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「なぎさ」
「……ほのか」
木々の間を少し進むとなぎさがメップルとミップルを抱えて一人で立っていた。
ほのかがやってきたのを見てほっと安堵の表情を浮かべる。
「なぎさ、ありがとう……待たせちゃってごめんなさい」
「ほのか……大丈夫?」
ほのかの様子はいつもと少し違って見えた。
泣いたり取り乱したりしている様子はない。むしろ、落ち着きすぎていて不自然なような……、
「大丈夫よ、なぎさ」
ほのかが手をなぎさの手に絡めてきた。なぎさはその手を強く握り返す。
「行きましょう、なぎさ。……私たちとみんなの、未来のために」
その言葉にはほのかの決意が篭っていた。
「……うん!」
なぎさはほのかに応え、二人は揃って天に向けて高く腕を突き出した。
「デュアルオーロラウエーブ!!」
光の使者キュアブラック、光の使者キュアホワイトの姿が現れる。
通常の10倍にまで研ぎ澄まされた二人の感覚は、一番近くにまずドロドロンの気配を
感じる。
「行こう、ホワイト!」
「ええ!」
ブラックとホワイトは地を蹴った。

「むーふっふっふっ。やーっと、捕まえたもんねー!」
その頃ドロドロンは、ブルームとイーグレットの腕を糸で縛り上げて
自分の成功に酔いしれていた。
ブライトとウィンディはなぎさとほのかからドロドロンを十分引き離した後攻撃に
転じたのだが、水をたっぷり吸って柔らかく膨れ上がったドロドロンの身体には
光の攻撃も風の攻撃も大した効果はなかった。花のフォームと鳥のフォーム、
ブルームとイーグレットに換装して撹乱しつつ精霊の力での攻撃を試みるも
膨らみきったドロドロンの身体を僅かにしぼませる程度の効果しかなかった。

逆にドロドロンの方は左右の手から放った糸でようやくブルームとイーグレットを
捕らえると鼻歌交じりに
「よーし、これでもうおしまいだもんねー!」
とべしゃりと身体を水様にして崩れ、二人を泥の海の中に引きずり込もうとする。
ブルームとイーグレットは必殺技を放つ時、腕を決められた型で動かす必要がある。
腕の自由を奪われると二人の戦闘能力は格段に落ちるのだ。
「ぐううううぅ……」
ブルームとイーグレットは泥の中に引きずり込まれないように足を踏ん張るが、
じりじり、じりじりとその足は泥の海へと近づいていく。
「ふっふっーん、頑張ったってもう駄目さ」
ドロドロンは上機嫌だった。ずるずると引きずられていく咲と舞の足に泥がはねた。


「プリキュアマーブルスクリューマックス!」
「ええーっ!?」
その声はドロドロンの背後から響いた。人型に戻り「うもーっ!」とブラック、ホワイトに向けて
怒鳴ろうとするがブラックたちが放つ黒と白の雷光は止まらない。
全ての泥を灼きつくせとばかりに雷撃は広がった泥を焦がし続ける。
「取れた!」
ドロドロンが慌てたのか、ブルームとイーグレットの腕に巻きついていた糸が外れた。
「いくよイーグレット!」
「ええ、ブルーム!」

「プリキュアツインストリームスプラーッシュ!」
水色と黄色の精霊の光が泥を照らし降り注ぐ。
「ちょ、ちょっと四人がかりなんてずるいよ!」
立ち上がろうとしたドロドロンの姿が四色の光の中で崩れた。
やがて泥はただの土くれとなり、そのまま動くこともなくなってしまった。

「はーっ……」
完全に動かなくなったのを確認してからブラックとホワイトがマーブルスクリューを止める。
ブルームたちもほぼ同時に必殺技の射出を止めた。
「ブルーム、イーグレット大丈夫?」
「はい、ありがとうございます!」
ブラックとホワイトが駆けつけてくれたのにほっとしてブルームとイーグレットが
答えると、
「お互い様だって」
とブラックは笑った――が、その笑みもすぐに消えた。
四人は夜空を見上げる。どこかからか強い邪悪な気配――と、それに混じって
ブロッサムたちの声のようなものが聞こえる気がする。
「……行こう」
ブラックの声に三人が同時に頷いた。

 * * *

キリヤには予感があった。プリキュアたちと復活した者達が戦っているこの場所に、
キリヤの会いたい人もまた来ている――という予感だ。
ほのかと別れて森の中を歩いていたキリヤは、やがてぴたりと足を止めた。
その人はそこに居た。

「――姉さん」
ポイズニー。キリヤと同じようにドツクゾーンで産まれた闇の眷族。
彼女とキリヤは姉弟の関係に当る。プリキュアとの戦いを拒んだキリヤとは違い、
彼女は最後までドツクゾーンの一員としてプリキュアと戦い、敗れている。

「ふふ。久しぶりじゃない、キリヤ」
彼女は樹に寄りかかるようにして立っていた。白い顔は闇の中でも
はっきりとそれと分かる。
「姉さんはプリキュアと戦わないのかい」
そう尋ねると、ポイズニーはくすくすと笑いを漏らす。
「決まってるじゃない。ジャアクキング様の命そのものが、今は光との共存を
 望まれているわ。ジャアクキング様の一部である私たちドツクゾーンの者には、
 もはやプリキュアと戦う理由がない」
「……さっき、ドツクゾーンの誰かがプリキュアと戦っていた気がするんだが……」
「それはよっぽど人の話を聞かないお調子者の馬鹿か、よほどプリキュアに恨みがあるかのどちらかね。
 まともなドツクゾーンの者は敢えてプリキュアと戦おうとはしないわ」
「……姉さんはプリキュアに恨みはないのかい」
「私?」
ポイズニーの顔から一瞬笑みが引いた。
「私はプリキュアがどうこうというより、できの悪い弟ですみませんって
 気持ちの方が強いからねえ」
うっ、とキリヤが言葉に詰まる。
キリヤは何度か、姉のプリキュア打倒計画を邪魔したことがある。
プリキュアが姉を倒すことに直接的に手を貸したわけではないが
間接的に手を貸したと言われれば否定はできない。

「――ごめん、姉さん」
「まあ、今更いいけどね」
ポイズニーは近くにある木製のベンチに腰掛ける。
これも悪鬼を思わせるような禍々しい形に変貌を遂げていたが
彼女がそれを気にすることはない。
「あんたも座んなさいよ」
そういってキリヤを隣に腰掛けさせると、ポイズニーはまじまじと弟の顔を見た。
「……なんだよ」
「ちゃんと顔ぐらい見せなさいよ。あんた連絡一つよこさないんだから」
「連絡ったって取りようがないだろ」
「それもそうね。で、何? あんたちゃんとやってんの?」
「ちゃんと……?」
その言い方が一体何を意味しているのかキリヤが判断に困っていると、
「分からないの?」
と口をゆがめた。
「……うん」
「あんたは私のこと放っておいてでもその道を選んだんだから。
 そっちで楽しくやってんのかって聞いてんの」
「ああ……」
そういうことかとキリヤは理解する。
「それは……やってるよ」
「ふうん」
「なあ、姉さんは……こっちに来ようとか考えないのかい」
「できると思ってるの?」
「知らないけど、できるかもしれないじゃないか」
「うーん、そうねえ……私はそういうのもういいわ」
ポイズニーは気だるく答えた。
「私はジャアクキング様の中にいる道を選ぶわ。あんたはあんたで、好きにやんなさい」
「……そう言うと思ったよ」
諦めたようにキリヤは答える。
遠くから聞こえる爆音はひっきりなしに続いていた。

やがてプリキュアたちの勝利の花火が上がる。
それと時を同じくして、ポイズニーの姿は煙のように掻き消えてしまっていた。……

 * * *

「次は観覧車に行こうよ!」
「さんせ〜い!」
ボトムを倒し、再び遊園地で遊び始めたプリキュア一行は、パレードを見た後全員で観覧車に
乗り込んだ。
観覧車が上っていくに連れて園内の光景が広く見渡せるようになっていく。
ほのかは先ほどからガラスに張り付くようにして園内を見ていた。
「……ほのか」
なぎさがほのかの後ろから近づき、そっと手と手を繋ぐ。
「……キリヤ君、探してるの?」
「ええ……」
そう答え、ほのかは軽く目を閉じる。見つけられていないのだろうとなぎさは思った。
「また会いに来るって言ってたから、いつか必ず来てくれると思うけど……」
「……そっか」
ほのかは目を閉じたまま、身を預けるようになぎさに寄りかかってきた。
なぎさは左手を回してほのかの頭を抱えるとその髪を優しく撫で始めた。

-完-

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