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フェアリーパークで配るためにナッツハウスにも一時期ミラクルライトがあふれていたのだが、
全部パルミエ王国に持ち帰ってしまったので今はない。一同はシロップに乗って
鏡の国に向かうことにした。
ダークアクアがいなくなった理由はわからないが、とにかく手がかりらしきものが
見つかったので多少は安心だ。
……だが、鏡の国でクリスタルの安置された神殿に行ってみた一同に
ミギリンとヒダリンが告げたのは意外な言葉だった。
ダークドリーム以外のダークプリキュアたちを見て驚いた彼らに
「みんな私の仲間だから一緒にいるの」
とまずダークドリームが説明し、もう一人、ダークアクアがいなくなったから
こちらに来ているのではないかと思うということを告げると彼らはこう言ったのだ。「ダークアクアさんですか? 来ていないと思いますが……」
シャドウの件があって以来、鏡の国では侵入者に警戒を払っている。
無断で鏡の国に入ってきた人がいた場合にはすぐにわかるようになっているのだそうだ。
ここ数日間、特に鏡の国を訪れた人はいないらしい。
「でもダークアクア、ミラクルライトを持って出かけたんだよ。
 だから鏡の国にいるんじゃないかなって思うんだけど」
のぞみが食い下がってみると「あ、ひょっとして!」とミギリンが叫んだ。
「何々? 何かあるの?」
「ダークアクアさん、ちゃんと呪文を唱えたんでしょうか」
「呪文?」
「あ、そうか! そうかもしれないね、ミギリン!」
ヒダリンもミギリンの言いたいことがわかったらしくうんうんと頷いている。
のぞみは「ど、どういうこと!?」とミギリンとヒダリンをせかした。

「フェアリーパークではミラクルライトをたくさんの人たちに配りました」
「だから、鏡の国に間違って入ってきちゃう人たちが増えるんじゃないかって
 心配があったんです」
「えーと、それで?」
のぞみは首を捻った。
「だから、鏡の国では『ちょっと! ちょっとちょっと!!』っていう呪文を唱えないと、
 ミラクルライトを当てただけでは鏡の国に入れないようにしたんです」
「えーっ!?」
みんなが思わず叫んだ。
「え、じゃあ呪文を唱えなかった場合どうなるの?」
りんが興奮気味にミギリンとヒダリンに詰め寄る。
「普通なら何も起きないだけです」
「ただ、ダークアクアさんの場合……」
言いにくそうにミギリンとヒダリンが顔を見合わせる。
「ダークアクアの場合、何? 何が起きるの?」
ダークルージュがミギリンとヒダリンにぐいっと顔を近づける。
「……えーと……」
「言いにくいよね〜……」
「いいから、教えて! ダークアクアはどうなったの!?」
ミギリンとヒダリンはダークミントの剣幕に思わず身をすくませると、しぶしぶと
言った様子で説明を始める。
「……その、つまり……ダークアクアさんは、一度はこの鏡の国の害悪であった人です」
「鏡の国の防御機構が過剰に反応したかもしれません」
「つまりそれはどういうこと?」
ダークミントが先を促した。
「つ、つまりですね……ミラクルライトが当たると、その鏡は鏡の国にある
 鏡と同じように、他のいろいろな世界とつながることもできます。
 鏡の国の防御機構が反応した場合、ミラクルライトを持つ人を
 鏡の国ではなく、どこか別の世界に飛ばした可能性があります」

「え、その……ミラクルライトでつながる世界っていうのはどこなの?」
ダークドリームが尋ねると、
「すべての世界です。雲の園も時計の郷も、ドツクゾーンもラビリンスも。どこの世界でもない、世界の狭間も」
「……ダークアクアはそう言った世界に行ったかもしれないんですか?」
「はい」
「えーっ!!」
再びみんなが叫ぶ。
「そ、それじゃあもしかしてドツクゾーンで悪い王様と戦ってるかもしれないの!?」
「ジャアクキングよ、のぞみさん。……光の女王とは和解したから、
 戦っていることはないと思うけど……」
こまちが慌てるのぞみを軽く制した。
「でも、……危険には違いない、か……」
りんは最悪のことも想定しているようだった。
「とにかく、ここにはいないようだから。一旦帰って方針を考えましょう。
 ダークアクアが異世界に行ったのなら、それ相応の対応をとる必要があるわ」
くるみが戻りましょうと皆を促す。

ダークミントの姿がかれんの目に入った。
鏡の国にいると考えて一時的に安心していたダークミントだったが、
今は前よりもずっと不安に心を奪われているような表情をしている。
かれんはダークアクアと最後に交わした会話を思い出した。

”あなたこそ。キュアミントには仲良くしてもらってるの?”
”そんなこと、あなたに聞かれるようなことじゃ”
あなたに聞かれるようなことじゃない――ダークアクアもそう言いたかったのに
違いない。
あなたに聞かれるようなことじゃない、ダークミントにはもちろん仲良くしてもらっていると。

――じゃあ、どうしてその翌日に姿を消したの?
しかもダークミントにあれだけ心配させて。かれんにはダークアクアの行動が
理解できなかった。


 * * *

「……」
ダークアクアは世界と世界の狭間をさ迷っていた。振り回されていると
言ったほうが正しいか、鏡の中に飲み込まれてからというもの
その身体は異空間の中を猛スピードで飛び回っていた。
はじめのうちは何とか脱出しようと試みていたが、次第次第に
ダークアクアの身体からは抵抗する力が抜けてきた。
もう、無理だ。ここから逃げるのは不可能だ。
鏡の国に行くつもりだったが、何かを間違えたらしい。
どの世界にも行けない。ここはきっとそんな者たちを永遠に流しておくための場所だ。
時折、どこかの世界の入り口のようなものが見えることがある。だが手を伸ばしてもそれに
届くことはない。
身体は急流に乗って流されていく。どれだけの時間が経ったかも分からない。
ダークアクアが目を閉じると、流れは勢いを増した。

 * * *

手紙を書こう。話はそういうことに決まった。シロップなら強い思いのこもった手紙を
宛先に届けられる。
くるみが出してきた便箋に、ダークドリームがまず自分の思いを書いていく。次にダークルージュ。次はダークレモネード。
最後はダークミントだ。ボールペンを手に取ると、悩み悩みダークミントは文を綴る。
書き始めてしまうと、書いても書いても終わらないような気がした。
書くことはいくらでもある。会いたいという思いは何十通りにも表現できる。
はい次、はい次と便箋を渡してもらい三枚ほど書いたところでダークミントはペンを終えた。
気づくとダークドリームたちがふへえと驚いた表情で自分を見ている。
そんなに書くとは思っていなかったらしい。

「書き終わったんなら、渡してくれ」
壁にもたれるようにして立っていたシロップが手を伸ばす。だがダークミントは
「もう少し待って」
と答えると椅子から立ち上がりかれんに近づく。
「……何?」
「キュアアクアにも書いてほしいの」
「どうして」
「どうしても」
「ダークアクアが私のコピーだから?」
こくんとダークミントは頷いた。
「もしも……もしも、私が同じようなことになったら、私はきっと
 こまちにも手紙を書いてほしいと思うと思うから」
それは違う。とかれんは思った。
――あなたとこまちの関係と、私とダークアクアの関係は違うのに……、
ダークミントはこまちに手紙を書いてもらえれば喜ぶだろう。
しかし、ダークアクアがどう思うかは分からない。

――ダークミントは自分たちの関係を基準に考えているから……、
かれんはくるみと目が合った。くるみは真剣な表情だ。かれんと目が合っても
にこりともしない。それどころか、書くように促しているようにさえ思える表情だ。
――あ。
かれんは思った。くるみは、かれんとダークアクアの関係がほかのダークプリキュアたち
の関係とは少し違うのを知っている。かれんが敢えて言うまでもなく、気がついていた。
こまちだって多分気づいているだろう。それなら、恐らくダークミントだって
気がついている。ほかのダークプリキュアたちも気がついているのかもしれない。

ダークミントは、かれんとダークアクアの関係を知っていてそれでも敢えて
書かせようとしている。かれんが書くことがどうしても必要なのだと思っている。

「……私とダークアクアの関係があなたとこまちの関係と違うのは分かっているんでしょう?」
「……キュアアクア」
ダークミントの声は落ち着いていた。かれんは急に、こまちに諭されているような
気持ちになった。頭を軽く振り、その錯覚を払い落とす。
ダークミントはこまちではない。
「うまく言えないけど……、あなたにも、ダークアクアのことを認めてもらいたいの」
「認める? どういう意味で?」
「……私には、あなたとダークアクアがお互いを無視しようとしているように見えるわ」
かれんはなんと答えていいか分からなかった。言われてみれば確かにそうかもしれない……、
「だから、ダークアクアに」
手紙を書いて。と続ける前にかれんがダークミントの言葉を封じる。
「もし私がずっと無視しようとしていたらこんなことにはならなかったのかもしれないわ」
「……えっ?」
「私とダークアクアが最後に話した時、……別に話す必要なんてなかったわ。
 何か少しでも話をした方がいいかと思っただけ。その時、ダークアクアに
 『ダークミントには仲良くしてもらってるの?』と聞いたの」
「ダークアクアは何て?」
緊張した面持ちでダークミントが尋ねる。かれんは言葉を選んで答えた。
「そんなこと聞かれるまでもない――というようなことを言っていたけど」
「そう……なの」
「私にはあの子の考えていることは分からないわ。でも、もしかすると
 あの時の会話が原因かもしれない。それでも、私が書いた方がいいと思うの?」
こくんとダークミントが頷く。
「そう」
とかれんは呟いた。ダークミントの手から便箋を受け取ると、かれんはダークドリーム
達に目を向ける。

「書く前に、聞かせてもらってもいいかしら。あなた達はそんなにダークアクアを
 見つけたいの?」
「あの、かれんさん何言ってるんですかこんな時に?」
そろそろりんが焦れ始めたがかれんは
「大事なことよ」とだけ答える。
「それは、だってダークアクアは私たちの仲間だから!」
ダークドリームがかれんに言い返す。
「あの子は『仲間なんて要らない、一人で十分』と言うような子よ。
 それでも、そんなに必死になるの?」
「ダークアクアだって今はそんなこと言いません! いつも私のこと
 起こしてくれるし! 今でもダークアクアが一人で十分だって思ってたらそんなことしません!」
ダークドリームの言葉を聴きながらダークルージュはへらへらっとした笑みを浮かべる。
それを見てりんの背中には悪寒が走った。りんとダークルージュが戦ったとき、
彼女が浮かべていた笑みに近い。りんは思わずかれんの前に出るとダークルージュの
正面に立つ。

「邪魔だよキュアルージュ。今はキュアアクアと話をしてるんだ」
ダークルージュはりんを押しのけた。
「キュアアクア、あんたの言うとおりだよ。本当に面倒くさいんだよね、仲間とか友達って。
 いなくなったら探さなくちゃいけないしさ」
「ダークルージュ、あんた……!」
りんは拳を握り締めた。ダークルージュはあの時から結局何も変わっていないのか。
「でも、探さなかったらもっと面倒くさいことになりそうでさ……
 後悔しそうで嫌なんだ」
「ダークルージュ」
りんはほっと安心すると同時に拳を緩める。と、ダークレモネードの甲高い笑い声が部屋に響いた。
「本当に、他人なんか探したって何の得にもならないですよね」
「じゃあ、どうして探してるんですか!?」
悲鳴のようにうららが叫んだ。
「だって……私が探したいから」
「え?」
「ダークアクア探すのは私の得なんですよ。ダークアクアがいないのが嫌なんです。
 ダークアクアは他人じゃないから……」
「あなたはどうなの?」
かれんは黙っているダークミントを見やった。ダークミントはわずかに俯く。
「あなたは、何故ダークアクアを見つけたいの?」
「私は……」
ダークミントは少し躊躇った。
「よく、分からないけれど……」
ダークミントはかれんの目を見た。ダークアクアに似ている、と思う。
しかしやはり、ダークアクアとは違う。
ダークミントはダークアクアの目のほうが好きだ。

「もう、冷たいのは嫌なの」
「冷たい?」
「クリスタルの中は……冷たいわ」
「え?」
かれんにはダークミントの言おうとしていることがよく分からなかった。
ダークミントはぽつぽつと言葉を続けていく。
「最初にクリスタルにいた時にはそんなことは思わなかったわ。でも、こまちと戦って、
 こまちの暖かさを感じて……クリスタルに戻ったのに気づいた時、その中はすごく冷たかった。
 誰もいなくて、冷たくて冷たくて……」
――ごめんなさい……
こまちは話を聞きながらそう思っていた。自分のしたことは却って残酷だったかもしれない……、ダークミントは言葉を繋ぐ。

「クリスタルの外に出ることができた時、もう絶対にこんなのは嫌だって思ったの。
 誰かと一緒にいたい、冷たい思いはしたくないって。……あの遊園地で『守りたい』
 って言ったけど、……本当は守られていたかった……というより、
 守ったり守られたりしてとにかく誰かと繋がっていたかったの」
「誰かと?」
かれんに向かってダークミントは頷く。
「だったら、ダークアクアでなくてもいいの?」
ダークミントはかれんの目をまっすぐに見返した。
「私は……、少し褒めるとすぐ照れるダークアクアが好き。体に触れると、
 くすぐったくても我慢してくれるダークアクアが好き。
 ダークドリームが出した領収書をぶつぶつ言いながら整理している
 アクアも好き。ハーモニカを吹いてくれるアクアも好き……、
 ダークアクアとの繋がりをなくしたくないの」
かれんは黙って席に着くとボールペンを取った。書くことは決まった。
あなたの友達が待っている。だからすぐに帰ってきなさいと、そんな内容だった。

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