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「……もうシャドウ様はいないんだよ……」

詰め寄るダークアクアに、目を伏せるダークミント。二人の間に一瞬生まれた沈黙に、
ダークドリームのこの言葉が飛び込んだ。え? とダークルージュが目を丸くする。
「ば……馬鹿な、世迷いごとを……」
「本当だよ……シャドウ様はもういない。いたらここに来てるはずだよ……」
ダークルージュ、ダークレモネード、ダークアクアの三人は思わず辺りを見回した。
……確かに、シャドウが来そうな気配はない。
――シャドウが復活してなくて助かったわ。
とキュアアクアは内心胸を撫で下ろしていた。ダークドリームの言っていることに
一つも嘘はないのだが、ここに復活したシャドウがやってきたりしたら話が
大変なことになるのに決まっている。
世界の支配を狙った存在としてはボトムの手下になって動くわけにはいかない、といった
理由で出てこないのかもしれないが、とにかく出てこないのはありがたかった。

重苦しい沈黙がダークプリキュアたちに広がった。
先ほどまでの余裕のある表情が一転、不安にかられた顔つきになる。
「それでも……、」
最初に口を開いたのはダークルージュだった。
「それでも、私はプリキュアを倒す」
「どうして……?」
ダークドリームが悲しそうに聞き返す。その表情は今にも泣きそうだった。
「私はそれしか知らないから。プリキュアを倒すことしか」
「そうですよ」
とダークレモネードが座ったままばさりと自分の髪をかき上げた。
「私たちは、ダークルージュにダークレモネード。ダークミントにダークアクア。
 それにダークドリーム。それぞれのプリキュアの闇なる者でしかないんです。
 プリキュアを倒すこと以外、私たちに存在意義なんてありませんよね」
「そうよ、ダークミント。プリキュアを倒す以外、私たちに何かできることがあるとでも言うの?」
ダークアクアが更にダークミントに詰め寄る。
「それは……」
とダークミントは目を伏せた。

「できるよ!」
キュアドリームが凛とした声を張り上げ、立ち上がった。腕にはダークドリームを
抱き上げている。
「ダークドリームにはできてるんだもん、あなた達にだってできるよ」
「適当なことを言うな! そんなことできるわけがない!」
ダークアクアが怒鳴った。だがその表情は怒りと言うよりは戸惑いと恐怖に満ちていた。
まるで捨てられた仔犬のような……、
「……!」
その様子を見てキュアミントが立ち上がった。じっとしていたおかげで体力も随分
回復している。……キュアミントはダークアクアのそばに駆け寄ると、
蹴り倒そうとした彼女の足を避け彼女をぎゅっと抱きしめた。
「なっ……!?」「こまち!?」
ダークアクアとキュアアクアが同時に叫ぶ。キュアミントは彼女の温もりの中に
ダークアクアを包んだ。
「大丈夫よ……そんなに怖がらなくても」
「放せ! 私は何も怖がってなどいない!!」
ダークアクアは身をよじりキュアミントの腕から逃れでると、「ダークネス……!!」と
弓を構えようとした。
「ダークアクア!!」
今度はダークミントがダークアクアの胸にもたれかかるようにして飛び込んだ。
「ダークミント!?」
ダークアクアが弓を握ろうとした左手は、ダークミントの右手に握られていた。
「何をしてるっ!!」
「私にも……」
ダークアクアにもたれかかっていたダークミントが泣きそうな目でダークアクアを見上げた。
「私にも、どうしたらいいかなんて分からないけど……、でもキュアミントのことも
 ダークアクアのことも私は守りたい……」
「……」
ダークアクアが諦めたように黙った。
手はまだ繋いだまま、ダークミントはダークアクアの身体から身を起こす。
「ダークアクア。……一緒にいましょう」


「……」
「……」
ダークルージュとダークレモネードはぽかんと口を開けたままダークアクアたちの
やり取りを見守っていた。
やれやれ、といった表情でキュアルージュとキュアレモネードが立ち上がる。
時間が経過したおかげでかなり回復していた。

「ダークルージュ」
キュアドリームがダークドリームを抱きかかえたまま、ダークルージュに歩み寄る。
ダークルージュは警戒するように一歩引いたが、キュアドリームは尚も近づいた。
「ダークドリームのこと、頼んでいいよね?」
「……頼む?」
「うん。見ててあげて」
有無を言わせず、キュアドリームはダークルージュにダークドリームを抱きかかえさせた。
ダークルージュは腕の中のダークドリームとキュアドリームを見比べて困惑した表情を浮かべる。

キュアドリームはそれを見てにっこりと微笑んだ。
「私たちに少しだけ時間をくれる?」
「時間?」
「うん。必ずこの遊園地を元通りにするから……そしたら、ダークドリームと
 一緒にここで遊べばいいよ! そうしたら、あなた達にもきっと楽しいとか笑顔とか、
 どんなことか分かるから!!」
みんな行こう! とキュアドリームは仲間たちに呼びかけ、「Yes!」とプリキュア5と
ミルキィローズはその場を離れた。


「ここは……プラネタリウム?」
迷路を出てすぐの場所にある建物を見てミルキィローズが身構える。
「中に入ってつぼみたち探そう!!」
キュアドリームを中心にして、プリキュア5はプラネタリウムに突入していった。

 * * *

「……何か、丸め込まれただけのような気がしますけど」
すっかり戦意を喪失した状態で残されたダークプリキュア5。ダークルージュがダークドリームを岩の上にそっと座らせたのを見て、ダークレモネードが呆れたように岩の上から呟いて立ち上がった。
「ダークレモネード……?」
ダークアクアの身にもたれるようにして立っていたダークミントが不安そうな目でダークレモネードを追いかける。
「私は丸め込まれるつもりなんてありませんから。せっかく手に入れたこの新しい力……、
 プリキュアを倒さなくて何に使うんですか」
そう答え、ローズとアクアが開けた壁の大穴からその場を立ち去ろうとする。
「待って……ダークレモネード」
ダークドリームがよろよろと立ち上がると、穴の前に立ち塞がった。
「何のつもりですか? そんなにプリキュアを守りたいんですか?」
「1人じゃ……勝てないよ。みんなが使ってる新しい力は、チェーンとかそういうのは……
 プリキュアたちが今持っている力を写しただけなんだよ。前と同じで、プリキュアは
 今この時も成長してる。……新しい力があったって、プリキュアには勝てないんだよ……」
「……分かってますよ、そのくらい。でも」
それしかないじゃないですか。そう言って、ダークレモネードは壊れた玩具のように
けたけたと笑って見せた。
「そんな……ことない!」
「信じられません。あなたの言うことなんか」
ドリームを押しのけようとしたダークレモネードだったが、ドリームはそれでも立ち塞がった。
「ダークレモネード……、私ね、ドリームのことが大好き。
 いつも笑ってて、みんなと楽しそうにしてるドリームが好き」
「それが私と何の関係が」
「ダークレモネードも、私には大切なの。仲間だから!」
「……。そこが嘘っぽいんですよ」
ダークレモネードは乾いた笑い声を立てた。
「仲間だ仲間だってさっきから言ってますけど、私達ろくにお互いのことなんか
 知らないじゃないですか。ばかばかしい」
話は終わり、とばかりに歩みを進めようとしたダークレモネードの肩を誰かの手が
強烈に掴む。ダークレモネードは振り返らずに答えた。
「なんですか、ダークルージュ。ダークドリームの『仲間』として私と戦う気ですか?」
「そんな……」
ダークドリームの顔が青ざめる。プリキュアと戦うのも避けなければいけないが、
同士討ちも避けなければいけない。
だが、ダークルージュは意外な言葉をダークレモネードに投げかけた。
「プリキュアを倒すというなら協力する」
「え?」
「ええっ!?」
ダークレモネードとダークドリームが同時に驚きの声を上げる。
振り返ったダークレモネードに、ダークルージュは更に続けた。

「ただし、条件がある。ここが元の場所に戻って、ダークドリームが私たちに
 『楽しいこと』とやらをさせて……それに、納得できなかったら」
「それまで待てって言うんですか?」
「そう。納得できなかったらプリキュアを倒す」
「どうして、わざわざ待ったりするんです?」
「……見てみたいから。本当に私に、プリキュアを倒す以外のことができるものなのか」
「ふうん」
ダークレモネードは軽く答えた。
「ま、そのくらいなら待ってあげてもいいですけど」
彼女が再び岩に座って足を組んだので、ダークドリームはやっと安心し、
――絶対にみんなに楽しんでもらわなくちゃ!
と決意を新たにしたのだった。

 * * *

「は〜、パレード楽しかったね〜」
元の姿を取り戻したフェアリーパーク。パレードが終わり、ラブは満足したように
大きく腕を伸ばした。周りにはもちろんプリキュアみんながいる。
「……のぞみ、あれ」
りんがのぞみの袖を引いて、少し離れた場所を指差した。
「あ……!」
パレードが巡った大きな道から少し離れたところにあるアイスクリーム店に
どこかで見たような5人組が集まっている。
今はもう変身を解いて――と言った方がいいのか、着替えてと言った方が良いのか
分からないが、全員がサンクルミエール学園の制服を少し黒っぽくしたような
服を着ていた。
「ん、結構いけるじゃないですかこれ」
買ったばかりのカレー味ソフトクリームをぺろりと舐めたダークレモネードが満足そうに
していると、
「あっちで食べよ〜」
とダークドリームが先頭になってソフトクリームを持ったまま5人は
一列になってベンチが置いてある広場に向って歩いていった。
ダークプリキュアたちの表情は満面の笑顔とは言えなかったが、
不愉快に思っている風でもない。
のぞみはほっと安心した。
「それにしても……」
「りんちゃん、どうかした?」
「何でダークルージュたち、また出てきたんだろう。エターナルやナイトメアが
 甦ってきたのとは事情が違うみたいだし」
もっと言えば、あの時消えたはずのダークドリームが甦ってきた理由も実際のところ
良く分からない。
「何ででもいいんじゃない?」
のぞみはりんの問いにあっさりと答える。
「ダークドリームの仲間なんだし、一緒にいてダークドリームもダークルージュ達も
 喜んでるみたいだし」
「まあ、ね」
のぞみならそう言うだろうなとりんは思った。



後日、ブンビーカンパニー。
「ダークアクア君、お茶」
「今、手が放せないので別の人に頼んでください」
「じゃあ、ダークルージュ君」
「右に同じです」
「ダークドリーム君とレモネード君は……外回りか。遅いなあ。
 あれ、ダークミント君は?」
「社長、お茶が入りました」
給湯スペースでお茶を注いでいたダークミントがいつの間にか社長席の
そばに立っていた。
「お、気がきくね。さすがダークミント君!」
「ダークアクアもダークルージュも、根を詰めてばかりいないで一息入れたほうがいいわ」
「ありがと」
「……ども」
ダークミントは二人の机の上にコトコトと湯飲みをおいて行く。

ダークミントは自分の湯飲みを片手に、窓に寄りかかって外を眺める。
ケーキ店のオープンテラス席に、外回りを終えたらしいダークドリームとダークレモネードが
座ってケーキをぱくついているのが見えた。

-完-

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