ナッツハウスの中にいる人数は増減が激しい。ナッツ一人の時があるかと思えば、
サンクルミエール学園の女子生徒でごった返しているときもある。
今日のナッツハウスにいるメンバーはかなり異色だった。
店長のナッツは当然として、くるみ、ひかり、それに満と薫の五人が店の中にいた。
ナッツはレジのところにいたが他の女の子四人はナッツハウスの片隅にある
アクセサリーをディスプレイしたテーブルの前に集まっていた。

「……で、私たちは何で呼ばれたのかしら?」
四人が揃ったところで満が首をかしげた。満と薫の二人はくるみに手紙で呼び出されたのだ。
もちろん手紙を持ってきたのはシロップである。
「もちろん、ひかりのアクセサリーを一緒に選んでもらうためよ。
 ……って書かなかったっけ?」
くるみはテーブルの向こう側で説明をしながら椅子を運んできていた。
「それは読んだけど」
薫がくるみの動きを目で追いながら答える。
「そういうことならもっと詳しい人の方がいいんじゃないかしら」
「詳しいって、何に?」
四つ目の椅子を運んでくるとくるみはテーブルの周りに適当に配置する。
「アクセサリーとかそういうことに」
「満は詳しいんじゃないの? お洒落には気を遣ってるって噂を聞いたけど」
「誰からよ」
発信源は咲だろうなと思いながらも満はそう言って、
「詳しいと言えるほどじゃないわ」
と付け加えた。満と薫の言葉を聞きながらひかりは先ほどから申し訳なさそうな
微笑を浮かべていた。ひかりはくるみにナッツハウスがお休みでないかどうかを
確認した上で今日来ただけなのだが、来て見たらこんなことになっていたのである。

「そこの詳しさより状況よ」
「状況?」
とりあえず四人はくるみに勧められるままに椅子に座った。
「ひかりはアカネさん……って、ひかりが一緒に暮らしてる人だけど」
くるみが説明しながら言うと薫は「それは知ってるわ」と答えた。
「あのタコカフェの店長さんでしょう? 威勢のいい」
「そうそう。そのアカネさんにプレゼントをしたいそうなの」
「へえ」
と満が改めてひかりを見た。ひかりはまだ困ったような表情を浮かべつつ、
「もうすぐ私の誕生日なんです。それで……」
え? という表情を満と薫が浮かべる。
「逆じゃないの? 誕生日って誕生日になる人がプレゼントをもらえるものって聞いてるけど」
満がひかりに聞くと、「そうなんですけど」とひかりが答える。
「でも、いつもお世話になっているアカネさんに何かお礼がしたいなって思って。
 ちょうどいい機会ですから」
「アカネさんはひかりにとってお母さんみたいな存在、なのよね?」
くるみの言葉にええとひかりは頷いた。
「お母さんって年じゃないんですけど、でもお母さんみたいな……」
「そうそうそこよ」
くるみは満足げに満と薫を見た。
「二人なら比較的状況が近いんじゃないかと思って。この世界に来て、
 こっちの世界の人をお母さんみたいに思ってて、それで感謝の気持ちを伝えたいっていうの、
 二人ならよく理解できるんじゃない? それで一緒に選んだらいいかなって思ったんだけど」
ナッツハウスに電話の音が響いた。ナッツが受話器をとる。
「はいアクセサリーショップナッツハウスですが……え? ブンビーカンパニーに?」
ブンビーカンパニーという言葉にくるみの表情が引き締まった。

* *

話は数日前に遡る。イースとしての寿命を迎え、プリキュアとしての生命を得た
東せつなが桃園家に住むようになってしばらくしてからのことだ。
最初のうち、せつなは色々なことに気が引けていた。
この世界に住むことにも、桃園家の一員として生活して行くことにも。
しかし次第に慣れ、自然に振舞うこともできるようになっていたそんなある日のことだ。
せつな宛てに手紙が届いた。差出人はブンビーカンパニー。
――ブンビーカンパニー?
どこかで聞いたような名前だと思いながらせつなは封筒を開けた。いかにも事務用といった、
A4の紙にパソコンで印刷した手紙が出てくる。
時候の挨拶に始まり、そして……、

『ラビリンスからの転生、お疲れさまでした。こちらの世界でのお困りごとは是非
 弊社ブンビーカンパニーにご相談くださいませ。社員一同誠心誠意を持って
 ご相談にあたります』
という文章で締めくくられ、末尾にはブンビーカンパニーの住所と電話番号。
読み終えてせつなはくらくらとした。
――何者だ……どうして私のことを知っている……?
ブンビーカンパニー。どこかで聞いたことがある言葉だ。一体何のことだったか……、
「ご相談にあたります」という言葉は額面どおりに受け取ってはいけないだろう。
皮肉か脅しか、そういった類のものだ。と、せつなはラビリンス時代の知識を総動員して
考えた。

――この手紙がこの家に着いたということは……
相手はせつながこの家に住んでいることを知っている。
ということは、ここまでやって来るかもしれない。
家具が入ったばかりの部屋の中でせつなはぐるぐる歩き回りながら考えた。
――どうすればいい……?
せつなは一人で悩み続けた。ラブや桃園家の人たちを危険な目にあわせるわけには行かない。


結局せつなが動いたのはこの日になってからである。アカルンの力を借りて、
ブンビーカンパニーに乗り込むことにした。
ラブにも言わずに、せつなはこっそりと家を出た……はずなのだが。
せつなが家を空けてから十数分後にせつなの不在に気づいたラブが
大騒ぎを初め、ゴミ箱の中にブンビーカンパニーと書いた封筒を見つけ、
聞いた名前だとナッツハウスに電話してきたというわけだ。

* *

「くるみ、今の電話ラブからだ。せつなっていう四人目のプリキュアの子がいなくなって、
 ブンビーカンパニーに行った可能性があるらしい」
「どういうことですか!? ブンビーがまた何か変なことでも!?」
「詳しくは分からないが様子を見てきてくれ」
「はい、行ってきます! ごめんひかり、ナッツ様と相談してプレゼント考えて!」
「あ、あの、私も行きます!」
「私たちも行くわ」
ひかりと満、薫も椅子から立ち上がった。危険が迫っているのならここにいるわけにもいかない。
少女たち四人はナッツハウスから走り出て、くるみの先導でブンビーカンパニーに向った。


「これはこれは。今日はどういったお困りごとで?」
ブンビーカンパニーは雑居ビルの3階を借りてオフィスを構えている。
せつなが入っていくと、社長のブンビーがじきじきに対応に出てきた。
オフィスの一角を仕切って作った応接スペースでせつなはブンビーと向かい合って
ソファに座っている。
「……」
せつなが黙っていると、
「ああなるほど。言うのが恥ずかしい。分かりますよその気持ち」
ブンビーはぐいっと身を乗り出した。
「それぞれの世界には暗黙のルールがあって、暗黙なだけに誰も教えてくれなかったり
 しますからね。ここは是非ブンビーカンパニー主催の『良く分かるマナー講座』をですね……」
「? ……?」
せつなは何がなんだか分からなくなってきていた。
目の前の男は間違いなく異世界の住人だが、取り立てて邪悪な気配は感じない。
講座の質は良く分からないが、商品を売ろうという意欲のほかに何か害を加えようという
意思はないようだ。
――もしかして、あの手紙は本当に単なる宣伝の手紙だったのかしら……
皮肉だとか脅しだとか、あれこれ気を回す必要はなかったのかもしれない。
せつなはブンビーの勧める講座の説明を上の空で聞いていた。と、

「ブンビー! どういうつもり!!」
凛とした少女の声がオフィスに響き渡る。
「何……? わあ!」
ブンビーは慌てて立ち上がりその拍子にコーヒーをこぼして自分のズボンの上にぶちまけた。
「せつなに何をする気なの!?」
「そんな人聞きの悪い! 私はただ新商品の紹介をしていただけで!!」
反射的にくるみから逃れようとしたブンビーの脇をさっと満と薫がすり抜けてせつなの
両脇に立った。
「あ、あの……本当に何もされてないんだけど……」
「本当に?」
くるみは念を押すようにせつなに確認した。もし何か怪しげなことがあったらすぐにでも
変身しようという気配を全身から漂わせている。
「ええ、本当に」
「あの、せつなさん無事だったんですしここは一旦帰っては……」
ひかりが困ったような顔でくるみの後ろから声をかけた。


「やれやれ」
嵐のようにくるみたちが帰っていった後、こぼしたコーヒーを片付けながらブンビーは
思わずため息をついた。
「新規顧客の開拓は失敗ですね、社長」
「やかましい! 自分の仕事せんか!」
「はいはい」
新入社員は雑巾で床を拭いている社長を残して自分の席に戻っていく。

* *

「ラブには連絡しといたわ。でも、どうしてあんなところに行ってたの?」
「手紙が来たから、行った方がいいのかなって思って……」
再び戻ったナッツハウス。くるみがまた椅子を運んできて、五人の少女は
テーブルを囲んでいた。

「あのね。あの人、多分悪い人じゃないけど変な商品売りつけられる危険性はあるから」
くるみはそうせつなに注意すると、
「折角だからあなたも考えてくれない? ひかりからアカネさんへのプレゼント何がいいか」
と話を戻す。
「アカネさん」
と不思議そうな顔をしたせつなに、簡単にくるみはひかりとアカネの関係を説明する。
「つまりお母さんみたいなものよね、ひかり」
「え、ええ……何度も言うようですが、お母さんという年ではないんですが……」
「……お母さん……」
せつなが呟いた。何かを思い浮かべるような目をしている。
「誰のこと考えてるの?」
満がちらっとせつなに視線を向けた。
「……別に。誰でもないわ」
ラブのお母さんのことを考えている、とはこの時のせつなにはまだ言えなかった。
「ふうん」
「満や薫は誰か考えている人がいるの?」
「私たちは……」
満は薫と顔を見合わせた。
「……咲のお母さん、かしらね。一緒に暮らしてるわけじゃないけど……
 すごく暖かくて……アカネさんもそうなんでしょ?」
満が今度はくるっとひかりに顔を向ける。

「ええ」
にっこりとしながらひかりは答えた。
「私のこと、まるで本当の家族みたいにしてくれて」
――家族……。
四人でレストランに食事をしにいった時のことをせつなは思い出す。
どうやらこの世界の「家族」というものは、誰に対しても暖かく包み込んで
くれるものである、らしい。

「じゃあその辺のイメージを踏まえて、プレゼントするなら何がいいと思う?」
くるみが話を元に戻す。
「その暖かさを何とか伝えた方がいいのかしらね」
薫が呟くと、満とひかりが無言で頷いた。満は顎に手を当ててしばし考える。

「……メロンパンは?」
「はい?」
くるみは思わず聞き返した。満は大真面目な顔だ。
「メロンパンのあのふかふかしていて暖かい感じこそ、咲のお母さんや
 アカネさんの暖かさに通じるものだと思うの」
「それって具体的にどうするの?」
「メロンパン型のアクセサリーを作ってプレゼントするとか」
くるみの質問にも満はめげない。ええと、とくるみは思った。

「あの……」
ひかりが、おずおずといった表情で口を挟む。
「それだったらアカネさんの場合たこ焼きだと思うんです。熱々のたこ焼きを……」
「でも、それはどうなのかしら? その、アクセサリーのデザインとしてね」
話が変な方向に突き進んでいる。くるみは何とか話を戻したかった。
「そうね……ちょっと違うと思うわ」
せつながぼそりと呟く。
「あなただったらどんなのがいいと思うの?」
くるみはせつなの意見に期待した。メロンパンやたこ焼きをアクセサリーにするのはあんまりだ。
「ステーキとかハンバーグとか、そういうのがいいんじゃない? 夕ご飯的な」
――ああ、だめだ。
くるみはがっくりして何も言う気になれなかった。

「え〜、やっぱりメロンパンよ。メロンパンにかなう物はないわ」
「あの、たこ焼きだと思うんです。アカネさんのたこ焼き、本当においしいんですよ!」
「違うわ、夕ご飯よ!」
ちょいちょい、と薫がくるみの袖を引っ張る。
「何かしら?」
「こういうのは店長に任せたほうがいいんじゃないかしら?」
と薫はささやきながらナッツの方を指差した。
「そ、そうね……」
くるみはナッツの方に近づくと、
「すみませんナッツ様。ひかりのアクセサリーのことで……」
と声をかけた。
「ああ、大体聞こえていた」
「どうしたらいいでしょう」
「ひかりのしたいようにすればいいだろう。たこ焼き型アクセサリーは今はないから、
 りんに相談してデザインを考えるとして……」
「はあ……」
本当にその方向性でいいんでしょうか。くるみは思ったが、反論する気にもなれなかった。
満とせつなとひかりがそれぞれの食べ物のおいしさを主張している声がまだずっと聞こえてきた。

-完-

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