東堂大学のキャンパスは広い。授業を終え、次の時間が空いている秋元こまちは
石畳で舗装されたキャンパス内の遊歩道を歩きながら待ち合わせ場所へと
向かっていた。

イギリス風にデザインされたというこの大学には芝生が多い。ちょっとした
空きスペースには芝生が植えられ、学生たちがそこで歓談できるようになっている。
建物はと言うと石造りをイメージさせる外見で、それほど歴史の古くない割には
重厚な雰囲気を醸し出していた。

こまちの手にあるのは先ほどの授業で使っていたテキストだ。英文学科の学生らしく、
英語の本がその腕に抱えられている。授業ではまだ一章くらいまでしか進んでいないが、
こまち自身は予習ということでさらにその先まで読み込んでいる。
その分本がくたびれてきているのは致し方ない。

「かれん」
キャンパスのはずれのほうにある医学部の建物の近くにあるベンチには、こまちよりも
先に水無月かれんが座っていた。こまちはそれを認めると小走りに走ってベンチに急ぐ。
「ごめんなさい、待たせたかしら」
「いいえ、私も今来たばかりなの」
かれんは微笑んでそう答えると立ち上がる。
「今日は早く終わったのね」
「ええ。珍しく時間通りに」
かれんの腕には医学部で使うテキストが抱かれている。こまちの持つテキストが
どこか古風に見えるのに対し、かれんの持つそれは表紙のカラーイラストの
デザインからしていかにも最近出版されたばかりであることを窺わせた。

並んで、二人は歩く。中学生の時からずっと同じ学校に通っている二人は
自他ともに認める「親友」である。サンクルミエール学園を卒業後、
二人そろって合格したこの大学に進学。こまちは文学部、かれんは医学部という
違いこそあるものの親しく過ごしていることは高校時代までと変わらない。

大きく変わったのは、大学に進学してから二人とも実家を離れたことだ。
実家からでもぎりぎり通えないことはないが、通学にあまり時間をかけすぎるのも
無駄だということで二人とも実家を出た。
今は大学構内にある女子寮で暮らしている。かれんが221号室のA、こまちが221号室のB。
寮は小さな寝室が二つ、その間に二人の共有スペースが一部屋あって合計三部屋分を二人で
使うのが基本の形態だ。
もともと大学の理念として「学友と共に充実した大学生活を送ること」ということが
言われているからか、二人一組で同室になるのが前提である。もちろん、入寮希望者が
必ず偶数になると決まっているわけでもないので一人で部屋を使う寮生もたまにいる。

テキストは持ち歩いていると重いので、こまちとかれんは一旦寮の部屋に荷物を置きに
帰ることにした。医学部の建物と寮はちょうどキャンパスの反対側の端と端にあるため、
軽い散歩くらいの距離がある。春の穏やかな日差しの中を歩いていると少し汗ばむ
くらいだ。二人の革靴の音を石畳がさらに響かせる。

「見て、こまち」
寮の近くにある第二グラウンドの脇に差し掛かってかれんは足を止めた。グラウンドでは、
今ソフト部が練習している。ピッチング練習に精を出しているのは日向咲――かれんや
こまちの一年したで、同じ寮に暮らしている。
「日向、もっと気合入れて投げろ!」
「はい!」
監督からの檄が飛ぶ中、咲はサンバイザーを取って汗を拭うと腕を大きく回してボールを
投げ込んだ。乾いた音を立ててボールはキャッチャーミットに吸い込まれる。
キャッチャーから返されたボールを受けると咲はまたピッチングフォームに入った。

「咲、頑張っているわね」
「ええ」
寮の仲間が頑張っている姿を見るのは気持ちがいい。二人はまた寮の方へと足を向ける。
そういえば、とこまちが思い出したように呟いた。
「咲さん、今年の夏はアメリカに行くかもしれないんですって」
「え、そうなの? 旅行?」
「ううん、短期留学――というか、合宿みたいなものかしら。アメリカにある
 ソフトボールの盛んな大学が、日本の大学生を何人か受け入れて一緒に練習したいと
 言っているそうなの」
「へえ――まだ、咲がその中に入るかどうかは決まっていないの?」
「ええ。今度の地区大会での成績次第みたい」
「でもそれって、大学生音日本代表ってこと?」
かれんがそう尋ねると――咲が頑張っているのはよく分かるが、これまでの
東堂大学ソフト部の成績からは日本代表と言えるほどであるかどうかは疑わしい――
こまちは笑って首を傾げた。

「そこまで大きな話ではなさそうだけど。向こうの大学が日本の大学といくつか
 姉妹校みたいな形で提携を結んでいて、うちもそれに入っているらしいのね。
 それでソフト部の監督が咲さんを生かせようと思っているらしいの。
 ただ、咲さんはまだ二年生だからそれなりの実績を見せないと何で三年生や
 四年生を差し置いて、という話にもなりかねないから頑張らないといけないみたい」
「ああ、なるほどね」
こまちの話はよく分かった。咲はソフト部の中でかなり力があるが、確かにまだ
二年生だ。えこひいきみたいに思われてしまうと部内の人間関係も難しくなるのだろう。

「どのくらいの間、行っていることになるの? もし選ばれたとしたら」
「八月一杯は行っているような話だったわ」
「舞たちは寂しくなるわね」
咲は舞、満、薫の三人と一緒に寮に入ってきた。同室なのは舞だ。
かれん・こまちと同じく、この四人は中学の時から一緒の学校に
通っていて仲が良い。長い休みの期間中は実家のある夕凪町に
四人とも帰っているが、そこでもほとんど毎日顔を合わせているはずである。
「ふふ、そうね。舞さんたちもアメリカに遊びに行くかもしれないけど……」
かれんはそうねと頷いた。

第二グラウンドから寮まではゆっくり歩いても数分とかからない。イギリスの田舎家を
思わせるこぢんまりとした建物がかれんとこまちを迎え入れる。この寮の定員は三十人。
今入っているのは十七人だから、半分近くの部屋が空き室になっている。
今年は四年生がいないため、三年生のかれんが寮長を務めている。といっても、仕事らしい
仕事があるわけではない。
取り立てて問題を起こす学生がいないこともかれんの負担を少なくしていた。

入口で靴を脱ぎながら、あら、とこまちは思った。三和土に少し泥が落ちている。
大学構内は基本的に石畳で舗装されているので泥が運ばれてくるのは珍しい。
今朝はなかったような気がするけれど、と思いながらこまちは隅に置いてある
ほうきを手に取って泥を掃き出した。

「今日のお昼はどうする?」
「大学前の商店街がサービス期間中だから行ってみない?」
そんな会話を交わしながらこまちとかれんは自分たちの部屋に戻ろうとして、
一階の廊下を舞が落ち着きなくうろうろと歩いているのに気が付いた。

「舞、どうかした?」
「あ、かれんさんこまちさん……」
舞は二人に気づいたもののその表情は浮かない。何かある、かれんとこまちはそう察して
一瞬目を合わせると昼食のことよりも舞の方に集中することにした。

「どうしたの? 何かあった?」
かれんが再度尋ねると、舞は「あの」と俯いていた視線を上げた。
「寮の近くで誰か見ませんでした?」
「いいえ……」
どうしてこんなことを尋ねるのだろうと思いながらかれんが答える。
こまちの表情は厳しく引き締まった。
「舞さん、何かあったのね? 誰かに忍び込まれたとか」
「忍び込まれた!?」
かれんの方が大きな声を上げてしまった。女子寮に忍び込まれたという話なら
物騒にもほどがある。大学に相談して対応を考えなければいけない。

「そ、そうなの舞!?」
慌てて尋ねると舞は「そう……かもしれません」と答える。
「どうしてそう思ったの?」
とこまちはあくまでも冷静だ。
「こちらに来てもらえませんか」
と舞は自室の扉に手をかけると二人を招き入れた。舞と咲の部屋は一階、寮の玄関に
最も近い場所にある。

部屋の構造はどの部屋も同じだ。扉を開けて入ったところが二人の――この場合は舞と咲の――
共有スペース。舞たちの場合はそこに少し大きめのテーブルを置いてある。
テーブルの横の小さな棚にお菓子が見えるのは、二人で食べるのだろう。
この共有の部屋の右側と左側の壁にドアが一つずつあり、各自が使用する寝室につながっている。
舞は右側、咲は左側の部屋を使っていた。

廊下から入ってすぐ、こまちはテーブルの上にレポート用紙がおいてあるのに気が付いた。
舞らしい字で何か書いてある。興味はあったが、見ては悪いかと思って意識的に
視線をはずすと、
「実はこれが」
と舞はそのレポート用紙を手に取った。
「これがどうかしたの?」
こまちが窓に鍵がかかっているのを確認している横でかれんが尋ねる。
「これが動いていたんです」
「動いて?」
「ええ……私さっきの時間休講だったので、自分の寝室の机でこれを書いていたんです。
 書き始めて少ししたところで気分転換のために外に出て、寮の周りをぶらぶらしながら
 帰ってきたんです。そうしたら、寝室の机の上においていたはずのレポート用紙が
 テーブルの上に」
「寝室を見せてもらっていいかしら?」
焦って早口になる舞をなだめるようにこまちが言うと、
「あ、はい、どうぞ」
と舞は自分の寝室の戸を開いた。奥の壁際にベッドがあり、戸を開けて
すぐのところにはかなり使い込んだらしい書き物机がある。机の上には
鉛筆が二、三本と消しゴムが転がっていて、舞はそれでレポート用h氏に書き込んで
いたのだろうと思わせた。

「他に何か異常はなかったの?」
舞の寝室の窓の鍵がきちんとかかっていることを確認してからこまちは振り返る。
「ええ」
と舞は頷いた。
「何か他にも移動していたものがあったとか、貴重品がなくなっているとか」
もう一度詳しく尋ねても、舞は「ありません」と答える。
「――咲さんの部屋も見せてもらっていい?」
「……どうぞ」
一瞬のためらいとともに舞は頷くと、咲の寝室の戸を開けた。舞の部屋と同様に
扉のすぐ近くに机があり、奥にベッドだ。きれいに整頓された部屋は、確かに、
荒らされたようには見えない。この部屋の窓ももちろん内側から鍵がかかっている。

「舞さんはどのくらいの間部屋を空けていたの?」
「十五、六分だと思います」
こまちは鞄の中から模造品のパイプを取り出すと口にくわえた。
舞は目を丸くしたが、かれんはまたかと内心呆れる。何かを推理しようという時に
こまちがいつもする癖だ。少しの間咥えていて満足したのか、こまちはパイプを手に持った。
「戻ってきたとき、人影は見なかった?」
矢継ぎ早にこまちは尋ねる。
「見ませんでした。どの部屋にも」
「咲さんの部屋に隠れていたってことはない?」
「咲の部屋も見たんです。誰もいませんでした」
「窓の鍵は外出前からかけてあったのよね? 外出中に開いていたのはドアの鍵だけ?」
「そうなんです、だから――ドアから入って、ドアから出て行ったんだと思います」
「成程」
「でも、そのレポート用紙を動かしただけって何がしたかったのかしら」
かれんが当然の疑問を口にすると、
「あの――実はこれ」
と舞はレポート用紙に目を落とした。
「今度、コンテストに出すレポートの下書きなんです」
「コンテスト?」
「はい。……えっと、今年の夏に咲がアメリカに行くかもしれないって話があって。
 私もアメリカに行きたいなと思っていたらほのかさんに教えてもらったんです。
 六月頃に英語の論文のコンテストがあって、それに優勝すると一か月間好きな国に
 行かせてもらえるって」
かれんとこまちは顔を見合わせた。そういえばかれん達が一年生だったころ、同じく一年生だった雪城ほのかがそのコンテストで優勝して夏休みはフランスに行っていたはずである。
上級生を抑えて一年生が優勝したものだから当時はそこそこ話題になった。

「――読ませてもらってもいいかしら?」
舞は恥ずかしさに顔を真っ赤にしてこまちに渡した。こまちはその内容を読み、まだ手を
つけたばかりであることを了解する。断片的に書いてあることから推察される全体の
内容は、可もなく不可もなくといったところだろうか。もちろん、これからどんどん
変わっていくのだろうけれど。

「ひょっとして、コンテストに出すつもりの他の誰かに見られちゃったかもと思うと
 心配なんですけど……」
「コンテストの話は誰かにしているの?」
舞のレポートを読んでいるこまちに代わってかれんが聞くと、
「ほのかさんと咲、それに満さんと薫さんです」
「他の人には言っていないの?」
「ちょっと恥ずかしいので」
こまちは舞のレポートを一通り読んで目を上げた。
「犯人が分かったわ、舞さん」
そう告げると、舞とかれんが二人ともえっと驚く。

「だ、誰なんですか!?」
「確認してくるからちょっと待っててもらえるかしら。行くわよ、かれん」
「えっ、ええ……」
突然のことに戸惑いながらもかれんはパイプをくわえたこまちについて舞の部屋を出た。
寮の階段を上り二階、ある部屋に向かう。雪城ほのか、美墨なぎさの二人が
使っている部屋だ。こまちは躊躇わずに戸をノックし、
「ほのかさん、いるかしら?」
と声をかける。
「はーい」
とほのかの声がして扉が開く。かれんとこまちの姿をそこに認めると
「二人そろってどうしたの?」
と微笑む。
「単刀直入に聞くわ」
とこまちは口からパイプを外した。
「何かしら」
「さっき舞さんの部屋に入らなかった?」
「いいえ」
はっきりとほのかは答えた。どうしてそんなことを尋ねるのかと不思議そうな表情だ。
こまちは意外そうに眼を細める。

「本当に? 舞さんが書いているコンテスト用論文の下書きを添削しようと
 思って入ったんじゃない? でも実際に読んでみたらまだあまり書いていなかったから
 後にしようと思ってやめたとか」
それを聞いてほのかはくすりと笑う。
「コンテストのこと、舞さんから聞いたの? いずれは見てあげるつもりだけど、
 今はまだその気はないわ。今はまだ構想を練っている段階だと思うし、
 そういう時は自分のアイディアを大事にするのが一番いいと思うの」
「本当にそうなの?」
こまちが念を押すと、
「ええ」
とほのかは頷いた。
「どうしてこまちさんがそんな風に思ったのか、そちらの方が分からないわ」
「そう……分かったわ」
どうもほのかは嘘をついているわけではなさそうだ。こまちは諦めてまた一階に戻った。

「推理外れたわね、こまち」
かれんにそう囁かれ、こまちは残念そうに頷く。

「絶対ほのかさんだと思ったのだけれど。あと、可能性があるのは――」
「咲はずっと練習みたいだし、満と薫――かしら」
こまちとかれんは舞の部屋の隣にある満と薫の部屋に足を向けた。部屋の扉には
鍵がかかっていて、ノックをしながら声をかけても返答はない。二人とも留守のようだ。

と、寮の玄関の方から誰かが帰ってきた音がした。二人がそちらに行ってみると、
ちょうど薫がスケッチの道具を抱えて帰ってきたところだった。
「……どうかしました?」
二人がそろって出迎えるように出てきたのを見て薫が怪訝そうな表情を浮かべる。
こまちはストレートに、
「薫さん、今までどこに行っていたの?」
と聞いてみた。
「スケッチをしに公園に」
「満さんは?」
「満は、今日はずっと必修の授業が入っているのでそっちの方に」
それで、それが何か? と薫の表情は聞いていた。
「今までずっとスケッチに行っていたの?」
「ええ。さっきの時間が休講になったのでずっと」
薫は嘘をつける性質ではない。かれんもこまちも、そのことはよく分かっていた。
薫が何か嘘をつこうとしたときには必ずどこかに無理が出る。
今の様子からすると、薫が嘘をついていることはまずない。
「そう、ありがとう」
「――何かあったんですか?」
今度は薫が聞いてきた。
「さっきの時間、舞さんがちょっと部屋を開けた隙に誰かが忍び込んだらしいの」
薫の顔色が変わった。
「舞! 大丈夫!?」
大慌てで靴をしまうと舞の部屋に駆けていく。
「あれだけ心配するってことは、薫さん何も知らないわね」
その背中を見ながらこまちがつぶやくと、かれんは「途中から分かってたような気がするけど……」
と応じた。

「でもそうなると、かれん。犯人として考えられるのは満さんか咲さんか」
「舞のコンテストのことを全然知らない人が犯人と言う可能性は?」
「考えにくいわ。それだったらもっと別のものに手をつけるんじゃないかしら。
 あのレポート用紙じゃなくて」
「それもそうね。――でも、満の必修授業って今日は確か実習のはずよ。
 出席が重視される実習の授業の時にわざわざ抜け出してくるかしら?
 咲はずっと練習のはずだし」
「そうね――」
容疑者が消えてしまった。こまちはそう思いながら、パイプを強く噛んだ。


現場百遍、という言葉がある。捜査に行き詰まりを覚えたら何度でも現場に
戻れという意味だ。こまちはかれんを連れて舞の部屋に戻ると――舞と薫は
深刻そうな顔で何か話し込んでいる――舞に犯人はまだ分かっていないことを告げ、
すすめられるままに二人ともテーブルの横の椅子に腰を下ろした。

「かれんさん、今舞と話していたんですけど……」
薫がかれんの方に視線を向ける。
「部屋を出るときに鍵をかけていくのは当然として、寮の玄関の鍵、何とかなりませんか?」
「そうね――、数年前に壊れたままになっているのはあんまりよね」
かれん達が現実的な対策を話し合っている横で、こまちは違和感を覚えていた。
鍵の問題だろうか。確かに一般的な防犯の観点からすれば鍵を直すのはいいことだが、
こと今回の件に限って言えば単純な物取りの犯行とは思えない以上、
鍵の有無はあまり関係がないような気がする。

廊下をばたばたと走る音がした。
「たっだいまー!」
ソフト部のユニフォームを着たままの咲が上気した顔で部屋に駆けこんでくる。
かれんとこまちがいるのを見て咲はあれっという表情を浮かべ、
「どうかしたんですか?」
と少し落ち着いた声になった。
「あのね、咲。さっきね……」
と舞が話し始める。気落ちした舞の様子に咲は心配そうな表情を浮かべ、
黙って舞の言葉を聞いていた。
「それで、このレポート用紙が動いていて……誰かがこの部屋に忍び込んだかもしれないの」
「え? そのレポート用紙動かしたの、私だと思うけど?」
きょとんとした表情で言った咲の言葉に、そこにいた四人が思わずえっと叫ぶ。

「え? え? いけなかった?」
四人の様子の方に咲は驚いた。
「え、だって咲さん。ずっと練習じゃなかったの!?」
こまちに向かって、えっと、と咲は答えた。
「サ、サンバイザー忘れちゃったんで取りに帰ってきたんです。そしたら
 舞の部屋の机の上のレポート用紙が見えて、コンテストの下書きかなと思ったら
 やっぱりそうで……舞も頑張ってるんだから私も頑張ろうと思ってそれ読んで、
 持ち出しそうになっちゃったんですけどテーブルの上に置いて外に出たんです」
あの〜? と咲は恐る恐るみんなの表情を窺った。自分がしたことに対して
みんなの反応が大げさすぎるような気がする。

「事件は解決ね」
こまちはそう言って立ち上がると、「犯人は咲さんだったってことだわ」と呟いた。
そういえば、とこまちは思っていた。三和土にあったあの泥は咲が第二グラウンドから
持ってきたものだったに違いない。忘れ物を取りに急いできたので寮に入る前に
泥を落とすのを忘れたと考えれば、なるほど、つじつまは合う。
「はは、犯人って……」
と咲はこまちの言葉に動揺しながら舞の方を見ると、拗ねたような表情をしている舞と目が合う。
「ま、舞〜?」
「恥ずかしいからもう少しできるまで咲には見せないでおこうと思ったのに……」
「い、いやでも、舞が頑張ってるの知ってたからついつい! ついついだよ!
 ねえ薫ぅ、何とか言ってよ」
「咲が勝手に見たから大騒ぎになってたのよ」
「か、勝手ってその……」
薫が自分の味方をしてくれそうにないことを感じ取ると咲はこまちとかれんに
すがるように目を向けた。

「まあまあ、舞さん。咲さんだって舞さんと一緒に頑張りたいんだから」
とだけ言って舞を宥めると、後のことは本人たちに任せようとかれんを連れて
部屋の外に出た。

「いいの? あのままにして」
「舞さんだってちょっと照れているだけだもの。そのうち満さんも戻って来るし、大丈夫よ」
二人は自室に戻って荷物を置くと、
「それで今日のお昼は商店街に行きたいんだけど、かれんはどう?」
「悪くないわね」
と昼食の相談を再開した。

-完-

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