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発端は咲が招待状をベッドの上に置き忘れていたことだった。
いつものようにPANPAKAパンに舞や満、薫が集まってあれこれ話し、もう日も傾いてきたので
そろそろそれぞれの家に帰ろうか、となった頃。友達の家で遊んできたみのりも
ちょうどPANPAKAパンに戻ってきた。

「ただいまー」
元気良く玄関を開けて家の中に飛び込んでくると、舞たちの靴がまだ置いてあるのを見てみのりは舞お姉ちゃんたちまだいるんだと思い大急ぎで手を洗って咲とみのりの部屋に駆け上がる。

「ただいまっ!」
「お帰りなさい、みのりちゃん」「お帰りなさーい」
ばたんと部屋の扉を開けると、咲のベッドに座っている咲と薫、床に置いたテーブルの前に座っている舞と満が目に入った。
「みのり、ちゃんと手洗った?」
「洗ったよー、ほらもうぴかぴか」
みのりは両手を振るようにして咲に見せると、よいしょと自分のベッドの上に上ってその上をとんとんとんと飛び跳ねるようにして歩いて枕元にぺたんと座った。背負っていた小さなリュックを枕元に置いて、
「じゃあ私たちもそろそろ……」
と言いはじめている薫に釣られるようにして咲のベッドに目を移す。枕元においてある
小さなカードのような物が目に入った。何か可愛らしい絵のようなものが書いてある。
「お姉ちゃんたちも今日お絵かきしたの?」
ベッドからぺたんと床に降りて咲のベッドに歩みよるとぱっとカードを取る。
気づいた咲が止めようとするがもう遅い。

「え、これ……遊園地!? お姉ちゃんたちみんなで遊園地行くの!? ずっるーい!」
「ず、ずるくないわよ! 大体みのりは何で勝手に見るの!」
「だってベッドの上に置いてあるんだもん! それより遊園地ー!」
「私は私の友達と行くんだから! 何でもかんでもついて来ないの!」
「友達って? 舞お姉ちゃんたち?」
「舞たちもそうだけど、のぞみとかなぎささんとか!」
「えー、のぞみお姉ちゃんとかなぎさお姉さんならみのりも知ってるもん!」
「みのりちゃん……だったら……」
薫が何かを言いかけたが、

「ほ、ほら舞も満も薫も! もう帰らないと」
咲が強引に三人を部屋から押し出すように追いやった。「ちょ、ちょっと咲!?」と
三人とも慌てるが咲はその声には耳を貸さないでそのままどだだだだっと三人を廊下まで
押して行きその勢いで四人は玄関まで階段を落ちるように降りる。
玄関で咲はやっと三人を押すのをやめた。はあはあと息切れしている。

「……どうしたのよ、咲」
満が不思議そうに咲に尋ね、上気した咲の顔を覗き込む。
今の咲の反応は極端過ぎると満には思えていた。

「あんなに行きたがっているんだから連れて行けばいいじゃない。
 他のプリキュアのみんなと話をする時にみのりちゃんがいたらまずいって言うなら、
 私がみのりちゃんを見ているわ」
薫も、そう言葉を添える。だが咲は眉を八の字にして首を振った。
「そりゃ連れて行ったら喜ぶだろうけどさあ……今回の遊園地って、
 フラッピたち精霊の仲間がやってるんでしょ? みのりにフラッピたち見られたら、
 またミミンガの時みたいな騒ぎになっちゃうよ」
満と薫が滅びの国ダークフォールの湖底に眠っていた頃、フラッピたち精霊が
咲たちのクラスメートに見つかって大騒ぎになったことがある。
この地方の言い伝えにある「ミミンガ」ではないかということで、捕まえて町おこしを
しようと町の人たちが大勢でフラッピたちを探し回ることになったのだ。
結局「咲たちのぬいぐるみが見間違えられてしまった」ということで事態を収拾したわけだが、
またあの騒ぎになるのは避けたい。というのが咲の考えだった。

「そう……なの」
薫には「ミミンガの時」みたいな騒ぎというのが良く分からなかったが、
咲なりの考えがあることが分かるとそれ以上強くは言えなかった。
「みのりちゃん絶対喜ぶと思うけど……、」
最後の抵抗とばかりに舞が呟くものの、咲はやはり首を振る。
「それでも……駄目だよ。みのりには私がよく言い聞かせておくから」
咲はそう答えると、八の字眉のままで三人を送り出した。

 * * *

満と薫は元々ダークフォールの戦士として産み出された存在である。
プリキュアに変身した咲や舞と戦ったこともある――、満と薫は戦おうとしたが
咲たちは防戦一方で戦おうとしなかったと言うほうがより正確だろうか。
咲や舞とみのり、それに精霊達と交流し命の輝きに触れた二人は
全てを滅ぼすというダークフォールの目的に疑問を覚え、
最終的には咲や舞と共にダークフォールの面々と戦い、打ち破った。

滅びの世界の主が消えたことで二人もまた跡形もなく消滅するはずだったが、
緑の郷の精霊達の力によってこの世界に生きている。
その体内に滅びの力を維持してはいるものの、戦いのなくなった今となっては使うことはあまりない。

「満ー! 薫ー!」
二人が暮らす家に戻ってくると待ち構えていたように月の精ムープと風の精フープが
ぴょんと家のそばの樹から飛び出してきた。

「ムープ、フープ来てたの?」
胸の中に飛び込んできたムープを手の中に支えながら満は家の鍵を開けて中に入った。
フープは薫の肩の上にちょこんと乗っている。
「満と薫に渡す物があるムプ」
「そうププそうププ!」
部屋の中に入って電気をつけると、ムープは「これムプ!」と小さな封筒を
満と薫の目の前に出した。
「これって……フラッピたちが咲のところに持ってきた?」
「そうププ! 満と薫への、フェアリーパークへの招待状ププ!」
薫の肩の上の方でフープが嬉しそうにぐるぐると回る。
「みんなが来るの楽しみムプ!」
ムープもフープの周りを飛び回り始めたので、見ていた満は目が回りそうになって
視線を逸らした。と、薫が手を伸ばしムープとフープをぱしんと止める。
「……ちょっと相談があるんだけど……」
「相談ププ?」「ムプ?」
薫の右手と左手にちょこんと乗ったままムープとフープは不思議そうな表情で薫を見上げた。
「その遊園地。普通の子どもは行っちゃ駄目なのかしら」
「普通の子どもププ?」
「ええ。……みのりちゃん」
「大歓迎ププ!」
薫の予想に反してフープはあっさりと答えた。
「そうムプそうムプ!」とムープもフープと同意見だ。

「レインボージュエルは1000年に1度しか姿を現さないムプ、
 ミラクルライトでレインボージュエルの光を受ければすごく幸せになれるムプ!」
「だからみ〜んなに来て欲しいププ!」
「そういうものなの?」
「そうププ!」
フープは薫に大きく頷いた。
「だからみのりも連れて来てほしいムプ!」
「じゃあ」
薫の表情が明るくなった。
「みのりちゃんを一緒に……」
「待って、薫」
結論を出そうとした薫を満が止める。「ムプ?」とムープが満に振り返った。
「咲が言ってたんだけど、精霊の存在がみのりちゃんに見られると
 大変なことになるかもしれないって……」
「それも大丈夫ムプ」
ムープが軽く請合った。
「その辺のこともちゃんと考えてるププ! 遊園地のあちこちに看板を立てて、
 パーク内の妖精たちのことを説明してあるから、妖精を見てもそんなに不思議には思わないはずププ!」
「……つまり、みのりちゃんを連れて行っても大丈夫なのね?」
薫が念を押すと、「大丈夫ムプ!」「大丈夫ププ!」と二つの声がユニゾンした。

「絶対来てムプ」と言葉を残し、ムープとフープは支度があるからと言って
開園前のフェアリーパークに戻っていった。
「PANPAKAパンに行ってくるわ」
と薫も家を出ようとする。
「待って。私も行くわ。咲に説明するんでしょ」
「ええ、そう……それに」
薫はムープから受け取った封筒の中に入っていた紙を満に見せた。

「どの乗り物に乗りたいのか、みのりちゃんからちゃんと聞いておかないと」
「……明日以降でも十分間に合うと思うんだけど」
「準備が必要じゃない。心構えとか」
何の準備で何の心構えよ、と満は思ったが黙っていた。
これ以上薫にあれこれ言っても仕方がないような気がする。

 * * *

「で……」
フェアリーパーク開園当日。予定時間を大幅にオーバーして咲たち五人は
会場入り口前に辿りついた。
「……うん。そりゃみんな、もう待ってないよね……」
待ち合わせ場所には見知った顔は誰もいない。それはそうだ、これだけ遅刻すれば
もう遊園地内に入って遊んでいても当然だろう。
がくっと咲が首を落とす。地図を見て、「絶対こっちだよ!」と明後日の方向に
駆け出したのは咲である。
「もう〜、お姉ちゃんってば……」
みのりはぷうっと頬を膨らませた。

「ととととにかくさ! みんな中にいるんだから探せばいいんだよ探せば! うんうん!」
咲は慌ててその場を取り繕う。
「そうね……ねえ、みのりちゃん。みのりちゃんは薫さんや満さんと
 色々な乗り物に乗っていたら?」
「え? でも」
舞はしゃがみ込んでみのりと視線を合わせた。
「薫さんたちと一緒に、今日の予定も決めてあるんでしょう? なぎささん達を探すの、
 ちょっと時間がかかりそうだし……そうした方が、遊園地たくさん楽しめるわ」
「いいの?」
「いいわよ……ね」
屈んだままの舞が顔だけ上に向けて咲と満、薫を見回した。咲は満と薫に視線を移す。
「いいわよ」「もちろん」
二人が口々に答えたのを聞いてみのりはにかっと満面の笑みを浮かべた。
仕方ないなあという顔で咲も舞と一緒に屈みこむ。
「じゃあみのり、満と薫の言うこと良く聞いて迷惑かけないようにしてよ」
「大丈夫だよ」
もうみのりは何を言われても怒らないだろうと思えるほど上機嫌だった。
「あ、あとそれと薫たちから離れないようにして。もしはぐれても、絶対遊園地の外に
 出ちゃ駄目だよ! 絶対探すから、この中にいなくちゃ駄目だよ! 絶対だよ!」
「分かってるよ〜もう。子どもじゃないんだから」
「はいはい」
咲はそう答えて立ち上がると、微笑を浮かべている満と薫に目を向ける。
「満、薫、ごめん。みのりのこと頼んじゃうけど……」
「構わないわ、みのりちゃんのことは私と満に任せて」
「また後で合流しましょ。えーと……」
満は近くに立っている園内の地図を描いた看板を見た。
「この……『世界樹の広場』でどうかしら」
「そうだね、そこに集まることにしようか」
『世界樹の広場』には、泉の郷――フラッピやチョッピ、ムープ、フープの故郷――にある
世界樹を模したモニュメントがあるそうだ。フラッピが招待状を持ってきたとき、
「とにかくあのモニュメントのデザインにフラッピたちは頑張ったラピ!」
と言っていた。ベンチなども置いた広場になっているそうなので
合流する場所としては打ってつけだろう。

「ねえ、薫お姉さん早く行こうよ!」
みのりは腕に飛びつかんばかりの勢いで薫の手を握る。
「じゃあ、お昼ぐらいに」
と満と薫、みのりは咲に手を振って遊園地の中に入って行った。


「みのりちゃん、本当に楽しそう。良かったわね一緒に来れて」
舞が遊園地の中に入っていく三人の後ろ姿を見ながら目を細めた。
「うん。はしゃいじゃってさ……」
咲も少し感慨に耽っていた。両親が店を開いている日向家の場合、家族でお出かけという
機会はどうしても少なくなってしまう。みのりがこんな風に遊園地に来るのは
ずいぶん久しぶりのことだ。

「じゃあ、私たちもみんなを探しましょう」
「うん、えーと、まずこの辺から……」
舞に言われて咲は遊園地内の地図を開いた。


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