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「のぞみのところに帰る……」
ミギリンヒダリンから事情を聞いて打ちひしがれたダークドリームはそう呟いた。
今はもう、クリスタルが冷たく感じられてならなかった。
ここではなくて早くのぞみのいるところに行きたい。のぞみならきっと何とかしてくれる。
のぞみに会えば、きっと何とかなる。のぞみに……、

「できないんです」
ミギリンとヒダリンは申し訳なさそうにダークドリームにそう告げる。
「プリズムフラワーが消えた今、世界の行き来はできないんです」
「のぞみさん達はのぞみさんの世界にいます。こちらとその世界との行き来はできません」
「そんな……それじゃあ……」
――私、一人になっちゃった……
ダークドリームは今度は声を上げて泣いた。今までずっとみんなやのぞみと一緒にいられると
思っていたのに、気づいたら一人ぼっちだ。
ミギリンとヒダリンは何も彼女を慰める言葉を持たず、ただ
彼女のそばで彼女のことを見守っていた。

ひとしきり彼女が泣いた後、

「やっと見つけたぜ」
という声が鏡の国の祭壇の間に響く。誰? とミギリンもヒダリンもダークドリームも
辺りをきょろきょろと見回した。
天井を突き破って赤黒い光が祭壇の間へと落ちてくる。
「……ダークルージュさん!?」
「どうしてあなたが!? 無事だったんですか!?」
ミギリンとヒダリンはその姿を見て驚愕したが
「違うよ!」
ダークドリームはそう叫ぶとミギリンとヒダリンを庇うようにダークルージュと
ミギリン達の間に身体を滑り込ませた。
「あなたはダークルージュじゃない! あなたは誰なの!?」
「俺かい? 俺は……モエルンバ!」
名乗りを上げた彼の身体から一閃、炎が渦を巻くようにして吹き出す。
ダークドリームはぐっと力を入れて吹き飛ばされるのをこらえた。
「どうしてあなたがダークルージュの姿をしているの!」
「お前もすぐに同じようにしてやるぜ、セニョリータ」
ぱちんと指を鳴らしてモエルンバは小さな炎をダークドリームに飛ばす。
反射的に避けたダークドリームにもう一つの炎が命中した。ダークドリームは
思わず悲鳴をあげたがそれも何とかこらえ、
「同じようにってどういうこと!?」と叫ぶ。
「俺たちにももう一人いるんだけどさ、あいつも外に出してやんないと
 いじけるんで面倒くさいんだよ」
そうダークドリームには意味の分からないことを言って、
「本当はセニョリータ、あんたのクリスタルに土の力が籠ってれば良かったんだけどな!
 でもまあ、ある物であいつには我慢してもらうぜっ!」
その言葉に思わずダークドリームは自分の胸のクリスタルを抑えたがモエルンバの方が
一瞬速かった。ステップを踏むような動きでダークドリームに近づくと胸のクリスタルを掴む。
「嫌っ、やめて!」
ダークルージュの手に握られたクリスタルに滅びの力が注ぎ込まれる。
――冷たい……! 何、これ……!?
身体の内側から凍りついていくような気がする。全身が麻痺したように動かなくなり、
ダークドリームはどたんと倒れこんだ。
「ダークドリームさんを放せよ!」
ミギリンとヒダリンがダークルージュの姿をしたモエルンバをぽかぽかと殴ると、
「うるさいんだよっ!」
とモエルンバは二人を掴みあげて投げ捨てる。
「そろそろ貰うぜ」
モエルンバはクリスタルをぐっと引き剥がしにかかった。
クリスタルはぐらぐらと揺れ、今にもダークドリームの身体から離れそうだ。
「や……やめて……」
「そういうわけにはいかないぜ、セニョリータ」

「……やめなさいっ!」
「何!?」
忌々しい声が聞こえてモエルンバは思わずダークドリームのクリスタルから手を離した。
その隙にダークドリームは身を翻すとモエルンバから距離を取る。
「満!? お前、何でここに来たんだ!?」
「そんなの知らないわよ!!」
満は先ほどのカレハーンとの戦いでダークフォールから吹き飛ばされ、鏡の国に
落ちてきた。とりあえず中心地らしい祭壇の間に来てみたらダークドリームが追いつめられて
いるのが見えたので乱入したというわけだ。

「知らないだと!? ……薫はどうしたんだいセニョリータ?」
その言葉を聞いてすぐ、満は今自分の目の前にいるのがダークルージュではなく
モエルンバだということを察した。彼が火を操って戦う滅びの戦士であることを考えると、
ダークルージュのクリスタルを使ったというのは納得のいく話ではある。

「薫はカレハーンと戦っているわ」
「カレッチと? やれやれ、お前たちまーだ滅びの力に逆らってるんだな」
「当たり前よ」
「ちっとも当たり前じゃないぜセニョリータ。ダークフォールに産まれたものなら
 滅びの力に仕える方がよっぽど当たり前だろ」
「……!」
呑気とも思える会話をしている満の後ろからダークドリームが飛び出した。無言で
モエルンバに迫る。
「っと! お前!?」
「ダークルージュを返して!」
「返してって、一体何を、わっ!?」
不意をつかれた形のモエルンバはダークドリームの手で赤のクリスタルを捻り取られて
「おい、そりゃないぜセニョリータ!」
断末魔の叫びをあげてダークルージュの姿をしてモエルンバは消え去り、
ダークドリームの手元には赤いクリスタルだけが残った。
「……ダークルージュ……」
ダークドリームはきゅっとそのクリスタルを握りしめるが、
それでダークルージュが出てくるわけではなかった。
祭壇に鎮座している赤いクリスタルの本体に向かって捧げてみても、
クリスタルはまったく動きを見せない。
もしかしたら本体の方からダークルージュのクリスタルに何かしてくれるかもしれないと
ダークドリームは少しだけ期待していたのだが、そんなことは起きなかった。

「ダークドリーム」
うなだれたダークドリームに満が声をかける。
「う、うん」
とダークドリームは満の方に顔を向け、無理やりにでも笑って見せた。
「あなたは、どうしてここに?」
「どうしてって……目が覚めたら、ここにいたの。ねえ満ちゃん、他のみんな……
 ダークレモネードやダークミント、ダークアクアがどうなったのか知らない?」
満は言葉に詰まった。ダークアクアがどうなったのかは知っている。ダークレモネードは
分からないが、ダークミントの姿が――先ほどのダークルージュと同じように――
カレハーンに乗っ取られていたのも知っている。

――でも、ダークドリームに今言うことではないかもしれない。

満と薫は、とにかく事態の収拾を図るためにダークフォールへと飛び込んできた。
具体的な計画はなかったが、うまくフィーリア王女に会えさえすれば
そこから考えればいいと思っていた。
だが現実にはそううまくは進行していない。まず薫を探して、それからフィーリア王女に
会わなければならない。ダークアクアたちのことはその後のことだ。
――待っていてもらおう。
そう、満は判断した。これからどうなっていくか分からないのだから
ダークドリームにもおとなしくここで待っていてもらいたい。
事態がうまく解決したら、ダークアクア達をここに連れてくることができるかもしれない。

「知らないわ」
満はそう答えた。
「私は薫を探してるんだけど。薫、見なかった?」
「ううん」
「そう。じゃあ、私行かないと――」
このままこの世界を出ればいいと満は思った。
「待って!」
何かを感じたかのようにダークドリームは身を翻すと満の前に立ちはだかる。
「……どうしたの?」
「満ちゃん何か隠してる!」
「えっ――?」
態度にこそ出さなかったが満はどこでばれたのかと内心驚愕していた。
実際のところ、ダークドリームにそう判断する根拠が何かあったわけではない。
単なる直感――のぞみ譲りの、直感だった。

「隠してなんか」
「嘘! 満ちゃん何か知ってるでしょ、みんなのこと!」
「……っ」
動揺している満の手をダークドリームの手が掴んだ。その手にはルージュのクリスタルも
握られている。

「私、ダークルージュが今いないことは分かってる。みんなが多分どうなってるかって
 ことだってミギリンとヒダリンから聞いてるの。だから、大丈夫だから教えて! 
 みんなどうなってるの?」
諦めて、満は口を開いた。
「ダークレモネードは分からないわ……消えたとしか聞いていないから。ダークミントには
 さっき会ったわ。さっきのダークルージュみたいに、滅びの力を持つ別の人に
 乗っ取られているような状態だったけど」
うん、とダークドリームは頷いた。
「ダークアクアは……?」
「彼女は、」
満は淡々と、見てきたことを説明した。ダークドリームはショックを受けたような顔で
ダークアクアに起きたことを聞いていた。

「ダークアクア、何で……、もう少し待っててくれたら会えたかもしれないのに」
後悔に駆られたようにダークドリームは拳を握りしめる。
満はそんな彼女の様子をただ黙って見守っていた。
「……満ちゃんは? これからどうするの?」
「薫を探すわ。それからフィーリア王女に会いに泉の郷に行こうと思っていたんだけど」
「あの〜、それって」
今まで黙って聞いていたミギリンが口を挟む。

「どうやっていくつもりなんですか? 今は各世界の行き来ができなくなっているはずですが」
「私にも詳しいことは分からないけど、」
満は冷静に言葉を返す。
「少なくとも緑の郷――プリキュアたちがいる世界からダークフォールに似た世界までは
 行くことができたし、ダークフォールからここまでも来ることができたわ。
 さっきのモエルンバだってどこか別の世界からここに来たんだと思うし――、
 滅びの力を使えばある程度は世界の間の行き来ができるんじゃない?」
「滅びの力ですか……」
「ねえ、だったら私も連れて行って! 私もみんなのこと探したいから!」
「だから今言ったでしょう? 滅びの力がないと……」
諭すような満に、
「ねえ、これじゃダメかな」
とダークドリームは自分の胸のクリスタルを指さす。普段はピンク色に輝いている
クリスタルが、今は闇の色に沈んでいた。

「……それ、どうしたの」
「さっきの人に、何か変なの入れられてからこんな風になって……たぶん、
 滅びの力っていうんじゃないの? これ」
「分からないけど。でも……これは私たちの問題だから、あなたは」
「私たちの問題ってどういうこと?」
「ダークアクアのことは、私と薫がちゃんとしていれば避けられたかもしれないわ。
 それにさっきのモエルンバとか、カレハーンとか、ダークルージュたちのクリスタルを
 利用しているのはダークフォールの戦士たちよ……私と薫が、昔いた」
だからこれは私たちの問題だと満は繰り返した。

「あなたをそこに巻き込む気はないわ。ここで待ってて。滅びの力を
 どうにかしてくるから」
「やだ、私も行く!」
ダークドリームは絶対にどかないというように満の前に立ちふさがった。
「満ちゃんだって薫ちゃんのこと、自分で探したいんでしょ? 私だってみんなのこと、 自分で探したい!」
「あの〜」
お取込み中すみません。というようにヒダリンが口を挟んできた。

「ダークドリームさん、他の世界に行ったら他のみなさんと同じように
 消えてしまうんじゃないでしょうか……」
「え? なんで?」
「クリスタルがダークドリームさんに渡しているエネルギーの流れが、
 他の世界に行くと届かないんだとしたら」
「え、そんな……」
「ほら、だからあなたはここで」
これ幸いとばかりに満がそういうと、ダークドリームはたっと小走りに走って
ピンクのクリスタル本体の前に立つ。何をする気かと思って満が見ていると、
「お願い! みんなを助けに行きたいの! 私に力を貸して!!」
とダークドリームは胸に手を当ててクリスタルに懇願した。それでどうにかなるものかと
満が思っていたら、
「あ……」
と背後のミギリンとヒダリンが驚いたように声をあげた。満はまだ気が付いていなかったが、
ピンクのクリスタルはわずかに揺れたかと思うと、ゆらゆらと形が崩れていく。
光の粒状になったクリスタルはすうっと上空に上ると円のような軌跡を描いて
ダークドリームの胸のクリスタルに吸い込まれていった。黒く沈んでいた彼女の胸の
クリスタルが少しだけピンク色の輝きを取り戻す。ダークドリームが手に持っている
赤いクリスタルも、つられたようにダークドリームの胸のクリスタルの中に納まっていく。

「クリスタルが……ねえ、これって、私が外に出て行っても大丈夫ってことかなあ」
ダークドリームはすがるような目でミギリンヒダリンを見る。初めてのことに
ミギリン達も驚いていたが、「た、多分……」「きっとそうなんだろうと思います」
と頷いた。

「ほら、満ちゃん! 私大丈夫だから、一緒に行く!」
「え、ちょっとその……そのクリスタルって、この世界にとって大事なものなんじゃないの?
 外に出していいの?」
「……五つ揃っているのがベストですが、短期間であれば一つなくても大丈夫だと
 思います」
「ほらほら! 満ちゃん、私も行って大丈夫だってことだよ!」
駄目だこれは、と満は思った。ダークドリームを連れて行くのは気が進まない。
が、ここまで食い下がられてはどうしようもない。このまま放っていくと
勝手に飛び出していきそうだし、と満は思った。
それなら一緒に連れて行った方がまだ安心だ。
「どうなっても知らないわよ」
満はそう突き放すように言ってから、身体に力を籠めて滅びの力を充満させる。
目を真っ赤に輝かせ、黒紫の花びらをわずかに散らす満の様子に
ミギリンとヒダリンはおびえたように後ろに下がったが、ダークドリームは満の
横に並んで手を繋ぐ。やがて満とダークドリームの姿は黒い影に包まれたかと思うと
鏡の国からかき消えた。

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