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「せっつなー、あれ?」
ラブはのぞみとの電話を終えて、まだ買い物から帰ってこないせつなを
探しに丘まで来ていた。見知らぬ男の子と二人でいるせつなを見て
「友達?」
と尋ねながら近づく。
「ううん、あのねラブ」
切羽詰まった口調でせつなは話し始める。その様子にラブは「ん?」と首を傾げた。
「この人、入澤キリヤ君なの」
と言ってまだぴんと来ていないらしいラブに、
「ほらほのかさんの!」
と思い出させる。
「あ! ……あなたが!? 入澤キリヤ君!? ほのかさんを捨ててどっかに行った……」
「待て何でそんな話になってるんだ!?」
「違うわよ、ラブ! ほのかさんのことを助けて、それでどこか別の世界に行ったのよ」
「え、あ、そうだっけ……」
何なんだこの子たちは、とキリヤは思っていた。自分とほのかのことを知っているということは
今やって来たこの女の子もプリキュアの関係者なのだろうが、しかし随分
ずけずけと物を言ってくれるものだ。キリヤのそんな感想をよそにラブは
強引にキリヤの腕をつかむ。
「とにかく、ほのかさんのところに行こうよ! 連れて行ってあげるから!」
「嫌だ、会えない」
「どうして」
「会っても仕方ない」
「何でそんなこと言うの!?」
「僕はほのかさんのいる世界を守れないんだ! だから!!」
「待ってそれどういうこと!?」
声を荒げたキリヤの言葉にラブは驚いて大声をあげた。
「あなたさっきも言ってたわよね。もう終わるとか、そんなことを……いったい何が起きているの!?」
「言ったって無駄だよ。もう駄目なんだ。ぼくはこの世界を守れなかった。
 それに君たちだってもうプリキュアじゃあないんだろう?」
「だったら!!」
とラブが食い下がる。
「だったら、ほのかさんに謝りに行って! 世界が守れなかったこと!」
「えっ?」
キリヤが呆気にとられた隙をついてラブは持っていた電話でなぎさに連絡を取る。
「もしもし、あ、桃園といいますがなぎささんいらっしゃいますか? はい、……あ、
 なぎささん、今こっちに入澤キリヤ君がいるのでこれから連れて行きますから、
 ほのかさん捕まえておいてください」
「お、おい、ちょっと!」
「なぎささんがほのかさんと一緒に待っててくれてるって」
ラブは電話を切るとキリヤにそう笑った。
「だから、一緒に行こうよ」
――何て強引なんだ。
キリヤは内心ひどく呆れていた。やはりプリキュアに関わるとタダではすまない。
「行くよっ!」
ラブにそう決められてしまってキリヤは仕方なくラブについていった。

 * * *

なぎさとほのか、それにひかりは若葉台のTACOカフェでキリヤを待っていた。
ラブの電話ではどうしてキリヤが四つ葉町にいるのかなど分からないことだらけだったが、
とにかく待つことにしたのだ。
なぎさもほのかも、落ち着きがなかった。店の手伝いをしていたひかりにもそれは分かった。

「なぎささーん、ほのかさーん!」
「ラブ!」
小一時間も待ったころ、ラブが大きな声でなぎさとほのかの名前を呼ぶ。
なぎさとほのかが立ち上がると、ラブの後ろにキリヤとせつながいるのが見えた。
ほのかはきゅっと拳を握った。フェアリーパークでの再会以来、会うのは一年ぶりだ。
「……キリヤ君」
キリヤがほのかのすぐ目の前にやってくる。キリヤはほのかの顔をまともには見られないと
いうような表情をしていた。
「あ、私たちあっち行ってるね」
なぎさは気を利かせてラブとせつなを連れて別のテーブル席へと移動する。
丸テーブル席にはほのかとキリヤが向かい合って座る形になった。

「……」
「……」
二人の間に気まずい沈黙が流れる。
なぎさとラブにせつな、それにひかりがはらはらしながらほのか達のテーブルの様子を
見守っていた。

「あの……すみません」
先に口を開いたのはキリヤの方だった。
「どうして謝るの?」
「僕はあなたのいるこの世界を守れなかったから」
「どういう意味? ……キリヤ君、そもそもあなたは今までどこにいたの?」
「光でも闇でもない場所です。どこの世界にも属さない」
「……?」
それはつまりどこなのか。ほのかがそう思っているとキリヤ自身が答えを告げた。
「光のエネルギーと闇のエネルギーのバランスを調整する場所です。
 二つのバランスが崩れると、また大変なことになります。だから僕が調整していたんです。
 特に、光の園とドツクゾーンとの戦いが終わった直後はかなり不安定だったので
 僕はちゃんとシステムを作りたいと思っていました。誰も見ていなくても
 安定化するような仕組みを作りたかったんです。
 そこまで済ませてからでないとほのかさんには顔を見せられないとも
 思っていました。でも……」
キリヤは自嘲的に笑った。
「そんな仕組みができる前に、今回のことが起きてしまいました。あの遊園地で、
 ほのかさんに会ってしまったからかもしれないですね。自分で決めたことを破ってしまったから」
「そんな……ことない!」
ほのかが否定するのにキリヤは「まあ、それは誰にも分からないことですから」と応じる。
「それで今回のことっていうのは、何?」
「なぜか滅びの力がやってきたんです。あの場所は何としても守りたかったんですが、
 僕は……」
言いにくそうにキリヤは一度言葉を切ってから続けた。
「負けました。だから逃げてしまったんです」
「負けた……って……?」
「あの場所を奪われてしまいました……今、光の力の代わりに各世界を滅びの力が
 流れているんです」
「どういうこと? これからどうなるの?」
「光のエネルギーが届かなくなった世界はゆっくりと死んでいきます。
 幸い、あの場所の光のエネルギーを司っている光の欠片は飲み込まれる前に持って
 逃げ出すことができたので急速にではありませんが。でも、」
もうだめです。キリヤはそう言った。
「だめって! そんなことないでしょ!? 何か方法が……」
「方法なんてありません。もう無理です。……プリキュアだって、もう今は
 いないんでしょう?」
ほのかは脳天を殴られたような気がした。本当だったら、こんな話を聞いたら
なぎさと一緒にすぐにでも変身してその現場に駆けつけている。今ここにキリヤを
連れて来たラブたちだってそれは同じだ。それなのに、今はそれができない。
世界の危機を知らされても、ただこうしてじっとしていることしかできない。……

「待って」
向こうのテーブルにいたラブが立ち上がる。ほのかとキリヤの会話は、ラブたちの
テーブルのところまで聞こえていた。
「諦めるのはまだ早いと思う」
「どうして。君だって、もうプリキュアになれないじゃないか」
「満と薫がそこに行ってるかもしれないから」
「満さんと薫さんが!? どうして?」
ほのかが目を丸くした。キリヤは、それは誰だと思いながら話を聞いていた。
「さっきのぞみちゃんから電話があったんです。異変が起きているみたいだからって、
 満ちゃんと薫ちゃんが異世界に出発していったって……」
「どうして!? 二人にはまだ力があるの?」
こくんとラブは頷く。
「滅びの力が使えるからって……」
「滅びの力?」
今度はキリヤが驚いた。
「どうしてそんな者たちが知り合いなんです?」
とほのかを見る。
「キリヤ君と似たようなことよ。咲さんと舞さん……キュアブルームと
 キュアイーグレットの友達なの。でも、じゃあその二人が行ってくれたのね」
「ええ。だから、諦めるのはまだ早いよ。まだ何かできることはあるんじゃない?」
とラブはキリヤに目を向けた。
「……」
キリヤはラブからまぶしそうに眼を逸らす。

「ねえねえお姉ちゃん、飲み物運んでって」
その場に似合わない子供の声が響いた。みんなが思わずそちらに視線を向けると、
アカネさんに何か言われたらしいひかるがひかりの手を引っ張っている。

「……あれは?」
とキリヤがほのかに目を向けた。
「ひかる君のこと?」
「ひかる君?」
「ひかりさんは光の園のクイーンの命だけど、ひかる君はジャアクキングの命だったの。
 今はこちらでひかりさんの弟として暮らしているけど……」
「ジャアクキング様の命、ですか。彼がそうなんだ……、
 あなた達はやはり大変なことをしたもんですね」
ひかりがアカネさん特製のしぼりたてジュースを運んできて各席に配る。
なぎさはキリヤたちの会話を聞きながらもせつなと、
「これ『しぼりたてフレッシュジュース』って言って売り出すらしいんだけどさ、
 せつなたちひょっとして変身するところアカネさんに見られた?」
「ええっ!? そんなことなかったと思うんですけど」
といったのどかな会話を交わしていた。

「あの、」
ジュースを置いてからひかりはキリヤに声をかける。キリヤがひかりに目を向けると、
「さっきのお話なんですけど、私とひかるにもお手伝いさせてもらえませんか」
「えっ」
「さっきの、光のエネルギーを流すための仕組みをつくっているというお話。
 タコカフェのお手伝いもありますから一日中そちらに行くわけにはいきませんけど、
 少しでも。私とひかるが手伝った方が、早く終わると思うんです。
 そうすればキリヤさんもこちらに戻ってこられますし……」
「えっ、いやその」
ひかりの言葉にどう反応しようか戸惑っているキリヤにラブは、
「そうだよ、大人数でやったほうが早く終わるって!
 それにちゃんと安定してからじゃないとほのかさんに顔見せられないって言うけど、
 ほのかさん、途中でも顔見たかったんじゃないかな」
と詰め寄る。あの、ラブさん、とほのかが軽く言うと、「あ」と呟いてラブは黙った。

――ラブ……
見ているせつなは、ラブに自分のことを言われたような気がした。
キリヤの気持ちは分かる。詳しい事情は分からずとも、何か大切なことを
しようと思ってこの世界を離れたのならそれを成し遂げてから
この世界に顔を見せようと思うのは当然のことだ。自分もそう思ったから、せつなには
その気持ちが理解できた。

――でも、ラブやほのかさんは……?
せつながそう考えている横顔をなぎさはじっと見つめていたが、
「せつな」
と声をかける。
「あ、はい」
「たまに……なんだけどね。ラブ、私たちと遊んでるときせつなの話が出ると
 すごく寂しそうな顔をしている時があるよ」
「……」
せつなは何も言えなかった。黙ってしまったせつなを見てなぎさは慌てて、
「ごめんごめん、余計なこと言っちゃった」
と謝るとわざとらしく「あージュースおいしい」と自分の前のジュースを飲む。
ひかりの後ろにくっついているひかるを手招きして
「アカネさんにお代わりあるかどうか聞いて来てくれる?」と
コップを渡した。


「いや、ちょっと待ってください」
キリヤは自分のペースに話を戻そうとする。
「手伝うって言っても、そもそもその場所が滅びの力にとられてしまった今、
 そんなことを考えても仕方がないんです」
「そこはたぶん何とかなるよ、だって満と薫が行ってるんだから」
「そんな簡単に言っても」
「ねえ、キリヤ君」
ほのかが静かに声を上げた。
「私にできることって何?」
「え?」
「まずその場所を取り戻して滅びの力を抑えるために、私にできることは何?」
何を言っているんだこの人は、とキリヤは思った。何もできることはないと
散々説明したつもりである。大体今、この人はプリキュアに変身できないというのに……、
「ありません」
「あるはずよ。何か」
確信を持ってほのかは答えた。
「どうして」
「今、聞いたでしょう? 満さんと薫さんが頑張ってるって。
 二人が具体的に何をしているかは分からないけど、私たちの仲間が頑張っているのなら」
ほのかは空を見上げた。青い空を背景に白い綿雲が浮かんでいる。
こうしていると世界が危機に瀕しているとはとても思えない――、
「諦めるのはまだ早いと思うの」
「……、」
キリヤは呆れたように息を吐いた。
「それは僕には分かりません。自分で考えてください」
「そう。じゃあ、そうするわ」
「……僕、もう行きます」
キリヤはジュースを飲み干して立ち上がる。
「え? どこに行くの?」
「……もう一度、あの場所に戻ってみます。もしかしたらその、満と薫という
 二人がその場所にいるのかもしれませんからね」
「キリヤ君……」
「これ、持っててもらえませんか」
キリヤはそう言うと、ほのかにぽんと光る石のようなものを放ってよこした。
「これは何?」
「さっき話した、光の欠片です。それがあれば、光のエネルギーを再び
 各世界に流すことができるかもしれない。でもそれを奪われたらお終いです」
「分かったわ」
ほのかはぎゅっと光の欠片を握りしめた。キリヤはタコカフェから少し離れた場所で
姿を消していった。

 * * *

キリヤが元の世界に戻っていくのを見送ったのち、ラブとせつなは
電車で四つ葉町への帰路についていた。
車窓から見える空を見ながら、せつなは
――ウエスターやサウラーももしかしたら……
と思っていた。

普通に考えれば、彼らとてラビリンスに閉じ込められたまま他の世界に
行くことはできないはずなのだが、何となく彼らも満と薫の戦いに協力している
様な気がした。

「ねえ、あのねせつな」
せつなの様子を見ながらラブが声をかける。無言でせつながラブの方に目をやると、
「さっき、ほのかさんとキリヤ君見てて思ったんだけど、私、せつなの一生懸命
 頑張っている気持ちは分かるよ。分かるんだけど……『自分の仕事に納得がいくまで』
 なんて言ってないで、うまくいかなかったときや落ち込んだときにも
 私のところにきてほしいんだ」
駄目かな? というようにラブはせつなの目を見た。
せつなはラブの手を取るとその手を包み込んで、
「……ありがとう、ラブ。次からはそうするわ」
と応えた。

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