「え〜っと、どこかな?」
「あっちの方じゃない? 確かなぎささんたち河原って言ってたよね」
夏休みももう終わろうかという時期、のぞみ達6人は若葉台の近くの町を訪ねていた。

毎年この時期には若葉台の近くで花火大会が行われる。混雑もするのだが、なぎさ達が
穴場のスポットを知っているということでのぞみ達や咲たちを招いてくれたのだ。
花火大会ということでのぞみ達はみんな浴衣でやって来た。駅に降りて、なぎさから
聞いた通りの場所に行こうとしてはたと悩む。

人通りは多いのだが夕方とは言えまだ明るい今の時間に花火が見える場所に行こうという人は
あまりいないらしく、人はいろいろな方向に歩いて行っている。駅を降りればたぶん
人の流れがあるはずだから適当に歩けばつくだろうというのぞみの見込みは大きく外れた。

「川の方はすぐ分かるって言ってたけど……」
のぞみがきょろきょろとしている横で他のみんなもあちこち見回して
それらしい場所を探す。と、うららが「あっちじゃないですか?」と声を上げた。
ちょうど駅ビルに隠れていて見えなかったのだが、ビルとビルの切れ目に川らしきものが見えた。
「行ってみよう!」
のぞみを先頭にしてみんなは駆け出した。


川の土手にはもういくつかレジャーシートが敷かれていた。場所取りをしている人々を
見て回ってなぎさやほのかがいないか見ていると、
「あ、のぞみさん!」
背中の方から声がかかった。6人がそちらを向くとひかりとほのかが小走りに駆けてくる。
「ひかりちゃん、ほのかさん!」
のぞみは大きく手を振って二人を迎え入れた。
「良かった、会えて。なぎさに聞いてみたらあんまりちゃんと待ち合わせ場所決めてない
 みたいだったからちょっと心配してたの」
ほのかはそう言って苦笑いを浮かべる。
「みんな浴衣で来てくれたから分かりやすくて良かったですね」
そう言うひかりとほのかはいつもと同じ格好だ。

「ほのかさん達は浴衣着ないんですか?」
「みんなが揃ったら来てこようと思って。浴衣だとやっぱり少し動きにくいし」
りんにそう答えてほのかは思い出したように言葉を続ける。
「これからみんなの分のお菓子を買い出しに行こうと思っていたんだけど、
 のぞみさんたちもよかったら一緒にどう? あっちに見えるスーパーが
 結構大きくて色々なものを売っているの」
「行きます行きます!」
お菓子と聞いて一同の目がきらきらと輝く。のぞみはもう待ちきれないと言った様子だ。
「それじゃあ」
とほのかは少し下流の辺りを指さした。
「あの辺でなぎさが場所取りをしているから荷物を置いてきたほうがいいと思うわ」


「あ」
ほのかが教えてくれた辺りに行ってみると、なぎさはすぐに見つかった。
大きな樹の根元近くに広げたレジャーシートの上に荷物を置いてぐっすりと眠っている。
「なぎささ〜ん……」
「お、起こしちゃまずいよ、のぞみ」
なぎさに触れようとしたのぞみをりんがそっと止める。
「え〜、でも」
「だってなぎささんすごく気持ちよさそうに寝てるもん」
確かにすやすやと寝息を立てて眠っているなぎさはとても心地よさそうだ。
首筋に少し汗をかいているが、まだ起きるほどではない。
「でも、このまま荷物だけ置いて行っていいのかなあ」
「……私が残るわ」
かれんが荷物を置いてどさりとレジャーシートの上に座った。
「かれん、いいの?」
「ええ。女の子一人ここで寝かせておくわけにはいかないでしょう?」
こまちにそう答えてからかれんはちらっとりんを見る。
「りん、グレープジュースは絶対買ってきて」
「……考えておきますよ」
にやっと笑って含みを持たせるりんに、かれんは
「りん!」
と大声を出しかけたがなぎさが眠っているのに気づいてすぐ口を閉じる。
「じゃあ、急いで行ってすぐ戻ってきますね」
とのぞみ達はスーパーの方に向かっていった。



かれんは横座りになってなぎさの顔を見る。相変わらず静かに眠っている
その顔にはどこか満足したような表情が浮かんでいた。
のぞみ達が置いて行った荷物があまりきれいに並んではいないのが気になって
かれんは立ち上がると荷物の整理をする。……と、樹の陰にもう一人別の少女が
座っているのが見えた。
「ま、舞……?」
どうして誰も舞が座っているのに気付かなかったのだろうとかれんは一瞬不思議に
思ったが、気づかなかったはずだとすぐに了解した。
舞は今、スケッチブックを開いて一心に絵を描いている。本人にそのつもりはなくても
結果的には息を殺して周りに溶け込んでしまっているのだ。
浴衣姿だが腕はいつもと同じように滑らかに動いている。
舞が集中すると周りが見えなくなるのはいつものことなので、
かれんは舞が絵を描き終わるまで待つことにした。
そういえば、なぎさ達三人分の荷物にしてはずいぶん多いと思っていたが
咲や舞の荷物もあるからかもしれない。

「ふう〜」
満足のいくスケッチが完成したのか、舞がやっとかれんにも聞こえるような息を吐いた。
その瞬間、
「か、かれんさん!」
と初めてかれんの存在に気づく。かれんが「しっ」と指を自分の口に当てるジェスチャーを
すると、慌てていながらも舞は口を閉じた。
「い、いつの間に来てたんですか?」
「十分くらい前かしら。のぞみ達も一緒に来たんだけど、みんなは買い物に行ったわ。
 ――咲たちは?」
なぎさを起こさないように二人はひそひそと言葉を交わす。
「咲と満さんと薫さんもスーパーに行ったんです。私はなぎささんと一緒に待ってたんですけど、
 なぎささん疲れてたみたいですぐに寝ちゃって……」
「へえ。それでスケッチを?」
舞はこくりと頷くと、「なぎささんです」と今描きあがったばかりのスケッチを
かれんに見せた。絵の中のなぎさも気持ちよさそうに眠っているので、
かれんは思わず笑ってしまった。

「本当に良く寝てる……」
かれんはそろそろとなぎさに近寄ると横座りになった腿の上になぎさの頭を
そっと乗せた。
起こしてしまうかと少し緊張したが、うまく枕になったらしくなぎさはまだ
眠っていた。
「なぎささん、きっとラクロス頑張ったんですね。今年の夏」
どうしてそんなことが分かるのか、不思議に思ってかれんが舞を見ると、
「日に焼けてるからきっとそうだと思って」
と舞が答える。そう言われてみればなぎさの腕も脚も、よく日に焼けていた。
「咲も今もう、すごく焼けてるんですよ。夏休みの間中ずっと頑張ってたから」
「へえ……そういえばりんも結構黒くなったわね」
ん〜っ、となぎさが声を上げた。ぐぐっと右腕を上に伸ばす。
「ん……ほのかぁ……」
薄目を開いたなぎさは、起きるのかしらと思ってなぎさを見つめていたかれんと
ばっちりと目が合った。ん、ほのかじゃない、となぎさは寝起きのぼんやりした
頭で考え、
「か、かれん!?」
と思考の回路が繋がって跳ね起きる。
「え、な、何でかれんに膝枕……!?」
「気持ちよさそうに寝てたから」
「あ、え、そっか。いつの間に寝ちゃったんだろう。て言うか、舞が」
「舞ならあなたの後ろにいるけど」
なぎさは振り返って舞を見ると「ごめん舞〜。寝ちゃって」と申し訳なさそうに謝った。
いいえと舞は首を振ると、
「なぎささんのこと、絵に描かせてもらいました」
「え? ……ひょっとして寝顔?」
「はい!」
にっこり笑って見せられたスケッチになぎさは思わず「うわっ!」と声を上げた。
「え、何かまずかったですか?」
慌てて舞が尋ねるのに「いや、まずくはないんだけど……こんなに熟睡してたんだ」
となぎさは乾いた笑い声をあげた。

「今日も練習だったからかな〜」
樹に背中を預けてもたれかかって、なぎさが呟く。
「今日も? 午前中?」
「うん、夏休み最後の追い込みって感じかな。もう毎日暑い暑い」
かれんにそう笑いながら、寝ている間ににじみ出ていた額の汗をなぎさは拭う。
「ちょっと待ってて」
とかれんは立ち上がると荷物から小さなタオルを出してどこかに歩いて行った。
なんだろ、と思いながらなぎさはその姿を見送り、舞の方に視線を向けた。
「のぞみ達も浴衣着てきたのかな」
「たぶん――そうだと思います」
「ほのかとひかりが帰ってきたら、私も浴衣に着替えにいこっと。
 そっちの方が涼しいよね」
「なぎささんのはどんな浴衣なんですか?」
「私のはね、紺地に花火の柄の――ほのかに着付けてもらうんだけどね」
少し照れたようになぎさは笑う。そんなことを話しているうちにかれんが二人のところに
戻ってきた。

「はい、これ」
そう言いながらかれんはなぎさの額に濡らしてきたタオルを押し付ける。
「冷たくて気持ちいいでしょ」
「うん、かれんありがと」
わざわざかれんがそんなことをしてくれたことになぎさは少し驚いたが
それは表には出さずにお礼を言う。「あ、それなら」と舞が呟いて
荷物の中から団扇を出してきた。
「こうしたら、多分もっと涼しいですよ」
力を加減しながら、舞はそよ風を送ってくる。ひんやりとしたタオルの感触と、
涼しい風と。二つ共に気持ちが良くてなぎさは思わず目を閉じた。
空気はまだ暑いけれど、なぎさの周りだけは涼しい。

「うん、本当に気持ちいいや」
目を開けて、なぎさはそれからくくっと笑う。
「……何?」
かれんが怪訝そうに声を上げると、
「いや〜、キュアアクアに水で冷やしてもらってキュアウィンディに
 そよ風送ってもらうなんて贅沢だなあって思って」
となぎさは答える。それを聞いて舞は思わず苦笑し、かれんは「なるほどね」と答えた。

「……りん、連れてくる?」
少しからかいたくなってかれんがそう尋ねるとなぎさはえ〜っと、と悩みながら
「りんならいいけど火は付けてほしくないなあ。……あ、どっちかって言うと
 こまちで安らぎたいかも」
「うららではじけるのはどう?」
「レモネードおいしいよね」
舞はそんな会話を静かに聞いていたが、川の水面を見て「あ」と風を送る手を止めた。
水面にさざ波が立ち、川の上を通った涼しい風がなぎさ達のところまで届く。
まだ夏のようでいて、どこか秋を感じさせる風だった。
――もう夏休みも終わりだなあ。
なぎさはしみじみと、そう思った。まだ明日もラクロスの練習はあるけれど、
夏休みの終わりはひたひたと近づいてくる。

――まずは、今日の花火大会を目いっぱい楽しまないとね!
そう思って「よっし!」と気合を入れてなぎさは立ち上がる。
突然なぎさが完全に目を覚ましたように見えてかれんと舞は目を丸くした。
「二人とも、今日はたくさん楽しもうね!」
「え、ええ」「はい」
「よっし」
と二人の返事に気を良くしてなぎさは辺りをきょろきょろと見回す。
遠くの方に咲やのぞみ、ほのかの姿を認めると「お〜い!」と大きく手を振った。

-完-

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