前へ


目の前の光景に満は思わず身を震わせた。ついさっきまで明るく、人々の笑顔に
満ちていた遊園地が今は邪悪な気配に包まれ、全ての施設がどす黒く不気味な存在へと
変化している。
――暗黒の……力……?
四方八方、どこかしこからも邪悪な気配が感じられる。ダークフォールに居た頃とは
また違う寒気を満は覚えた。
――とにかく、咲と舞を探さないと……
軽く助走をつけて、たんと地面を蹴って跳びあがる。木々の間を抜けるようにして飛びながら
満は咲と舞を探し始める。
満は耳を澄まし、どんな音も聞き逃すまいとした。
かすかに、だが確かに、聞きなれた声が聞こえてくる。
「咲〜」「舞〜」
「フラッピ! チョッピ!!」
満はくるりと飛ぶ向きを変えて声のした方に急行した。
「満ラピ!」
「満チョピ!」
光の玉になって空を飛んでいたフラッピとチョッピが満の姿を見てぼんと元の姿に戻る。
「どうしてあなたたちだけで!? 咲と舞はどうしたの!?」
その姿に満は焦った。咲と舞はフラッピとチョッピがいないと変身できない。
ということは、咲と舞はプリキュアになれないままでこの遊園地をさまよっているという
ことになる。

「今探してるラピ!」
「早く咲と舞に会いたいチョピ!」
フラッピとチョッピも切羽詰まった声を絞り出す。

「分かったわ、早く咲と舞を探しましょう!」
満はフラッピとチョッピを抱くとまた空に飛びあがった。

 * * *

サウラーはみのりと薫のことをそっと観察していた。
みのりは普通の人間の少女に見える。だが、薫の方は……、
先ほど遊園地に戻っていった赤い髪の少女に良く似ている。
ということは恐らく、彼女も。そう考えるとサウラーは薫の背後にすっと回りこみ、
他の人には聞こえないような声で薫の耳元に囁きかける。
「……君たちは、普通の人間じゃないんだろ?」
「!?」
薫が身を翻してきっと睨みつけると「おっと」とサウラーは薫を制するように手を伸ばした。
「僕だって、そういう意味じゃ普通じゃないさ。プリキュアとはちょっと因縁もあってね」
薫にだけ聞こえるようにぼそぼそと声を出す。
「……それで?」
「もしプリキュアが倒されてあの力が遊園地の外に出てくるようなことがあったら、
 ここにいる人たちは僕たちで何とかしなくちゃいけないだろう」
「……言われるまでもないわ。私が守ってみせる」
サウラーは軽く肩をすくめて笑った。
「頼もしいね。……さっきのおじさんにも頼んでおこう」
そう言ってサウラーは演説を終えたブンビーの方へと近づいていった。

 * * *

「フラッピー」
「チョッピー」
咲と舞の二人は暗い森の中を手をつないで歩いていた。
「フラッピー!」
「チョッピー!」
フラッピとチョッピを呼ぶ声に返ってくる声はなく、
咲と舞の声は闇に吸い込まれるようにして消えていく。
時折遠くから爆発音のようなものが聞こえるが、ドリーム達やピーチ達が
敵と戦っているのかもしれない。

レインボージュエルがボトムの手に落ちつつあるとは言え、まだ望みはある。
つぼみや妖精たちが地面の下へと落ちて行ったあと、残った咲たちはすぐに
これからの方針を決めた。
のぞみ達とラブ達は妖精たちがいなくても変身できるので変身し、
つぼみたちを探して守ると同時にレインボージュエルをどうにかする。
なぎさ達と咲と舞はまず自分たちの妖精を探し、変身した後レインボージュエルをどうにかする。

ラブたち四人が真っ先につぼみたちを探しに行き、後にはなぎさ達と咲たち、
のぞみ達が残った。

のぞみは初め、プリキュア5とミルキーローズが二手に分かれなぎさ達と咲たちに
付いて行ってガードしながら妖精たちを一緒に探すという案を主張したのだが
それはなぎさも咲も断った。
「私や咲たちよりつぼみとえりかの方が絶対大変だよ」
なぎさの言葉を受けて咲も、
「うん、ドリーム達もあの二人を探してあげて」
と変身したキュアドリームを促した。
「え……でも、本当に大丈夫?」
キュアドリームはいかにも心配そうだ。ドリームの後ろにいるプリキュア5やミルキーローズも
なぎさ達や咲たちをそのまま行かせるのは気が進まない様子だった。
「大丈夫だって!」
なぎさはにかっと笑って見せた。
「私たちこう見えて結構修羅場くぐってるんだから。行こう、ほのか、ひかり!」
学校から家に帰る時みたいに大きく手を振ってなぎさはその場から駆け出す。
ほのかもひかりもなぎさについて走り出した。
「じゃあ私たちもフラッピ達探してくるね。ドリーム、つぼみたちのことよろしくっ!」
咲と舞も手をつなぐと、別方向に駆け出した。それを見てプリキュア5達も覚悟を決めると
つぼみ達を探しに地を駆けた。


というわけで、咲と舞は二人で森の中を歩いている。見たこともない植物があたりには
たくさん生えていたが、どれもこれも食虫植物のように見えた。

「ねえ、咲」
「舞、どうかした?」
フラッピ達の名前を呼ぶのをやめ足を止めた舞に咲が振り返る。
「フラッピとチョッピも、きっと私たちのこと探してるよね」
「うん、絶対そうだと思う」
「だったら――どこに行くかしら?」
「私達の場所も分からないはずだから、私達みたいに色々な場所を探してるんじゃない?」
咲がそう答えると、「ねえ咲!」と舞は突然大きな声を出した。
「なな、何、舞?」
「世界樹のモニュメント! フラッピとチョッピ、そこに行ってるんじゃない!?
 だって私達が会う場所って言ったら大空の樹だもの! 大空の樹は世界樹と繋がってるんだから!」
「あっ……!」
咲もようやく気付いたように声をあげた。確かにそうだ。咲と舞、フラッピとチョッピが
出会ったのは夕凪町にある大空の樹の下だ。大空の樹は世界を支える世界樹とも
繋がっている樹であり、泉の郷とこの世界を結ぶ出入り口にもなっている。

この遊園地で咲たちとフラッピ達が出会うのに最もふさわしい場所は世界樹のモニュメントに違いない。
だとすればフラッピ達がそこを目指している可能性は高い。

「え、えーと!」
咲はポケットから畳んでいた地図を取り出す。
「さっき私達がいたのがここで……こっち方面に向けて歩いてきたんだから
 今きっとこの辺で……」
「世界樹のモニュメントはここね。だったら……こっち?」
舞が今までの進行方向のやや左手を指す。あたりの風景が地図に描かれているものとは
すっかり変わってしまっているのでわかりにくいが、方角的にはおそらく
そちらの方だと思われる。
「地図、今度こそあってるよね……」
咲が舞の目を窺った。舞が地図に視線を落とす。
「たぶん……大丈夫だと思うけど……」
「よっし、行こう舞!」
咲がぐっと舞の手を握りなおした。
「待て、プリキュア!」
走り出そうとした二人に暗い声が覆いかぶさる。はっとあたりを見回した二人の目の前に
一人の男が急降下して現れた。咲と舞が見たことのない、真っ白な髪の怪人だ。
「あなたは!?」
「カブキマン!」
連獅子のような髪と隈取りしたような顔の模様から連想したままの言葉を咲が叫ぶと、
「違う! 変な名前で呼ぶな! ピーサードだっ!」
と男は怒鳴った。
「な、なんなのよあんた!?」
じりじりと横に逃げつつ咲と舞は男を睨みつける。
「プリキュア、今日こそお前達と決着をつけてやる!」
「今日こそって、初対面じゃない!」
「かまわん。お前たちを倒してからあのプリキュアどもを倒しに行ってやる。
 さあ、変身しろ!」
じりじりと咲たちはピーサードの周りを動き、向きを変えて
世界樹のモニュメントの方に回りこんだ。

「仕方ないな、行くよ舞!」
ぎゅっと咲は舞の手を取ると、
「こっち!」
と一目散に逃げ出す。
「何!? なぜ変身しないで逃げる!?」
ピーサードは二人の行動に茫然としたが、すぐに「可哀そうに」と独りごちた。
「なんだか知らないが変身できないようだな」
そう呟くと彼は
「待て、お前たちどうやったら変身できるんだ!!」
走って逃げている咲と舞を追いかけながらピーサードは叫ぶ。
「何でそんなこと聞くのよ!?」
「一緒に方法を探してやる! 変身させてからお前たちを倒す!」
「余計なお世話よ、カブキマン!」
「ピーサードだ!」
咲と舞の前に川が現れた。「舞、こっち!」と咲は横にそれると、
川の中に並んだ石の上をぽんぽんぽんと跳んでいく。舞は咲に手をひかれたまま
必死に咲についていった。
「はーっはっはっはっ!」
ピーサードは高笑いしたかと思うと川面の上を強引にばしゃばしゃと走る。
「あ、あの人川の上を!?」
舞がそちらを見て息を飲んだ。
「右足が沈む前に左足を出せば水面も走ることができるのだ!」
「もう、しつこいわね何なのよカブキマン!」
「だからピーサー……どわっ!?」
咲に気を取られて足を滑らせたピーサードが盛大に水しぶきをあげて川の中に沈む。
「舞、早く行こう!」
もう向こう岸まであとわずかだ。咲はぴょんぴょんと最後の石を跳び越えた。

「――咲、舞!」
「満!?」
岸に上がった咲と舞の前にフラッピとチョッピを抱いた満が急降下する。
「フラッピ!」
「チョッピも!」
「おのれっ、プリキュアー!」
ピーサードが咲たちの跳んできた石の上に立ちあがった。その表情は怒りに満ちている。
それを見た満が右手を握り開きながら軽く腕を振った。
満の手から連続的に赤い光弾が放たれる。さらに左手、右手と交互に使いながら
滅びの力を浴びせ続けると、しばらくしてピーサードはそのまま消滅してしまった。

「満、みのりは!?」
咲がすぐに満に駆け寄る。
「みのりちゃんなら大丈夫。安全なところに逃げたから。薫がそばにいるわ」
「……そっか。良かった」
咲はほっと息をついた。
「でも、咲、舞。今回の相手は……洒落にならないわ」
満が厳しい表情で闇に包まれた空を見上げる。邪悪な気配は強くなることはあっても、
弱くなる様子がない。

「うん」「ええ……」
咲と舞はその言葉に頷いた。……咲はおもむろに顔をあげて、満を見つめる。
「ね、満。お願いがあるんだけど。みのりのそばにいてやってくれない?」
「え? でも……」
意外そうな満に咲は更に言葉を続けた。

「みのりにとっては久しぶりの遊園地なのにこんなことになっちゃってさ……、
 せめて少しでも、怖い思いをさせたくないんだ。大好きな薫お姉さんと満お姉さんが
 二人揃ってそばにいた方が、みのりも安心すると思うから。
 こっちは、私と舞でちゃんとやるよ。だから……、」
「本当に大丈夫なのね?」
満が念を押すと、咲はうんと頷く。
「お願い、満。みのりのこと」
「まかせて」
微笑を浮かべて頷くと、満は「デュアルスピリチュアルパワー!」という
咲と舞の声を背後に聞きながらそのまま戦線から離脱した。

 * * *

「あっ! 満お姉さん!」
遊園地の中に入ったのと同じように、大ジャンプと見せかけて空を飛び
満は再びみのりと薫のそばに戻ってきた。着地してから服を見てみると、
また元に戻っている。どういう仕組みなのかと満は不思議に思った。

「ねえ、お姉ちゃんと舞お姉ちゃんは!?」
みのりが満の足にしがみつくようにして聞いてきた。ええと、と満は答えを考える。
「咲たちなら大丈夫よ。戻ってくるまで、ちょっと時間がかかるだけ。
 ……ええと、その……」
「『プリキュア』は咲たちのことを守っていたの?」
薫が横から口を挟む。満はえ? と薫を見た。プリキュアについてどこまでみのりちゃんに
話したのだろうか、と一瞬悩む。
「『プリキュア』は咲たちのことを守っていたの?」
薫が同じ質問を繰り返す。これに答えろってことね、と満は思った。
「ええ。『プリキュア』が咲と舞のことを守ってくれていたわ」
「お姉ちゃん達大丈夫なの?」
「大丈夫。すぐに戻ってくるわよ。『プリキュア』が助けてくれるから」
「……うん」
みのりは手に持っていたミラクルライトを両手で包みこんだ。


「プリキュアに力を!」
と最初にミラクルライトを振ったのがみのりだったのは必然だったかもしれない。……

 * * *

花火が上がり、何事もなかったかのように元の姿に戻ったフェアリーパーク。
再び繋がった橋をみのりは「お姉ちゃん!」と真っ先に駆けて行った。
満と薫が後ろからついていく。
世界樹のモニュメントがある広場の方に行ってみると……、

「お姉ちゃん! 舞お姉ちゃん!」
「みのり!」
広場にはプリキュアたち17人が集まって思い思いに談笑していた。
みのりの声に咲がすぐに気付く。
「みのり!」
駆けてきたみのりにどんとタックルされる形で咲は思わずよろけたが、
みのりは咲の周りにいる面々に気付くと、あ、と咲から離れてなぎさやのぞみの前に
ちょこちょこと歩み出る。

「お姉ちゃんがお世話になってます」
ぺこりとお辞儀をしたその姿になぎさものぞみもぷっと吹き出した。
「みのりちゃん、咲よりしっかりしてるんじゃないの?」
「うんうん、咲ちゃんより大人な感じ!」
「え〜。ちょっと、もう……」
咲はとても恥ずかしそうに顔を赤らめた。

「じゃあお姉ちゃん、みのり薫お姉さん達とゴーカート乗るから」
「え? そうなの?」
「うん、だって薫お姉さん達と立てた予定がまだ全然終わってないんだもん」
薫お姉さん満お姉さん行こっ、とみのりは満と薫、二人と手をつないだ。
「えーと、満、薫。みのり任せちゃって大丈夫?」
「もちろんよ」と満と薫の二人は咲に即答した。
「ねえねえ、早く行こうよ!」とみのりは二人を急かしている。

「じゃあ、咲。また後でね」
満が手を振り、三人はゴーカート乗り場の方に向かって行った。
「うう〜ん」
と咲は複雑な顔をする。なんだか良く分からないが、妹において行かれたような気がする。
向こうの方でなぎさがひくひく笑っていた。みのりの様子がよほど楽しかったらしい。
「ねえみんな、そろそろパレードだってー!」
タルトにスケジュールを聞きに行っていたラブが戻ってきた。
こっちこっち、とパレードの行われる大通りの方を指差している。
「じゃあみんなでパレード見るのけってーい!」
のぞみがびしっと人指し指を突き出し、一同は大通りの方に向けてわいわいと歩き始めた。

-完-

 ←押していただけると嬉しいです。





前へ


コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る