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「……!」
トネリコの森からダークフォールを目指した満と薫は、まっしぐらに
穴の中を落ちていった。
やがてごつごつとした岩肌の上に二人は降りる。
冷んやりとした空気はここが滅びの力に満ちていることをうかがわせたが、
ここは満と薫が知るダークフォールではなかった。

「薫」
満が薫とつないでいた手を離す。
「ここ、どこかしら?」
「ダークフォールに似てるけど……」
薫は辺りを警戒しながら答える。ぴんと神経が張りつめるような気がした。

「ダークフォールじゃない……わよね」
無言で薫は頷く。ダークフォールを知り尽くした二人だ。
たとえどれほど雰囲気が似ていようとも、ダークフォールでないことは
二人にはすぐに分かった。
「でも、滅びの力が充満している」
「ええ」
――ということは。
満は考える。このダークフォールに良く似た場所も、滅びの力によって
生み出された可能性が高い。
――ダークフォールから滅びの力を全開にすれば泉の郷にも
  行けたけれど……
ミズ・シタターレ達はそうやって泉の郷に侵攻していったと聞いている。
しかし、ここからはそうやって泉の郷に行けるだろうかと満は思った。
でも何とかして早くフィーリア王女に合わなければならない。
今の異変についてフィーリア王女ならきっと何かを知っているはずだ。

二人は音をたてないように注意しながらダークフォールに良く似た空間の中を
歩き回った。
かつてのダークフォールはアクダイカーンの謁見の間を中心にして
形作られていたものだったが、現在のここにはそういった中心というものはなく
ただただ広く陰気な空間であるようだった。
謁見の間にあったような湖も、命の炎ももちろんない。

やがて二人はぴたりと足を止めた。少し遠くの岩陰に誰かがいるらしい。
わずかに姿が見える。
――ダークミント……?
二人は同時にそう思った。身長といいわずかに見える髪の色といい、
ダークミントに見える。
満と薫は慎重に歩みを進めた。今の状況でダークミントが普通にここにいるとは
考えにくい。
何かの異変の結果として彼女はここにいるはずだ。
もちろん、単に道に迷ってここにたどり着いたといったことなら
何の問題もないのだが、彼女の近くに敵がいる可能性もある。

少しずつ近づいていくと、次第に彼女の様子が見えてくる。
明らかにどこかおかしい――と満と薫は思った。
岩陰に立つ彼女はぼんやりとして、その眼はどこも見ていないかのように焦点が
合っていないように見える。
だがその近くに敵らしいものの姿は見えない。

突然彼女がぶるりと身を震わせたかと思うとその眼に意志が戻ってきた。
だが満と薫は思わず立ち止まった。彼女の顔つきは満と薫が知っているそれではない。
二人はこまちの心に触れた後のダークミントしか見たことがなかった。
しかし、今のダークミントの顔つきは鏡の国でキュアミントを襲った時のそれに近かった。
満と薫は顔を見合わせると、事態を早く確認することに決めた。

「ダークミント」
まだ距離があるが、満が彼女に声をかける。声は聞こえただろうが彼女はこちらを
見なかった。
「……ダークミント?」
もう一度声をかけてみる。……彼女はやっと満と薫の方を見るとにやりと笑った。
「ほう。こいつはダークミントというのか」
声自体はダークミントのものだ。しかし言っていることが明らかにおかしい。
「あなたは誰?」
満がそう聞くと、彼女は馬鹿にしたように笑った。
「ダークミント、というのだろう。お前らが今そう言ったじゃないか」
「……あなたはダークミントじゃないわ。ダークミントに化けてでもいるの?」
埒があかない会話に若干苛々しながらも満が更に尋ねると、
「化けてなどいない」
と相手が答える。
「なら、その姿は何?」
「滅びの力がまだ足りないだけだ。いずれ俺の真の姿になる」
――俺……? 男がダークミントになってるの……?
満は何が起きているのか必死に予想しようとした。滅びの力。ダークミントの姿。
これらから考えられることは……、

「カレハーン?」
ずっと黙っていた薫がぼそりと呟く。え、と満は薫を振り返った。

「ほう。お前には分かったか」
ダークミントの姿をした彼はどこか満足気だった。
「薫、どうして」
「口調と態度で何となく……」
薫は満の疑問にそう答えると、
「ダークミントをどうしたの」
と詰問した。
「どうもしてはいないさ。俺は空になったこれを使っただけだ。
 まさかこんな姿になるとは俺だって思わなかった」
カレハーンは胸のクリスタルを指さした。
「使ったって……どういうこと」
「お前たちとて、滅びの力が勢いを増しているのは感じているだろう。
 滅びの力がもっと強くなるのを待てば俺たちが俺たちのままで甦ることも
 可能だったが、待っているのに飽きたんでね。
 前の時はボトム様が俺たちに形を与えてくれたが、
 今回は滅びの力の器となり得るものが都合よく空いていたんで
 そこに滅びの力を入れて形を取らせてもらった。
 ……まあ、前の持ち主の意識がまだ残ってるのか、こんな姿になってしまったわけだが」
ダークミントの姿のままカレハーンは自分の手を開いたり閉じたりしてその動きを
物珍しそうに見ると、さて、とばかりに満と薫を見た。

「お前らはなんでここに来た。滅びの力の前に再び跪きに来たか」
「まさか」
声を合わせて二人が否定すると「やはりな」とカレハーンは呟く。
「それならお前らで試してやろう! 俺の今の力がどのくらい使えるものなのか!」
ダークミントの姿をしたカレハーンは大地を蹴ると満と薫に迫る。満と薫はたっと
空中に飛び上り距離を取ろうとしたが、
「枯葉よ!」
とカレハーンは右手に枯葉を集めビームのようにして放出させた。
満がすんでのところで回避すると岩肌にぶつかった枯葉は黒い炎を上げて
爆発する。
薫がカレハーンの背後を取り蹴りを入れようとすると、
「ダークネス・スプレッド!!」
と叫んだカレハーンの周りに茶色の光の球が浮かぶ。
「何!?」
ぴんとカレハーンが指ではじくと茶色の球は薫の腕に当たり弾ける。
「つっ!」
腕に熱い痛みを覚えて薫は思わず腕を押さえた。

「面白い技をもっているものだな、こいつは」
使いどころがいまいちよく分からんが、とカレハーンは呟く。
満と薫は同時に空を駆けると、左右からカレハーンに突撃した。
「ダークネスソーサー!」
カレハーンの――ダークミントの両手から茶色の光に包まれたソーサーが顔を出す。
扉を開くようにカレハーンが腕を開くと満と薫はソーサーに押し出されるようにして弾き飛ばされた。くるっと空中で回転して満と薫は体勢を立て直し岩の陰に隠れる。

「こっちは使えるな」
カレハーンは満足げにそう言うと
「満、薫。お前たちも感じているだろう。滅びの力が増大してきている。
 放っておいてもこのまま世界は滅びの力に包まれるだけだ。
 お前たちがいくらあがいたところで運命は変わらん」
「運命は変えられるわ」
岩陰で聞いていた満が立ち上がる。
「ほう。……ならば変えてみせろ!」
カレハーンは疾走し満へと迫る。満が腕をクロスさせて防御する暇もあらばこそ
幾度も拳を顔めがけて打ち込み、
「枯葉よ!」
と満の眼前で枯葉ビームを放つ。
「うあああああっ!?」
正面からカレハーンの攻撃を浴びた満は悲鳴を上げて吹き飛ばされたと思うと
その姿を消した。チッとカレハーンは舌打ちをする。

――世界の狭間に落ちたか……!?

「満っ!」
背後から薫がカレハーンを急襲する。カレハーンはソーサーを飛ばして
薫の攻撃を防ぐと
「愚か者めが! 滅びの力に逆らうことは不可能だ! まだ分からんのか!」
とソーサーを消して薫の腕を掴み振り回して地面の上へと叩きつける。
「ぐっ……」
と薫がうめき声をあげるのをカレハーンは一瞥すると、
「しかしお前ら、手加減しているだろう。……この姿のせいで遠慮でもしているのか?」
とダークミントの姿を薫に見せつけた。睨み返した彼女の表情を見て「そのようだな」
とカレハーンは満足気だ。
「正直この姿はどうかと思ったが、お前らにそんな影響を与えるとはな」
「……」
薫は何も答えないまま立ち上がろうとしたが、馬乗りになったカレハーンに押さえつけられる。
「滅びの力に屈するがいい」
カレハーンの――ダークミントの右手に滅びの力が集まっていく。薫は何とか
カレハーンを跳ね飛ばそうとその腕を自分から離そうとするが、カレハーンの腕力の方が
薫の腕力よりも強い。
「ぐ……くっ……」
薫は腕をぶるぶると震わせながら何とかカレハーンを自分の上からどかせようとした。
だがカレハーンの身体はびくともしない。滅びの力は彼の右手でその強さを増していく。
「……!」
咄嗟に薫はダークミントの姿をしたカレハーンの胸のクリスタルに手をかけた。
「何!? やめろ、薫!」
カレハーンが慌てて叫ぶも薫は意に介さず、クリスタルを彼の身体から引き剥がす。
時を同じくして彼の右手に集まった滅びの力が爆発を起こす。薫は緑色のクリスタルを
握りしめたまま、爆発によってできた大穴を落下していった。
「ぎゃあああああ!」
カレハーンがあげる悲鳴は聞こえたが、その姿はもう消滅してしまって見えなかった。
薫は爆発の影響で、ダークフォールの外の他の世界との狭間まで吹き飛ばされていった。

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