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ラビリンスに現在生きる住人でメビウス時代以前のことを知る者はいない。
メビウスによって管理されるラビリンスは世界の中心であり、
その管理を全パラレルワールドに広めることがなすべきことだと
彼らはずっと信じてきていた。

プリキュアとともにメビウスを倒してラビリンスはコンピューターの管理下から
人の手に取り戻されたわけだが、
――世界の中心どころか世界のおこぼれをもらっている状態だからな。
サウラーは自嘲気味にそう思いながらウエスターを眺める。

「分かった!」
突然ウエスターが立ち止まった。
「何が分かったんだ」
「とにかく一度ホホエミーナとスイーツ王国をめざそうぜ! なんかうまくやれば
 いけるかもしれない」
「……死んでもしらないぞ」
「えっ?」
「さっき言った太古の力はどうも邪悪な力のようでね」
「じゃあどうすれば」
突然警報がけたたましく鳴り響いた。ウエスターとサウラーの二人ははっと
顔を見合わせる。
「サウラー様!」
警報音から遅れること一瞬、サウラーが最も信頼している部下が
部屋に飛び込んでくる。

「なんだこの警報は!?」
「地下五階から鳴っています!」
「地下五階!?」
サウラーの顔色が変わった。
「ウエスター来い!」
一声叫ぶと部屋を飛び出す。一緒について来ようとした部下に「お前は残ってろ!」
と怒鳴ると廊下の端でやってきたエレベーターに飛び乗った。ホホエミーナがついてきたのを見て
「ついてきたのか」
と深刻そうにつぶやく。
「サウラー、何なんだ。地下五階に何があるんだ」
「この国には君や僕が知らなかった秘密が沢山あるのさ。全パラレルワールドの
 管理のために狙われていたのはインフィニティだけじゃない。逆らう者たちを
 排除するための兵器の準備も進められていたんだ」
早口にまくしたてるサウラーにウエスターの全身にも緊張が走る。
サウラーの言っていることというよりはサウラーの様子がウエスターに
緊急事態であることを告げていた。
「じゃあ、さっきの警報はその兵器が何かまずいことになったってことなのか!?」
「兵器と言うよりも兵器の元だな。手に入れたはいいが扱える代物じゃなかったんで
 地下深くに保管していたらしい」
それが何でよりによって今、警報を鳴らすような事態になったのだ。他のパラレルワールドからも
プリキュアからの支援も期待できないこの時に。サウラーはぎりりと奥歯をかみしめた。

地下五階につきエレベーターの扉が開く。廊下へ飛び出したサウラーとウエスター、
それにホホエミーナの目に入ったのは暗黒の球が眼前に広がってくる光景だった。
「!?」
咄嗟に防御態勢を取ったが、暗黒はそのまま三人を貫くようにして破裂した。
強烈な衝撃がサウラーを襲う。身体が内側から冷えてくるような気がした。
思わず膝をついて目を閉じた彼だったが、第二派はこなかった。
ホホエミーナが――ホホエミーナなのに――泣いているような声が聞こえて目を開けると、
同じようにうずくまっていたらしいウエスターがよろよろと立ち上がっているところだった。
その姿を見てサウラーはぎょっとした。彼ら二人は、シフォンに助けられてからと言うもの
その服は白く変化していたはずなのだが、今のウエスターの服はかつてのように漆黒に染まっている。
当然、見てみればサウラーの服も同じだ。
一番大きな変化が起きたのはホホエミーナで、全身が黒く染まったままきゅんきゅんと
悲しそうに泣いている。

「おいサウラー……何なんだよあれ……」
ウエスターがようやく言葉を絞り出した。落ち着いてみれば、あの力を封じていたはずの
巨大扉に大穴があいているのが見える。あの力が地上で破壊活動をしていないかどうか
確認の必要があるとサウラーは、
「とにかく戻るぞ」
とホホエミーナとウエスターを再びエレベーターに押し込む。
「それで何なんだよ、あれ!?」
頭が痛くてサウラーはエレベーターの壁に身を預けた。
「兵器への転用が可能かどうか検討するためあそこに保管されていたんだ。
 太古の力――滅びの力の、かけらだよ」
ウエスターは目を丸くした。

 * * *

「どうして満が空の泉にいないムプ!」
「薫もププ! どうしていないププ!?」
泉の郷で、ムープとフープは泣きそうな顔をしてフラッピとチョッピに訴える。
フラッピとチョッピは困り顔で二人の言葉を聞いていた。
「満と薫は緑の郷ラピ」
「そうチョピ、咲や舞と一緒に居るチョピ」
そう答えるフラッピとチョッピに、ムープとフープはぷるぷると身体全体を左右に振る。

「ムープは満と薫もこっちに来ると思ってたムプ!」
「フープもそう思ってたププ!」
「ラピ!?」「どうしてチョピ?」
「満と薫は、昔空の泉に居たムプ」
「そうププ! 二人の故郷は空の泉ププ!」

ムープとフープには、満と薫がいた場所は空の泉だったという意識が強い。枯れ果てた姿になっていたとはいえ、
ムープたちが満たちと出会って一番長い時間を過ごしていたのは空の泉なのだ。
「満と薫はきっと、今は緑の郷が故郷ラピ」
「そうチョピ。二人に命を与えたのは緑の郷の精霊たちチョピ」
「そんなのおかしいムプ!」「そうププ! 空の泉に居ないとおかしいププ!」
「そんなこと言ったってしょうがないラピ!!」
フラッピがそう叫ぶと、ムープとフープの口がへの字に曲がった。
まずいラピ、とフラッピが思った瞬間に二人の目から大粒の涙がぽろぽろと落ちてくる。
「ふ、二人とも落ち着くラピ」
「泣かないでチョピ……」
だが二人の涙は止まらない。ムープとフープは泣きながら、
「ムープは満に何にも話してないムプ!」
「フープだって薫に何も言ってないププ! ちゃんとお話ししてお別れしたかったププ!」
と訴える。「ラピ……」とフラッピは呟いた。ムープ達の気持ちはよく分かるが、
今この状況ではどうすることもできない。
ぐすぐすと泣いているムープをフラッピは耳で抱え込む。チョッピもフープの頭を撫でた。

「ラピ……」
「チョピ……」
とフラッピとチョッピは顔を見合わせた。ムープ達をこうしてなだめることはできるが、
本質的な解決にはなっていない。プリズムフラワーの力を使い切ってしまった今、
本質的な解決はできないというのが正しい。

と、辺りが柔らかい光に包まれた。四人は普段いる空の泉や木の泉といった泉ではなく、泉の郷の中心部である
世界樹の近くに集まっている。七つの泉から注ぎ込む水は今も静かに世界樹を潤していた。
柔らかい光は世界樹から放たれたかと思うとやがて消え、フィーリア王女がその姿を現す。
「王女様ムプ!」「ププ!」
ムープとフープは泣きながらフィーリア王女の胸に飛び込んだ。
「ムープ、フープ。希望を捨ててはいけませんよ」
と優しく微笑む。
「ムプ……」「ププ」
二人はやっと泣くのを止めた。フィーリア王女は真剣な顔になると
フラッピとチョッピの方へと顔を向ける。

「フラッピ、チョッピ。ムープもフープも、よく聞いてください。世界樹に注ぎ込む
 命の力が弱くなっています」
「ラピ!?」
フラッピが驚いて思わず耳を伸ばした。
「世界樹が枯れてしまうチョピ?」
チョッピが慌てて聞き返すと、
「いえ、すぐにそうなることはないでしょう。しかし、少しずつ弱くなってきています」
「プリズムフラワーの力を使ったからムプ?」
「そうだとしても、泉の郷や緑の郷との間の行き来ができなくなるだけで
 命の力には影響がないはずですが……」
フィーリア王女は何かを探るように息を止め、眉を顰めた。
「何が起きているププ?」
フープが心配そうに尋ねる。今は咲も舞も、満も薫もそばにいないのだ。
こんな時に異変が起きたら大変なことになるかもしれない。
「……滅びの力が影響しているかもしれません。正確にはまだ分かりませんが……、
 弱い者たちに影響が出始めているかもしれません」
「弱い者たちラピ?」
「産まれたばかりの精霊たちチョピ?」
フラッピとチョッピが口々に尋ねる。泉の郷にはムープやフープよりもさらに小さい、
産まれたばかりの精霊たちもたくさんいるのである。

「彼らもそうですが……、存在の不確かな者たちも……」
ラピ? とフラッピが不思議そうな表情を浮かべた。フィーリア王女が誰のことを
指しているのかよく分からない。
「とにかく木の泉や火の泉に行って小さな精霊たちの様子を見てくるチョピ!」
チョッピがそう提案し、四人は各地の泉へと向かった。

 * * *

――で、私はどうしてここにいるんだろう。

ブンビーはいつの間にか自分が故郷に戻ってきていることに気が付いた。
ナイトメアに就職して以来ほとんど帰ってきていないが、故郷の風景は
変わっていない。花畑がれんげで満開だ。これから蜂蜜をつくっていくのが
この地の主な産業である。

――プリキュアたちの戦いと関係があるんだろうなあ……
眼の前ののどかな光景には相応しくない激しい戦いのことを
ブンビーは思い出していた。この異変にはあの戦いが何か関係していると
考えるのが当然だ。

――さて、どうするか。
ブンビーカンパニーは人間界にある。そこに戻らなければならないが、
戻れるのかどうかとブンビーは思った。

――河合君は普通の人間だし、どこででも生きていけそうだからいいとして。
  心配なのはダークドリーム君たちだよなあ……

かつての上司、カワリーノに顔と雰囲気が似ているからと言う理由で
ブンビーカンパニーを初めてからすぐ面接に来た河合のことを思わず採用したのだが、
実際につきあってみれば彼は正真正銘の人間だった。
だから今回の件についてはおそらく影響を受けていない。
社長が突然いなくなったので面喰らっているかもしれないが、
今頃は次の仕事なりとりあえずのバイト先なりを探しているのに決まっている。
彼のことはいいとして、気になるのはダークドリームたちダークプリキュア5のことだ。
ブンビーも彼女たちの詳しい出自は知らないのだが、プリキュアと戦ったかつての
敵であることは知っている。だからおそらく、この異変の影響を彼女たちも受けている。

――私と同じように、故郷に帰ってのんびりしているならいいんだが。

変なことに巻き込まれていても困るし、社長のいなくなった会社で途方にくれていても困る。
彼女たちが無事でいることを願いながら、ブンビーはまず久しぶりに帰ってきた故郷に
残した家に戻ってみることにした。

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