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――ここか。
一人の少女が夕凪町に降り立った。彼女の目的はここに住む二人の少女だ。


学校を終えた満は坂道を転がり降りるような速度で走っていた。
――メロンパン、メロンパン。
頭の中には先ほどからその5文字しか浮かんでこない。
咲も舞も薫も部のミーティングがあるそうなので学校においてきてしまった。

昼ごはんにメロンパンを食べなかったのがいけなかったのか、今は無性にメロンパンが
食べたい。
咲の家を目指して満は道を急いでいた。

――メロンパン、メロンパン!
PANPAKAパンの屋根が見えると満の足取りも軽くなる。
一旦満は足を止め、呼吸を整えてから店に入った。

「こんにちは」
「あら満ちゃんいらっしゃい」
咲のお母さんが優しい声で迎えてくれる。
満が学校の帰りにここに寄るのはよくあることだ。

たまたまお客さんがいない店内を満は斜めに突っ切り、メロンパンを
おいてある棚の前に来た。

「あ……れ? メロンパン……」
メロンパンの値札が置いてある籠の中はからっぽだ。

「ああごめんなさいね、さっき来たお客さんがメロンパン全部
 買って行っちゃったのよ」
「そうなんですか……」
がっかりとして満は肩を落としていた。
期待していただけに失望もひとしおだ。
――普段なら、この時間に売り切れることなんてないのに……
未練がましくそんなことを思ってしまうが、ないものは仕方ない。諦めようとした満に
「ちょっと待ってて」と咲のお母さんが声をかけ、奥へと引っ込む。

「これ、失敗したから商品にはできなかったんだけどもし良かったら」
咲のお母さんがトレイに乗せて持ってきたのは、少しつぶれかけたメロンパンだ。
確かに商品にはできないが、

「いいんですか!?」
満は思わず歓喜の声を上げた。
「ええ。ちょっと形悪いけど」
「そんなのいいです! 頂きます!」
財布を出しかけた満を咲のお母さんは「いいわ」と制する。

「商品じゃないから」
「ありがとうございます」
PANPAKAパンの袋に入れてもらったメロンパンを持ち、満は少し幸せな気持ちで
店の外に出た。

外気に触れた満の肌がぴくんと震える。寒いのではなく――、嫌な予感がする。
予感はすぐに的中した。
つばの広い帽子をかぶった濃紺の髪の少女がゆっくりとこちらに近づいてくるのが見えた。
この前四つ葉町で出会った彼女だ。

「久しぶりね。覚えているかしら」
少女は妙に愛想がいい。満は全身の毛が逆立つような緊張を感じていた。
緑の郷に何らかの害意を持った組織の幹部。彼女の存在はそんなところだろう。
大きく膨らんだPANPAKAパンの袋を抱えているのがどこかミスマッチだ――、
「ええ、もちろん。四つ葉町で会ったわね」
観察を続けながらそ知らぬ顔で満は答える。

「嬉しいわ」
ちっとも嬉しくなさそうに少女は答えた。嬉しくないのは満だって同じことだ。
「そう、ありがとう。今日は何の用でここに?」
「このパン屋さんのメロンパン美味しいんですってね。だから買いに来たの」
満ははっと彼女の持つPANPAKAパンの袋を見た。

――さっき咲のお母さんが言ってた、メロンパンを買い占めていったお客さんって……この子!?

「そうよ。すごく美味しいわ」
「そう」
少女はにやりと笑って続けた。
「あなたは食べられないみたいだけど」
「それを言うために、わざわざ私に?」
満は愛想笑いこそ崩していない。だが誰が聞いても満の言葉は不愉快そうだった。

「ええ、そう。……スイッチオーバー!」
彼女は笑みを消したかと思うとその姿を変える。
服はともかく、髪の色までが変わったことに満は少し驚いた。――と同時に、
人目を気にしていない様子にも。
こんな目立つ格好で居られたら満が困る。無言のままくいっと顎を海岸に向け、
満は場所を海岸に変えた。

夕凪町の海岸の中でも比較的人目につかない場所はある。
「それがあなたの本当の姿?」
「その通り。――我が名はイース、ラビリンス総統メビウス様がしもべ!」
無言で満もまた変身する。


その頃薫は舞と一緒に学校を出ていたが、満の気配をすぐに感じ取った。
「薫さん? どうかした?」
眉を顰めた薫に舞が心配そうに話しかける。
「満が……」
「満さんがどうかしたの?」
「満が危ない……舞、私ちょっと!」
薫もただちに変身すると空中に飛び上がり満を探す。

――ど、どうしよう……
舞は一瞬躊躇したが咲を呼びに学校に戻った。



「私の名は霧生――」
相手に倣って名乗ろうとしたがイースがそれを遮った。
「知っている。お前の名はミチル、かつてのダークフォールの幹部。
 カオルと共に空の泉を支配していたが裏切ってプリキュアについたそうだな」
自分の経歴をずらずらと言われて満は鼻白んだ。

「調べたのかしら、私のこと」
「ラビリンスの力をもってすれば造作もない。ラビリンスはお前たちのような原始的な
 組織とは違う。恩を忘れた裏切り者を出さないという点でも」
「……恩を忘れたことはないわ」
「言い訳?」
「違うわ。あなたには分からないだけ」
「……まあ、いい」
理解できていないようだったがイースは話を進める。

「お前らのような者がちょろちょろしていると目障りだ。邪魔をするのはやめてもらう」
「それって命令? 私、命令されるの嫌いなの」
「……聞かないというなら……」
イースはPANPAKAパンの袋を軽く振った。

「どうするつもり?」
「毎日メロンパンを買い占める」
「何ですって」
満の眉が釣りあがる。
「買い占めてどうするの」
イースは一瞬虚をつかれたような表情を浮かべたが、
「私には必要がないものだ」
とだけ答える。
「食べないの」
「私にその必要はない」
「メロンパンは食べるためのものよ」
満は腹立たしさを覚えていた。メロンパンを無駄にしようとする行為が許せない。
だがそこはぐっとこらえる。
「……折角買ったんなら食べてみれば?」
「必要ないと言ったはずだ」
「ドーナツは食べたくせに」
満の言葉にイースは赤い目を光らせた。

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