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「うっわあああ!」
フィーリア王女の元から出発した薫、ウエスター、サウラーの三人も満たちと
同様いくつかの世界を巡っていた。
滅びの流れに乗って泳いだ後、他の世界に到着するときは
なぜか必ず空から落下という形態をとる。薫は空を飛べるもののウエスターと
サウラー、二人分の体重を完全に支えるのは難しいのでぎりぎりまでは
粘るものの最後の方で男二人は地面に落ちる形になる。サウラーは二つ目の世界くらいで
ウエスターを下敷きにするとそんなに痛くないということを発見していたので
ここでもウエスターを下にしてその上に着地していた。
「痛ってえ……」
地面に落ちた時に顔面を打ち付けたらしいウエスターが、サウラーが背中からどいてから
顔を押さえて立ち上がる。
毎度繰り返されるこの光景に
――この人そんなに頑丈なのかしら。
と薫は半ばあきれていたが何も言わずに新たにたどり着いた世界の方をみまわす。

「あそこに門があるようだが」
まだ顔を押さえているウエスターのことは無視してサウラーが少し離れた場所を指さす。
「行こう」
と薫とウエスターに声をかけ、一行はその門に向けて進んでいった。
門からは何か楽しげな音楽が聞こえてくる。どこかで聞いたような曲だと薫は
思ったが、みのりちゃんが以前見ていたテレビ番組でかかっていた
童謡だと思い出した。

「こらっ!」
門から中に入ろうとしたら、右手にある小屋のような場所から衛兵らしき人物が姿を
表す。サウラーは門にかけていた手を引っ込めた。
「勝手に入るな! わしの目の黒いうちはここを通すわけにはいかん! パスポートを見せろ!」
パスポート……? と三人は顔を見合わせた。
「なあ、持ってるか?」
ウエスターが小声で薫をつつく。
「そんなもの、持っていないわ」
「だ、だよなあ……」
「やれやれ」
サウラーはわざとらしいため息をつくと、
「これでいいかい?」
とポケットから引っ張り出したラビリンスのパスポートをサウラーに見える。
「うむ、よろしい。入国を認める」
衛兵はそう言って引き下がる。
「サウラー、すげーな! ちゃんと持ってるんだな!」
「君だっていつラビリンスの外に出るかも分からないんだからいつも
 携帯しておくように言っておいたじゃないか」
「いやあ、いつも持ってるの面倒くさくてさあ」
サウラーとウエスターがそんな風に言い合っている横で薫は小屋の中に引っ込んだ
衛兵を再び小屋の外に呼び出していた。
「聞きたいことがあるのだけれど」
「なんだ」
「私に良く似た霧生満という人が来なかった? あと、入澤キリヤという人」
「知らん。そんな者たちなどきておらん」
「あなたはここの世界に来た人のことは皆知っているのかしら」
「当然だ」
「……そう」
やはりこの世界にも尋ね人は来ていないらしい。これまでのどの世界でもそうだった。
「この世界はなんという世界なの?」
「おもちゃの国だ」
光のエネルギーの調節場所でもない。薫はこの世界にいても仕方がないかと思い始めたが、
ウエスターとサウラーはおもちゃの国という言葉に反応した。
「おもちゃの国って、キュアパッションたちが来たところなんだろ」
「ああ……そうらしいね」
「あれ? お前たちあのプリキュアの知り合いか?」
「ああ……」「まーなっ!」
サウラーが冷静に、ウエスターが得意そうに答えると、
「そういえばラビリンスって書いてあったな、さっきのパスポート」
と衛兵は思い出したらしかった。サウラーは内心ぎくりとしていた。
ラビリンスの評判は極めて悪い。メビウス時代に全パラレルワールドの
支配をしようとしていたから仕方がないのだが、ここで無用のトラブルに
巻き込まれるのは避けたい。

「ラビリンス出身のおもちゃたちが集まっている場所があるぞ」
「え? ラビリンスにはおもちゃはないはずだが……?」
「そんなことは知らん。とにかく集まっている場所がある」
それを聞いて、少し寄り道をしていってもいいかなとサウラーは薫に確認し、
薫が頷いたので衛兵に教えてもらった場所に行くことにした。

「なあサウラー、早いとこ次の世界に行った方がいいんじゃないのか」
サウラーの意志が分からないウエスターが尋ねると、
「もちろんそれはそうだが……ラビリンスのおもちゃ達というのに興味があってね。
 君も知ってのとおり、ラビリンスにおもちゃはない。だから今、子供たちに
 おもちゃを使って遊ばせるのにすごく苦労しているわけだが」
「ああ」
「ラビリンス出身のおもちゃというのがどういうことなのか興味があってね」
薫は耳の端でそんな会話を聞きながら、目はおもちゃの国に住む様々な
おもちゃ達を追いかけていた。
おもちゃ達はどれもこれも可愛らしい。みのりやみのりの友達が持っていそうな
おもちゃもたくさんある。

衛兵に教えてもらった場所にもおもちゃ達が集まっていた。
見たところはこれまでに見たおもちゃ達と変わらない。
「君たち、誰?」
好奇心を覚えたらしい犬のぬいぐるみが近寄ってくる。
「……ラビリンスのサウラーだ」
「ラビリンス?」
犬の顔はぱっと輝いた。ぱたぱたと尻尾を振る。
「迎えに来てくれたの?」
「迎えに?」
何のことだという表情をサウラーが浮かべると、なあんだと犬は
がっかりしたように俯いた。

「僕たちね、早くみんなのところに帰りたいんだ」
「ラビリンスの子供たちのことかい?」
「そう」
「いやしかし――ラビリンスにはおもちゃがなかったんだが……」
「そんなことないよ!」
ぬいぐるみは怒ったように語気を荒げる。
「僕たちがいたんだもん。メビウスっていう人の命令が出るまで、僕たち
 ずっと子供たちと一緒にいたんだ」
「あ……」
そういうことか、とサウラーは思った。ラビリンスの統治権がメビウスに移って以降、
おそらく早々におもちゃの禁止令が出たのだろう。そんなことは歴史の教科書には
載っていなかったけれど。子どもたちの手から取り上げられたおもちゃ達は
おもちゃの国に来ていたというわけだ。

「じゃあ、君たちはラビリンスにいたんだな」
サウラーが信じてくれたのが嬉しかったのか、犬のぬいぐるみはサウラーに
じゃれついてきた。
「うん、そう!」
「そうか……」
サウラーの表情が曇った。
「どうした、サウラー」
ウエスターが不思議そうに声をかける。
「どうしたの?」
犬のぬいぐるみもくりくりとした目でサウラーを見上げた。
「……君のことを可愛がってくれたラビリンス人は今はもういないかもしれない」
「えっ!? なんで!?」
「時間が経ってしまったんだ。君たちがラビリンスにいた頃のことを
 知っている人たちはもういないんだよ」
「……」
犬のぬいぐるみは黙って尻尾を垂らした。
「サウラー! なんでそんなことを言うんだよ!」
その様子を見ていてかわいそうになったのかウエスターが怒鳴る。
「事実なんだから仕方ないじゃないか。……それで、君たちにお願いがあるんだ」
「お願い?」
サウラーは犬のぬいぐるみを抱き上げ、さらに他のおもちゃたちにも目を向ける。
「もしよかったら、ラビリンスにまた戻ってきてくれないか。今は世界間の
 移動ができないけど、できるようになったら。
 ラビリンスの子どもたちは今おもちゃがなくて困ってるんだ。子どもたちの
 ために、また戻ってきてほしい」
頼む――そういうと、おもちゃ達は考え込んでいるようすだったが、

「僕、行く」
と犬のぬいぐるみが声を上げた。
「本当に?」
「うん、僕ラビリンス大好きなんだ。みんな優しくしてくれたんだよ。
 だから、ラビリンスの子供とまた仲良くなりたいんだ」
「そうか……ありがとう」
サウラーは犬を地面に下ろした。他のおもちゃたちはまだ悩んでいる様子だったので、
「いずれにしても今はまだ移動できないから考えていてくれ」
といって話を止める。サウラーは涙が出そうだった。「ラビリンス大好き」なんて
言葉はもうずっと聞いたことがない。
他の世界の住民からはもちろん、ラビリンスの住民にも「ラビリンス大好き」と
言う者はそうはいないだろう。今のラビリンスはそういう状態だ。
ラビリンスの復興のために激務をこなしているサウラーだったが、
――僕はこんな小さな一言を聞きたかったのかもしれない……
サウラーはそんなことを思った。

そんな様子をずっと無言で見ていた薫だったが、何かに気づいたように空に視線を向ける。
青空が広がっていたおもちゃの国だったが、その一角に黒い点のようなものが見えた。
ぞくりと背筋に悪寒が走る。良く知った者――しかし、あまり会いたくない者――が
近づいてきているという予感があった。
「どうした?」
薫のそんな様子に気づいたようにウエスターが尋ねると、
「危ないわ! 安全な場所に逃げていて!」
と薫はラビリンス出身のおもちゃ達に告げると走り出す。
「おい、待てよ!」
ウエスターとサウラーも薫に続いた。三人はおもちゃの国の入口まで戻り、
先ほど三人を止めた衛兵がのびているのに気が付いた。
「おい、大丈夫か!」
ウエスターが駆け寄る。
薫とサウラーは衛兵を殴ったであろう人物を見ていた。

「……キントレスキー……?」
薫が確認するように尋ねると、ダークレモネードの姿をしたその人物はふふんと笑う。
「よく分かったな、薫。外見に囚われずに本質を見抜くのは戦士の基本だ」
「えーと……」
ウエスターとサウラーは戸惑ったように厳しい表情の厳しい表情の薫と
ダークレモネードの姿をしたキントレスキーを見比べる。
――な、なんかプリキュアに似てるけど小っちゃい女の子じゃねーか……
  三人がかりで闘う必要もないんじゃないか?
かつて自分が対峙したプリキュアたちとも更に幼い様子が、ウエスターに
そんな思いを抱かせる。
ここは薫だけに任せた方がいいんじゃないか、ウエスターはそう考え始める。


「ここは任せたぜ」
ウエスターはそういうと、サウラーの肩をつかんで後ろに下がろうとした。
「え? おいウエスター!」
「いいから。あんなちびっこに三人がかりってわけにもいかんだろ」
「馬鹿者! 敵に後ろを見せるな!」
後ろから突然ダークレモネードに怒鳴られた。……と思った瞬間、
二人の背中の中心に重い蹴りが入る。
「わあっ!?」
すっかり油断していた二人は思わず前に倒れこんだ。
「キントレスキー!」
飛び込んできた薫の蹴りに腕を合わせてガードすると、キントレスキーは
起き上がってきたウエスターとサウラーを後頭部から殴りつける。
「やめなさいキントレスキー!」
薫が放った赤黒い滅びの弾をキントレスキーは拳ではじくと、
「馬鹿者! 戦いの場で敵に後ろを見せるようなものを庇うな!」
と叫ぶ。
ウエスターとサウラーはやっと体勢を立て直すとダークレモネードの姿をした
キントレスキーに向き直った。
「お前ー!」
さすがにウエスターが怒鳴ってキントレスキーに突進すると、
キントレスキーは足を細かく動かしてウエスターに蹴りを入れて最後は殴り倒す。
だがウエスターはすぐに立ち上がった。
いつもと比べてキントレスキーの打撃の威力がない。やはり筋肉がいつもより
少ないから、と薫は思った。
「サウラー!」
薫とサウラーは左右に分かれ同時に攻撃をしかける。だがダークレモネードの姿をした
キントレスキーは二人をそれぞれ片手で受け止めると、二人の身体をウエスターに向けて
投げつける。
「ぐえ!?」
二人の体重をまともに食らってウエスターは地に倒れた。
「やはりこの身体では十分なことはできないようだな」
キントレスキーはそう呟くと、
「はあっ!」
と身体に力を籠める。ダークレモネードの身体が黄金色に輝き、
地中に埋まっていた金属が顔を出したかと思うと、ダークレモネードの身体が
そこに徐々に吸い込まれていく。
「う……!?」
「うわあああっ!?」
薫たち三人もそこへと吸い込まれていった。

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