前へ 次へ

「あ!」
部屋の隅の方からうららが黄色いクリスタルを見つけてくる。
続けざまに赤いクリスタルも。
だがピンクのクリスタルだけが見当たらない。こまちとうららの二人は
三つのクリスタルを手に持つと、気が重いままにダークアクアを運んだ寝室へと
入っていった。
「ダークアクアさん、寝てるの?」
ベッドの上に横になって目を閉じているダークアクアを見てこまちが囁くと、
かれんは首を振った。
「起きてるわ。でも……休みたいみたいだけど」
「そう」
こまちは一瞬悩んだが決意を固めたように、
「ダークアクアさん、一つだけ聞いてもいい?」
と彼女の耳元で囁く。
「……何?」
彼女は目を閉じたままで答えた。
「ダークミントたちはどうなったの? ここにクリスタルがあるんだけど」
えっ、とりんやのぞみは声にならない声を上げてこまちが手にしたクリスタルを見た。
ダークアクアは目を開いてこまちの手をちらりと見ると、
「消えた……わ……」
と答える。
「消えた?」
「みんなで集まって話をしていたら、突然……」
「消えなかったのはあなただけ?」
「多分……そう。私も、自分が消えると思っていたけど……」
実際には消えなかった。そのことにダークアクアが安堵と言うよりは
後悔を覚えているようにこまちには感じられた。

「ダークドリームさんは? クリスタルが見当たらないんだけど」
「えっ?」
ダークアクアは初めて意外そうに声を上げた。のぞみがダークアクアの表情を注視する。
「ダークドリームも、みんなと同じように消えた……ように見えたけど……」
「ど、どういうこと? ダークドリームはどうなったの!?」
のぞみが慌ててベッドに近寄るがダークアクアは「分からない」とだけ答えた。
のぞみはもう一度探してみると部屋に戻っていったが、やはりクリスタルは見つからない。

たぶん彼女の知っているのはこれで全部だと考えたかれんは
「こまち、もういい?」と確認するとこまちが頷いたのを見て、
「私の家に来て」
とダークアクアに話しかける。
「? ……どうして」
「病人を一人でここにおいておくわけにはいかないもの。
 うちならスペースはあるし。ゆっくり休みながら、ダークミントたちが
 戻ってくるのを待てばいいわ」
戻ってくるのかどうか、実際のところは分からないにしてもかれんは
そう言わざるを得なかった。
「……ありがとう」
ダークアクアはかれんの気休めには特に何も反論せずに素直にそう答える。
その素直さが逆に、彼女が今ひどく弱っていることをかれんに印象付けた。
「じゃあ、車呼ぶわ」
とかれんは自分の家に電話を掛けた。


その夜、みんなが帰って行ったあと。かれんは作ってもらったお粥を盆に載せて
ダークアクアの病室ということにした部屋を訪れていた。
じいやには「友達が体調を悪くしたので看病をする」ということにしてある。
かれんと良く似ている彼女を見せると驚かせてしまいそうな気もしたので、
なるべくならじいやには会わせないままで看病をしたいとかれんは思っていた。
じいやもかれんのそんな様子を察してか、かれんのしていることに異は唱えないでいてくれた。

「食欲ある?」
そう言いながら部屋の中に入る。
「あまり……」
横たわったままダークアクアはそう答えた。
「そう」
盆をとりあえず机の上に置いて、かれんは手近にあった椅子に腰かけた。
ダークアクアの症状はよく分からない。熱があるわけではないのだが
身体に力が入らず、ただひたすらにだるいらしい。
――普通の病気って言うわけじゃないんだろうし……
そうかれんは思った。とにかく本人が一番快適に過ごせるようにするのが
一番いいだろう。

「……」
自分が喋らないでいると延々と沈黙が続くのは目に見えていたので、かれんは
思い切って口を開く。
「そういえば、あなた達の家に入ったのは初めてだけれど……本当に、一人用の部屋なのね」
あそこに五人で暮らすのは厳しいだろう。かれんのその考えに同意するように
ダークアクアは「そうね」と答える。
「こっちに来て初めの頃は何も分からなかったから、とりあえずダークドリームが
 住んでいたあの部屋に住むことにしたけど……さすがに、いろいろと
 無理があるような気がしてきたわ」
「もっと早く言えばよかったのに」
「生活を軌道に乗せる方が先だったのよ……そういえば、社長に
 しばらく出社できないって連絡しないと……」
「だ、大丈夫よ」
電話でもかけようとしたのか、ベッドから身を起こそうとしたダークアクアを
かれんは慌ててとどめた。
「どうして」
ブンビーもいないから、とは言いにくい。なるべくいつも通りの日常が続いていると
思わせた方がいいだろうとかれんは考え、
「さっき、のぞみ達がブンビーカンパニーに行ったの。あなたが寝ている間に。
 会社にはちゃんと連絡しておいたから大丈夫」
と誤魔化す。
「そうなの」
ダークアクアはかれんの言ったことを疑いもせずにまた身を横たえた。
「どんな家がいいとか、そういう希望はあるの?」
「それをみんなで話し合っていたわ。社長がお得意様からりんごをたくさん
 もらったのを分けてもらって、それを食べながら」
あ、とかれんは思った。彼女たちが『消えた』のは、そんなのどかなことを
している時だったのだ。
「……具体的には何か希望は出たの?」
「ダークドリームは会社にすぐ行ける場所がいいって言ってたわ。
 多少寝坊しても大丈夫なように」
「へえ」
「ダークルージュは大きなテレビを買って、サッカーの中継を見たいと言っていたけど」
「それは家の問題と言うより家具の問題よね」
「ダークレモネードはカラオケセットが欲しいとか……」
「それも家具の問題……ああでも、防音が必要かしら」
「ダークミントはようかんルームが欲しいって」
「何? それ」
「ようかんを食べる専用の部屋みたい」
「普通の部屋と何が違うの?」
「ダークミントって時々よく分からないのよ……」
初めて、かれんはダークアクアに心底同意できるように思った。
「それで、あなたは? あなたはどんな家がいいの?」
全員の希望をかなえた家は中々難しそうだと思いながらかれんは尋ねる。
「私は……寝室を」
「ああ、一人一部屋とか?」
「そうじゃなくて。今はみんなで一部屋で寝ているけど、
 新しい家になっても寝室はみんなで一緒がいいと思うの……」
つまり広いベッドルームが必要、と記憶にメモしてかれんはふと顔を上げた。
――仲間なんていらないんじゃなかったっけ?
と思わず指摘したくなるが、ぐっとこらえる。
珍しく素直なところを見せているのだから、敢えて過去との矛盾を指摘することもない。
「今日は一人で寝られる? 一緒に寝た方がいい?」
「要らないわよ、そんなの」
ダークアクアはぷいとそっぽを向いた。あらあら、とかれんは思う。
――からかったつもりじゃなかったんだけど。
からかったと思われたらしい。仕方ないわねとかれんは思い、しばらく様子を見てから
電気を消して部屋を出た。

 * * *

「……ダークドリームたち、何があったんだろう……」
その翌日、咲と舞、満と薫の四人は夕凪町から電車を乗り継いでのぞみ達の
住む町へと向かっていた。
「さあ……」
「ブラックホールと関係があるのかもしれないけど……」
満と薫が口々に答える。
舞はと言えば不安げな表情を浮かべたまま黙っていた。
昨日の夜、のぞみは咲に電話をかけて満と薫が無事でいるかどうか尋ねた。
ダークドリームたちに起きた異変が満と薫にも起きているのではないか――
あるいは、満と薫が何かを知っているのではないか――と思ったのだ。
実際にはどちらの考えもはずれていたのだが、事情を聞いた咲たちは
手土産にパンを持ってダークアクアに会いにいくことにした。
満と薫にはなんだか嫌な予感があった。今すぐに会いに行っておかないといけないような。

――ブラックホールを倒して、これでめでたしめでたしだと思ったんだけどなあ……
  精霊たちとは会えなくなっちゃうけど……
咲は内心そう思って思わずため息をついた。咲にしてみれば、フラッピやチョッピと
もう会えなくなったとしても今の世界を守るためにあの選択をしたつもりである。
だが実際には、ゆっくりと世界が侵食されているような気がする。
「どうしたの、咲?」
舞が咲を気遣う。
「うーん、何かすっきりしないって思ってさ……あれでもう完全に、終わったと思ったのに」
「そうね……」
ブラックホールとは全く何の関係もないところから異変が起きているのかもしれないが、
どうもあの件に引き続いて起きているような気がしていた。


水無月邸に入るときは緊張する。夕凪町にこうした豪邸がないからだが、
じいやさんが応対に出てくるという時点で咲たちにとってまず異次元なので
かちかちに固まりながら咲は手土産をじいやさんに手渡し、応接室へと通してもらった。

「咲ちゃん、いらっしゃーい!」
なぜかかれんではなく、のぞみがひょっこりと応接室の扉を開けて顔を出す。
「あれ、のぞみ!?」
「かれんさんね、今ダークアクアのところにいるんだ。
 みんなも隣の部屋に集まってるから、そっちいこっ!」
のぞみに早く早くと促されて四人はソファから立ち上がると広い水無月邸の中を歩き回り、
その部屋まで連れて行ってもらう。

ダークアクアは体調が悪いそうなので咲と舞はのぞみ達と一緒の部屋に残り、
まず満と薫だけが病室に行ってみることにした。少しだけとはいえ出自が似ていることもあって、
満と薫――特に薫はダークアクアと因縁がある。

のぞみに教えてもらった部屋のドアをノックして入ると、ベッドサイドに座って
本を読んでいたかれんが「あ」と声を上げる。満と薫はダークアクアが眠っているのかと
思ったが、ぼんやりと起きているようだった。

「久しぶりね」
こういう時にまず声をかけるのは満の方だ。ダークアクアは声につられるようにして
視線を動かし、満と薫の姿を見て「どうしてここに」と驚いた。
「のぞみから聞いたから来たの。お土産にパンも持ってきたけど、食べられそう?」
「食べられそうだったら後で食べるわ」
社交辞令的にそう答えると、ダークアクアは薫の方に目を向けた。
「……あなた達は無事だったの?」
無言で薫は頷いた。
「そう。……」
やはり自分たちと満と薫の二人は違う存在だとダークアクアは思った。
自分たちよりも彼女たちの方がきっと、プリキュアや普通の人間たちに近いのだろう。
そう言う意味では満と薫のことは自分たちにとってあまり参考にならない。

「……他の四人がどこにいったかは分かるの?」
「さあ」
薫の質問にダークアクアは静かに答える。
「鏡の国かもしれないけど。でも、ダークドリームはともかくクリスタルが
 あそこにあるんじゃ……」
ダークアクアの視線の動きにつられて満と薫が視線を動かすと机の上に緑と黄と赤、
三つのクリスタルが置いてある。満と薫はダークアクアの変身した姿しか見たことは
なかったが、彼女の胸に光っていたクリスタルのちょうど色違いに見えた。

満と薫も、滅びの力を身にまとい変身したときにはクリスタルを胸にぶら下げている。
彼女たちの力を表す指標のようなものだが、それを首からはずすことはあり得ない。
彼女たちのクリスタルがここにあるということは――そもそもクリスタルの意味が満と薫と
ダークプリキュア5で異なるとはいえ――何かよからぬことが起きたことを予想させた。

かれんはそんなダークアクアの言葉を悲しく聞いていた。これまでずっと、
ダークミントたちはどこかに無事でいるだろうということを前提にして
話をしてきたつもりだった――もちろんダークアクアもそれには気づいていただろう――が、
ダークアクア本人はとっくに諦めてしまっていたのかと。

「……諦めちゃだめよ」
「ええ、そうね」
ダークアクアはかれんの言葉に静かに答えたが、心がここにはないようにかれんには感じられた。

前へ 次へ
コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る