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なぎさ、ほのかが二人だけで戦っていた頃、まだひかりが生れていなかった頃に
闇の世界ドツクゾーンからプリキュアと戦うためにやってきた戦士。
だが彼はドツクゾーンの他の幹部とは異なり、なぎさ達の通うベローネ学院の
男子部に転入するという手段を取った。

”キリヤ君は……ちょっと生意気なところもあったけど、格好よかったし
 スポーツもできたからすごく人気があったんだよ。ほのかとは何度か
 衝突もしてたけど、ほのかもキリヤ君のこと……嫌いじゃなかったと思う”
いつだったか、なぎさはひかりにこんな風に彼のことを話した。
ほのかは部活か何かでいなかったので、二人だけで話していた時のことだ。

”でもキリヤ君はドツクゾーンの人だったから……でも、私たちとは戦わない道を
 選んでくれたんだけど……”
この辺りに来るとなぎさの口は重くなる。ひかりはなぎさの話を黙って聞いていた。
”結局、キリヤ君はドツクゾーンの闇の中に飲み込まれるみたいにして
 いなくなっちゃって……ほのかは、その後、”
なぎさの言葉が途切れ途切れになった。ひかりの瞳が不安そうになぎさに
投げかけられる。

”泣いたんだって……。涙が涸れるまで……”
”そうだったんですか……”
他に言うべき言葉が見つからない。ひかりは所在無く視線を動かした。

”でも、私たちその後ドツクゾーンに行った後もう一回キリヤ君に会ってるんだ”
”え、じゃあその人は?”
”うん……『自分の生きるべき場所が見つかった』って言ってたけど。
 でも私たちを助けてくれた後、どこに行ったかは分からないんだ……。
 一回だけ、似た人は見たことあるけどやっぱり別人で”
”そうなんですか……”
ため息ともつかないような息をひかりは吐き出した。ひどく重い話だ。

このことを知ってからと言うもの、ひかりはほのかのちょっとした様子――
遠くの空を見ていたりだとか、考え事をしていたりだとか――に、ある種の後悔の
小さな欠片のようなものを見出す時があった。


「ほのか」
一同の上に落ちていた沈黙をなぎさが破った。ポルンとルルン、メップルとそれにほのかの
腕に抱かれていたミップルを抱えると、
「私とひかり、ちょっとあっちに行ってるから」
と声をかけ、ひかりを連れて木々の間を抜ける。キリヤとほのか、二人だけを残して
なぎさ達は少し離れた場所に出た。たまたまなのだろうか、木々がぽっかりとなくなり
森の中で広間のようになっている場所だ。

「なぎさ! どうしてほのか置いてきたポポ!」
「そうルル! 早く変身しないと危ないルル!」
ポルンとルルンが瞳に一杯涙を溜めて訴える。だがなぎさは、首を振った。
「少しだけ待っててよ。ほのかとキリヤ君――二人だけで話したほうがいいと思うから」
「でもでもポポ! みんながお化け屋敷で大変ポポ!」
「そうルル! お化けに追っかけられてるルル!」
「えっ!?」
切羽詰った表情で訴えるポルンとルルンに流石になぎさも顔色を変えた。
「ムープもフープもココもナッツもシロップもシフォンもタルトも大変ポポ!
 すぐ行かないと危ないポポ!」
「でも……」
となぎさはほのか達がいる方角を見やった。事態は急を要している。それはわかる。
しかし、今ほのかとキリヤの会話を妨げたらまた後悔するような気がする。
「――私が行きます」
ひかりが静かな、しかし決意に満ちた声をあげた。
「ひかり……!?」
「ポルンとルルンと一緒に、私がお化け屋敷に行きます」
「え、でも、一人じゃ……」
「ポルン達がいますから」
ひかりは腕に抱き抱えたポルンとルルンをなぎさに見せるようにして
にっこりと笑った。
「ココさんナッツさん達のこと、必ず守ります。なぎささんは
 ほのかさんの側にいてください」
「……」
なぎさは躊躇した。ひかりを独りで行かせていいものか。ひかりはなぎさの言葉を待っている。
「なぎさっ! 時間がないポポ!」
「早くミラクルライトを見つけないと大変ルル!」
「……分かった。ひかり、お願い。でも、危険はできるだけ避けて……」
「分かっています」
ルミナス・シャイニングストリーム――その言葉とともにひかりはなぎさの前から姿を消し、
お化け屋敷へと向かって行った。

 * * *

「キリヤ君……あなたは……あなたも、どこかからか甦ってきたの?」
ウラガノスと同じように。震える声でほのかがそう尋ねると、キリヤは冷たい
微笑を浮かべた。

「勘違いはしないでください。『自分の生きるべき場所が見つかった』って
 前に言ったでしょう。僕は今ドツクゾーンではない別の世界で暮らしていますよ」
「だったらどうして……今まで顔も見せてくれなかったの?」
「僕はその世界にはまだわずかな時間しかいないんです。
 そっちでちゃんと地に足をつけて生活できるようになったら、一度会いに行こうと思っていました」
「じゃあ」
もうその世界に慣れたということなのか――とほのかは思ったが、
「いえ、まだです」
とキリヤは頭を振った。
「本当は今日だって会うつもりじゃなかったんです。ただ……」
「ただ……?」
「アヒルみたいな妖精が僕に招待状を押しつけて行って……、
 その招待状を読んだとき、僕はここにどうしても来たくなったんです」
どうして? とほのかが細い声で尋ねる。
「きっとほのかさんも来るでしょうから……少し離れたところから顔だけでも見れればいいなと
 思いました」
まさかこんなことになって、直接話すことになるとは思いませんでしたけど。
キリヤはそう言って少し自嘲気味に笑った。
「どうしてそんな……ちゃんと会いに来てくれればいいのに」
ほのかが少し怒ったように言うとキリヤは笑みを消して真剣な表情になった。
「……ほのかさんは僕に別の未来を選ばせてくれました。
 あのままだったら選べなかった未来を。だから、僕は
 ほのかさんが僕に見せてくれた未来に相応しい男になるまで
 会いには行かないって決めてたんです」
「そんな」
そこまで堅く考えなくてもいいのに。ほのかはそう言おうとしたが、キリヤが彼女の言葉を
遮った。

「これが僕のプライドなんです」
「……」
そう言われると、それ以上言うことはできなかった。黙ったほのかを見て、
キリヤはまたふっと笑みを浮かべる。今度は自嘲的なものではなく、
柔らかい微笑だった。

「……さあ、もう行ってくださいほのかさん。
 あなたたちプリキュアには、お喋りしている時間はないはずです」
そう呟いて森の奥に消えようとした彼の手をほのかが掴んで止めた。
「待って、キリヤ君。また会えるのね?」
「……ええ。いつか。必ず。……ありがとう、ほのかさん」
そう言い残してキリヤは木々の影に姿を消した。ほのかはそれ以上追いかけることができずに
硬直したかのようにそこに残っていた。
それは時間にして数秒の間だったが、はっとほのかは我に返り右手で軽く自分の頬を叩いた。


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