給料日には足取りがはずむ。ブンビーカンパニーで働いているダークプリキュア5も
ついついそうなってしまいがちだ。
「ねえねえ、今日はみんなでどこかで遊んでから帰ろうよ〜」
浮ついた気分のダークドリームがダークルージュとダークレモネードの首を
二人の後ろから抱きかかえる。

「いいけどさ……」
「いいですよ」
二人の答えを聞いてダークドリームは後ろを歩くダークミントとダークアクアの方を
振り返る。
「いいけど」
「どこに行くつもりなの?」
んーと、とダークドリームは考える。少し考えて、この前のぞみに聞いた場所を
口に出した。
「カラオケって所に行ってみませんか?」


ブンビーカンパニーから少し歩いたところに駅に通じる道がある。
ここは人通りも多く、店も多い。ちょっとした繁華街になっていた。
ゴミゴミした道を歩き、ダークドリームはみんなをカラオケボックスのある建物に
連れて行く。

「へえ、こんなところにあるんだ」
ダークルージュはきょろきょろとあたりを見回しながら店の中に入っていく。
「この前外回りしてた時に見つけたんだ」
ダークドリームが店員さんに5人で入りたいことを告げている間にダークレモネードは
ラウンジに置いてある大きなテレビを見ていたが、うららがそこに映って歌っているのを
見てぴくりと眉を動かす。
この世界に居ついた今となっては、もう彼女を倒す気はない――だが、ライバル心が
完全に消えたわけでもない。
うららが活躍しているのを見るとなんだか妙に刺激される。
私にだってあの位できるという気持ちと、たぶんそうそう簡単にはいかないだろうなと
いう気持ちと。

「空いてるところあるって〜、いこいこ」
ダークドリームに促され、一同は指定された部屋に向かう。少し大きめの部屋は5人で
入っても十分ゆとりがあった。

「それで、これをどうしたらいいのかしら?」
みんなカラオケに入るのは初めてだ。テーブルの上に置いてあるリモコンを
ダークアクアが弄ぶ。
「これが説明書じゃないですか?」
ダークルージュが投げてよこした説明書を見ながらダークアクアは少し操作してみて
「あ……なるほどね」
と大体の感覚をつかんだ。
「それで、歌はどうやって選ぶのかしら?」
「なんか大きいカタログみたいなのから選ぶってのぞみが――」
ダークドリームはダークミントに答えながら本を探そうとして
ダークレモネードが持っているのに気づいた。
「あ、レモネード歌いたいの決まってるの?」
「ええ」
「じゃあ、まずあんたが一曲歌って見せてよ」
ダークルージュがテレビの下からマイクを出してレモネードに渡す。
レモネードはその代わりのようにアクアに本を見せ、
「この曲入れてもらえます?」
「ちょっと待って、やってみるから」
一度目の入力はエラーが出た。もう一度入れてみたらうまくいったらしく画面が先に進んだ。

みんなが一度は耳にしたことのある前奏が流れてくる。
「わ〜いダークレモネード、頑張れ〜」
「任せてください!」
手拍子を叩いているダークドリームに応えて立ち上がるとダークレモネードはすっと
息を吸って
「Yes! 裸足になってGo Go!」と歌い始める。
その瞬間、他の4人が耳を抑えて座っていたソファーからずり落ちた。
「夢の島 アーチをくぐって〜♪ って、えっ?」
慌ててダークレモネードは歌うのを止める。
「み、みんなどうしたんですか!?」
「あ、あんたさあ……」
床に倒れこんでいたダークルージュがまだ片耳を抑えたままで立ち上がってくる。
その顔はとても不機嫌そうだった。
「普通に歌おうって言ってる時に超音波出すことないでしょ!? 何の冗談よ!?」
「超音波!? 私そんなの出してません!」
「出してないって、そんなはずないでしょ! なんなのよさっきの衝撃は!」
「そんなこと言ったって、本当に出してないですってば!」
「ね、ねえルージュもレモネードも」
落ち着いて、と立ち上がったダークドリームが口を挟みかけたが、ダークルージュが捲し立てる。
「ドリーム、あんただって超音波で倒れたんでしょ!?」
「う……うん、それはそうだけど」
「ほら、あんたやっぱり超音波出したんじゃない!」
「でも、そんなことしてないんですってば!」

「ま……まあまあ」
ダークミントは座りなおして三人のやり取りを見ていたが、
「無意識のうちに超音波が出ちゃったっていうことなんじゃないかしら。
 レモネードにそのつもりがなくても」
「無意識って……そんな……」
とりなしたはずのダークミントの言葉にレモネードは愕然とした。
自分の知らないうちにそんなことになってしまうのなら、危なくて歌など歌えない。
「ほらだから超音波出してたんだって」
「出そうと思って出したわけじゃないです!」
「勝手に出ちゃうんなら歌うのやめなさいよ!」
ダークレモネードの表情が歪んだ。泣き出しそうなその顔に、やばいと
ダークルージュは思ったが、

「もういいですっ!」
「ダークレモネード!」
ばたんと音を立ててダークレモネードがボックスから飛び出していく。
「ルージュ、言いすぎだよ!」
これまで口を挟めなかったダークドリームがルージュをたしなめると、
「言い過ぎって私は別に」
とルージュは言い返す。
「とにかくレモネード探しに行かなくちゃ」
「……って、お店の支払いしないと!」
「その辺は私とアクアに任せて。この部屋の片づけと清算をしてから私達も
 探しに行くから」
ミントが静かに話の段取りをつけると、
「はい! いこうルージュ!」
とダークドリームはダークルージュの手を引いて飛び出して行った。
騒々しく出て行った二人を見送り、ダークミントとダークアクアはやれやれと片づけを始める。
それほど汚していた訳ではないが、動いたソファを元に戻したり曲名の書いてある本をしまったり
そんな作業は必要だった。

「ダークレモネード、本当にわざとってわけじゃなさそうだったわね。あの超音波」
「ええ……、元々歌を超音波にする技を持っているから歌うと
 超音波が漏れちゃうんじゃないのかしら」
――だったら、本当に「歌うな」ということにならない?
ダークアクアは自問しながらテレビのリモコンを片付けようとして、
テレビがいつの間にか消えていたことに今更気がついた。
試しにリモコンの電源ボタンを押してみる……が、つかない。
本体側の主電源をいじってみてもだめだった。

「壊れた……のかしら」
「超音波で……?」
――お店の人に言わないと駄目よね。修理代弁償かしら……、
ダークアクアはそう考えて思わずため息をついた。
「お給料出たばっかりで良かったと考えましょ」
ダークミントが慰めるようにそういうと、ダークアクアは重い空気を纏ったまま頷いた。

 * * *

――もう、みんななんか知らないっ!
カラオケ店を飛び出したダークレモネードはどこに行く当てもなくただひたすらに
走っていた。人通りの多い道で人波をよけながら走り続ける。

ドン、と誰かにぶつかった。一瞬後ろによろめいたもののぶつかった相手を避けて
また駆け出そうとすると、
「待て!」
ぐっと腕を握られる。
「何よ!」
苛々していたダークレモネードは相手の手を振り払おうとしたが、
機械に掴まれたかのように相手の腕は離れない。
「放してよっ!」
「人にぶつかったなら何か一言言っていかんか!」
「うるさい!」
吐き捨てるようにそう言うとレモネードは隙を見て逃れようとしたが
相手はぐっと握ったまま腕を離そうとしなかった。
周りの人たちはもめ事を察知して二人を迂回するように歩いていく。
「……私はキントレスキー。お前の名は?」
「……」
ダークレモネードが黙っていると、
「そうか、名前がないのか」
「あるわよ! ……ダークレモネード」
「そうか。それで、何か一言ないのか」
「……ぶつかってごめんなさい」
「うむ」
キントレスキーは満足したようにレモネードの腕を離した。
やれやれ、やっと解放された。ダークレモネードがそう思ってとぼとぼと
歩いて行こうとすると、
「待て」
とキントレスキーが後ろから声をかける。今度は何だと思いながらダークレモネードが
立ち止まって振り返ると、
「ジョギングの後は糖分の補給が必要だ。これをやる」
と、小脇に抱えた紙袋からチョココロネを一つだけ投げてきた。
別にジョギングしていたわけじゃないんだけどと思いながらダークレモネードは
それを受け取る。
「ジョギングは日々の鍛錬が重要だ。精進したまえ」
そう言い残してキントレスキーは行ってしまった。
あの人誤解してると思いながらダークレモネードはチョココロネが食べられそうな
場所を探した。

 * * *

「い……いたあ……」
ダークドリームとダークルージュがダークレモネードのいる公園に
たどり着いたのは、彼女がチョココロネを食べ終えてしばらく経ってからのことだ。
ふん、と二人から目をそらすレモネードに
「ごめん、ダークレモネード。言いすぎた」
とルージュが謝るが、
「どうせ私歌っちゃいけないんでしょ」
ダークレモネードは拗ねる。

「それなんだけど、ダークレモネード」
ダークドリームの方にレモネードは視線を流した。
「練習したら、超音波でないようになるんじゃないかなあ。
 本当に攻撃に使う超音波よりは、さっきのずっと小さかったんでしょ?」
当然です。プライドをかけてそう答えると、ドリームはうんうんと頷く。
「だったら、漏れるのをもっと小さくすればいいんだよ。練習すれば
 なんとかなるって!」
「練習?」
――そういえばさっきの変な人、鍛錬がどうとか言ってたっけ……
レモネードは奇妙な符号を不思議に思いながら、「だから一緒に帰って練習しようよ」
というダークドリームに「どうしてもっていうなら」と勿体ぶって答えた。

 * * *

「ミント、ダークレモネード見なかった?」
数日後、ダークアクアが家でレモネードのことを探していると。
「ああ、さっき歌の練習するって出ていったけど」
「歌? ……どこで」
まずいんじゃないのと言いたそうなダークアクアにダークミントは「大丈夫」とでも
言うかのように笑って見せた。
「河原で練習するんですって。超音波出さないように。
 責任とってダークルージュとダークドリームが練習に付き合うって」
「へえ。大丈夫かしら」
「超音波が出てきたときに備えてルージュやドリームは予め変身して歌を聞くらしいわ」
「……命がけね」
みんなでカラオケに行く日がまたいずれ来るのだろうかとダークアクアは思った。

-完-

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