――美しい。
その報告書を見てノーザは惚れ惚れとせざるを得なかった。

海底に出現したボトムの神殿。彼が甦らせた闇の者たち――かつてプリキュアと
戦った敵たちも、今はここに待機している。
彼らのリーダーを任されたノーザは出撃までの時間を利用して作戦を練っていた。
計画もなくむやみに突撃していくのは彼女の性に合わない。ましてや今回は
プリキュアたちとの再戦なのだ。これまでの戦いの様子を知る者たちに
情報を出させない手はない。

「各組織が戦ったプリキュアたちの特徴と、自分たちの戦い方の特徴を
 まとめて提出してもらえるかしら?」
ノーザが彼らに最初に出した指示はそれだった。しばらくして各組織の
報告書が上がってきた。

ナイトメアとエターナルは同一のプリキュアたちを相手にしたこともあって、
二つでまとめて報告書を提出してきた。書いたのは主にムカーディアの
ようだが、実に美しい。ノーザは思わず感嘆してしまっていた。
おそらく前の勤務先で鍛え上げられたのであろう、ポイントをきちんと押さえ
6人もいるプリキュアチームの特徴が一目で分かるように記述してある。
ムカーディアの他のアラクネア、ネバタコス、ハディーニャの得意とする
戦闘スタイルについても一目瞭然だ。

報告書を一通り読んでプリキュア5とミルキーローズの情報を頭に入れると
ノーザは満足気にひとりうなずいた。出だしは上々だ。
だがすぐ、次、と次の報告書を見てその情報量の少なさに絶句する。

「キュアブラック:パンチ
 キュアホワイト:投げ
 シャイニールミナス:しりもち」
とだけプリキュアの情報を書いた報告書をよこしてきたのは、もちろんウラガノスである。
俺はパワーに自信がある、とも書いてある。ノーザは思わず頭を抱えた。

――プリキュアとの戦いに役に立ちそうなことを書けっていったのに……人の話聞いてるのかしら?

彼はドツクゾーンからただ一人復活してきた。
この三人のプリキュアたちについては彼のこの情報を信頼するしかない。
キュアブラック、キュアホワイトについては要警戒だが、
シャイニールミナスという存在についてはノーマークでいいのかもしれないと
ノーザはこの報告書からそれだけを読み取った。

さあ次、とページをめくってノーザの顔色が変わる。次はダークフォールの
面々から提出された報告書だ。
「ちょっと、なんなのよこれは……」
思わず口に出してしまう。ダークフォールからの報告書は4枚ある。
プリキュアについて詳細に書いてある……のではなくて、
復活した4人がばらばらに書いているからだ。

――だから、複数人いる組織は誰かがまとめて報告書を書いて提出しなさいって
  言ったのに!

ナイトメア、エターナルの仕事とはずいぶんな違いだ。ウラガノスは1人しかいないので
こうした仕事が苦手なら仕方がないか、とも思えたが
ダークフォールは4人もいてこういった書類仕事をできる人がいないというのは
何たることか。
まあそれでも、と内容を読み始めてノーザの眉間には皺が寄ってきた。

「へへ、久しぶりだなあカレッチ!」
「だからカレッチと呼ぶな! ひっつくな!」
「995、996、997……」
「ちょっとキンちゃん、久しぶりに会ったのに腕立てばっかりってどうなの?」
ダークフォールの4人組がいる部屋の中からは賑やかなまとまりのない声が聞こえてくる。
落ち着くようノーザは自分に言い聞かせた。

「ダークフォールのみなさん」
静かに扉を開け、部屋に入る。お? と4人がノーザの方を向いた。
「ヘイ、セニョリータ! さっさとプリキュアやっつけちまおうぜ!」
モエルンバが上機嫌でリズムに乗る。セニョリータとはノーザには意味の
分からない言葉だったので彼のことは無視。話の通じそうな残り3人の方に目を向ける。
「これはどういうことかしら?」
と4枚の報告書を高く掲げて見せる。
「それ、プリキュアの特徴を書けっていうから書いて出したんじゃない」
シタターレが不満そうに答えると、
「あなたたちの話を全部総合すると、あなた達の戦ったプリキュアは
 キュアブルーム、キュアイーグレット、キュアブライト、キュアウィンディの
 4人で、でも2人なのよね? 空も飛べます、バリヤも張れます、精霊パワーで
 ダメージを減少させます、腹話術もできます……ってなんなのよこの無茶苦茶なプリキュアは!?」
「――全部本当のことだが?」
腕立て伏せを終えたキントレスキーがゆらりと立ち上がった。
「全部本当って。そもそもプリキュアは4人なの、2人なの?」
「2人だ。ある時はキュアブルームとキュアイーグレットに変身し、ある時はキュアブライトと
 キュアウィンディに変身する」
「なんですって、そんなことが」
「ある。あいつらは一筋縄ではいかん」
「……」
ノーザは小さく舌打ちした。本当だとすればかなり面倒なプリキュアになるかもしれない。
二人と人数が少ないのが幸いだが。

「それで、私はどうすればいい。久々に強い相手と戦うことができそうで
 この筋肉がうずうずしているのだが」
キントレスキーは右腕に大きく力こぶをつくってノーザに見せる。
「あなたは戦いにかなり自信があるようね」
「当然だ。私を満足させるほどの強い相手と素晴らしい戦いをするのが私の夢だ」
「……では、あなたには最初の突撃についてきてもらおうかしら」
「キンちゃんだけ? 私はどうなのかしら」
聞き捨てならないといった様子でミズ・シタターレがノーザに詰め寄ると、
「もちろんあなたが強者であることもよく知っているわよ」
とノーザは答える。キントレスキーの出した報告書には鬱陶しいほど、
ミズ・シタターレが立派な戦士であると書いてあった。
「でもプリキュアにこちらの手札をすべて見せる気はないわ。こちらで待機していて」
「あら、せっかく甦ったのに私はプリキュアと戦えないの? ノーちゃん」
「ノーちゃん……?」
ノーザは一瞬何のことが聞き返しかけたが、うっかりするとミズ・シタターレのペースに
巻き込まれそうなのでやめた。
「とにかく初めのうちは待機していてもらえるかしら。それと、カレハーンというのは?」
「俺だが」
部屋の中をきょろきょろと見回したノーザにカレハーンが名乗りでると、
ノーザは報告書を見てわずかに笑みを浮かべた。
「木々や草を枯らすのが好きと書いてあるけど?」
「ああ、俺の力だ」
「果物でも枯らせるかしら?」
「果物?」
変なことを聞くなとカレハーンは思ったが、素直に
「もちろんだ。植物である以上、俺に枯らせないものなどない」
と答える。
「そう」
ノーザは舌なめずりするような笑みを浮かべた。
「だったら、あなたにはキュアピーチとキュアベリー、キュアパインと
 キュアパッションを倒すように頼みたいわね」
「ああ、かまわないが」
「本当は私が倒したいくらいよ」
そう言ったノーザの顔にどす黒い笑みが浮かぶ。カレハーンは思わず一歩後退した。
「じっくりと枯らしてやって。あの4人を」
――あなたもあの4人を嫌いなはずよ。
口にこそ出さなかったがノーザはそう思っていた。カレハーンが報告書に
書いてきたことを信じる限り、そのはずなのだ。

「あ、ああ……任せておけ」
たじたじとなりながらカレハーンは請け負う。
「じゃあ、もう少ししたら最初の突撃だから。キントレスキー、一緒に
 来てくれるかしら」
「うむ。行こう」
カレハーンの受け答えに満足したのか、ノーザはダークフォール一同の控室を
出て行った。

「カレッチ、なんか随分評価高いじゃないか、チャチャ!」
「ま、まあな、俺の実力はわかる人には分かるんだよ!」
――にしても、なんなんだあの人。キュアピーチとやらにやけに個人的な恨みでもあるよな……、
そこまで考えてカレハーンは、
――まあここにいるような連中は大概プリキュアに恨みがあるわな。
と気づいて納得した。きっとそのキュアピーチと戦ったのがノーザで、
たぶん負けたわけだ。
――なら俺が今日、ここで倒せばすむことだ。
先ほどまではノーザの雰囲気に押されていたが、カレハーンはやっと落ち着いて
考えることができるようになった。今回の目標も決まる。
あのノーザに感謝されたいとも思わないが、倒してやって
恩を売っておくのも悪くはない。

カレハーンは負けなかった。キュアピーチたちを敗北寸前まで追い詰めた。
彼が負けたのは、ボトムとの融合後の話である。
彼個人としては、敗北していない。

――暑いな。

元の姿を取り戻したフェアリーパーク。カレハーンはベンチの上に倒れていたが、
太陽の暑さに眼を覚ました。

――ちぇ。また負けた。
自分たちよりも弱いはずのプリキュアたちに負けるのはこれで三度目だ。
よいしょとベンチの上に起き上がる。自分の姿を何人かの人が怪訝そうに
見ているのに気づき、カレハーンは体表を葉で覆いそれを変化させ、
作業着を着ているように取り繕った。

――やれやれ。
カレハーンは立ち上がると大きく伸びをした。妙な虚脱感が全身を覆っている。
一緒に甦ったはずのダークフォールの者たちはいない。
彼らもどこかにいるのか、また消えてしまったのかカレハーンには
分からなかった。

重い体を引きずって歩くと、賑やかな音楽が聞こえてくる。
「あの! 見ていきませんか?」
一人の少女に声をかけられ、カレハーンは驚いてそちらを見た。
薄い黄色の髪を二つに結んだ快活そうな少女。顔を見直し、カレハーンは思わず
絶句する。先ほどまで戦っていたキュアピーチではないか。
向こうは気づいていないようだったが。

「あっちでダンスに参加できるんですよ!」
少女はステージの方を指さすとカレハーンの返事を待たずに走り去ってしまった。
カレハーンに声をかけたというよりは、目についた人に手当たり次第に声をかけているようだ。
「ラブ、遅い遅い!」
「ごめん、みんな!」
少女のことを待っているのは三人の少女たち。いずれもどこかで見たような
覚えがある。それも当然、先ほどまで戦っていたプリキュアたちだ。
「順番いつだって?」
「今やってるダンスチームの次の次よ」
「あれ? プリキュアの他のみんなは?」
「もう見やすい席をとってそこに座ってるよ。ラブちゃん、早く準備しないと」
「うん! ……って言っても、今日はジャージ持ってきてないし、
 普通の格好でダンスするしかないよね」
「せめて髪型統一するとかやってみない? ゴムなら持ってるから」
「あ、なるほどなるほど……」
少女たちはあれこれと相談している。
カレハーンはじっと視線を注いでいたが、黒髪の少女――キュアパッションと
視線が合いそうになって慌てて目をそらした。
気づかれると面倒だ。

――ダンスだと……?
ステージを見れば、小学生くらいの三人組が踊っている。
――あいつらもあれに出るのか?
少しの間待っていると、ラブたちクローバーの番になった。

「次は、クローバーのみなさんです」
司会に促され、ラブたちはステージの上に並ぶ。やがて音楽が鳴り、
観客の手拍子とともにラブたちは踊り始めた。

「な、なんなんだこれは……」
力なくカレハーンはつぶやいてしまっていた。
――うわっ、もう見たくない!
くるりとステージに背中を向けると、カレハーンは感情のままに
そこから離れる。

――くそっ、やっぱりあいつら倒しておくべきだった!
カレハーンは倒せるときにキュアピーチたちを倒しておかなかったことを
後悔していた。あんなのを見るのはたまらない。

「やあカレッチ。どこ行くんだい!」
ステージから逃げ出したカレハーンの足を樹の横に立っていたモエルンバがひっかける。
「とと、なんなんだよ! お前、また出てきたのかよ!」
「それはセニョールもだろ。あっちでダンスやってるじゃないか。行こうぜ、チャチャ!」
モエルンバは強引にカレハーンの首に腕を回すと無理やりにでも
連れて行こうとするが、カレハーンはじたばたと暴れた。。
「嫌だね! 俺は踊る奴とは合わないんだよっ!」
モエルンバの腕からすり抜けると、モエルンバはまた捕まえようとしたが
おや、といった表情でステージの方を見た。

「なんだ、終わっちまったみたいだダンスショー」
「ああ、賢明だな! ダンスショーなんてなくなっちまえ」
「やれやれ、セニョールは分かってないな」
「いいんだよ! ダンスなんてなくて!」

「次は歌をメインにしたショーです」
ステージに立つ司会の声が聞こえてくる。
「へえ、次は歌だってさ」
「歌だと」
カレハーンの表情がひきつった。
「まず一番手はこの方、飛び入り参加の春日野うららさん!」
「あれ、あいつプリキュアだ」
ステージ上に立ったうららの姿を見てモエルンバはそう呟いたが、
カレハーンはそれを聞いて再びステージから逃げるようにして駆け出していた。

「おおい、どこ行くんだよカレッチ!」
「うるせえ! 俺は踊る奴も歌う奴も大っ嫌いなんだよ!!」
カレハーンの叫び声だけが後に残った。

-完-

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