前へ 次へ

第四話

「わあああああ……」
鏡の国を飛び出した満とダークドリームは、猛スピードで世界と世界の狭間の空間を
飛び回っていた。
世界と世界の間を川のように流れる滅びの力の流れに乗っていくと、
たまに他の世界が現れてくる。
二人とも最初はかなり戸惑っていたが、そうやっていくつかの世界を訪問している
うちにだんだん慣れてきた。だが今まで訪れたどの世界にも薫もダークプリキュア5の
誰もいなかった。

「満ちゃん、あそこ!」
手を繋いでいたダークドリームが新たに見えた世界を指さす。満は徐々に速度を
落とすと、新たに見えた世界の空を破って地面の上にどんと着陸した。
「いたたたた……」
新しい世界に着地するたびにしりもちをつくダークドリームのことは放っておいて、
満はあたりの様子をきょろきょろと見回した。
この世界はパステルカラーに彩られていて楽しげだ。腰を押さえながらダークドリームが
起き上がってくる。

「ねえ満ちゃん、なんか甘いにおいがしない?」
「ええ、確かに……」
甘くておいしそうな匂い。二人は顔を見合わせると、匂いが強くなる方向へと足を向けた。
匂いは草木や地面からも漂ってきているような気がするが、そんなはずはないと満は
考えた。

「あ、ケーキ……?」
ダークドリームが巨大なケーキのような建物を見つける。
満とダークドリームは顔を見合わせた。これまでめぐってきたいくつかの世界にも
ずいぶんおかしなところがあったものだが、あんな建物は見たことがない。
「他の建物より大きいし……、あそこなら人がいるかも」
何か変わったことが起きていないのか話を聞くことができないかと
二人はそちらに向かってみたが、満は途中でぴたりと足を止めた。
「満ちゃん?」
「私……ちょっと、あっちに行きたい」
ケーキの建物のすぐそばにある林の中に入っていく。ダークドリームもそれに
ついていった。

「この辺の樹、なんか不思議だね。シュークリームが生ってるみたい」
そう言われて満も木々を見上げた。確かにシュークリームのような実が生っている。
「そうね……」
――今、私が感じている匂いももしかしたら……
予感を抱きながら満は歩みを進める。そして確かに、予想していたものを見つけた。

「……今度はメロンパン?」
ダークドリームの言葉に満は無言で頷くと、樹の枝からたわわに生っている
メロンパンを一つ掴んでみる。
ふんわりとした質感はPANPAKAパンのメロンパンを思い出させる。
満は枝から一つメロンパンを取ろうとして、
「満ちゃん、それ取っていいの?」
というダークドリームの言葉で動きを止めた。
「駄目かしら。トネリコの森に生えている木の実なんかは勝手に採集して
 いいことになってるんだけど」
「ここの木って誰かが育ててるんじゃないの? 果物畑みたいな……メロンパン畑だけど」
「勝手に生えてるみたいにも見えるけど……畑なのかしら」
満が未練がましくメロンパンの樹から動けないでいると、
「あの、どちら様ですか」
と二人の背後から声がかかった。
二人がそちらに視線を向けると、動物のような耳をつけた少女が立っている。
どこかで見たような、と満は思った。
少女の方はというと満ではなくダークドリームの方を見て
「キュアドリーム……?」
と首を傾げる。
「あ、私キュアドリームじゃないよ」
とダークドリームは訂正した。
「そうなんですの?」
「ダークドリームっていうの。キュアドリームの友達」
それを聞いた少女の顔がぱっと明るくなった。
「では、そちらも?」
と満を見る。
「まあ、友達だけど……あなた、フェアリーパークにいなかった?」
満が思い出して尋ねると、
「ええ! スタッフとして参加しましたわ。あ、私チョコラといいます。はじめまして」
と彼女は答える。
「ところでそのメロンパン……」
満が手に持ったままのメロンパンをチョコラは指さし、まずいかなと思った満が
慌てて手を離そうとするのを
「好きなだけ持って行ってくださいな。デザート王国のお菓子は食べると『幸せ』だけが
 残りますの」
「本当にいいのかしら?」
「はい。もちろんですわ」
と満に薦める。満はメロンパンを五、六個取ると腕にかかえ、そのうちの一つを
ほおばり始めた。ずいぶん甘いのねと食べてみて満は思った。
「よろしかったらお菓子の城の方にいらっしゃいませんか? キュアドリームの
 お友達なら歓迎いたしますわ」
「本当? いいの?」
ダークドリームが念を押し、「行こうよ、満ちゃん」と誘う。

「キュアドリームにはこの国を助けてもらったんですわ。ですから」
どうしてそんなに親切にしてくれるの? と尋ねたダークドリームにチョコラが答える。
満はもぐもぐと口を動かしながらその話を聞いていた。
「キュアドリームに?」
「ええ」
城の中に入り、国をぐるりと見回せる最上階へとチョコラは二人を案内すると、
「デザート王国は全てのものがお菓子でできているんですわ。森も川も」
と説明する。ああなるほど、と満は思った。それで方々から甘いにおいがしたのだ。
腕の中のメロンパンが最後の一個になったのでちゃんと味わって食べながら、
「ところで、メロンパンってお菓子?」
と気になったことを尋ねてみると、
「デザート王国では甘くておいしいものはなんでもお菓子なんですわ」
とチョコラが答える。
「ふうん。私はご飯だと思うけど……」
「デザート王国ではバナナもお菓子ですわ」
「バナナは果物でしょ!?」
「いいえ、甘くておいしいので。あちらにバナナの畑が」
チョコラに指さされた方を見ながら、それって単純にバナナ畑じゃないのかしらと
満は思った。異世界では色々な考え方があるものだ。
窓に張り付くようにして外の景色を見ていた満だったが、ダークドリームが部屋の
入り口の方で浮かない表情をしているのに気づくと
「見てみたら? 緑の郷とは違うけど、きれいよ」
と誘う。
「うん」
とダークドリームはまだ浮かない顔だ。
「キュアドリームが来てくれて、この国もこの城も本来の姿を取り戻したんですわ。
 お母さまのことも助けてもらって……」
チョコラはキュアドリームのことを――ダークドリームの友達のことを
話せば彼女が少し元気になるかも知れないと思ってそんなことを話題に
出してみたが、却って彼女は落ち込んでいくだけのように見えた。

「……どうしたのよ」
誤魔化して和やかな雰囲気にするにも限界があると思ったのか、
満が正面から尋ねる。
「……うん、」
ダークドリームは窓のそばに立ち窓枠に手をかけると
シュークリームの林を見下ろした。
「私、のぞみのコピーだけど……」
チョコラが息を飲む音が聞こえたのでダークドリームは「あ」と気が付いて
チョコラに目を向けた。

前へ 次へ
コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る