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「あれはあくまでプリキュアに近づくためだ! 大体、なぜお前がそんなことを知っている!?」
「あ〜、やっぱり食べてたの? あなたのいる町のドーナツが有名だから言ってみたんだけど。
 おいしいものね、あれ」
――それに、この前プリキュアらしき子がドーナツ買ってこの子の所に来てたしね……
内心ぺろりと舌を出した満に、

「ふざけるな!」とイースが飛び掛る。満はぱっと身をかわし海上へと逃れた。

「満っ! 今は引きなさい!」
上空から薫が降り立つ。海面に立つ満と陸上のイースの両方から薫は距離をとって立った。
「……私はお前らとは違う……」
イースが小さな声で呟く。海の風に半ばかき消されながらもその言葉は満と薫にも届いた。
「だから? どうだっていうの?」
挑発するような満の言葉。薫が止めようとしたが間に合わなかった。
「この世界の食べ物など、私には必要ない!」
イースの身体が満の右手に抱えたPANPAKAパンの袋目掛けて放たれる。
咄嗟に満はメロンパンの袋を薫に投げて逃がそうとする――が、イースの手刀が
それを叩き、メロンパンは海上に向けて放物線を描く。
「……っ!」
飛び出した満の身体はメロンパンに向かい、着水する前にそれを拾おうとする。
手ははっきりとそれを掴んだ。
だがメロンパンを掴んだ満の後頭部をイースの蹴りが直撃する。
「ぐっ!」
満の身体は海に沈んだ。だがそれでも手だけは何とか海上に上げたまま再度浮かびあがろうとする。
イースの蹴りは更に満の背中を狙いのしかかる。メロンパンもろとも満が完全に沈んだのを
見て足を離し上空に離脱するが満はしばらく浮かび上がってきそうになかった。
砂浜に戻るとイースは海を振り返り満足げな笑みを浮かべる。

「どうだ、泣くがいい、喚くがいい! お前らの不幸が集まれば、この世界もラビリンスの
 支配下に置かれるんだ!」
「……あなたは、逃げた方がいいわね」
薫が海から砂浜に上がってきた。
勝ち誇っていたイースは薫の一言にえ? という表情を浮かべる。

海が盛り上がった。水を切るようにして現れる赤い光がイースの目には一瞬だけ映った。
「っ!?」
瞬時に間合いを詰めてきた満の目をイースは見てしまった。
純粋に研ぎ澄まされた怒り。その手に光る赤い光弾が至近距離から
イースに襲いかかる。
「うわっ!?」
イースはよけるのがやっとだった。

そこに満の拳がうなりをあげて迫る。
――しまっ……!
だがイースの覚悟した衝撃は訪れなかった。
もう独りの裏切り者、カオルがミチルの背後から腕を掴み彼女の拳を止めていた。

「な……何でそんなことを……」
カオルは目だけをイースに向けた。

「あなたもいい加減、あこぎな真似はやめなさい。満の言い方も悪かったとは思うけど。
 早く帰りなさい、あなたの住んでいるところに」
「う……」
そんなことできるかとも思ったが、今は撤退する方が得策とすぐに考え直す。

「邪魔しないで、薫っ!」
満は飛び去るイースを追おうとしたが薫に腕を掴まれたまま、
彼女の姿が見えなくなってからやっと大人しくなった。

「なんで邪魔するのよ!? 私の言い方も悪いって、何よ!?」
薫が腕を離すと今度は薫に怒り始める。
「満。あの子のことはプリキュアに任せると言ったのは満よ」
諭すように薫は満に話しかけた。
「それはそうだけど、でも」
「大丈夫よ。あのくらいやっておけばしばらく満にちょっかいを出すことはないわ」
「メロンパン……」
「これは?」
薫はイースが岩の上に忘れて行ったメロンパンの袋を満に渡そうとした。
だが満は「それじゃないの」と答える。
「……メロンパン……咲のお母さんが私にくれたのに……」
海に沈んでしまったメロンパンを思い出しながら満はしょんぼりと肩を落とす。
「……そうだったの。ごめんなさい、満。ちゃんと取れなくて……」
薫は慰めるように軽く満の肩を叩いて謝った。

――満がどうしてこんなに悲しんでるか、あの子にはきっと理解できない。
それはちょうど、昔の自分たちと同じだ。
その思うと薫は胸のうちが切られるような痛みを覚えた。

「満! 薫! どうしたの!?」
咲の声に二人は道路を見上げた。学校から走ってきたらしい咲と舞が
息を切らせている。

「何があったの、満さん薫さん!?」
咲と舞は大慌てで砂浜に降り二人に駆け寄ってくる。
「……メロンパン……」
「え?」
泣きそうな満の声に咲と舞は驚きながらも聞きかえす。

「咲のお母さんからメロンパン貰ったのに、食べられなくなっちゃった……」
「え、えーと、満。じゃあとりあえず家に行こう。他のパンなら余ってるかもしれないし」
「うん……」
満は咲に手を取られるようにして歩き出した。

「あの薫さん、一体何があったの? それメロンパンじゃないの?」
舞が薫の手に持ったPANPAKAパンの袋を見ながらささやきかける。
「ちょっと今は満のこと、そっとしておいて」
薫も小声で舞に答えた。
「……後で教えてもらえる?」
薫がこくんと頷いたので舞は納得したように黙った。


「お母さん、パン余ってる?」
咲が満を連れてPANPAKAパンに戻ってくると、咲のお母さんは
「満ちゃん来てくれたのね、ちょうどよかったわ」と笑顔を見せる。

「え?」
満がきょとんとした表情を浮かべると、
「さっき満ちゃんに渡したのじゃあんまりだと思っていくつか焼きなおしたの。
 はい」
焼きたてメロンパンを3つ渡されて満の顔がみるみるほころんでいく。

「ありがとうございます!」
「どういたしまして。咲の部屋で食べていったら?」
「うん、満うちで食べていってよ」
「はい、そうします!」
満はこれで大丈夫そうだ――と薫も舞も思った。



その頃、イースは本拠地である洋館にたどり着いていた。
――腹が立つ……
手近にある椅子を蹴り飛ばした。腹立たしい。それに良く分からない。
ミチルの、感情一つで強くなるところはまるで人間にでもなったかのようだ。
人間ではないくせに。
かと思えばカオルの行動は敵である自分をミチルの攻撃から守ったりと
訳が分からない。

――結局、あいつらは裏切るようなやつらだから行動も訳が分からないのだ……
イースはそう思うことにした。

自分は彼女達とは違う。裏切り者とは違う。

自分は絶対にあんな風にはならない……とイースは思い、心を落ち着けようとした。

-完-

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