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第三話

――あったか〜い……
静かな空間の中で、ダークドリームはひどく心地が良かった。もうずっとこのままでいたい、
と思えるくらいに。

「ん……」
目を開けるとピンク色の光に自分が包まれているのが見える。そうか、私たち引っ越し
たんだとダークドリームは思った。
――引っ越して新しくピンクの部屋に越してきたんだ。
まだ誰も起こしに来ない。もう少し眠ろうとダークドリームはまた目を閉じ、
再び眠りの世界へとまどろみ出る。

「ん……?」
しばらくしてからダークドリームは再び目を覚ました。
――あれ、そういえばいつ引っ越したんだっけ?
と周りのピンクの空間を見回した。
引っ越しをした日のことを具体的に思い出してみようと思ったが思い出せない。
――あれ? 引っ越し……したんだっけ?
夢の世界をさまよっていた頭が次第にはっきりしてくる。そう言えばピンクの部屋
というにも周りがあまりにもピンクすぎる。気が付けばダークドリームは
ベッドに寝ているのではなくてピンクの光に包まれて身体を丸くして浮かんでいた。

「ここ……どこ?」
口に出してみると、自分の声が思いのほか響いたのに気が付いた。
少し体に力を入れて手を伸ばすと、とん、と手がピンク色の壁にぶつかる。
――ここ、すごく小さな部屋なんだ。
光の加減で広い空間の中に浮かんでいるような気がしていたが、実際には
とても小さなスペースだと気が付いてダークドリームはとにかく出ようと
えい、と手に力を込めた。ピンク色の光が一瞬弱まったかと思うと次の瞬間、
ダークドリームの身体はその空間から転がり出てとてとてと転がった。

「いったあ〜……」
転がった時に打った頭を思わず抑える。目の前にミギリンヒダリンが目を丸くして
いるのに気が付いてダークドリームは思わず「え?」と周りを見回した。
ここは鏡の国の祭壇がある場所だ。以前と同じように、ピンク・赤・黄・緑・青の
クリスタルが静かに並んでいる。
「ダークドリームさん」
「え? なんで私ここにいるの? ……みんなは?」
自分が今までいたところはきっとピンクのクリスタルの中だとダークドリームは察した。
「みんなまだクリスタルの中かなあ。でもなんで私たちここに? のぞみ達の町に
 いたはずなのに……」
独り言のようにそういうと、ミギリンとヒダリンがもじもじと顔を見合わせた。
「あの……ダークドリームさん?」
「うん?」
「ちょっと聞いてほしいことがあるんです」
「僕たち、ダークドリームさんたちが甦ったって知ってから、クリスタルや
 ダークドリームさんたちのことについていろいろ調べたんです」
「そうなんだ」
石畳の上にぺたんと体育座りになってダークドリームはミギリンたちと
視線の高さを合わせた。そういえばいつの間にか変身している。
みんなと相談していた時はたしか普段着だったのに、とダークドリームは思った。

「元々、ダークドリームさん達は鏡の国のクリスタルの力で生まれた存在です」
「うん、そうだね」
「最初の時、ダークドリームさん達とクリスタルは同時には存在できませんでした」
「え〜っと……?」
ダークドリームが首を傾げると、ヒダリンが言葉を継いだ。
「最初の時は、ダークドリームさん達クリスタルを割って出てきましたよね。
 その、プリキュアに倒された後……は、ダークルージュさんたちの姿は消えて
 クリスタルが戻ってきました」
「そうだったっけ」
「そうなんです」
ミギリンとヒダリンはいらいらすることもなく説明を続ける。
「でもこの前ダークドリームさん達が甦った時はクリスタルとダークドリームさん達が
 同時に存在していたから僕たち不思議に思ったんです」
「そういえば、そうだね……」
とダークドリームはピンクのクリスタルを見上げた。他の四つのクリスタルも、
ダークルージュたちが復活してからもずっと鏡の国にある。

「どうも、ダークドリームさん達の胸に今ついているクリスタルは本当のクリスタルの
 イミテーションのようなもので、受信機のような役目をはたしているらしいんです」
「受信機? 何の?」
「クリスタルから送られるエネルギーです。クリスタルは鏡の国の太陽の
 ようなもので、莫大なエネルギーを集めて鏡の国の住人達を支えているんです。
 そのエネルギーのごく一部がダークドリームさん達が胸につけているクリスタルに
 流れ込んでいるんです」
「へえ……」
とダークドリームは胸のクリスタルを撫でた。そんな機能があったとは、
今まで全然気が付かなかった。
「そんな風になってたんだ。……ねえミギリンヒダリン、私前から不思議に思ってたんだけど。
 ……私たち、どうしてまた甦ったのかな? 消えたはずだったのに」
「正確なところは分かりませんが、多分……ダークドリームさん達の核のような
 ものが残っていたからではないかと」
「核?」
「そうです。それが今、胸につけているクリスタルに成長したのかもしれませんが。
 たぶんその核がクリスタルの中でエネルギーを吸収して再びダークドリームさん達の
 姿になったんだと思います。クリスタルはエネルギーに満ちていますから。
 ダークドリームさん以外の四人のみなさんはフェアリーパークに何かの力が満ちた時に
 それがきっかけになって完全にクリスタルの外に出られるようになったんだと思います」
「ふ……ふ〜ん……」
自分や自分の仲間のことを言われているのに、難しくて良く理解できない。とりあえず
分かったふりをして、ダークドリームは話を先に進めた。
「それで、私はどうしてここに来たのかなあ?」
「……プリズムフラワーのことは聞いてますか?」
「ううん、聞いてないよ。何それ?」
「プリズムフラワーはこの世界を繋ぐ花です。この前のブラックホールとの戦いで、
 プリキュアたちはブラックホールを倒すためにプリズムフラワーの力を使い果たしたんです」
「……へえ……」
ダークドリームはプリキュア達の戦いを見ていないので彼女達がそんなにも追い詰められたことが
今一つ想像できなかったが、
とにかくそういうことなんだろうと納得することにした。

「プリズムフラワーの力がなくなると、世界と世界の間の行き来ができなくなって
 しまいます。鏡の国もそうです。今、ここから他の世界にはいけません。
 鏡の国の鏡でも他の世界は映らなくなってしまって……」
「のぞみ達の世界も?」
ミギリンとヒダリンは同時に頷いた。
「え……っと、じゃあ私帰れないよ……どうしよう。……ねえ、なんで私ここに来たの?」
「たぶん……」
とミギリンとヒダリンは顔を見合わせる。
「ここがダークドリームさんの故郷なんだと思います」
「故郷?」
「ええ。プリズムフラワーの力が消えた時、みんな故郷に帰ることになったみたいなんです。
 僕たちは鏡の国に戻って来たし、ミルクさん達はパルミエ王国に戻ったんだと思います。
 ダークドリームさんはピンクのクリスタルが故郷ということで、多分」
「あ……そっか。私ここから産まれたんだもんね」
とダークドリームはクリスタルを見上げる。
「じゃあみんなもクリスタルの中ってことだよね」
早く起きないかなあ、みんな、と独り言のように呟くダークドリームを見て
ミギリンとヒダリンは「言った方がいいのかな?」「どうしよう?」と
こそこそと言葉を交わした。

「どうしたの?」
その様子が不思議になったダークドリームが尋ねると、「その、」とミギリンが
言い始めた。
「他のみなさんはいないようなんです。ダークドリームさん達が入っている時は
 クリスタルの中に影が見えるんですが、今は見えませんから」
「え? じゃあみんな、のぞみ達の世界にいるの?」
「多分、そうです。でも……今は世界の間にエネルギーも流れていない状態
 みたいなんです。人の行き来だけではなくて」
「?」
ダークドリームは首を捻った。
「今まででしたら、クリスタルからダークドリームさん達に向けてエネルギーが流れだして
 いました。クリスタル全体の力から見ればごくわずかなものですが」
「うん」
「そのエネルギーの流れが止まれば、ダークドリームさんたちは……その……」
ミギリンとヒダリンは言いにくそうにしていたが、じっと見ているダークドリームの
瞳に耐えられなくなったように口を開く。
「消えてしまいます」
「……え?」
ダークドリームは呆気にとられたような顔をした。
「えっと、つまり……どういうこと?」
「つまり、……ここにはダークルージュさん達はいません。クリスタルから
 ダークルージュさん達にエネルギーが流れてもいません。だから……」
だから。

ミギリンとヒダリンは皆まで言わずとも察してほしいと思っていた。
だがダークドリームはじっと彼らの言葉を待っていた。仕方なく、
ミギリンとヒダリンは同時に口を開いた。

「消えてしまっていると思います」
ダークドリームは目を見開いた。
「な……なんで? そんなのおかしいよ……だって、私はここにいるんだよ!? 
 私だけがここにいて、みんなが消えるなんて、そんな」
「ダークドリームさん……」
「それだったら私も消えるはずだよ! だから、みんなだってきっとどこかに」
取り乱したダークドリームを見ているのがミギリンとヒダリンはつらかったが、
気休めを言っても何にもならないとも思った。
「ダークドリームさん、ダークアクアさんの時のこと覚えてますか?」
「ダークアクアの時って?」
「ダークアクアさんが一度鏡の国にミラクルライトを使って入ろうとしたことがありましたよね」
こくんとダークドリームが頷く。

ダークアクアは以前、自棄を起こして家出をしてミラクルライトを使って鏡の国に
戻ろうとしたことがあった。だが、呪文を唱えなかったために鏡の国に入ることが
できず、逆に鏡の国の防衛機構に引っかかって世界と世界の狭間へと飛ばされてしまった。

「それが、どうかしたの?」
「……つまりあの時、ダークアクアさんは鏡の国にとって敵だと見做されていたんです。
 それは多分、クリスタルの意志です」
「クリスタルの……?」
「はい」
「でも……だって、クリスタルはずっと私たちにエネルギーを流して
 くれていたんでしょ? だったら……」
「クリスタルの本意ではなかったと思います。勝手に流れていっていただけで……、
 プリズムフラワーが消えた時、クリスタルには二つの道がありました。ダークプリキュア5の
 皆さんを鏡の国に呼んでそのままエネルギーを与え続けるか、何もしないで皆さんを切り離して
しまうか、どちらかです。切り離されれば皆さんはやがて消えてしまいます。
 4つのクリスタルはプリズムフラワーの力が消えた時に敢えて何も対応を取らずに、その……
 ダークアクアさん達を完全に切り離したんだと思います」
「私は!? 私はどうしてここにいるの!?」
ダークドリームは必死で食い下がった。今ここに自分が存在している。
そのことでしか「みんなが消えた」という推測を覆せないような気がした。

「ダークドリームさんは、敵だとは思われていなかったんだと思います。
 でも、他のみなさんは……」
ダークドリームの目から涙がぽたりと落ちたのを見てミギリンとヒダリンは
口を噤んだ。

「……ひどいよ……そんなの……」
涙に濡れた目でダークドリームは恨みがましくクリスタルを見上げる。
「みんなだって……もう鏡の国を攻撃する気なんてないのに……」
床にぽたり、ぽたりと涙が落ちた。

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