「よっ! カオルちゃん久しぶり!」
「おお、ブンビーちゃん久しぶりだねえグハッ」
フェアリーパークはボトムの襲撃を退け、再び元の姿を取り戻していた。
一時的に避難していた一般客たちも遊園地に戻り、
そこかしこに賑わいが生まれてきている。

カオルちゃんはタルトに頼まれて出店することになっていたドーナツ店の準備が
ようやく終わり、いよいよ仕事を始めたところだ。
「なんだあ? まだあんまり客も来ていないじゃないか」
写真を撮ろうと思ったのに、とブンビーは付け加える。
「写真?」
「ああ、カオルちゃんのことをいつかうちの雑誌に載せたいと思ってね。
 その取材の依頼に今日は来たってこともあって……、どうだい?」
「ああ、なるほどね。かまわないよ。でも、ブンビーちゃんの雑誌って
 そっちの町のほうの情報を中心に取り扱っているんじゃなかったっけ?」
「う〜ん」
ブンビーは苦笑する。
「たまには他の町の店も取り上げないとネタが少なくなっちゃってね。
 少し離れた町のことも時には特集しないとつらいんだ」
カオルちゃんは納得すると、
「じゃあカオルちゃんのドーナツカフェで丸々一冊雑誌作ってもらおうかな、グハッ!」
と笑う。
「はは、まあそれだけのネタがあればね」
それにしても、とブンビーは思った。写真を撮るにしてもお客さんが
これだけの状態ではあまりにもさびしい。
ちょっと客引きでもするか、と思ったところにどこかで見たような二人組の顔が
ちょうど目に入ってくる。
ボトム襲来時に避難していた時に近くにいた、若い男性の二人組……と、中学生
くらいの女の子だ。

「はいはい、そこのお二人さ〜ん! 幸せを呼ぶハート型ドーナツお一つ……」
「おおっ! カオルちゃんのドーナツがこんなところで!」
ブンビーが説明するまでもなく体格のいいほうの男がカフェのほうに突進してきた。
あれ? とブンビーが思っているそばでウエスターは
カウンターに飛びつくようにして手をつき、
「いつものドーナツセット一つな!」
「久しぶりだねえ! 引っ越しでもしたのかい?」
「ああ、国に帰ってるんだ今は。あ、こいつらの分も」
とウエスターは後ろにいるサウラーとせつなを指さした。
「ドーナツセットでいいのかい?」
「私はラブが一番好きな、あのチョコがたっぷりかかった」
「あ〜、チョコドーナツね。ドリンクは? 
「ウーロン茶で」
「オッケー。そっちの人は?」
サウラーは店の前に立っているブンビーのことをしげしげと
眺めていたが、自分のことを言われて
「ああ、今のと同じで」
と答える。そしてゆっくりとブンビーのほうへと歩み寄った。

「先ほどはどうも」
「あ、ああ……どうも」
ブンビーとサウラーは避難した人たちの中で顔を合わせていた。
その時からお互いにただの人間でなさそうなことは分かっていたが、
今ここにこうしていてもその気配は痛いほどに感じる。

「……ちょっと、いいですか?」
サウラーはブンビーをドーナツ店の正面から脇に連れ込むと
声を潜めた。
せつなはそれを見てたったと歩くとサウラーの後ろについて耳をすませる。
「……ラビリンスについて、何か知りませんか?」
「ラビリンス?」
ブンビーは一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
「……君はラビリンスの人なのかい?」
サウラーが静かにうなずく。ほう、とブンビーは声を上げた。
「ついこの前崩壊したと思っていたらもうこんなところにまで
 来れるくらい復興していたのか」
「いえ」
サウラーは軽く手を振った。
「再建はまだまだです……僕たちがここに来たのは
 レインボージュエルを見るためでもありますが、ほかの仕事もあるんです」
「他の仕事?」
「昔のラビリンスについて、何か知りませんか?」

「せつな! サウラー! もうすぐドーナツできるぜ!」
ドーナツがもうすぐ揚がるのに興奮していたウエスターだったが、
せつなたちが戻ってこないので「あれ?」といった様子で
店の横に駆け寄る。

「ラビリンスねえ。昔、貴重なアイテムでもないかと行ったことはあるが」
「おい! ドーナツできるぞ! 揚げたてを食べないともったいないだろうが!」
ウエスターが大声で会話に割り込む。
「ま、まてウエスター。今大事な話だ」
「あ〜、それならドーナツを食べながら話そうか」
ブンビーがまとめ、一同はカオルちゃんからドーナツを受け取ると
ドーナツカフェの前のテーブル席に移動した。
ブンビーはドーナツを注文していなかったので、
気にしたウエスターがセットの中の一つを勧めると「おおありがとう」と
ドーナツを受け取る。

「で、ラビリンスにいらしたのはいつごろですか?」
サウラーが話を戻す。
「いつだったかな。ちょっと前だ」
「その時はもう管理国家でしたか?」
「ああ、そうだったな。入国するときえらくチェックが厳しくて苦労したなあ」
ブンビーは管理国家時代のラビリンスしか知らないらしいと聞いて
せつなは明らかにがっかりとした表情を浮かべた。
「……で、それがどうかしたのかい?」
「……実は」
サウラーは手元の紅茶にスティックシュガーをまとめて何本か入れた。
「我々はラビリンスの再建に現在従事していますが、管理国家になる前の
 ラビリンスがどのような国だったか分からないんです。記録がすべて破棄されていまして」
「ふうん……?」
「たとえばこの国をお手本にするとしても、ラビリンス独自の風土もありますし
 管理国家になる以前のラビリンスの姿がわかる方がいいんです」
サウラーが説明する。現実的に、ラビリンス再建はウエスターとサウラー、せつなの
肩にかかっていると言っても過言ではない。
しかしせつなはまだ子供であるし、ウエスターは国民の受けはいいが
実務をこなすタイプではない。
結果、いろいろな仕事はサウラーに降ってくる。
今回三人で遊園地への招待を受けることにしたのは
かつてのラビリンスの姿を知る人がもしいたらこうやって
話を聞くという仕事のためでもあったが、サウラーに多少気分転換
させようというウエスターの意見でもあった。
その割にウエスターよりもサウラーの方がずっと仕事のことを
気にしているのは性格の違いとしか言いようがない。

「私が入ってみたのは美術品を納めているという倉庫の中だったが」
「美術品? そんなものがありましたか?」
「いや、もうなかった。過去の時代のものはすべて破棄したという
 話だったな……」
「そうですか」
サウラーは落胆した。聞いていたせつなもふうっとため息をつく。
「まあ、せっかくこっちまで来たんだ。もっといろいろな人に
 話を聞いてみたらどうかね。そこら辺にいる妖精たちは、
 そんじょそこらの人間よりもずっと長生きな場合もあるし」
「そういえばウエスター、さっき妖精の誰かに聞いてたじゃないか。
 あれどうなった」
「ああ、あれな」
ははっとウエスターは笑った。
「話聞く前に、『怖いルルーッ!』って逃げられちゃってな」
「いきなり話しかけて驚かせたりするからよ」
せつなが冷たく指摘する。
「んなこと言っても。そういやお前の方はどうなったんだよ」
「え……そうね、雲の園の長老に話を聞けたけど、ラビリンスのことは知らないみたい」
「なんだ二人ともだめなのか……」
サウラーが紅茶にまた砂糖を入れながらつぶやく。
「まあまあ」
とブンビーがなだめた。
「例えば……」
と椅子から立ち上がるとあたりを見回す。満と薫が二人で歩いているのが
目に入った。
ブンビーは満と薫の二人にも避難客の中で会っていたが、
彼女たちが只者でないこともよく分かっていた。

「あの二人とか。昔のことを知っていたりするかもしれん」
どれどれとばかりに三人も立ち上がりブンビーの指す方を見る。
「あ、満と薫じゃない」
「なんだせつな、知り合いなのか?」
「ええ。キュアブルームやキュアイーグレットの友達よ」
「へえ……」
「お嬢ちゃんたち! ドーナツどうだい!」
こちらの会話が聞こえているわけでもないだろうが、
カオルちゃんが満と薫に呼びかける。二人は互いに顔を見合わせた後、
こちらにぱたぱたと歩いてきた。
テーブルにせつな達がいるのを見て驚いたような一瞬驚いたような
表情を浮かべたがカオルちゃんからドーナツを買うともう一つあるテーブルにつく。

「……どうかした?」
満と薫はウエスター達4人から妙に見られているのに気づいていたので
椅子に座るとすぐ、せつなに尋ねる。
「ちょっと聞きたいことがあって……」
「聞きたいこと?」
せつなは現在のラビリンスの事情を説明し、昔のラビリンスの姿を
知っている人を探す活動をしていることを話した。

「ということなんだけど」
「そうなの……」
大変なのねと薫は答えた。国を再建するということがどういうことなのか、
満と薫には見当がつかない。
目の前にいる三人がそんな大変そうな仕事をしているというのもなんだか不思議だ。
「それで、二人は何か知らない?」
せつなに確かめるように聞かれ、満と薫は同時に首を振る。
「私たち、ダークフォールと泉の郷と緑の郷にしか行ったことがないから」
「ラビリンスという国の話も、ダークフォールの時には聞いたことがなかったわ」

「そうなの……」
せつなもサウラーもがっかりとした表情を浮かべる。
「まあまあ」
とブンビーが再度なだめた。満と薫は何となく申し訳なさそうな顔で、
黙々とドーナツを食べている。

「あ〜、よし! 今日の仕事はこれでおしまいだ!」
ドーナツをすべて食べ終えたウエスターが勢いよく立ち上がる。
「えっ?」「ええっ!?」
せつなとサウラーは思わず目を丸くした。
「大体お前ら働きすぎなんだよ! サウラー、今日はお前の気分転換もあって
 こっちに来たんだ。せつなだってプリキュアたちと遊ぶのを
 一時抜けて今ここにいるんだろうが」
「……いや、普段から君が働いていてくれれば僕はもうちょっと楽に……」
「もちろんだ! 俺も明日からちゃんと仕事するぞ!」
「……却って仕事増えそうだから、いい」
「とにかく! 今日はもう遊園地を楽しむことにしようぜ!」
ウエスターが勢いで押し切ると、
「ほほう」
とブンビーも立ち上がった。
「それじゃあちょっと、遊びに行く前に私の手伝いをしてくれないか?」
「なんですか?」
せつなが尋ねるとブンビーはカオルちゃんのドーナツカフェの写真を
撮りたいという事情を説明し、
「できればお客さんで賑わっているところがいいんだ。君たちに
 お客さん役をやってもらいたいと思ってね」
「それは『やらせ』というものでは」
「いやいや、違う違う」
サウラーに向かってブンビーは落ち着き払った様子で手を振って否定して見せた。
「君たち現実にお客さんで、さっき喜んで買ってたんだから。
 最近はちゃんと許可をとってから写真撮影をしないといけないからね、
 君たちならこちらの事情もちゃんと理解してくれそうだし。
 ああ、そっちの二人も手伝ってくれないか?」
「え?」
「なんで私たちが……」
満と薫が驚いて言葉を返す。

「いやいや、おじさんとしてはここでいい写真を何枚か撮っておかないと
 あとあと困っちゃうんだよ〜」
ブンビーは二人のテーブルの前に立つと突然口調を変えて頼み始めた。
「やっぱり女の子がたくさんいた方が写真のイメージも良くなるしだね、
 ここは一つ」
「よしっ、とりあえずポーズとか決めようぜ!」
ウエスターはウエスターでサウラーとせつなの背中を無理やり押すようにして
カウンターの方へ押していく。

「さあさあ、君たちも」
満と薫も何となく押し切られ、結局カウンターの前に並んだ。
「うん、いやちょっと表情がわざとらしいな、もうちょっと自然な感じで……」

 * * *

――あれは……、
パーク内を散策していた入澤キリヤは、ドーナツカフェの前に人だかりが
できているのに目を止めた。
普通の人にはわからないだろうが、不思議な気配がそこには充満している。

「ウエスター君、もうちょっと口を大きく開けてドーナツにかぶりつく感じで!
 そうそう!」
カメラを構えたブンビーが演技指導している。

――彼らは……、
キリヤは彼らのことを以前見かけたことがあった。
闇と光の狭間でのことだ。そこではすべての命が生み出され、
また消えていく。
彼らの命の輝きは特異だった。一度はほぼ輝きを失いかけていたものが
ある時を境にまた強く輝くようになった。だから、キリヤの印象に残っていた。

「うん、薫君もっとおいしそうな表情でー!」
彼らがこの世界で普通に暮らしているらしいのを見届けると、
キリヤはそっとその場を後にした。

-完-

 ←押していただけると嬉しいです。




コラボSS置き場へ戻る
indexへ戻る