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「……何か知っていますよね?」
家に帰った二人は本来の順番にあわせて、床の上に布団を敷いてその中で眠ることにした。
今日はベッドを使うのはダークドリームとダークアクアのはずなのだ。
「え」
薄明かりをつけた部屋で布団に入ろうとしていたダークミントは、
先に布団に入っていたダークレモネードのこの言葉に思わず動きを止めた。
「ダークアクアのこと、何か心あたりがあるんですよね?」
重ねてダークレモネードは尋ねた。その目は小さな明かりを反射してきらきらと
光っている。
「……」
無言のまま、ダークミントは布団の中に身を滑り込ませた。
「……どうして分かったの」
ため息をつくようにしてそう言うと、「見ていたら分かりますよ」と
ダークレモネードは淡々と答える。
「そう……なの」
「ええ。ダークアクアのこと、随分気にしているみたいでしたから。
 自分の責任だって思っているみたいに」
「……」
布団に横たわったままダークミントは黙っていた。ダークレモネードは
しばらく彼女の答えを待っていたが、やがて痺れを切らす。
「言いたくないんだったらいいですけど。そんなことしてたらダークアクア、
 いつまで経っても見つからないかもしれませんよ」
「そんな――!」
「ダークドリームだってダークルージュだって気づいてますよ。
 ダークミントが何かを知っていることは」
ダークレモネードはむっくりと上体を起こし、寝ているダークミントを見下ろした。
「ダークミントが自分から言うの待ってるんでしょうけど……私、そういうのまだるっこしくて嫌なんです」
ダークレモネードはまたどさりと上体を倒した。
「言わないんですか? このままダークアクア放っておくんですか?」
冷静な口調で畳み掛ける。ダークミントは大きなため息をついた。

「ダークレモネードは……知ってるわよね。私が寝るとき、誰かの身体に
 触れる癖があるの」
「それは、まあ。触れるって言うか……抱っこするの好きですよね」
「……」
ダークミントが恥ずかしそうに黙ってしまったのでやれやれと思いながらダークレモネードは
「それでそれが何なんです?」
と話の続きを促す。
「……ダークアクアの隣で眠るときもそうしていたわ」
「知ってます。……それで?」
「ダークアクアに聞かれたの。こういうことをするのは自分じゃなくても
 いいんでしょうって」
「え?」
「ええ、としか言えなかったわ。そうしたらダークアクアはその後、ほとんど
 何も話してくれなくなったの」
「あの……何なんですかそれ」
ダークレモネードの表情は「意味が分かりません」とでも言いたげだった。
「ダークミントを独り占めしたいってことですか? ダークアクアは。
 ……というかそんなこと、ずっと前から知ってたんじゃないんですか?
 ダークミントが眠るとき、誰彼かまわず抱っこするのが好きってことくらい。
 この布団で私とダークミントと、三人で寝るときだってあるんですから」
「……良く分からないわ」
誰彼かまわずってわけじゃないけどと思いながらもダークミントはダークアクアのことにだけ
答えた。
「ダークアクアがダークミントのこと独り占めしたいって言うなら、別にそれでもいいですけど」
と、ダークレモネードはダークミントの意思は特に確認することもなくそんなことを言う。
「……でもそういう話は二人の中で済ませてもらえませんか? こういう方向に騒ぎ起こすんじゃなくて」
「ごめんなさい」
「ちなみにその話、いつなんですか?」
「昨日の夜よ」
「え?」
「昨日の夜、私とダークアクアがベッドを使う番だったから」
「昨日の夜……ですか?」
「ええ、そう」
不思議そうな表情のダークレモネードに、「確かにそう」とばかりにダークミントはうなずいて見せた。
「じゃあ、その話は原因ってわけじゃありませんね」
「え? どうして?」
「ダークルージュは、昨日の昼の時点でダークアクアの様子がおかしかったって言ってましたよ。
 ダークミントとのことはきっかけだったかもしれませんが、原因は別のところに
 ありそうな気がします。そのことは原因じゃないです」
そうか、とダークミントは思った。言われてみればその通りだ。
事態を冷静に整理できないままだったが、確かにそれ以前に何かあったと
考えなければおかしい……より正確には、それ以前に何かあったからこそ
突然あんなことを言い出したのではないかとも思える。

「明日キュアアクアにでもダークアクアの行きそうな場所
 を聞いてみてそれで探して……」
「キュアアクアに分かる……かしら」
「え?」
「ダークレモネード……、私、ダークアクアとキュアアクアがあまり仲いいとは
 思えないんだけど」
「ああ。仲悪いんでしょうね、あれは」
ダークレモネードはきっぱりと断言した。
「やっぱり、そうよね」
――あの二人は……まるで、お互いにお互いを無視しようとしているような……
そうダークミントは思った。
「それでも、キュアアクアはダークアクアのオリジナルです。私たちが知らないことを
 何か知っているかもしれませんよ」
「……それは、そうね」
もう寝たほうがいいですね。ダークレモネードはそう言って電気を完全に消した。
部屋の中が闇に包まれる。
「明日には見つかりますよ。ダークアクア」
ダークレモネードがつぶやく声が聞こえる。ダークミントは無言で寝返りを打つと
うつ伏せになって腕だけをダークレモネードに伸ばした。
――守りたい、なんて言ったけれど……
結局自分は、みんなから守られているような気がする。ダークミントはそう思った。


ダークアクアは街の片隅でじっと息を潜めていた。
この街に暮らすようになって数ヶ月。深夜まで営業している喫茶店もそれなりに知っている。
もちろんこうした場所にはダークドリームやダークルージュが探しにくる可能性もあるので、
ダークアクアは店の奥のほうの席に陣取ってじっと出入り口に視線を注いでいた。
裏口は確認してある。ダークドリームたちがもしここに来たら、すぐにでも逃げるつもりだ。
……幸い、そんなことはなかった。
ダークアクアは時を待っていた。午前二時。草木も眠る丑三つ時と言ってもいい時間帯だ。
彼女の手にはミラクルライトがある。フェアリーパークでダークドリームが貰ったものだ。
棚に飾ってあったのをこっそり借りてきた。ダークドリームがミラクルライトを持っているのに
気がついたからこそ、彼女は今日家を抜け出してきたのだ。
このミラクルライトを使えば午前二時まで待たなくても鏡の国に行けることを
ダークアクアは知らない。
コーヒーを飲みながら、ダークアクアはじっと午前二時を待っていた。
鏡の国に一度戻ってみれば、気持ちの整理がつくような気がしていた。

時間が来た。ダークアクアはトレイに載せたコーヒーカップを片付けると、
店の外に出る。近くの公衆トイレに潜り込むと、ミラクルライトの光を鏡に当てた。
「……ッ!?」
鏡が反射したミラクルライトの光がダークアクアの身体を貫く。予期していなかった
痛みに思わずダークアクアはしゃがみこんだ。
次の瞬間、鏡の中から光の塊のようなものが噴出する。
――まずいっ!
咄嗟にダークアクアは逃げようとした。何かは分からないが危険を感じる。
だが光の塊はダークアクアを逃すまいと包み込むとそのまま彼女を鏡の中へと引きずり込んだ。
後には何も残らない。ダークアクアがそこにいたという痕跡は何も残らず、鏡はそこに
静かに掛かったままだった。



翌朝。ダークプリキュア5はダークアクアのことを相談しにナッツハウスを訪れた。
誰もよく眠れてはいない。今日は休日だったので
会社に行く必要がないのは幸運だった。平日であればこうはいかない。
五人も会社を休んだら今のブンビーカンパニーは多分立ち行かない。

――さっさと帰って来い。面倒くさい。
ダークルージュの中にはこんな思いが渦巻いていた。実に、面倒くさい。
”面倒くさいよねえ、友達とか仲間って”
昔自分で言ったとおりだ。一人だったらこんな面倒くささには巻き込まれなかったのに
違いない。
しかし、ダークルージュはもう一人には戻れないのも自覚していた。
五人でわいわいとやっているのはそれなりに楽しいのだ。困ったことに。


「おはよう」
ダークドリームがナッツハウスの戸を開ける。電話で連絡しておいたので、
プリキュア5もナッツハウスにそろっていた。
集まった一同を前にダークドリームが簡単に経過報告をする。
「ダークアクアがいなくなった」ことは事前に話しておいたので、
プリキュア5も真剣な顔つきだ。
「……それで、手分けして一晩中探し回ったんだけど結局見つからなくって……、
 ダークアクアが行きそうな場所は大体探したし、みんなにも手伝ってもらえないかと思って」
「いなくなる前、何か気になることは言っていなかったの? どこかに行きたいとか」
こまちがまず質問するとダークドリームは「えーっと」と宙を見た。
「具体的にどこかっていうのは言ってなかったですけど。変なことは言ってましたね」
ダークルージュが代わりに答える。変なことって何ですか、といううららの当然の質問に
「脳が水に溶けるとか言ってて」
とダークルージュは会話を説明した。誰も理解できないのは昨日と同じだ。
「それは昨日のいつだったの?」
「私が外から帰った後……そうそう、その前にダークアクアはナッツハウスから
 原稿を取って帰ってきてたんですけどその時の様子は誰か知らないんですか?」
ダークルージュはりんに答えながら逆に質問を返し、こまちやかれんに目を向ける。
「昨日? それなら私が会ったけど……」
躊躇いがちにかれんが答える。みんなの視線が一斉にかれんに集まった。
「何かいつもと違う様子はなかったんですか?」
「なかった、と、思うけど……」
かれんの声は小さくなった。いつもと違うのかどうか、実際にはよくわからない。
かれんはダークアクアの「いつも」を知らない。
「じゃあナッツハウスから出て、ダークルージュと話すまでの間に何かあったのかなあ」
「通りすがりの人と何かあったとか? でも何かって何?」
ダークドリームとダークルージュはかれんの言葉からそう考え出したが、
いまひとつ真相ははっきりしない。
「……あの、」
「ところで、鏡の国は探したの?」
ダークミントが何か言いかけたことにかぶさるようにしてくるみの声が響いた。
鏡の国? とダークプリキュアたちが不思議そうな顔をした。
「え、だって鏡の国ってあなたたちの故郷でしょう?」
不思議そうな顔をしたダークプリキュアに、却ってくるみが不思議そうな表情を浮かべる。
「あー……言われてみれば」
「あんまりそういう意識ないですけどね」
ダークルージュとダークレモネードは顔を見合わせた。鏡の国というのは今まで
考えてもいなかったが、確かにダークアクアが行こうとしてもおかしくはない場所である。
……ただ、
「でも、ミラクルライト持ってないんだけど私たち」
「あ、じゃあ行けないわね。シロップ、連れてったりしてないわよね」
「してねえよ」
くるみにシロップが言い返す。
「じゃあ鏡の国に行っているんじゃなくてやっぱりこの世界にいるのかしら」
「あーっ!」
ダークドリームが突然大声を上げた。
「ちょっと、何なのダークドリーム」
「私ミラクルライト持ってる! フェアリーパークで貰ったの!」
「え!? それってどこに置いてあるの!?」
「棚の上!! ちょっと見てくる!」
ダークルージュに答えるとダークドリームはすぐに飛び出した。
小一時間たって戻ってきたダークドリームは、ミラクルライトがないことを一同に告げる。
これで決まった。ダークアクアが向かったのは鏡の国だ。


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