「おお〜」
予告されていた時間通りに満月は欠け始めた。今日は数年に一度見られる
皆既月食の日なのだ。
のぞみたちはナッツハウスの前に集まって、先ほどから月を眺めている。
疲れた時のために椅子やピクニックマットも出して来てあるあたり、準備は万端といったところだ。

「本当に欠けてきたね」
黄金色の月は静かに欠け続ける。ごく静かに、だが確実に。
それは奇妙な光景だった。のぞみは興奮気味に月を見つめていた。

やがて、月の姿がすべて地球の影に飲み込まれる時が来た。月は完全にその姿を
消すことはなく、赤い輝きを残していた。

「本当に消えちゃったね」
のぞみがぽんとピクニックマットに座る。こまちやかれんは少し前から椅子に腰かけていたが、
のぞみにつられるようにしてりんやうらら、くるみもピクニックマットに座った。

「一時間くらいこのままなんだっけ?」
りんが自分の背後にいるくるみの方を見やると、
くるみは「ええそうよ」と至極当然のように答える。

「なんか不思議ですね、いつもは黄色いのにこんな色になるなんて」
うららは月から目を離さずに答えた。

「咲ちゃんが今ブライトに変身したら赤っぽくなるのかなあ」
のぞみがそんな風に呟く。月から日向咲――キュアブライトを連想したのは、
のぞみにとってはごく自然なことだった。

「むしろあれは満っぽい色合いじゃないかしら。確か満も、月の力を使うのよね?」
かれんが月を見ながら答える。夕凪町を訪れた時、一同は満と薫にも会ったことがあった。

「ああ、そうですね満さんっぽい。ちょっと、暗いですけど」
「じゃあ、普段お月さま照らしてる太陽は? 太陽は誰なの?」
うららとのぞみが口々に言う。太陽は誰、というのぞみの言葉にはりんが素早く答えた。

「満が月なら、太陽は咲だよ」
「どうして?」
りんの即答ぶりを不思議に思ったらしくのぞみが尋ねる。
「だって、舞が言ってたもん。咲は明るくてみんなを照らしてくれる太陽みたいなの、って」

「ああ――」
そんな風に咲のことを話す舞の様子が目に浮かぶようで一同は思わず納得していた。


「でも、そうすると面白いわね」
これまで黙っていたこまちが口を開く。
「何が?」
隣に腰かけていたかれんがこまちに目を向けた。
「太陽が咲さんで月が満さんなら、つまり皆既月食っていうのは
 咲さんからの光が満さんに当たらなくて満さんがちょっと暗くなっているって
 ことになるわね」
「……まあ、当てはめればそういうことになるけれど」
「咲さんからの光っていうのは、多分パンのことね。満さんパン好きだし。
 普段は咲さんからのメロンパンをもらって黄色く輝いている満さんが、
 何者かに邪魔されてパンをもらえなくなって落ち込んでいる――みたいな感じかしら」
またこまちがおかしなことを言い始めたとかれんは思って、月を見上げた。月はまだ、赤銅色だ。

「何者かって誰ですか?」
うららが真面目に尋ねる。こまちは難しい事件のことでも推理しているかのように
眉間に手を当てた。
「それが難しいのよね――地球に対応する人なんだけど」
「地球に対応して、咲が満にパンあげるのを邪魔する人なんてそうそういないわよ」
だからもうそんな想像をするのはやめにして、とかれんは思っていたのだが
こまちはまだ考えこんでいる。

「そうよ! 一人いたわ!」
しばし沈黙していたこまちが突然大声をあげたのでかれんはびくりとした。

「誰よ」
「ドロドロンって人よ! 確かダークフォールの土の戦士の」
「ああ、ダークフォールで一人だけ遊園地に来ていないっていう、あの」
りんがこまちの言葉に反応する。プリキュア一同が遊園地に集まって深海の闇ボトムが来襲してきた時、
ダークフォールのメンバーのほとんどが遊園地に現れたのだが
「ドロドロン」という土の戦士だけは来なかった、と聞いたことがある。

「なんでその人なんですか?」
のぞみが首をかしげる。

「皆既月食における『地球』って、要するに土の塊が太陽の光を通さないってことだもの。
 土の戦士が咲さんと満さんの間で邪魔をしたと考えることだってできるわ。
 つまりこの皆既月食は、咲さんが満さんにメロンパンを渡すのをドロドロンって
 人が邪魔して、満さんが落ち込んでいる状況なんだわ!」
やっとこれで話ができた。こまちはひどく満足していた。

「あ、」
かれんが空を見上げる。月が再び黄色味を帯び始めていた。
「皆既月食、終わったんですね」
「えーとこまちさん、この状況は?」
りんが尋ねる。

「つまりこれは、ドロドロンという人が咲さんや満さんに倒されて、
 満さんがまた咲さんからパンをもらえるようになった状況ね!」
一同は夜空の月に目を移し、こまちの想像の中で勝手に倒されたドロドロンに
少しだけ同情していた。
そんな地上の話とは関わりなく、月は徐々にその輝きを取り戻していた。

-完-

 ←押していただけると嬉しいです。




コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る