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「ムプ?」「ププ!」
泉の郷、フィーリア王女の元に集まっていた精霊たちが空を見上げた。
泉の郷の小さな精霊たちには特におかしなことが起きていないのを
確認して彼らは再びフィーリア王女のところに戻ってきていたのだが、
フィーリア王女が突然「薫!」と叫んで両腕を天に突き上げたので
驚いて視線を上に向けていた。世界樹の真上が少しゆがんだと思うと
黒い巨大な影が落ちてくる。

「ムプ!」「ププ!」「ラピ!」「チョピ!」
フラッピたち四人が大慌てで避けると、空をつきやぶるようにして落ちてきたホホエミーナが
そのまま世界樹の前の湖に落ちる。
乗っていたウエスターとサウラーはその傍の地面にどすんと落ちた。
ホホエミーナは一度浮かび上がってきたが、また今度は自分の意志で湖にもぐっていった。
薫は途中で離脱して空を飛ぶとすとんと地面に着陸する。

「薫ププ!」「薫ムプ!」
その姿をみとめたムープとフープが薫に飛びつく。
「ムープ!? フープ?」
「薫ププ〜」「薫ムプ〜」
二人は嬉しそうに薫の周りをぐるぐると飛び回る。やがて疲れたのか、とんと
薫の両手の上に載った。
「やっと会えたムプ」
「満とも薫ともちゃんとお話ししたかったププ!」
そういう二人のつぶらな瞳に見つめられていると薫の目に自然に涙が浮かんでくる。
ププ? とフープは不思議そうな顔をした。
「私も……、私もムープとフープに会いたかった」
ムープとフープは笑顔を浮かべると薫の胸に飛び込む。薫は二人のことをぎゅうっと
抱きしめた。フラッピとチョッピはそんな様子をほっとしたように眺めていた。
やがてムープが薫に顔を向ける。
「薫、満はどこムプ?」
「満は……ここに来る途中ではぐれてしまって……」
「そうムプ……」
がっかりしたムープに薫は「ごめんなさい」と謝って頭を撫でる。
「ムプ……ムープは大丈夫ムプ」
ムープはそう言って顔を上げた。

「……薫。いいですか?」
そろそろいいだろうと判断したのか、フィーリア王女が薫に声をかける。
ムープとフープを自分のそばに浮かせて薫は「はい」とフィーリア王女の方を向いた。
ウエスターとサウラーはといえば、やっと立ち上がってフィーリア王女を
不思議そうに見下ろしていた。
少女のように小さいが、たぶん偉い人であろうことは雰囲気で分かる。

「気づいていると思いますが、世界に異変が起こっています。滅びの力が
 増大しているのです」
「……はい」
薫は緊張してフィーリア王女の言葉を聞いていた。
「世界樹に注ぎ込む命の力も弱くなっています。今すぐ世界が危機にさらされる
 ほどではありませんが、しかし、このままでは……」
「それはプリズムフラワーの影響ですか?」
薫が尋ねると、フィーリア王女はかすかに眉を顰めた。
「プリズムフラワーのことが遠因です。しかし、直接の原因は別にあります」
「それは一体……?」
「薫……かつて世界は無であったことは知っていますね? 星も何もなかったと」
薫は無言で頷く。確かに、正体を見せたゴーヤーンからそんな話を聞いたことがある。

「初め、世界は無でした。しかしそこに光の粒が産まれました。
 粒はすぐに砕け散ってその欠片は光を埋め合わせるように産まれた闇の中に
 消えて行ったのですが、そうした光の粒の誕生と消滅は幾度も幾度も繰り返されました。 そうしているうちに、産まれた光を闇が飲み込む流れができてきたのです。
 無の中に産まれた光と闇は互いに求め合いぐるぐると回り続け、その流れの中から
 星が産まれてきました」
壮大すぎて中々想像しにくかったが、薫はとにかく頷いた。ウエスターとサウラーは
ぽかんとした表情でフィーリア王女の語ることを聞いていた。

「今存在している様々な世界は、光の力と闇の力で結びつけられています。
 各世界の周りを光のエネルギーが回り、それが闇の力によって吸い込まれていく。
 そうした過程の中から命の輝きが産まれ、それが世界樹に注ぎ込んでいくのです。
 プリズムフラワーはそうした世界の仕組みを支えていました。しかしプリズムフラワーの
 力が消えたと言っても、行き来ができなくなるだけで光のエネルギー自体は
 各世界の間を周り続けるはずなのです」
しかし、現実にはそうはなっていない。薫は先ほどの光景を思った。
フィーリア王女が言う、「光のエネルギー自体は各世界の間を周り続ける」とは、
自分たちが先ほどいた世界の狭間を光のエネルギーが周っているということだろう。
ダークアクアが流された時に見たのも、おそらくはその光景だ。
だが今、各世界の周りを流れているのは滅びの力である。

「なぜ、滅びの力が……?」
「おそらくは、光のエネルギーを調節する場所に何かが起きたのでしょう」
「調節する場所、ですか?」
「はい。すべてを生み出す光の力と、すべてを飲み込む闇の力はバランスが取れていなければ
 なりません。その均衡が崩れると大変なことになります。――そのバランスを
 取り続けるために光のエネルギーを調節する場所が最近作られたのですが、
 そこを滅びの力が襲い、そこから滅びの力を世界をつなぐ狭間に流しこんでいるのかもしれません」
「では、その場所に行ってみれば……」
「ええ、そうです。その場所にはドツクゾーンの戦士が一人ついているはずです。
 彼と連絡が取れればいいのですが、もしかすると彼に何かあったのかもしれません……」
「彼?」
「入澤キリヤといいます。光のエネルギーと闇のエネルギーを浴び続けてきた彼ならば
 今この状態でも各世界間を移動できるのでしょうから、どこかに無事でいるといいのですが……」
どこかで聞いた名前だと思いながら、薫はその名前を心に刻み込んだ。
「……それと、薫。ダークアクアがどうなったか知っていますか?」
「……ダークアクアは……、」
薫の口調は重くなったが、とにかく自分の知っていることを全部話す。
先ほど交戦したダークミントの姿のことも話した。
フィーリア王女は眉を顰めて聞いていたが聞き終わると、
「残念です」
と呟いた。
「元々彼女たちはクリスタルとのつながりが弱く不確かな存在だと思ってはいましたが……、
 ダークアクアは以前ここを訪れた時にその湖の水を飲んでいったので少しの間は
 消滅せずにいられると思っていました。でも……、」
ごくわずかな時間しか保たせられなかったようですね、とフィーリア王女はうなだれる。
「彼女たちはどうなるんですか? このまま……?」
「それは私にも分かりません……何とかなるといいのですが……」
「……」
薫は黙ったまま、言葉を返せなかった。
「薫」
「はい」
「お願いがあります。先ほど話した光のエネルギーを調整する場所に
 行ってもらえませんか。何とかできないかどうか。
 今は滅びの力を持つ者でないと各世界の間を移動できません。
 滅びの国を出たあなたにこのようなことを頼むのは申し訳ないのですが……」
「いえ、行きます」
きっぱりと薫は答える。今できることはそれしかない。

「お、俺もいくぜ!」
とウエスターが話に割り込んでくる。
「何かよく分かんないけど、要するにそこに行って滅びの力っていうのを
 どうにかしてくればいいんだろ!? サウラーも行くよなっ!」
「……まあ、それ以外にやれることもないしね」
フィーリア王女はそんな二人のやり取りにくすりと笑うと、
「ありがとうございます」
と二人に感謝する。
「……だけど、どうやって行けばいいんだろう」
「ホホエミーナはどうした?」
ウエスターとサウラーがそんな相談をしていると、一同の背後の湖に大きな波が立ち
ホホエミーナが姿を現す。泉の水で身体を洗ったからか、
ホホエミーナは本来の白い姿を取り戻し表情も笑顔だった。
「ホホエミーナラピ!」
精霊たちが喜んで湖の外に出てきたホホエミーナの背中に飛び乗る。
ムープとフープがホホエミーナのそばに並んでいるのを見て、親子みたいだと薫は思った。
「ホホエミーナはここに居た方がよさそうですね。先程のような飛び方はしない方がいいでしょう」
フィーリア王女はホホエミーナの様子を見てそう判断すると、
「薫。滅びの力を持つあなたが意志を保つことさえできれば滅びの力の流れを
 乗り切り、別の世界へといけるはずです。
 そうやっていけば、光のエネルギーの調整所にも辿りつけるでしょう」
と薫に教える。
先程世界の狭間に入った時には最初のうちうまく動けなかったことを薫が話すと、
「それはおそらく、突然のことで状況が把握しきれなかったからでしょう。
 別の世界に行くという強い意志さえあれば乗り越えられます。こちらのお二人も、
 一緒に連れて行けるはずです」
「分かりました。……どこかで満に会えるでしょうか?」
フィーリア王女は静かにうなずいた。
「満もいろいろなところを探し回ろうとするでしょう。どこかで必ず出会うはずです」
ムープとフープが陸に上がったホホエミーナの横からぴゅうっと薫のそばに飛んできた。
「ムープも行くムプ!」
「フープも一緒に行くププ!」
「ええ!? だめよ、あなた達を連れて行くわけにはいかないわ」
「ムープだって満や薫と一緒に頑張りたいムプ!」
「フープもそうププ! 薫のお手伝いをするププ!」
そう言い募るムープとフープを見て薫は二人を優しく抱きしめると、
「お願い。ここで待っていて。あなた達に滅びの力を持たせることはできないもの」
と諭す。
「ムプ……」
「ププ……」
とムープとフープは悲しそうな表情を浮かべる。
「ムープ、フープ」
薫はムープとフープを抱いた腕をそっとゆるめた。ムープとフープが再び宙に
浮かび上がる。
「私は満を探して、満と一緒に何とかしてみるわ。あなた達もフラッピやチョッピ達と
 一緒に、あなた達にできることをして」
「ムプ……」
「ププ……」
ムープとフープは引き下がった。が、ムープがいいことを思いついたというように
顔を明るくする。
「じゃあ、ムープはみんなが前みたいにいろんな世界に行ったり来たりできる方法を
 探すムプ!」
「そんなことできるププ?」
「それをこれから考えるムプ!」
「そうラピ、みんなで考えるラピ」
どうなることかとはらはらして見ていたフラッピとチョッピがやっと
安心して会話に入ってくる。
「みんなで考えたらきっと何とかなるチョピ」
フラッピとチョッピはそれぞれムープとフープを頭に載せて、
ムープとフープのことはちゃんと見てるから大丈夫だと
薫に目で合図する。
「ムープ、フープ。お願いね」
ムープとフープは薫に大きく頷いて見せた。

「いいのか? そろそろ」
「行けるのかい?」
薫たちの様子を見ていたウエスターとサウラーがそろそろ頃合いだろうとみて
声をかける。

「それで僕たちはどうやって君に連れて行ってもらえばいいのかな」
サウラーがそう尋ねると
「とにかく掴まっていて」
と薫が答えたのでウエスターとサウラーは薫の肩に手を置いてみた。
薫が身体中の滅びの力を集める。精霊たちは思わず一歩下がった。ごうという
不吉な音とともに、薫とウエスター、サウラーは泉の郷から姿を消した。

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