美翔舞、という少女がちらちらと自分のことを窺っていることに
美希は気がついていた。
フュージョン戦を終えて他のプリキュアたちとも仲良くなり、
水無月家主催のプリキュアパーティーに呼ばれたときのことだ。

立食形式のパーティーだったのでプリキュアに変身する女の子達はみんな
思い思いに料理をとり、適当な相手を見つけては喋っていたが、舞は自分の
パートナーである咲といつも一緒だった。
主に咲が他のプリキュアに話しかけ、舞はその会話に加わって話をしているような
状態だ。
そんな中で、舞はたまに美希のことを見ている。
――少し引っ込み思案なところがあるのかな……。
と美希は思った。

日向咲と美翔舞。キュアブルームとキュアイーグレット。
プリキュアとしての経験は自分たちよりもずっと豊富な、頼れる先輩だ。
変身を解除すると同い年。……だが咲と舞は、自分たちより少し幼くも見える。

――私から話しかけてみたほうがいいのかも。
飲みかけのグレープフルーツジュースのグラスを持って美希は音もなく
咲と舞に近づいた。

「こんにちは」
「あ! 美希たん!」
ブルーベリーのケーキに手を伸ばしていた咲が美希に気づいて人懐こい笑みを浮かべる。
「美希たん」という呼び方はラブから習ったのだろう。少しおどけているのかもしれない。
「あ……こんにちは」
舞のほうは少しおどおどした様子だった。
――やっぱり、ちょっと人見知りなのかな……
友人達と一緒にいるとき、美希はお姉さん役を任されることが多い。
今も自然と、舞を見る美希の目は妹を見るような目になっていた。
舞をリラックスさせるにはどうしたらいいか少し考える。

と、咲が
「舞、ほら美希たん来てくれたんだし、言った方がいいんじゃないの?」
と舞をつつく。
「私に何か話?」
「あ……あの……」
舞は少しもじもじしていたが思い切ったように紫の瞳を美希に向ける。

「美希さんに絵のモデルになって欲しいと思って」
「モデル?」
「あ、美希たん。舞ってすっごく絵を描くの好きで上手なんだよ」
咲が軽くフォローを入れた。
「へえ……」
「それで、その……美希さんのスタイルすごくいいから描きたくなっちゃって……」
舞はどこか恥ずかしそうだ。
「いいわよ」
と美希は余裕の笑みを見せる。
「本当ですか?」
「ええ。写真撮影は慣れているけど、絵のモデルになるのは初めてだし」
面白そうと笑う美希に舞はようやく安心したような顔を見せた。


そんなわけで、美希は数日後に夕凪町の舞の家を訪ねていた。一緒に来たラブと祈里は
咲と一緒に夕凪町を観光して回るとかで――美希たちも後で合流する予定だ――
美希は舞と二人で舞の部屋に入っていた。舞の両親も兄も今は留守で家には二人きりだ。

「美希さん、今日は本当にありがとう」
ぺこりと舞が頭を下げる。
「気にしないで。それで、どんなポーズがいい?」
美希は持ってきた鞄を適当においてさっさと話を始めようとする。
「えっと……そこのベッドに横になってもらえる? 私のベッドで、悪いけど……」
悪い、と言う割にはベッドは綺麗に整えられていた。
「いいわよ。裸婦像、みたいなカンジかしら」
冗談めかしてそう言って、美希はベッドに横たわってポーズを取る。
もちろん服は着たままである。
「疲れたり動きたくなったらすぐに言ってね」
「分かったわ」

――美希さん、やっぱりスタイルいい……
アマチュアとはいえ、本物のモデルが自分に絵を描かせてくれることなどまずない。
咲や満、薫と比べて美希はやはり見られ慣れている――見られることに躊躇いがないように
感じられる。
舞はスケッチブックを開くとその美を描きうつすために一心に鉛筆を動かし始めた。


絵のモデルと写真のモデルは随分勝手が違うということは美希にもすぐに分かった。
写真の場合はポーズを決めるとすぐ何枚か撮影し、更にポーズを変えた撮影を
繰り替えすが絵の場合には一度ポーズを決めるとそのままじっくりと描き写していく。
咲の話によれば「舞が絵を描くの、すっごく早いよ!」ということなのだが、
それでもカメラにはかなわない。
美希はベッドの上に横たわりながら目だけをちらちらと動かして舞の部屋の中を見た。
本棚には絵画や美術の本が並んでいる。
そのまま目を舞に移すと、惚れ惚れするほど真剣な表情だ。モデルをしている美希を
じっと見ながら、手が止まることはない。
――あのカメラマンに見せたいわね……
ごく最近あった撮影のことを思い出して美希はむかむかとする。
読者モデル大集合という企画での撮影だった。被写体が多いということもあって、
十把ひとからげの撮影はいかにも雑だった。
当然できてきた写真も美希としては納得のいく物ではなかったが、
雑誌に載ることになってしまっている。

そんなことを思い出しながら真剣に自分と向き合ってくれている舞を見ると、悪い気はしない。
「できたわ」
やがて舞がスケッチブックから目を上げた。美希がポーズを崩し「見てもいい?」と
好奇心一杯で尋ねると、「もちろん」と舞がスケッチブックをこちらに見せる。

「……これが、私?」
「え、ええ……」
美希は少し意外に思った。絵の中の自分は、今までどんな写真や鏡でも見たことのない
表情をしている。自信があって前向きで――でもどこか発展途上な、まだ完璧ではない
姿をはっきりと現していた。丁寧なタッチからは、舞が心を込めて描いてくれたことが
見て取れる。
――私、こんな風に見えるんだ……
「美希さんの一番綺麗なところを描きたくて、そうしたらこうなったんだけど……」
「私の一番綺麗なところ?」
ええと舞は頷く。
「その……すごく頑張ってるところ」
「……そう」
美希の表情を見て、舞は失敗だったかなと思っていた。
あまり美希には喜んで貰えなかったかもしれない――だが美希は、
舞の推測とは反対のことを考えていた。

――もっと、描いてみて欲しい……
舞の絵は自分の思わぬところ、自分では見えないところを映し出してくれそうな気がする。
舞の描いた絵を見てみたい。一枚だけでなく、もっと沢山。美希は時計を見やった。
ラブや祈里と一応決めていた待ち合わせ時間にはまだだいぶ時間が残っている。

「ねえ、舞。よかったら、もう一枚描いてもらえない?」
「え? いい……の?」
「ええ、見てみたいの。舞の絵をもう少し」
――だったら……
舞は思い切ってこれまで秘めていた思いを口にした。

「美希さん、もし、良かったらでいいんだけど……ヌードモデルになってもらえない?」
「ヌ、ヌード!?」
「や、やっぱり嫌よね。ごめんなさい」
美希の狼狽を見てぱっと舞は顔を赤くすると平謝りに謝る。
「な、なんでヌードなの!?」
「人体を描くときは、均整の取れた人のヌードを描くのが一番練習になるって
 美術部の先生から言われてて、……でも本当にごめんなさい、変なこと言って」
「……」
一瞬美希は考えた。最初に舞から聞いたときは突拍子もない話だと思ったが、
――もしかするとヌードの方が、自分の姿を本当に見ることができるのかも……、
とも考え直す。
「いいわよ」
美希の言葉に、失敗したと思っていた舞が顔を上げた。
「え……本当に?」
「でも、一つだけお願いがあるわ。描いたスケッチは私に渡して。
 他の人には見られたくないから。ヌードになったことも誰にも言わないで」
「ええ、分かったわ」
約束を交わす二人の真剣な視線が交錯する。舞は椅子から立ち上がると
部屋の鍵を締めた。

「……鍵を?」
「お兄ちゃんが帰ってきたら困るから……」
美希に舞が囁き返す。
美希は静かに服を脱ぎ始めた。白い肌が徐々に露わになる。

二人だけの時間が始まろうとしていた。

-完-

 ←押していただけると嬉しいです。




コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る