と姿を取り戻したばかりのミズ・シタターレが
目を剥く。
その隙にダークドリームはさっと地面に落ちたダークアクアのクリスタルを拾い上げると、
即座に自分の胸に収める。自分のクリスタルが少し熱を持ったような気がした。

「ふう〜ん……じゃああんた達、私の水の力に勝てるかしら!?」
ミズ・シタターレが扇子を一振りすると満とダークドリームが立っている場所めがけて
壁から水流が噴出した。


「どわあああああ!」
満とダークドリームがさっと避けたその場所に何かが落ちてくる。
突然聞こえてきた男の悲鳴に満とダークドリームはぎょっとする。
水煙が少し晴れてきたころ見えた姿はウエスターとサウラー、それに薫だった。
「薫!」
はあはあと荒い息をついてよろけながら立ち上がる薫を満が支えに走る。
「満!」
薫の顔がほっとしたようにほころんだ。そんな二人を見てダークドリームは
――いいなあ……
と、つい思ってしまう。満が薫に会えてよかったというより、羨ましさの方が先に立った。
先ほどのミズ・シタターレの攻撃を一身に受けることになってしまってのびている
ウエスターをサウラーが支えて立ち上がらせた。思ったよりは傷がないのを見て、
「頑丈でいいな、君は」
「るせー! 痛いもんは痛いんだ!」
とやりあう。ダークドリームはこの二人のことを知らなかったが、
――薫ちゃんの友達なんだね、きっと。
と細かいことは気にしなかった。

「ああら、キンちゃん。そんな姿になっちゃって」
向こう側でも再会だった。ダークレモネードの姿をしているキントレスキーが珍しいのか、
ミズ・シタターレが上機嫌そうにダークレモネードの頭をぽんぽんと叩く。
「馬鹿者、戦士の姿を馬鹿にするな!」
「あらあら」
「だがここに来たからには私の本来の力が発揮できそうだ」
キントレスキーが黄色のクリスタルを投げ捨てる。
はっと薫たちが気づいた時にはダークレモネードの姿は溶け、
黄金の肉体を持つキントレスキーの姿が現れ始めていた。
「おい、あいつの正体あんなだったのかよ! 詐欺じゃないか!」
「……外見に騙された君が悪い」
ダークドリームはたっと駆けると、ダークレモネードのクリスタルをぱっと拾って
後ろに戻る。シタターレもキントレスキーも、もはやクリスタルには何の興味も
抱いていなかった。彼らにしてみれば、別の世界で形を取るための道具に過ぎない。
当面は必要がないのだ。
薫はダークドリームのその動きを見て今まで持っていたダークミントのクリスタルを
彼女に渡す。
「ダークミントの……ありがとう!」
これでとにかく、全員のクリスタルは無事に確保できた。ダークドリームは
少しだけほっとした。


「うおおおおおっ!」
完全に元の姿を取り戻したキントレスキーが雄たけびを上げると、
ウエスターめがけて突っ込んでくる。
「なな、何で真っ直ぐに俺に来るんだよ!」
「それだけ身体を鍛えていながら戦士としての心構えが足りん! 精神面をもっと鍛える
 ことが必要だ!」
キントレスキーが放つジャブをウエスターは交わしながら何とかそのパンチを受け止めるが
「うぐぐぐぐ……」
両者の腕の力が真っ向からぶつかりあう。
ウエスターの靴が床に擦れて煙を出しながらずるずると後ろに下がっていく。
――やべっ……!
ウエスターは隙を見てばっと手を離すと後ろに跳んだ。そこにキントレスキーの影が
上空から襲いかかる。
「ウエスター!」
薫がキントレスキーの真横から急襲すると顎を蹴り上げる。体勢を崩したキントレスキーに
サウラーが迫るが、
「ええい! 今は力と力で勝負しなければならない時だ!」
とキントレスキーは地面を殴って割り薫とサウラーを一瞬ひるませると
ウエスターに迫る。

「ぼーっとしてんんじゃないわよ!」
ミズ・シタターレは水球を作り出すと満とダークドリームに向かって放った。
ぱっと二人が避けるとその場所に氷の柱が突き出て二人はそこに激突する。
叩きつけられたダークドリームだったが、自分の胸の辺りが先ほどと同じように
少し熱くなっているのを感じた。
「もしかして……! 満ちゃん!」
ダークドリームが満を見て目で合図をする。
細かい意味までは分からなかったがとにかく何かをしようとしているのは分かったので、
「ミズ・シタターレ!」
と叫んで彼女の注意を自分に引き付けると両手にエネルギー弾を迸らせ
彼女に迫る。
「ふんっ!」
シタターレが作った水のバリヤーをエネルギー弾が突き抜ける。
一つ、二つとエネルギー弾を回避しバリヤーの向こうに三つ目が見えた――
「ちょっとなんか大きすぎない!?」
バリヤーを突き抜けてダークドリームの身体がシタターレに突っ込んでくる。
彼女はそのまま突っ込むと見せかけて
「ダークネスチェーン!」
と胸から金色の鎖を放つとミズ・シタターレを捕縛した。
「なに!」
ウエスターとなぐり合っていたキントレスキーがそれに気づく。
「薫!」
と満は薫と手を合わせ、紫のエネルギー波をシタターレに放つ。
「させんぞおお!」
とウエスターを放ってキントレスキーはそのエネルギー波を両手でガードする。
「ここで、決めないと!」
満と薫も全力を籠めてエネルギー波に力を入れる。
「ええい!」
とシタターレがチェーンを引き裂いた。チェーンを引っ張っていた形の
ダークドリームが転がるが、しかし、それはもう遅かった。
満と薫のエネルギー波を受けてキントレスキーとミズ・シタターレは消滅した。


「あ〜……」
緊張から解き放たれて、その場にいた五人は思わず崩れた後互いに顔を見合わせた。
「ねえ、薫ちゃんと一緒に来たあなた達は?」
とダークドリームが口火を切ってウエスターやサウラー、ダークドリームたちが
簡単に自分たちのことやフィーリア王女から聞いたこと、ミギリンヒダリンから聞いたことを
説明しあった。
「それで、ここはどこなのかしら?」
薫の言葉に合わせて皆が辺りを見回す。各世界のように人々が住人達がいる国という
感じもしなかったが、ダークフォールのようにごつごつとした岩肌がむき出しになっている
という感じでもない。今座っている地面は石のタイルのようなものをはめ込んで
できているようだし、壁も人の手が入っている。少し辺りを歩き回ってみると、
何かの巨大な装置のようなものが見えた。
「誰かここにいたんじゃないか?」
サウラーがそうつぶやく。確かに、ここは誰かがいたようである。
装置には目盛のようなものもついて、何かの計器のようでもあった。
「でもここ、滅びの力がすごく強いわ。昔のダークフォールみたいに」
満は装置を見上げながらそう答えた。この装置の周りは特に、滅びの力が強い。
まるでここに滅びの力の源流があるかのように――と、薫も感じていた。

「光のエネルギーの調節をするための場所さ」
誰かの声がして一同はそちらに目を向ける。とん、と着地してきた少年には誰も
見覚えがなかったが少年の方は
――そういえばフェアリーパークで見かけたような……
と思っていた。
「あなたは?」
満が尋ねると、
「入澤キリヤ」
と彼は答える。この人が、と一同は色めきたった。その様子にキリヤは
――何で僕のことはこんなに知られているんだろう?
と驚いていた。

「それじゃあ、ここ、何とかならないの? ここでどうにかして
 光のエネルギーが各世界を周るようにしないとこのままじゃ……」
「分かってるよ。でも」
キリヤはこれまで自分がずっと調整してきた装置を見上げた。今は
滅びの力が取りついているものの落ち着いているように見えるが、
「ここから滅びの力を除かないとどうしようもない。でも、それは難しい」
はっと驚いたように薫が装置に目をやった。満も同じだ。装置から感じる
滅びの力が急速に大きくなり始めた。
「みんな、離れて!」
咄嗟に大声を上げてみんなに注意を促すと、六人とも装置から離れるように
跳び散る。
黒く輝いていた装置が輝きを喪った。装置の中から染み出すように、
濃い紫の液体が姿を現す。滅びの力そのものといってもよい姿の
それは装置から湧き出してくるとフュージョンのように金属的に光る身体をどろどろと
液状に動かしやがてにゅっと鎌首のようなものをもたげた。

「探す手間が省けましたな。入澤キリヤ殿」
その声に満と薫は聞き覚えがあった。
「ゴーヤーン!?」「あなたがどうして!?」
二人を無視してゴーヤーンの声はキリヤに呼びかける。
「光の欠片はどこにやりました?」
「……」
キリヤが答えないでいると、
「だんまりですか。そうだろうと思いましたが。やはりすべての世界から光の
 欠片を探し出すほかはなさそうだ」
ぐおん、と低い音がする。装置につけられた目盛の針が振り切れそうなくらいに大きな
値を示していた。滅びの力の流れが強くなっている。
「ゴーヤーン!」「やめなさい!」
満と薫がぐっと身構えた。

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