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「私はニセモノよ」
「……かれんさんのコピーだから……?」
「そうよ。私だけじゃない、私が繋がっている関係もすべて」
「そんな……」
ダークアクアは右腕を額の上に乗せた。天井を見ながら、ぽつりぽつりと話す。
「私、ダークミントの事が大切なの。ダークミントも私のことを大切だと言ってくれるわ」
「ええ」
「……でも、キュアアクアがキュアミントのことを大切に思っているのも私は知っているわ。
 二人が仲良くなったきっかけは学校の社会科見学よね」
「そうなんですか?」
「そう。……私はキュアアクアのコピーだから、彼女の記憶を受け継いでいるの。
 ダークミントもそれは同じ、キュアミントの記憶を受け継いでいるわ。
 ……じゃあ、私がダークミントを大切に思っているのはなぜ?」
「え?」
突然質問されて舞は戸惑った。そんなことを聞かれても舞には答えられない。
「キュアアクアのキュアミントへの思いをもらってきているだけかもしれないわね。
 ……ダークレモネードはカレーが好きよ。それは、キュアレモネードがカレー好きだから
 それが彼女に映っているの。
 ダークミントもそうかもしれない。キュアミントの気持ちを借りてきているだけかもしれないわ」
「……」
舞には、だんだんダークアクアの言いたいことが分かってきた。
「私はキュアアクアのコピーよ。私とダークミントの関係も、キュアアクアとキュアミントの
 関係のコピーに過ぎないのかもしれない。
 私はキュアアクアがキュアミントを思う気持ちをダークミントに投影し、
 ダークミントはキュアミントがキュアアクアを思う気持ちを私に投影しているのに
 過ぎないのかもしれないわ」
「そんな……」
「クリスタルを出た直後に、ダークミントは私に『あなたのことを守りたい』と言ったわ。 今思えば、私も内心、それを嬉しいと思っていた。でも、どうしてそんな風に思えたの? 
 私たちには社会科見学のようなきっかけはなかった。キュアアクアとキュアミントの
 気持ちを受け継いだから?
 だったら、すべてはニセモノよ。ダークミントのことだけじゃない。
 ダークドリームやダークルージュ、ダークレモネードとのこともそうなのかもしれないわ」
嘘ばっかり。舞はその言葉を思いだした。ダークアクアは自分の存在や自分にかかわる
ダークプリキュア5たちの関係性をこそ嘘ではないかと疑ってしまっている。
チャイムが鳴った。満と薫が応対に出た。のぞみ達がやってきたのは、上で声を
聞いているだけで分かった。

「……呼んだの?」
「ダークアクアさんが気を失っている間に……、私ちょっと下に行きますけど、あの……」
「逃げないわよ。今更」
言いよどんでいる舞の言おうとしていたことをダークアクアは察した。
舞は安心して部屋を出ようとしたが、思いついたことがあってふと舞は立ち止まった。部屋の中を振り返る。

「ダークアクアさん」
「何?」
「たとえ最初は虚構でも、積み重ねたものが本物ならその関係は本物だと思います。
 ……満さんと薫さん、最初は私たちを倒すために私たちに近づいてきたんですけど……、
 今は本当の友達です」
それだけ言って、ダークアクアの返事を待たずに舞は階段を降りた。

「舞!」
応接室に入っていくと、満と薫が「舞がダークアクアの話を聞いている」と説明していた
らしくみんなが一斉に舞のほうを向く。
「どんなこと言ってたの?」
のぞみが舞にすぐに聞いた。
「ダークミントさんは……?」
と舞は部屋の中を見回し彼女がいることを確認すると、
「あのね、ダークアクアさん……」
とダークアクアの言葉を伝え始めた。


「……ダークアクアのいる部屋に案内してもらえるかしら?」
舞の話を聞き終えたダークミントはもたれていた壁からすぐに身を起こす。
「ええ。こちらです」
ダークドリームにダークルージュ、ダークレモネードは目を合わせた。
一緒に行った方がいいのか、まずダークミントだけに任せた方がいいのか。
ダークミントはすぐにそれを察した。
「まず私だけで行ってみるわ。頃合を見計らって来るか……、もしみんなの
 力が必要になりそうだったら呼ぶから」
そう段取りを決めて舞に案内してもらう。
「この部屋です」
「ありがとう」
ノックをしてダークミントは部屋に入った。
「……ダークミント」
ダークアクアはそれだけ言って押し黙る。

「話、聞いたわ。舞さんから」
「……そう」
ダークミントはベッドの上にちょこんと腰掛けると、上体を捻って
ダークアクアの顔を見る。
「……後で、薫さんに謝りましょう」
「……ええ。つまらない八つ当たりをしたわ」
ダークアクアは俯いた。その様子は悪いことをした後にしょげている子供のようで、
ダークミントは声に出さずに微笑をこぼした。

「……ね、アクア。どこまでがこまちから貰った気持ちで、
 どこからが私自身の気持ちなのか私にも分からないけど……」
そう呟きながら、ダークミントはポケットの中からハンカチに包んだハーモニカを出した。
「吹ける? 私、アクアが吹いてくれた曲が好き」
ダークアクアはハーモニカを受け取りはしたが口に当てようとはしなかった。
「キュアアクアに吹いてもらえばいいわ。あっちの方が上手いかもしれないし」
ダークミントはダークアクアに顔を近づけると耳元でそっと囁きかける。
「私の『アクア』はあなただけ……、キュアアクアがどんなに上手かったとしても、
 私が聞きたいのはあなたの曲なの」
ね? と言ってダークミントは身体を離す。ダークアクアは上体を起こすと
ハーモニカを口に当てた。


「あっ」
一階で待っていたダークドリームたちにハーモニカの音がかすかに届く。
いつもより弱い音色だったが、
「ダークアクアが吹いてるんだよ! 行ってみよう!」
もうそろそろ頃合だ……とばかりに、ダークドリームたち三人が駆け出した。
「ああ待って! 二階にはお兄ちゃんの部屋もあるから!」
舞が慌てて追いかける。
とりあえず何とかなったようなので他のみんなもほっと安心し、聞こえてくる
音色に耳を傾けた。


二曲奏で、ハーモニカの音は止まった。
ダークプリキュアたちが静かに階段を下りてくる。ダークドリームやダークレモネードの
はしゃぐ声も、今は聞こえない。神妙な面持ちで降りてきたダークアクアは、
真っ直ぐに薫のところへ向かう。
薫は窓際に立っていたがダークアクアの姿を見て表情を引き締める。
「……ごめんなさい。あんなことして」
薫の二、三歩手前で立ち止まるとダークアクアはそう言って頭を下げる。
何かを答えようとして口を開こうとした薫だったが、部屋の中にいる全員の目が自分に
注がれているのに気づくと困ったように眉を顰め、
「ちょっと来てくれるかしら」
すぐに戻ってくるから、そう言って薫はダークアクアを美翔家の外へと連れ出した。
目指すのは大空の樹だ。大空の樹はいつもと変わらずに二人を迎え入れる。
薫が大空の樹の根の上に腰かけると、ダークアクアも少し離れた場所に同じようにして
座る。
二人はしばらくの間無言だった。
「……あの、何を?」
やがてダークアクアが堪えきれなくなって薫に尋ねると薫はようやく口を開く。
「……私はこの緑の郷を滅ぼすためにここに来たわ」
「……」
「でも、私はここに来て命のことを知った。私にそれを教えてくれたのは咲と舞、
 それに……みのりちゃん。だから、みのりちゃんのことで変なことを言ってほしくはないわ」
「……ごめんなさい」
再度、ダークアクアは謝る。
「ええ」
二人はしばらく大空の樹に背をもたれていた。
「そう言えば……一つ聞いてもいい?」
「何かしら」
薫はダークアクアの方にゆっくりと目を向ける。その眼は今までの怒りが
すっかりと落ち着いて静かな色を取り戻していた。
「私、さっき不思議な人に会ったの。泉のそばにある大きな樹の近くで、
 目を閉じたままの小さな女の人に。そこはこことは違う世界だったんだけど、
 その人が私に『緑の郷』に行くように言って、気が付いたらここにいたわ。
 あなたはその人のこと知っている?」
「ええ」
薫の答えにダークアクアはやっぱりと思った。
「フィーリア王女よ……すべての命を司っている人」
「命?」
「ええ」
「私には……命が、あるのかしら」
ダークアクアは少し自嘲気味に呟いた。薫はそれを聞くとゆっくりと
変身し、戦闘服に身を包む。しかしそれは誰かと戦うためではなく、
胸に輝く青いクリスタルをそっと握りしめるためだった。
「フィーリア王女は……滅びの国で生まれた私たちに、
 自分の信じる道を生きるように教えてくれたわ。だから今、私たちはここにいるの」
「信じる道?」
「ええ」
薫の答えを聞いてダークアクアは目の前の景色を眺める。薫の言っていることは、
分かるような分からないような気がした。
先ほどダークミントに渡されたハーモニカをまだ持っているのに気づくと、
ゆっくりとそれを口に当てる。薫は彼女が奏でる音色にじっと耳を傾けていた。

 * * *

帰りはバスと電車で帰ることにしたのだが、バスの車内はすぐに静かになった。
ダークアクアが見つかった安心からか、ダークドリームたち四人が
すぐに眠ってしまったからである。

――しょうがないなあ。
とりんは後ろに座っているダークルージュの寝顔を見ながら思った。
ダークルージュは今日はダークレモネードの隣に座って、二人ともぐっすり眠っている。
その後ろの席はダークドリームとのぞみで、のぞみもダークドリームに
釣られるようにして先ほどからすうすうと寝息を立てていた。
「うらら、何か羽織るもの持ってる?」
隣の席に座っているうららに聞いてみると、
「あ、りんさん寒いですか?」
とうららは自分の鞄から上着を出そうとした。
「ううん、私じゃなくて……後ろの二人」
うららは視線を後ろに向ける。ダークルージュとダークレモネードが眠っているのを
見ると
「仕方ないですねえ」
と思わず苦笑した。

うららが上着を二人にかける。二人の肩が少しはみ出していたが、
「それぐらいはしょうがないよ」
「そうですね……」
とりんとうららはこれでいいことにした。
更に後ろのダークドリームとのぞみはくっついて眠っているので
多分そんなには寒くないだろう。


「ダークアクア」
ダークアクアは一番後ろの席で起きていた。隣ではダークミントが眠っている。
かれんはダークミントを起こさないように気をつけながら、そっとダークミント越しに
ダークアクアに声をかけた。

「……何?」
「さっきの曲、どこで覚えたの?」
「さっきの? ……ああ、一曲はこのハーモニカの説明書に楽譜がついていたの。
 もう一曲は、何となく頭に浮かんだから」
「……そうなの」
かれんは少し意外そうな、少し安心したような表情を浮かべた。
「その曲、私は知らない曲よ」
ダークアクアはぴくりと眉を動かした。
「あなたが作ったのか、あなたがどこかで聞いたのを覚えていたのかまでは分からないけど」
「……どうして、それを私に?」
「単なる事実よ。伝えておいた方がいいかと思って」
ダークアクアは困惑したような表情でかれんを見たが、やがて前を向くと
「……ありがとう」
と小さな声で呟いた。
「どういたしまして」
ダークアクアから初めてそんな言葉を聞いたことにかれんは自然に
笑顔になる。
前を向くように座りなおすと、かれんはこまちが穏やかな顔で自分たちを見ていたことに
気がついた。

-完-

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