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「薫。少し時間稼いだら、いくわよ」
「ええ、分かってるわ」
小動物たちが出口の向こうに消えるまで十分時間をとり――、
「はああ……」と二人は気合を込めた。赤い光球が二人の間に出現する。
バリヤーを解除した二人の上から襲いかかろうとしていた怪物に直撃する攻撃。
どんな存在とて、この光球を受ければ相応のダメージは受ける。ましてこの距離では……。

「……ッ!?」
だが目の前の怪物は球を受け止めるとそのまま飲み込むように身体に包み込んだ。
「いい力だ」
その声が地を振るわせる。怪物の身体がゆっくりと盛り上がった。
はじけるように三体に分裂したそれは満と薫の脇をすり抜け精霊たちの後を追う。

「しまった!」
後を追おうとした満と薫の前に更に分裂した怪物の一部が立ち塞がる。
形勢逆転。先ほどまで怪物の足止めをしていた満と薫が今度は足止めを食わされている。

だが二人はご丁寧にこんなものに付き合っている気はなかった。
一瞬顔を見合わせた後、二人揃って駆け出す。
勢いに任せて繰り出した拳は怪物の身体をえぐる。穴は開かない。
跳ね返された二人の前で怪物の身体は溶けた粘土のように
形を変え、ゆっくりと元に戻っていった。

――だったら……
床を蹴り跳び上がると、二人の足が同時に怪物の中央へと叩き込まれる。
刃のように飛び込んだ二人の脚が怪物の身体に開けた穴はそのまま通路となるはずだった。 だが柔らかい身体には恐ろしいほど手ごたえはない。
逆に怪物に飲み込まれそうになった二人は勢いをつけて後ろに跳んだ。
「どうする、薫?」
「……」
止むを得ない。薫は覚悟を決めた。とにかくこの建物から外に出られなければ精霊達を
追いかけることもできない。
「こっち!」
二人はくるりと後ろを向くと会議場に向って走りだし、
「はあっ!」
蹴りを一発、壁に穴を開けるとそのまま穴の中を駆け抜け、

「どこに行くの!?」
「分からないけど、精霊達のところへ!」
会議場から走り出ると、二人はまた身体が浮き上がるような感覚を覚えた。
目を閉じてなるがままに任せる。時間が少し経過する。気がつけば大空の樹の前である。
「……どういう仕組み?」
「さあ?」
満と薫は立ち上がって目を疑った。

海の向こう――横浜という大きな港がある方向――の空が暗く染まっている。
会議場で感じた妖しげな気配が今は巨大な物となり、満と薫の肌を細かく震わせている。
とてつもなく嫌な気配だ。何かがあの場所に存在している。

「行かなきゃ!」「ええ」
背後にぐちゃりと嫌な音がした。
目だけでそちらに振り返ると、予想通り、会議場であった怪物が後を追って来ていた。

「こっちを片付けるのが先みたいね、薫」
「……そうね」
薫は内心、厄介な敵だと思っていた。殴っても蹴ってもあまり手ごたえがない。
最初の攻撃が吸収されたように見えたのも気にかかる。
怪物は二人の前でゆらゆらと液状に動いたかと思うと、その姿を意外な物へと変化させた。

「ウザイナー!?」
しかも見覚えがある。満が一度だけ出したことがあるウザイナー、隕石のウザイナーだ。
ウザイナーは右腕を大きく振りあげ、振り下ろした。はっと二人が上を見ると
昼間だというのに流れ星が軌跡を描いて降り注ぎ、

「満、何とかしなさい!」
薫は叫びながら流れ星の爆撃を避け走り回る。
「何とかって!」
満も逃げ、二人はウザイナーの視線を避け木の影に隠れた。

「タチ悪いわね、あのウザイナー」
吐き出すように満が言うと、
「満が出したウザイナーだもの」
「どういう意味よ!?」
「敵に回したくないってこと。……弱点、ないの?」
「……あるわ。一応」
満の説明を聞いた薫はぱっと木陰から飛び出した。隕石ウザイナーが薫の動きに気づき
腕を振る。

薫の走る軌道に沿って流れ星が次々に落ちてくる。右に左に、薫は逃げながら
たまに光弾を放つ。だがウザイナーの外殻を壊すには至らない。

――薫、派手にやってるわね。
光弾が着弾する度にウザイナーの身体から煙が上がるのを見ながら
満は隕石ウザイナーの背後の上空にそっと浮かび上がる。

このウザイナーの弱点は死角が広いことだ。
ほぼ平面の身体の片側にだけ目がついているという構造上、背後の敵の存在は
ほとんど感知することができない。

昔は満と薫が隕石ウザイナーの背後にいることでその弱点を防いでいたとも言えるのだが、
今はそうではない。
薫の動きに気を取られているウザイナーの背中は隙だらけだ。

――他愛のないものね……。
満の両掌に滅びの力が宿る。
一撃でとどめだ。……そう思ったとき、満の心の中で何かがびくりと動いた。

隕石が樹を倒す音で満ははっと我に帰る。
「ええいっ!」
叫び声とともに、一閃、満の放つ滅びの力が二枚の刃となってウザイナーを切り裂く。
三つに引き裂かれたウザイナーは情けない声をあげてそのまま消えていった。

「成功ね、満」
囮役を引き受けていた薫が地上に降りた満に近づいてくる。
「満……?」
満は黙ったままでじっと自分の手を見ていた。
「どうしたの?」
「薫……私……」
思い出したくもないことを思い出してしまった。
隕石ウザイナーの後ろから「とどめだ」と言った時のことを。
キュアブルームとキュアイーグレットにとどめを刺そうとした時のことだ。

――あの時、咲たちが何も言わなかったら。私はあのままとどめを刺していた……。

「満?」
薫がもう一度尋ねた。だが満は、黙っていた。
嫌な気配がする。近づいてくる。薫は横目でそちらを見る。
金属様の光沢を持つ怪物が流れるようにして二人のもとへ近づいてくる。

「よこせ……お前たちの力をよこせ……」
声は前よりも強かった。
薫は満を自分の後ろに押しやるようにして怪物と対峙する。
「お前たちの力……プリキュアより使いやすい……効率よく我が力へと変換できる……
 お前たちは我が力となるべき存在……」
――どういうこと……?
最初の攻撃が吸収されたように見えたことを思い出し、満ははっと気がつく。

――私たちの力が滅びの力だから……? だから、こいつの力になってしまう……?
滅びの力だから、プリキュアよりも使いやすくて
効率よくこの怪物のエネルギーになってしまうのだとすれば……

――うかつな攻撃はできないわね。
薫は冷静に状況を把握しようとしていた。攻撃が相手の力になってしまうのであれば、
対策を考えなくてはならない。とりあえずは逃げるか……、しかしそれでは
問題の解決にはならない。

「お前たちも……一つになるがいい……!」
薫がバリヤーを張ろうとした。だがすぐ隣に来るはずの満はそれに間に合わなかった。
しまったと薫は思った。満の身体を引っつかんででも逃げるべきだった。判断ミスだ。
二人の力で張るはずのバリヤーは成功せず、怪物の身体が大きく膨れ上がり、
気づくと暗闇の中にいた。

「満……」
ちゃぷんと水のような音と共に薫の声がした。いつの間にか二人の立っている場所は
液体で満たされていて腰辺りまでそれに浸かっている。

「どうしたの、満。しっかりしなさい」
薫の腕が満の腕を取り、自分の肩へと満を寄りかからせる。
「薫……私たち……」
「我が内で一つになるがいい!」
大きな声に満と薫の会話は中断した。赤い目がこちらを睨んでいる。

「……一つに」
満は紫色の炎が見えるような気がした。
昔、その中から自分たちは取り出された。それまでは一つに溶けていた。
昔に戻れ、そうあの怪物は言っているのかも知れない。

「満、どうしたの。こんなところで諦める気?」
薫の手が満の背中を撫でる。満の様子がおかしいのは分かっている。
だがその理由が分からない。

「何があったの」
「……ウザイナー」
「え?」
「あのウザイナー、出したのは私よ」
「それは昔のことじゃない」
何を言い始めるのかと薫は思った。

「ええ、そう。でも、出したのは私。咲や舞のこと、倒そうと思ってた」
「そうね……」
薫は眉を顰める。楽しい思い出ではない。
「あいつ、言ってた。私たちの力、使いやすいって。
 やっぱり、滅びの力だから? 何かを滅ぼすための力だから?」
「満……」
薫にはなんとなく満の気持ちが分かった。

「そうね。私たちはダークフォールで産み出された存在よ。
 使うのは滅びの力だし、緑の郷を滅ぼそうとしたこともあるわ」
事実を並べ立てると満は薫から目をそむけようとする。
逃がさないというように薫は空いている方の手で満の顔を掴んで自分の方に向けさせた。

「でも、今の私たちは緑の郷を守りたいと思っている。違ったかしら?」
「そ……それはそうよ」
「運命は変えられる。咲や舞ならそう言うわ。あの二人は本当に私たちの運命を変えてくれた。
 ……私たちはプリキュアじゃない。でも、私はプリキュアみたいになりたい。
 大事なものを守るために、自分の力を尽くしたいの。満は違うの?」
「……それはそうよ。私だって」
薫は満から一度手を離すと、改めて手を繋いだ。

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