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「何があったんだろう……」
咲と舞は隣の部屋でのぞみたち四人からダークプリキュア5に起きたことについて
聞いていた。テーブルの上には羊羹や咲たちが持ってきたパンが並んでいるので
紅茶を飲みながらそれをつつく。
「鏡の国に帰ったのかとも思うんだけどね、でも……」
りんはこまちを見やった。
「クリスタルがあるのは絶対おかしいわよ」
とこまちが答える。
「それに、どうしてダークアクアさんだけは無事だったのかしら」
舞が首を傾げると、
「その辺もよく分からないんですよね……あと、ダークドリームの
 クリスタルも見つからないんです」
「あー、もう! よく分かんないなあ!」
と咲は頭を抱えた。

「分かんないけど、ダークドリームはどっか別の場所に行ってるんじゃないかなあ」
のぞみがぽつりとつぶやく。
「別の場所?」
「うん。クリスタル持って……ダークドリームは絶対、どこかにいるよ!」
根拠は分からないが、のぞみは確信を抱いているように見えた。
「……だといいけど」
りんが紅茶をぐいと飲んだ。その瞬間、爆音とともに水無月邸が一瞬揺れた。


「……! 薫!」「ええ!」
病室にいた満と薫の反応は速かった。
庭の方に何かが出た。邪悪な力だ。満と薫は躊躇なく灰色の戦闘服に変身する。
だが敵の方がわずかに速かった。
ダークアクアの眠る病室の窓を突き割って濃い灰色の触手が入ってきた。いつか
闘ったフュージョンの触手に良く似ている。触手はダークアクアの胸の辺りをめがけて
貫くと、さらにクリスタルが置いてあるテーブルの方めがけて伸びていく。
ぐっとダークアクアがうめき声をあげた。
「逃げて! ダークアクア! かれんさん!!」
薫がかれん達を半ば強引に伏せさせ、満が触手を蹴りだす。満と薫は二人がかりで触手に蹴りを浴びせ、窓の外へと追い出すと
そのまま庭へとその本体を追った。
――滅びの力? どうして……?
眼の前の対象からは強い滅びの力を感じる。満と薫はとにかくこの場から追い出そうと
必死だったが、どうして滅びの力を持つものが今頃になって現れたのかよく分からなかった。
灰色の滅びの力を持つものは一定の姿は持たないらしく、触手をいったんちぢめて
丸いボールのような姿になったかと思うと、
「グアアアアアッ!」
と咆哮のような音を立て漆黒の光線を満と薫にめがけて二条放つ。
満と薫はジャンプして避けようとしたが、
――私たちの後ろに咲たちがいる!
と気づきバリヤーを張って光線をとどめた。

「満!」
「薫さん!」
咲たちは病室の隣の部屋の窓から怪物と満、薫の姿をみとめるとすぐに部屋から飛び出して
いこうとした。だが、
「だめよ! 危険だわ!」
とこまちが二人を止める。
「でも、満と薫が!」
「咲さんも舞さんも、今はプリキュアには変身できないのよ!」
とこまちは咲と舞の手を離さなかった。
その脇をのぞみがすり抜けていこうとしたが同じようにりんに止められる。
本当なら、今すぐ変身して満と薫を助けに行きたい。
だがプリズムフラワーの力が消え、妖精たちがいなくなった今、
咲も舞ものぞみ達もプリキュアには変身できなくなっていた。
咲たちの焦燥感だけが募る。これまで幾多の状況で皆を守ってきた彼女たちだが、
見ているだけの今の状況が一番辛かった。

「……クリスタルが……!」
怪物の襲撃と共に、薫によって床の上に伏せさせられていたかれんは起き上がり、
テーブルの上に置いてあったはずのクリスタルがなくなっていたのを見て驚愕した。
その声にダークアクアもまた顔を上げる。
「……ッ」
ダークアクアはずきずきと痛む胸を押さえながら自分の身体を見て、身体の色が
薄くなっていることを知った。手を自分の目の前にかざしてみれば、
手を通して向こう側の風景が見える。
「ダークアクア……」
かれんがダークアクアのその様子に気が付いた。ダークアクアは何も答えなかった。
――時が来た。
と彼女は思っていた。
新しい家はどんな家がいいか、話し合っていた時に仲間たちは突然胸を抑えて苦しみ始めた。
ダークアクア自身も全身から力が抜けて倒れた。その目の前で仲間たちの姿が
次々に薄くなり消えて行った。

どうして自分だけが助かったのかと思っていたが――今、分かった。
自分は助かったわけではない。ただ少しだけ、時間が伸びただけだ。
今、時は来た。自分も仲間たちと同じ運命をたどる。半透明になった
自分の手を見ながらダークアクアは奇妙なまでに冷静にそう思った。

――どうせ消えるなら……
窓の下から満と薫がバリヤーを破られて吹き飛ばされた音が聞こえる。
ダークアクアは決意を固めた。
「! ダークアクア! やめて!」
変身したその姿を見てかれんはダークアクアを引き留めようと手を伸ばした。
「行かせて」とダークアクアが答える。
「駄目よ、あなたを行かせるわけにはいかない!」
「どっちにしても私はもうすぐ消えるの! だったら、せめて」
「でも」
「私は元々消えていたはず。あなたに倒されていた時に。
 これが私たちの本来の運命だったのよ!」
「でも、それは」
「あなただって私が消えることを望んでいたはずよ、キュアアクア」
「違うわ、今は! ダークアクア、私はあなたが昔の私に似ていると思った。
 愚かで傲慢でプライドだけが高くて、救い難いと思ったわ。
 でも、あなたの友達があなたに友達の大切さを教えてくれた。
 今のあなたはただの昔の私の影じゃない。あなたは今、友達に愛されている一人の人間として
 ここにいるの。だから……、今のあなたには生きていてほしいの!
 お願い、行かないで!」
「ありがとうキュアアクア……水無月かれん」
ダークアクアは目を細めると柔和な笑みを浮かべた。その表情にかれんはほっと
安心したが、
「……さよなら」
彼女はかれんの手を振りほどくと軽くかれんの身体を押す。それはごく軽いものだったが
変身していないかれんを壁の方へと跳ね飛ばしその隙にダークアクアは窓の下へと飛び降りた。
「やめてダークアクア!」
かれんの声はもうダークアクアには届かない。

「満! 薫!」
「ダークアクア!?」
満と薫は両の手に滅びの力を宿らせて怪物に向かっていたが、
ダークアクアの声に驚愕する。
「私が行く!」
左右に分かれて怪物に向かっていた満と薫の真ん中にダークアクアは飛び込むと、
両手で握りしめた大剣を真正面から振り下ろした。
「グガアアアア……!」
怪物が悲鳴のような声を上げたかと思うと、ダークアクアの左右から触手が伸び
銀灰色の中にダークアクアを包み込む。
「ダークアクア!」
満はダークアクアの姿が薄くなり消えていくのを見た。最後に核となるクリスタルだけが
残ったが、それを怪物は満足そうに飲み込んだ。
満と薫が両側から滅びの力をエネルギー弾のように撃ち込むと、怪物はそのまま小さくなり
地面の中に吸い込まれるようにして撤退した。

辺りにはまた静けさが戻ってきた。
だがそれは、先ほどまでとは全く違った静けさだった。
満と薫は互いの顔を見やる。
「満、瞳が……」
眉を顰めて薫が呟く。満の目はかつてダークフォールにいた頃のように、
白い光を失って赤い光のみに彩られていた。
「……昔みたいになってる?」
薫が頷くのを見て満は「薫もよ」と答える。薫は驚いて自分の目に手を当てた。
痛みも何もないが、さきほどの怪物が放出していた滅びの力を浴びたのが原因かもしれない。

「満! 薫!」
咲と舞、それにのぞみ達が家から庭に飛び出してきて満と薫に駆け寄った。
満と薫は厳しい表情を崩さないままだ。
「ダークアクアは……?」
のぞみが尋ねると、満と薫は黙って首を振った。
「そんな……」
こまちが呻くように呟く。
「咲、舞。私たち行かないといけないところがあるの」
「だから先に帰ってるわ」
愕然とするのぞみ達には何も言わずに満と薫は冷静な態度を崩さないまま
咲と舞にそう告げた。
「行かないといけないところって……!?」
「私たちも連れてって!」
嫌な予感がして咲と舞がそう頼むも、満と薫は「駄目よ」「あなた達を連れて行くわけには
いかないわ」と突き放し、
目を合わせてうんと頷きあうと空に飛び上った。
「満!」
「薫さん!」
咲と舞は思わずジャンプすると満と薫に飛びついた。
「ええ!?」
「ちょっと舞!」
浮かび上がっていた満と薫は最初の勢いそのままにぐんぐんと高度を上げていく。
「ちょっと咲! いい加減にしなさい! 落ちたら死ぬわよ!」
「舞も! あそこで下すから!」
ちょうど近くに見えてきたビルの屋上に満と薫が降りようとすると、咲と舞は
「やだ!」
「絶対下りないわ!」
と言い返した。
「真面目に考えなさい! 生身のあなた達が空飛んでたら危ないでしょう!」
満と薫はとりあえずビルの屋上に咲と舞を下ろすと、とにかく説得しようという
構えを見せる。

「二人はどこに行く気なの? 二人だけで」
舞が満と薫を問い詰めるように尋ねた。
「……行かなくちゃいけない場所よ。さっきから言ってるでしょう」
満はそう答える。舞がこの答で納得するわけはなかったが、そういうしかなかった。
「その行かなくちゃいけない場所って……まさか、ダークフォール?」
咲がその名前を出した。滅びの国ダークフォール。満と薫がかつて
暮らしていた場所だが、現在は消えてしまったはずである。

「ダークフォールは消えたわ。今はない。でも、さっきの怪物は滅びの力を持っていた」
薫が冷静に答える。
「だから、何か滅びの力に関係しておかしなことが起きてるかもしれないわ。
 ……それを調べないとダークアクアを助けられない。ダークフォールに行けるかどうかも
 分からないし、彼女を助けられるのかも分からないけどやってみないと……」
「私たちも行くよ」
咲がそう言ったのに満は色をなして怒った。
「連れていけるわけないでしょう!? あなた達、今は変身できないのよ!?」
「でも、二人だけで行かせるわけにはいかないよ!」
咲も言い返す。
「二人とも無茶ばっかりするから心配なんだよ!」
咲と舞には言われたくないと満と薫は思ったが、
このままだと話が先に進まないと満は考えた。

「分かったわ。絶対、無茶はしないから」
「必ず、帰ってくる?」
「ええ、もちろん」
薫もそう約束した。咲と舞はまだどこか不安げに顔を見合わせたが、
「……分かった。トネリコの森から行くつもりだったの?」
と満と薫に譲った。
「ええ、たぶん……そこからならダークフォールに行けるのかもしれないから」
「行って、そのあとはどうするの?」
舞がそう尋ねると、「分からないけど」と満は答える。
「ダークフォール経由で泉の郷に行けたら行ってみるつもり。フィーリア王女に
 会えたら何か分かるかもしれないわ」
「……そう」
「じゃあ、トネリコの森までは私たちも一緒に行く!」
咲はそう宣言した。満と薫としてはここで咲たちと別れて普通に電車で
夕凪町まで帰ってもらいたいのだが、
――仕方ないわ。ここで置いて行ったら本当についてきかねないし……
そう思って咲の提案に乗ることにした。
今度は咲と舞をしっかりと抱きかかえると、満と薫は再び空へと飛びあがった。


トネリコの森の頂上、大空の樹に四人はぺったんと張り付いて気持ちを落ち着けた後
満と薫は変身したまま手を繋ぎ、大地に力を送る。
ぽっかりと穴は開いた。満と薫はうんと頷きあう。ダークフォールが消えていた時には、
どう頑張ってみてもこの穴は開かなかった。だが今開いたということは、何らかの形で
ダークフォールが甦ったということだ。

「行ってくるわ」
「すぐ戻るから」
咲と舞に言葉を残して、満と薫は穴の中に飛び込んだ。咲と舞が見ている前で二人の
姿は穴の中に飲み込まれ、そして消えた。

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